第106話 知らぬ間に終わってたイベント。



「え、ごめん何それ知らない」

「…………えっ? いやいや、まさかっ」


 今更なんだけど、黒猫亭って機能が充実しまくってる。

 水はもちろん、食料も調味料を含めて備え付けの物が自動で補充されるし、それは必需品も同じ。

 燃料は必要なく、全て接続した地脈から汲み上げた魔力で補っているので、何かを補充する必要って基本的に無い。あえて言うなら、ポップアップベースには何故か異世界特有の食品って備え付けられてないから、それが欲しかったら外で買うしか無いくらい。

 服を作りたくて布とかを買いに外へ出る事もあるけど、ダンジョン事変の時に神代風セーフで大量に買い溜めしたアプカルコスが色別に有るので、必要になる布はそう多くない。

 ベールとかに使われる薄布くらいかな? デニム生地やサテンがある訳でも無いし。

 だから、なんと言うか、私って学園に行く必要が無くなってから、ものすっっっごい外に出なくなったんだよね。

 学園もさ、探索者資格が欲しかったのと、八歳で失った学校生活をルルちゃんと一緒に味わいたかったって理由が九割以上で、今や探索者資格はバッチリ特例で発行されてるし、ルルちゃんも学園に行かなくなったし、て言うかもう黒猫亭がダンジョン学の校舎的なところあるよね。

 なので、住まいが充実し過ぎて、あと学園生活が終わってしまったので、外に出る理由が本気で無い。

 本当はたまにルルちゃんと夕暮れ兎亭に行ってシェノッテさん達に会いたいんだけど、シェノッテさんって会う度に「孫はまださね?」って夜の事を根掘り葉掘り聞いて来るので、最近ちょっと行きづらい。


「…………バーラが言ってたイベント、終わっちゃったの? マジ?」

「え、ええ……。まさか先生が、イベントその物に気が付いて無かったとは…………」


 そんな感じで、私はマジで外に出なくなった。特にヘリオルートの中に用事なんてそうそうない。そして私はこの世界に来てからほぼヘリオルートで過ごしたから、他の場所には殆どファストトラベル出来ない。

 ヘリオルート以外にファストトラベルポイントがあるのは、レイフログへ向かった旅路で寄った町とレイフログくらいか。レイフログなら釣りにでも行きたいけどさ。

 でも黒猫亭の仕事もそこそこあるし、時間空いたらお嫁さんとちゅっちゅしたいし、て言うか時間が許す限り交尾したいし、黒猫亭では生産出来ないジワルドとリワルド共有の異世界魚も、ルルちゃんがレイフログへ仕入れに行ってくれる。

 ……ルルちゃん、レイフログダンジョンで有名になった舞姫だから、レイフログにルルちゃんがお魚を買いに行くとすっごい良い魚を安く回してくれるんだよね。


「…………えぇ、いやバーラあいつ、私はともかくお気に入りのルルちゃんくらいにはメール出せよ」

「でも、レベリングイベントだったんでしょ? だったら到達者のあたしには、意味が無かったんだと思うよ?」

「それもそうか」

「それに、あたしもレベリングより技の練度上げたいなぁ」


 そうして私が外に出ない内に、いつの間にかリワルド初のワールドイベントが終わっていた。

 私はリビングで、ミハくんからそんな報告を今されてる。

 え、マジで終わったの? イベント?


 ………………マジかよクソがっ。


 いやルルちゃんの言うとりさ、到達者にはレベリングとか意味無いよ? 経験値薬が増えるだけだよ?

 でもさ、まず私ってジワルドが大好きな廃人だったんだよ。この世界が今の私にとってリアルだとしても、ワールドイベントとか、それも記念すべき初回イベントとか、メチャクチャ関わりたかったよ! マジでクソがっ!


「ああああバーラあの野郎絶対に許さないからなっ」

「ありゃぁ、ノンが怒ったぁ。……大丈夫? おっぱい揉む?」

「え待ってルルちゃんそのネタ何処から……」

「ぺぺくんから」


 ぺぺちゃん! 私のお嫁さんに何を教えてるのっ!

 でも揉む!


