第102話 姉妹と蜜事語り愛。



「お父様、帰りましたっ…………」

「おおタユナぁ! 元気だったかっ?」

「はいっ。タユは、とっても元気ですっ」


 家令に案内されたお屋敷の執務室に、お父様は居た。

 フリーデンス家独特の、乳白色にも見える淡い金の髪の毛を短く切り揃えたお父様が、にっこにこ笑ってタユを出迎えてくれた。


「どうだ、不足は無いかっ? 大事にして貰ってるかっ?」

「はいお父様っ、タユはとっても、とーっても大事にされてますっ」


 フリーデンス家が何故か発症する、この詰まったり間延びしたりする喋り方が、お父様とタユがちゃんと家族だって教えてくれる。

 お父様がタユに、旦那様達から愛されてるか聞いてくるけど、本当ならタユは、どれだけタユが可愛がられて、どれだけ構ってもらって、どれだけ大事にされてるかを、五時間くらいは語りたかった。

 けど、お父様は大人の男性だから、タユがノノちゃんに気を失うくらい幸せにして貰った夜の話しとか、タユがシルちゃんに鳴き叫ぶくらい構って貰った晩の話しとか、話す訳には行かないよねっ?

 本当ならタユは、夜を明かしてノノちゃんの唾液の味だとか、シルちゃんのお腹から出るぬるぬるの喉越しとか、いっぱい語りたいんだけど、これが淑女に許されないお話しなのは、いくらタユでも分かってるもんっ。


「そうかっ、それなら良いんだぁ……」

「タユは、ちゃんと愛されてますっ」


 お父様には、タユがショップから買った再生機とメモリークリスタルを贈ってるから、タユの愛する旦那様がどれだけ凄い人なのか、ちゃんと分かってる。

 というか、タユがノノちゃんのお嫁さんになりたくて、説得する為に押し付けたんだよねっ。

 ノノちゃんが大好きな人は皆口を揃えて「これは見せとけ!」って言う、タユも大好きな『悪辣の姫君』はもちろん、他にもたくさんのノノちゃんコレクションをお父様に押し付けた。

 その次の日、目を真っ赤にしたお父様はタユのお願いをホイホイ聞いてくれるようになって、タユがノノちゃんに告白するために、タユを『ダンジョン学で唯一扱い易い女児のプレイヤーだから身の安全が心配』って名目で、黒猫亭に転がり込めた。

 …………タユ、ノノちゃんのお嫁さんになるために、こんなズルいことしてるんだよねっ。

 今ではシルちゃんの事も大好きで愛してるけど、その時はノノちゃんの事しか考えられなくて、ノノちゃんが嫌いな貴族みたいなことしちゃったの。


「それで、フィルーリアとフローリアはっ……?」

「あぁ、二人ならフィルーリアの部屋に居るはずさっ。早速顔を見せて上げなさい。きっと喜ぶぞぉ」


 それは、どうだろう?

 タユは、あんまり姉妹に好かれてない。

 なんでかって言うと、似てないからっ。


「ではお父様、二日お世話になりますねっ……?」


 タユはそれでも、挨拶はした方がいいなって思ってお父様の言う通りにする。

 たぶん、大事なお話しとかは夕食の時、夕餉の時にされるのかなぁ?

 執務室を出たタユは、お屋敷の中歩いて見掛ける家人に挨拶をしながら、フィルーリアのお部屋に向かう。

 今日は何を言われるのかなぁ。フィルーリアの機嫌、悪くないと良いなぁ。

 フリーデンス家には、お父様には夫人が二人居て、一人は第二夫人でタユのお母様、エポナ・フリーデンス。

 もう一人は第一夫人で、妹のフィルーリアとフローリアのお母様であるシャルーリア様。

 つまり、タユは姉妹で一人だけエポナお母様の娘で、だから二人とはあまり似てない。

 フィルーリアとフローリアは双子でも無いのに、もうビックリするくらい顔が似てて、そのせいなのか分からないけど、二人はお互いを大事にしてて、タユのことはあんまり好きじゃない。


