到達者と亡国編
第101話 タユナ・フリーデンス・ビーストバック。
「…………そうなんだぁ」
お部屋で一人、思わず言葉を漏らしちゃう。えへへ、ちょっと恥ずかしい。
ここは黒猫亭。タユのお嫁さんで、旦那様であるノノちゃんが経営するお宿の一室。
同じくお嫁さんで旦那様なシルちゃんと一緒に、毎晩いっぱい可愛がって貰えるタユは、とっても幸せ。
好きな人と一緒に居られて、タユは毎日とっても幸せなんだぁっ……。
「ああ、だめだめ。今はお手紙だよっ」
大好きな旦那様たちの事を想うと、自然と考えが旦那様たちに染まっちゃう。えへへ、気を付けないと……。
「フィルーリア達が来るんだねぇ〜」
タユのお家、フリーデンス家は辺境伯だ。
国でも上から数えた方が早い爵位なはずなのに、今のタユのお家は、言葉がすごく軽い。家格が、低い。
ノノちゃんが「辺境伯が低かったらどの爵位が高いのさ」って言ってて、笑って誤魔化したけど、今のフリーデンス家は本当に家格が低いんだよっ、ノノちゃん…………。
「…………え、帰って来いっ? なんっ、……ぁぁ、離縁しろって事じゃなぃんだね。えと、挨拶に行けば、いぃのかなっ?」
お父様から届いたお手紙を読むと、そう書いてあった。
妹のフィルーリアとフローリアが辺境から遊びに来てるから、顔を出せってことかなぁ?
「ノノちゃんと、シルちゃんに、お話ししないと、ねっ…… ?」
タユはお手紙を
タユの旦那様たちは、どこかなぁ?
「…………ふんふん、匂いはこっちかなっ?」
鼻を動かすと、ノノちゃんとシルちゃんの優しい匂いがする方に移動する。
えへへ、タユの特技の一つだよ。ノノちゃんとシルちゃんの、大好きな旦那様の匂いなら、タユは少し離れてても分かるんだよっ。
タユの旦那様で、素敵なお嫁さんで、優しくて大好きなノノちゃんとシルちゃん。
二人の邪魔をしないならって条件でタユはお嫁さんになったのに、優しい二人はいっつもタユを構ってくれるの。
約束通りに一人の日とか、お部屋で一人、ノノちゃんとシルちゃんのお名前を呼びながら自分を慰めてるとね、旦那様達がタユを幸せにしに来てくれるの。
一人でシてたのって、一緒にシよって。
二人の愛情とか、匂いとか、いっぱいに囲まれて幸せになっちゃうタユは、幸せ過ぎていっつも先に気絶しちゃうの。
本当は二人で愛し合ってる時間なのに、タユが寂しいといつも来てくれる優しい旦那様。えへへ、タユは幸せだなぁ。
そんな生活を続けてたら、二人の匂いに敏感な体になっちゃったよ。
抱き締められて、二人の匂いに包まれると嬉しくて幸せで、タユはそれだけで、体がびくびくッッてしちゃう。
「あっ……、どうしようっ。甘えたくなっちゃったっ」
タユは気持ちがギュゥってなっちゃったから、急いで二人の所に行く。
今は二人ともリビングだね。優しい匂いがするからすぐわかるよ。
「ぁうっ、ノノちゃん、シルちゃん…………♡」
「ん、タユちゃんどしたの? 相変わらず可愛いねぇ」
「タユ先生顔真っ赤だよ? どしたの、甘えたいの?」
「う、うんっ……♡ 甘えて、いぃ?」
リビングに行くと、黒猫亭に泊まってるお客様と盤上遊戯で遊ぶ旦那様達が居た。
見られるのは恥ずかしいけど、タユは我慢出来なくて二人にくっ付いちゃう。
はうぅ、優しい匂いがしてしゅきぃい……♡
「あら、甘々なタユちゃんだ。珍しいね」
「タユ先生はすぐ我慢しちゃうから、こう言う時は思いっきり甘やかそうね」
嬉しいな。幸せだなぁ。タユ、二人が大好きだよっ?