「……あ、ノンちゃん本当に揉むのっ、……んっ♡」

「あの、先生、さすがにそれは目のやり場に困ります……」

「いや事実だけを述べるなら服の上から体に触っているだけだよ。むしろ人前でキスするより健全なのでは?」

「ああ、なるほど。先生が思ったよりも動揺してるのは分かりました」


 そりゃ動揺もするよ。

 ジワルド大好きっ子の私がだよ? ジワルドそっくりなリワルドで初のワールドイベントに? 気が付きすらせずにイベント終了?

 無いわぁ。アメタマ抜いたカレーくらい無いわぁ。


「…………どうしてもっと早く教えてくれなかったのミハくん」

「あの、まさかイベントの存在すら気付いて無いとは思わず……」

「こらノンちゃん、ミハくんは悪く無いでしょ? 八つ当たりはだめだよっ」

「…………あぃ」


 つらたん。つらたにえん。

 ミハくんに聞けば、ワールドイベントは世界各国にレベル五百代の低級の準レイドボスがポコポコと現れて、大きな都市に向けて進行してくるって言う内容だったらしい。

 さすがにまだプレイヤーの数が少な過ぎるリワルドで、何の対策も無くそんなイベント開いたら死屍累々。私の二つ名みたいに屍山血河が積み上がる事になるけど、そこはバーラたち運営が手を打ったらしい。

 具体的に言うとレイドボスの戦闘フィールド、ボスを中心に約一キロほどの領域に展開された分かり易い光の円。その内側なら、NPC状態のキャラクターでも直前に使用したベッドでリスポーン出来る仕組みだったらしい。

 そんなポコポコとリスポーンシステム使えるなら、レベルキャップがどうとか言ってないでNPCの人たちをプレイヤー化すれば良いのに。いやまぁやらない以上は出来ないんだろうけどさ。

 いくら世界の仕様とか私の状態とか、相当詳しい情報をインストールされてる私でも、さすがに運営側の思惑とか理由とか知らないからね。


「はぁ、参加出来なくても良いから、せめて見たかったなぁ」

「ありゃりゃ、思ったよりノンちゃんが深刻にへこんでる。大丈夫? ノンちゃんが着て欲しいって言ってた服、着る?」

「……ふにゅぅ、それは着て欲しいけど、ののたんはイベント逃したショックでたちあがれませーん」


 ちなみに、私がルルちゃんに着て欲しい服とは一着じゃなくて大量に有るので、どれのことかは私にも分からない。

 クラシカルからアキバ風まで揃えた各種メイド服に、バニーガールも巫女服もセーラー服もブレザーも、コスプレと言って即座に思い付く類の物は大体用意してある。一番私が着て欲しいのはバニーガールだ。しっぽ穴が開いてるタイプで、ルルちゃんが着て自前の耳と尻尾が加わる事で完成するバニーガールだ。

 超着て欲しい。て言うか今晩ルルちゃんがそれを着て私を誘惑してくれたら、もうそれで元気出るかもしれない。

 あ、当然だけどタユちゃんバージョンもあるよ?


「はぁぁぅ、だからバーラは竜の卵渋ったのかぁ……」

「どゆこと?」

「ドラゴンは飛べるでしょー? それに攻め手を分散も出来るし、当然強い。ルルちゃんが竜を育てて参戦したらそれだけで世界各国に現れたレイドボスを一人で何体も倒せたはずだよぉ〜」


 当然それは私にも言える内容だけど、私はレベルも成長値も装備もアイテムも揃い切ってるし、バーラは私のジワルド時代を知ってるみたいだったから、まさか初心者用のイベントで乱獲はしないだろうと考えたんだろうね。そしてそれは正解だ。

 私も最初は初心者だったし、沢山の人が私に色々と教えてくれたからジワルドを好きになれた。ジワルドを好きで居られた。

 だから私も初心者が困ってるのを見たら普通に声をかける。手を貸す。迷惑にならないラインの内側ならどんどん助ける。

 そんな私が、この世界初のイベントだからって、初心者用のレベリングイベントを荒らしたりなんかしない。

 本当に、端っこで見てるだけで良かったんだ。ちょこっと行って、リワルドで初めて行われたレイド戦を見物して、雰囲気に浸りたかっただけなんだ。


「はにゃぁぁあ…………。しょっくぅ」

「あわわわ、ノンちゃんが本気でガチへこみしてるっ。初めて見たよっ、どうしよう、どうすれば良い? もうおっぱいは揉ませたしっ、あたし次はどうすればいいの? ねえノンちゃん、何すれば元気だしてくれる?」