「……フィルーリア、フローリア、居るっ? タユナだよっ」


 辿り着いたお部屋の扉を、タユはコンコンした。

 お屋敷の格に見合う、深みのある色合いをした立派な扉で、タユの記憶が確かならこの部屋のはず。


「入ってっ!」


 タユが扉の向こうにあるはずの、ノノちゃんと似た趣味の可愛らしい装飾のお部屋を思い浮かべてると、突然フィルーリアの声と一緒に扉が開いて、扉をコンコンした腕を乱暴に引っ張られて部屋の中に放り込まれた。


「《エアリアルムーヴ》」


 タユは転びたくなかったし、今のタユなら転ばなくて済む。

 それにどうせ何かしら有るだろうと思ってたタユは、心の準備が出来てたからスグに魔法を使った。

 ペペナさんが重用してるって言う、風の単属性五十七節詠唱魔法の、十五節版ショートカット。

 ショートカットは名前を好きに決められるので、節数が変わっても効果がそう変わらないなら、名前も変えない人も居るんだって。だからタユは、使える節数が増えてもこの魔法はずっとこの名前だと思う。

 あと、魔法の名前は欠片と差別化するために、横文字? って言うのにするのが通例なんだって。でもショートカットにしない魔法は普通に名前を付けるらしいよっ。


「うわっぷッ!?」

「はにゃぁッッ--」


 タユが今ぎりぎり使える最大節数の魔法が、柔らかくて力強い風がタユの体を押して、体勢を支えてくれる。

 だからタユは腕一本で跳ね上がって、空中で姿勢を戻してフィルーリアの寝台、ベッドの前に着地した。


「フィルーリア、突然乱暴にするのはやめて欲しいなぁ……」

「あ、あんたっ、いつの間にこんな凄い魔法をっ」

「タユは、舞姫様と黒猫様のお嫁さんなんだよっ? だからこれくらい、普通に出来ないとダメなんだぁ」


 生まれた風に煽れて、可愛い悲鳴を上げたタユの姉妹。

 黒猫亭だと十五節魔法なんてなんの自慢にもならないけど、黒猫亭の外だと違うもんねっ。

 宮廷魔導師でも七節使えたらとっても尊敬されて、十節も使えたら平民上がりでも貴族が養子にと引き取って、跡取りにだってなれちゃう。タユは今、それよりも凄い魔法をショートカットで使って見せたんだから、フィルーリアもフローリアも、驚いちゃうよねっ。


「そう、それよっ! ちょっとタユナ、その話し詳しく教えなさいよっ!」

「教えてよねっ! ロア達、お姉ちゃんが女の子と結婚したの知ってるんだからぁ!」


 今更だけど、フリーデンス家では自分のことを愛称で呼ぶのが習わしなんだよね。男性の一族は途中で矯正されちゃうけど、女の子はだいたいずっと、一人称が愛称のまま育つんだ。

 だからタユは自分をタユって呼ぶし、フィルーリアは自分をフィル、フローリアはロアって呼ぶんだっ。

 最初は子供っぽくて恥ずかしかったけど、ノノちゃんもシルちゃんも、タユが相談すると「「は? 可愛いが?」」って言ってくれたのっ。嬉しいなぁ。

 その時のお顔は、すごく真顔でちょっぴり怖かったけどっ……。


「えと、フィルーリア達は何が聞きたいのっ……?」


 フィルーリアもフローリアも、タユの結婚が気になるみたい。どうしたんだろう?

 正直タユは、語れって言われたら、一年くらいずっと語れるよっ?

 大好きな大好きな旦那様の可愛いところと、カッコいいところ、優しいところ、激しいところ、素敵な笑顔に怖い顔、そんなタユが感じる二人の魅力なら、タユはいくらでも語れるよっ? 


「あ、アレよっ! その、女の子どうし、なのよねっ!?」

「どうやったら結婚出来るのっ!? ロア達にも教えてよっ」

「…………? えっと、フィルーリアもフローリアも、誰か好きな女の子でも、いるのっ……?」


 タユがそう聞くと、フィルーリアとフローリアは真っ赤になって俯いて、二人はチラチラとお互いの顔を見始めた。

 ……あれ? もしかして、そういうこと?


「……フィルーリアと、フローリアは、二人で恋人になりたいのっ?」

「「ッッッ!?」」


 あ、もっと真っ赤になっちゃった。

 そっか、そう言う事だったんだね。タユは今、色々と分かっちゃったっ。

 二人はお互いに恋してて、でも女の子どうしだし、姉妹だから、色々と我慢してたんだねっ?