「…………にゃぁ、じゃぁルルちゃんのパンツちょうだい」

「わかったっ!」

「待って下さいシルル嬢ッ!? 流石にこの場で脱ぐのはやめて下さいっ! ただでさえその装備は丈が短いんですからっ!」

「見ちゃダメだよぅ、ミハくんのえっち」

「は? 何ミハくん私のお嫁さんの大事なとこ見るの? それはつまり果たし状か? ルルちゃんのルルちゃんを見て触って舐めて良いのは私とタユちゃんだけなんだぞ?」

「いや先生が原因ですからねっ!? あと発言がどんどん際どくなってるので気を付けてください! 食堂や居間では止めろと、先生がいつも奥様に言ってることですよ!」


 だってぇ……。イベントぉ……。

 それはそれとしてルルちゃんのパンツは普通に欲しい。

 …………でも確かに、ルルちゃんがもはや普段着にしてる宵闇恋兎は、とても丈が短い。私の和服装備も基本そうだ。

 もう私たちもそろそろ幼女と呼べる年齢から脱してるけど、それでもまだ体が小さい。特にルルちゃんは小柄なので、普通ならこの丈でもそうそう中は見えない。だって普通なら私たちを見下ろす形になるからね、身長的に。

 だけど階段とかなら下から普通に見えちゃうので、私かルルちゃんが階段を昇ってる時はなるべく下は避けるって言う暗黙の了解が宿泊客の男性に広まってる。

 とは言え「なるべく」は「なるべく」でしかないので、見えちゃう物は仕方ない。我慢するよ。パンツならね。

 だからの可愛いルルちゃんの貝は見ちゃダメだ。アレは私とタユちゃんの為の美味しい貝なんだ。私とタユちゃん以外の人は例え女性であっても許さないよ。

 みんなは運悪く、いや運良く? とにかく見えちゃう時はルルちゃんと私のめちゃくちゃえっちな下着で我慢してくれ。中身は見せない。

 ……うん、わかった。自重しよう。ルルちゃんの可愛い貝ちゃんが見られてしまうくらいなら、私は性欲を引っ込めるよ。


「落ち着いてくれましたか」

「うん。ルルちゃんの貝は私のものだ」

「…………貝? レイフログで何か買ったのですか?」


 あら、そうか、通じないのか。

 言うてミハくんもまだ十一歳だか二歳だか、そんなもんだったね。忘れてた。

 なるほど、つまり、私の頭の中が汚れ切ってるのか。最近下ネタが酷いな私。


「ああ、それとイベントですが、その竜の卵は出なかったのですよ。ドロップの中にそれらしいものが無かったのです」

「はぁん? ミハくん、竜の卵がドロップの中にある訳ないじゃん」


 私たちがダンジョンの中で四苦八苦してる時に、バーラはイベントで竜の卵も入手可能って言ってたらしい。

 でも竜の卵ってアイテムは、前回の事故みたいな例外を除けば、ドロップだけは絶対に有り得ない最上級レアである。

 だとしたらまぁ、今回のイベントはゲーム的に考えて、ボス討伐時の貢献度か何かでランキングを出し、その結果でアイテムが貰えたりするんじゃ無いかな。

 ミハくんはダンジョンの外なのに倒したモンスターにドロップ現象が起きたから、それ自体が報酬だと思ってるみたいだけど。

 仮にドロップが本当に報酬だったとしても、竜の卵がジワルドと同じ扱いならばドロップだけは有り得ない。

 そもそも私が三体も揃えてるのがおかしいんだぞ。普通のプレイヤーは一体も持って無い。課金で買うにしても竜の卵はクソ高かったんだぞ。私の当時の課金額はお父さんとお母さんのお陰でほぼ無制限だったけど、流石に申し訳なくなって買うの止めようかと思ったもん。

 具体的に言うとEXPブースターが一個あたり百五十円程度で、竜の卵が二万円だった。まぁお父さんに笑顔で「買いなさい」って背中押されて買ったけどさ。

 ショップでは一個以上買えないので、二個以上手に入れたいならイベントや超特殊クエストを熟す必要がある。そして一度手に入れると基本的に他のイベントやクエストで竜の卵は手に入らなくなる。

 だから普通なら、竜は多くても二体が限界なんだ。三体居る私がおかしいんだよ。


 なんで私が、そんな普通ならは無理な三竜所持を実現しているかと言うと、これは当時のジワルドにあった仕様のようなバグのような、結局仕様だった事故が原因。


 私が初めてジワルドの世界に足を踏み入れて、最初に選んだスタイルが何かと言えば実のところ、調教師から始めてる。

 当時は武術の「ぶ」の字も知らなかったガチ幼女だったからね。自分の代わりに戦ってくれて、なおかつ一緒にいてくれるもふもふを求めた結果、まっさらなステータスをしていた『【Lv.1】ののん』は、調教師スキルを教えている場所の門扉を叩いた。

 そして一番最初に出会ったのが当時のポチで、その頃はポチも軍狼では無く『噛犬』って種類のモンスターだった。

 それからオンラインゲームを謳歌する日々が始まった私は、ポチと一緒に様々な経験をして調教師の腕を上げて行き、レベルが百に迫る頃にやっと召喚術スキルの前提イベントフラグを踏めたんだ。

 召喚術スキルの前提イベント、『友誼の獣・葛藤の先』って名前のソレは、野生のモンスターと色々あって好感度を稼ぎ、そのあと偶然発生するその子の命の危機を、私が命懸けで助けるって言う内容になってる。

 そのイベントで仲良くなるモンスターは何でもいいんだけど、私がその時仲良くなったのはである風竜の子供だった。

 それで、普通ならこの時に仲良くなったモンスターは召喚術獲得の時に仲間になるんだけど、竜はどうやっても竜の卵から以外は仲間に出来ない。それでもシステム的にロッティの前世と仲良くなれたのは、スキル獲得後にその子自身じゃなくて、竜の卵を獲得出来る超特殊チェインクエストを発生させるルートがあったからだ。

 私はその後もレベルを上げていきながら、その余りにも長過ぎるチェインクエストを熟していき、最後の最後にようやっと成竜へと育ったロッティから、卵が手に入る段階まで来た。

 だけど凄く間が悪いことに、そこで公式イベントが挟まって、その時の詳しい内容は割愛するけど、結果だけ言えばイベントの流れでロッティが死んだ。

 公式イベント『竜の里、這い寄る静寂』ってイベントなんだけど、年に一回くらい公式が竜の卵をプレイヤーに与える為に開く定期イベントで、半分NPCで半分モンスター扱いの竜が暮らす竜の里がボス級のモンスター郡に襲われるって内容になる。

 そこで私は自分のチェインクエストの為に、イベント報酬は捨ててロッティだけを守っていたんだけど、当時の私って初心者に比べたら強くなったけど、それでもまだ全然強くなくて、むしろロッティに守られていた。

 そして当たり前に、当然の摂理として、予定調和の如くロッティは死んだ。

 このイベントはモンスター討伐の貢献度によるポイントランキングと、その過程で稼いだモンスター好感度ランキングの二種類の報酬があって、私はこの時ロッティとロッティの家族や友人を含めて、チェインクエストの過程で好感度を盛り盛り稼いでいた為に好感度ランキングの方は首位独走。

 イベントが終わって竜の卵を入手出来る権利が確定した私だけど、その時は目の前で死んだ、私が弱かったから死なせたロッティの亡骸を前に呆然としてて、ハッキリと現実を認識したあとは泣きじゃくった。


「懐かしい……」

「それ、アレだよね。公式に売ってるノンちゃんの動画にもある奴」

「そそ、それそれ」


 私が有名になってきた後に運営がバックログを深層まで漁って動画化した公式PVの事は置いといて、友達を死なせた失意の私は、そのあと暫くずっと、まともにジワルドを遊べなくなり、ログイン時間も減り、ログインしている間はチェインクエストの間だけ入れる竜の里に入り浸った。