 それで、だから、似てなくて、想い人じゃないタユが邪魔で、だからタユは意地悪されてたんだねっ?

 正直タユは、フィルーリアもフローリアも意地悪だからあんまり好きじゃなかったんだけど、そんな理由があったって知っちゃったら、二人とも可愛く思えてきちゃったなぁ。

 えへへ、タユの姉妹が可愛いなぁ。モジモジしてて可愛いなぁ。

 ちなみに、フィルーリアはタユとほぼ同じ九歳で、フローリアは八歳なんだ。可愛いねぇっ。


「フィルーリアとフローリアは、二人でちゅっちゅしたぃっ?」

「うぃッッ……!?」

「あぅっ……」

「結婚して、赤ちゃんが欲しいのっ?」

「「ふにゅぅっ……」」


 あはっ☆ どうしようフィルーリアとフローリアがすごく可愛いよっ。


「えと、待ってね二人とも、ちょっと準備するからっ」

「……へ?」

「お姉ちゃんっ、何するのぉ?」

「《サイレントコート》《エリアルシール》」


 二人は今まで、ずっと我慢したり、隠れてこそこそ好き合ってたんだねっ?

 でもダメだよ。好きって気持ちは、我慢するとすごく苦しいんだよっ。タユ知ってるもん。

 だからモンスターから気配を消すための消音魔法と、その魔法を長く持続するための魔法を重ねてお部屋に貼ってあげるね。タユの前ではもう、我慢しなくて良いからねっ?


「お、お姉ちゃん何したのっ?」

「このお部屋から音と匂いが漏れないようにしたよっ。半日くらい持つから、ここで二人がたくさんちゅっちゅしても、大丈夫だよっ」


 タユたぶん、今とっても良いことしてるよねっ。


「はぅうっ……」

「そんなっ、フィル達は女の子で、家族なのにっ……」

「でも、したいでしょっ?」

「「ぁうっ……」」


 タユ分かっちゃった。シルちゃんがタユに持たせてくれてる、タユ達の夜の事が全部記録されてるメモリークリスタルって、こう言う時に使うんだねっ。

 恥ずかしがって、血の繋がりと女の子同士って壁のせいで踏み出せない二人に、タユは再生機を出してあげた。


「あのね、女の子同士でもね、好きになって良いだよ!」


 まずは、ノノちゃんとシルちゃんがちゅっちゅしてる映像から始めよう。


「あわっ、あわわわ……」

「いいなぁ…………」


 二人とも顔を真っ赤にしながら再生機に齧り付いたよっ。

 それで、やっぱり二人でお互いにチラチラ見てて可愛いっ。


「タユは、血の繋がりはどうすれば良いのか分からないけど、でも女の子同士でも、好きになって良いと思うんだっ」

「…………いいのかなぁ」

「……タユナは、どうやって結婚したのっ?」


 タユはプレイヤーの法律を教えてあげた。

 レベルが上がったのと、ダンジョンから手に入る色々な道具、アイテムの効果で、常識に縛られないプレイヤー。

 だからタユも、ノノちゃんとシルちゃんと結婚出来たし、今も可愛がって貰えるんだよっ。


「もしかしたらっ、ダンジョンで血の繋がりがある女の子でも、ちゃんと赤ちゃんが産めるアイテムがあるかも知れないよっ」


 だからね、我慢しなくて良いんだよっ?

 タユが邪魔されないように見張っててあげるから、今は人の目を気にしないで、いっぱいキスして良いんだよっ。


「ほらっ、ほらっ、フィルーリアもフローリアも、キスして良いんだよっ? タユが魔法で見張っててあげるからねっ」


 そう言うと、フィルーリアもフローリアも、可愛いお目々がうるうるして、信じられないくらい真っ赤になって、潤んだ瞳でタユに最後の確認をする。

 いいのかなって、本当にいいのかなって不安そうな二人に、タユは笑顔で頷いたの。


「…………ぁぅ、あのっ、ね? ロアはっ、フィルと、したい?」

「…………ぅんっ。ロア、フィルお姉ちゃんと、ちゅっちゅしたぃっ」


 もう我慢しなくて良いからね♪︎


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