 そして、私はイベントの報酬が届くと同時に、その時そばに居たロッティの前世の奥さんからとあるアイテムを渡された。

 それはもちろん竜の卵。『竜の卵【転生】』って言う名前の、ロッティの魂が宿った友達の形見。

 何が言いたいかと言えば、私はその時に本来ならイベントかクエストで入手するとその他の道が閉ざされる竜の卵を、同時に入手していたんだ。

 狙って出来る事ではなく、多分今も誰かしら三竜所持って言う前代未聞だった偉業をめざして私の真似をしていると思うけど、少なくとも私が死ぬまでは誰も達成出来てなかった、偶然の中で起きた奇跡だった。

 そんな訳で、私はイベント報酬とクエスト報酬の完全同時処理、そしてそれとは別にお金さえ出せば必ず買える課金卵を買った結果、三竜所持に至ったんだ。


「まぁ、要するに竜の卵はそれくらい特別なアイテムなので、ドロップでは絶対に有り得ません」


 ちなみに、転生したロッティは前世の記憶もちゃんと残ってて、私が死ぬまでだったら前世の奥さんとたまにイチャイチャしてたよ。奥さんのエイミィちゃんはめちゃくちゃ可愛いメスの竜で、私も仲良くして貰ってた。て言うかエイミィちゃんが土壇場でロッティの卵を産んでくれなかったら、私はロッティと二度と会えなかった訳だから、めちゃくちゃ恩人だよ。恩竜だよ。

 エイミィちゃんは興奮するとめちゃくちゃ甘えたがる子で、ロッティとイチャイチャしてる時に関わると、私をパクッと口の中に含んで全身ベロベロ舐めて、特殊な甘え方をして来て可愛かった。口の中で転がされる飴玉の気持ちが分かる稀有な体験だったよ。


「…………はぁ、エイミィちゃんにも会いたいなぁ。また飴玉にされたい」

「竜の口の中に自らは入りたいと言う先生が傑物過ぎると思うのですが」

「でも愛情を表現し始めたら最後はぺろぺろするしか無いのは、あたしも良く分かるよ。好きな人ってどこ舐めても美味しいんだよね」

「入りにくい言葉を定期的に投げないとシルル嬢は死ぬ病気なのかい?」

「ノンちゃんを定期的にぺろぺろ出来ないと確かにあたし死ぬかも知れない」

「右に同じく」

「…………入りずらい!」


 私とルルちゃんの仲睦まじい様子にタジタジのミハくん。羨ましかろ?

 私もルルちゃんを定期的にぺろぺろして体液を摂取しないと禁断症状が出るようになって来たからね。これ多分タユちゃんの影響だよ。あの子なんかさ、体液フェチなんだよね。

 私の分泌した物の喉越しとか語られても、流石に着いていけないよ。まぁ真似してみるし実際美味しいんだけどさ。二人の分泌液。

 はぁ飲みたくなっちゃったなぁ喉乾いたなぁ休憩しようかなぁ? チラチラ。


「で、お前いつから居たの? バーラこのやろう」

「おほぉー! やっと存在に気が付いて頂けましたっ! ワタクシ感激です!」


 私がルルちゃんの分泌液で喉を潤したいと考えてると、いつの間にかミハくんの隣に何か居た。

 タキシードベストだけを直に着たほぼ裸の変態銀兎、バーラである。


「え、バーラってダンジョンの外に出れたの? 最下層以降は画面に映ってるだけだから外に出れないと思ってたんだけど」

「大体はその認識であってますよぉー? ですが今回は特例ですのでっ、ワタクシ、遊びに来ましたっ!」

「良し帰れ」

「待ってノンちゃん。ねぇバーラさん、あたしそろそろ、一年分の媚薬が無くなりそうで追加が欲しいんだけど、あれレイフログダンジョン以外だとどこで手に入るか分かる?」

「あ、それなら差し上げますともっ! レア度が高いだけで実はあれ、二百階層程度でドロップする物ですから!」

「マジかよバーラ良く来たゆっくりしてってね。あ、タルト食べる? お茶は?」

「あはぁー! 黒猫様の手のひら返し、余りの速さに惚れ惚れしますともっ!」


 私は最高に気持ち良くなって頭がパッパラパーになるドラッグ(合法)を手土産に持って来た兎を歓迎する。

 昨日焼いたタルトタタンが残ってたし、出してあげようかな。

 良かった良かった。あのお薬もう無くなりそうで、あと十本くらいしか無かったんだよね。節約して使ってたけど、一度あの味を知って慣れちゃうと、なかなか離れ難い快楽な訳でして……。

 いや本当に、スキルと併用したら肩とか頭を撫でられるだけで果てちゃうような快楽だよ? 抗える訳ないじゃん。


「相変わらず欲望に忠実な方々で、ワタクシ安心です!」

「バーラも相変わらず喧しいね。それで、特例とか言ってたけど何か用?」


 私はサッとキッチンの冷蔵庫からタルトタタンを取ってきてバーラに出してあげる。お茶はドールに指示を出しておいた。

 さてさて、黒猫亭に不法侵入を果したこいつは、ワールドエレメントとか言うカテゴリーに属する獣。リワルドをアップデートしてる世界の管理者で、ケモレベルで言うと三から四くらいの二足歩行する兎。

 つまりジワルドで言う運営であり、そして神様でもある超常の存在。正直ちょっと戦ってみたい。こいつ強いのかな?


「いえ、黒猫様が予想以上にリワルドを楽しんで頂けてる様子と、併せてイベントの不参加を心の底から嘆いて居られる様子でしたので、早急に謝罪をと考えた次第でして」

「ホントだよコノヤロウ。私いまめちゃくちゃガッカリしてるからね?」

「それについては申し訳なく! ですから、最下層でお伝えした竜の卵一時封印に対する補填も用意出来ましたので、その受け渡しを兼ねて遊びに来ましたっ! あっ、このタルト美味しいですねぇっ!?」


 ふむ、何やら詫び石的なアイテムの準備が出来たらしい。貰えるものは貰っておこう。ルルちゃんもポーチに贈られてきた追加の媚薬を取り出してニヤニヤしてるので、今晩は楽しみだ。


「…………あ、バーラさんだっ」

「おや、飲み姫様ではありませんかっ! ご無沙汰しております!」

「……おい待て兎、その飲み姫ってなにさ」

「それは勿論、昨晩も凄まじい飲みっぷりでしたからねぇ!」

「おまっ、人の睦事むつみごとを監視してんじゃねぇよ! て言うか監視してるにしても隠せ! 主張するな!」

「くぅぅ、バーラ殿が加わって話し難さが加速したっ」


 リビングに今やってきて、バーラの存在に驚いてるタユちゃんは、速攻で昨晩の飲みっぷりを指摘されて赤面して轟沈した。いや確かに凄い飲みっぷりだったけどさ? もうそろそろ、タユちゃんは私とルルちゃんの物ならお小水すら飲み始めるんじゃ無いかって戦々恐々としてるよ。


 …………まぁ望まれたら恥ずかしくても受け入れちゃうと思うけどさ。


 そしてミハくんは、バーラによって加速した猥談を前に凄い顔して耐えている。ミハくんごめんね? 存在が下ネタな先生で。

 私さ、段々とテンテンさんを「よっ、セクハラ魔人! 通報芸人!」とか笑えなくなって来た。

 やべぇよやべぇよ……。


「いやぁ申し訳ない! ですがご安心を! 我々ワールドエレメントは、そう言った性的な行為に対して興奮などはしない存在なので! まぁ見て楽しみはするのですが」

「それが問題だってんだよこの兎」


 邪神かよコイツ。

 運営と神様を兼任してる存在なんだから、そりゃ神の視点で私たちの睦事を毎晩見ちゃうとか、片手間で出来るんだろうけどさ。こいつら地球の文化にも詳しいくせに、プライバシーって概念をご存知ないのか?

 いや、でもショップに売ってるルルちゃんの公式動画を見ると配慮はされてるんだよなぁ。私とルルちゃんが最下層でちゅっちゅしてるシーンも、かなりマイルドな所だけ抜粋されてるし。


「はぁぅっ、恥ずかしぃよぅ…………」

「照れるタユ先生ちょう可愛い。今晩もいっぱい飲んで良いからね? あたしいっぱいお水飲んでおくね?」

「…………ぅんっ♡」


 私のお嫁さんが尊い。私もお水飲んでおこっと。分泌液を分泌し過ぎて枯れないように。

 タユちゃんの体液フェチはもう止まらないしね。って言うか、感染して行くからね。もう既に義妹いもうと二人が重篤だからね。

 この前ロアにゃんから「おねぇたんのぬるぬる、お料理につかえませんかっ」って言われた時は本気で戦慄したよ。流石に衛生的に絶対ダメだから断った。

 私はもうクソ百合ロリコン性犯罪者なところあるけど、黒猫亭の運営は凄い真面目にやってるんだよ。人のお世話をするのは私の軸っていうか、柱の一つだからね。

 性的なお遊びのために黒猫亭のお仕事を貶める気は流石にないよ。ちゃんと黒猫亭は私の大事な場所なんだから。


「あ、それで詫びっていうのは?」

「そーでした! 忘れる所でした! その前にちょっとだけ次のイベントのお話しをさせていだけますか?」

「よし心ゆくまで語り倒すが良いよ。そして次のイベントには私も参加させろ」


 次も勝手に終わってたら、私暴れるぞ?


「はいはい、勿論ですとも! と言うか、次のイベントはお三方さんかたもメインでお楽しみ頂けますよ! 期間を定めた長期イベントですので!」


 なんでも、次のイベントもボスラッシュらしいけど、今度は都市とかを目指さずにフィールドを徘徊するタイプのボスを探し出して討伐するイベントらしい。

 そして、バーラが今回ここに来たのは、その時のボス討伐報酬でする特殊アイテムを私たちに先行授与する為なのだとか。

 詫びの品でもあるが、完全に新カテゴリーなアイテムであるらしく、この世界のメインペースメーカーでありメインテスターの肩書きを持つルルちゃんに渡して、テストもして欲しいのだとか。

 イベントはもう一週間後には始まっちゃうけど、何か不具合があれば実装してからでも修正するから、リアルタイムでフィードバックして欲しいと言う。


「新カテのアイテム? ジワルドにも無かったの?」

「いえ、厳密に言うと一度だけジワルドでもその姿が確認されましたが、アイテムとしてプレイヤーが手にした事は無いアイテムになります! それを我々が先にリワルドで正式実装し、向こうとの差別化を測っていこうかと思います!」


 リワルドは、ジワルドを参考にアップデートを重ねる世界ではあるが、ジワルドとは違って現実でもある。だから、この世界はどうしても、ジワルドとの差異が存在してしまう。

 ジワルドのようにアプデして、ジワルドのように楽しめる世界にして、そしてジワルドを超える。それがワールドエレメントが抱く今の目的であり、ジワルドを真似し始めたオーバーワールド世界超越の一端だ。

 私からしたらもう、既にルルちゃんと交尾出来ちゃうこの世界はジワルド超えてると思うけどね? 向こうは十八禁要素とかほぼ無かったし。その手の話しはNPCにも通じるのだけど、当然行為に及ぼうとするなら規制が入る。

 当たり前だ。ジワルドは一応全年齢対象だぞ。暴力表現とかでレーティングは有るけど、それでも十八禁ほどの販売規制はなく、個々個人の良識に委ねられる程度の物だ。

 じゃないと私がプレイ出来なかったしね。


「昔に一度ジワルドに出てて、でもプレイヤーが手にした事の無いアイテム…………? もしかして【夜刀神やとのかみ】と同じカテゴリー?」

「そうですッッッ! さすがはジワルドを知り尽くした黒猫様! あんな物を良く覚えておいでですねっ!?」

「そりゃまぁ、私が両親の事以外で、珍しく向こうでと思うイベントだったしねぇ」


 昔に運営が用意した武器の新カテゴリー。ただ調整が甘過ぎて実装に至らなかった伝説のアイテム。

 カテゴリーの名前すら知られてないけど、プレイヤーは独自に『神装』と呼んでいた。

 簡単な経緯を語ると、ジワルドのプレイヤーが総出で何日もぶん殴って、それでやっと倒せる設計のクッッッッソ強い超域レイドボスの実装と、それを倒したプレイヤーの中から貢献度算出でトップのプレイヤー一人に、特別なアイテムを報酬に出そうって計画だった。

 ただそのイベント、運営がモンスターを強く設定し過ぎて、私たちはソイツを倒せなかったんだよね。

 そして当然、討伐報酬であるソレは誰も入手出来ず、何故かその後も実装され無かった伝説のアイテムがその名前だけ残った。

 それが【夜刀神やとのかみ】。

 そのイベントのクソボス、『無限蛇龍神』とやらが手に持って暴れ狂った漆黒の刀剣。それを討伐した暁にもっとも勇敢だったプレイヤー一人に与えようってイベントだったんだけど、本当に何故かその後は一切音沙汰が無かった。

 イベント中にボスの難易度緩和も無かったし、ボスが強過ぎた九割の理由である夜刀神やとのかみも、調整されて別イベに出されるなんて事も無かった。


「あの時の怨嗟、あの時の絶望は覚えてるよ」


 みんな激強アイテムが欲しかったと嘆くが、私はそれよりも、武器のエフェクトで発生してた夜刀神やとのかみの絶望がずっと気になってた。

 一振される度に夥しい数のプレイヤーがぶっ殺されて行く中で、夜刀神やとのかみから吹き出す闇の残滓に触れると感じる事が出来た、ちょっと信じられないレベルの絶望。

 どのくらいかと言えば、姫ちゃんのイベントくらいの絶望だと言えば分かるだろうか。

 全てを斬り殺す為の武器として生まれた夜刀神やとのかみは、多分インテリジェンスウェポンとか、そんな類のアイテムだったんだと思う。

 何かを斬り刻みたい欲求と存在理由、自分自身の概念と、それを満たして実行する度に生まれる悲鳴が、夜刀神やとのかみを苦しめていた。少なくとも私はそう感じた。


 斬りたい。壊したい。


 でも仲良くしたい。誰か助けて。


 夜刀神やとのかみがイベント報酬だったのは、多分その願いにプレイヤーが答えて、クソボスから夜刀神やとのかみを助け出すって感じの流れだったと思うんだ。

 そもそもクソボスも、夜刀神やとのかみを手にしているから狂って暴れてる節すらあった。

 恐らくそれくらい、その武器を持っただけで使用者すら狂うほどの絶望が、夜刀神やとのかみにはあったんだと思う。勿論ジワルドはゲームだから、あくまで設定上はって話だけどさ。


「私は、夜刀神やとのかみを助けたかった」


 普通のプレイヤーは夜刀神やとのかみの能力だけが目当てだったけど、ゲームを盛り上げる為の演出でしか無い怨嗟と絶望を感じた私は、新アイテムとかクソ強武器とかどうでも良いからら、あの悲しい武器を助けてあげたかった。

 本にしたら数百ページは「斬りたい」だけで埋まりそうな程に濃厚な欲求と、同じだけのページを「助けて欲しい」で埋める程の願望。


 絶望と願望。絶たれた望みを願う夜刀神やとのかみが、私はただただ、悲しかった。


 私は向こうで手足を失い、内臓もいくつか潰れて、子宮すら無くなった。

 両親の手を握る事も出来なくて、潰れた内臓は母の手料理も拒絶し、喪失した子宮は父に孫を抱かせてあげる未来すらも道連れにした。

 私はお父さんとお母さんが大好きだ。愛してる。二人の子供に産まれて、この世にそれ以上の幸福なんて無いと断言出来る。ルルちゃんとタユちゃんに出会えた幸福も、私が二人の子供に産まれたからこそだ。


 私は二人が好きだった。二人とずっと一緒に居たかった。それと同時に壊れた私が不幸にする二人を見たくなった。


 夜刀神やとのかみは斬りたかった。目に付く総てを斬り裂いて、だけど目にした誰かと触れ合いたかった。


 多分共感。そして同情。

 失っても、泣いても、私は両親に愛してもらった。溺愛してもらった。

 だけど夜刀神やとのかみは泣いていた。不甲斐ない私たちは、触れ合いを望んだ推定インテリジェンスウェポンをその手に握ってあげる事が出来なかった。斬らせて殺させて壊させた。

 助けてあげることが出来なかった。


「覚えてる。覚えてるよ。調子に乗って、姫ちゃんみたいにきっと救えるって信じて止まなかった私が、無様に負けて、地に這って、触れる事すら出来なかった悲しい刃を、私は今でも覚えてる」


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