ソファに座って駒を動かす二人に、邪魔にならないようにピッタリくっ付いて甘える。
お客様は「ああまたか」って顔で微笑むの。あの、邪魔してごめんなさいっ。
「えへへタユちゃん可愛い……」
「天性の甘えスキルすごくない? あたしも見習いたい」
甘えると、旦那様が間を空けて挟んでくれる。
それで膝の上にごろんって寝かせて、頭を撫でて喉を擽って、隙を見てタユのお口にちゅってしてくれる。
えへへへぇ、幸せぇ……。
タユはいま、二人の猫ちゃんなんだよっ、にゃあにゃあ♡
「うへぇ可愛い。タユちゃんって、私とルルちゃんをスキル無しで発情させる天才だよね」
「タユ先生ほんと可愛い。ズルくない? こんなん襲いたいに決まってるじゃん」
えへへっ、あぅ、タユを襲ってくれるの? 嬉しいなぁ……。
あぅぁぅ、違った。今はお手紙の事をお話ししなきゃだよ。
あ、でもでも、実家のお屋敷に行くと二人に可愛がって貰えなくなっちゃうから、行くのは明日で良いかなぁ?
今晩は、会えなくなる分たくさん、たーっくさん愛してほしいなっ……?
素敵なお薬とね、幸せなスキルでね、タユをっ、タユを構って欲しいなぁ。
◇
次の日の朝、タユはお出掛けの準備をするの。
えへへぇ♡
いっぱい構って貰えて、タユは幸せだよっ……。
幸せ過ぎて足がぷるぷるしちゃうけど、良いの。これが嬉しいの。
夜は、凄かったなぁ……♡
「えへ……、旦那様しゅきぃ……♡」
幸せ過ぎて苦しくて、泣き出しちゃったタユを、ノノちゃんもシルちゃんも、もっともっと構ってくれたの。
朝起きても、タユのお腹が凄いぬるぬるになっちゃってたの、恥ずかしかったなっ……。
二人とも優しいから、ちゃんと気を失ったタユのこと拭いたりしてくれたと思うのに、それでもぬるぬるしてたのは、乾かないくらい次から次に出てたのかな。
恥ずかしぃ……。二人の匂いが近くにあって、匂いが濃いと、タユはずっとずっとお腹の下がきゅんってしちゃうの。病気なのかなぁ?
「ベガちゃん、今日はよろしくねっ……?」
黒猫亭からお出掛けするってお話したら、ノノちゃんが「心配だからベガを付けるね。大丈夫、安心して。本気を出したベガってこの国全部を敵にしても勝てるくらい強いから」って言って、ベガちゃんを付けてくれたの。
凄い綺麗で、お目々が優しくて、もしかしたらタユより頭良いんじゃないかなぁってくらい、賢いお馬さんなんだ。
今もタユが挨拶すると、「ええんやで」って気持ちが伝わってくる優しい瞳なんだぁ。
タユはノノちゃんのベガちゃん馬車に乗って、お昼前に黒猫亭を出たよ。
「…………凄いねぇ。ベガちゃん、ゆっくり行こう?」
タユのお願いを聞いてくれたベガちゃんが、馬車の速度を落としてくれる。
あの事故から、あのダンジョンの事故から時間が過ぎて、ケルガラはすごく賑わった。
レイフログダンジョンから始まった世界の変化は、今も少しずつ外の国々へ伝わって行く。ヘリオルートにあるダンジョンもレイフログダンジョンみたいに形を変えて、今は黄色い
銀の兎さんはシルバーラビットのバーラさんで、黄色い鼬さんはイエローフォークのローフさん。どっちも旦那様のシルちゃんが名前をつけたんだよっ。
バーラさんの性格はもう有名だけど、ローフさんもとっても可愛い神様なんだ。
男の子なんだけど、とっても甘えん坊で、バーラさんの名前を羨ましがって「やだやだボクもお名前欲しぃもぉ〜ん!」ってジタバタしちゃうの。可愛かったなぁ。
それで、レイフログダンジョンの事故でとっても有名になっちゃったシルちゃんがダンジョンの前まで来て、「じゃぁローフくんだね」ってすぐお名前を付けてあげると、ローフさんは「この兎しゃん優しくてしゅきぃい♡ こっちの銀の奴と交換しよ?」ってなってたの。面白かったなぁ。
「たくさん変わったねぇ……」
今はもう、世界が動き出してる。
もうケルガラでは巣窟をダンジョン、魔物をモンスター、深度をレベルって言うように変わって来てる。
探索者さんたちのレベルも上がって来てて、早い人はもう百レベルくらいになってる。そのお陰で、ダンジョンから出て来る魔石や魔道具なんかの市場も活性化してて、ケルガラは今とっても賑わってる。
えへへ、でも、タユはそんな探索者さんたちより、ずっと強いんだよっ……?
シルちゃんのお手伝いをしたくて、タユもノノちゃんを助けたくて、ダンジョンの中の安全な場所だったけど、練兵所でたくさん頑張ったんだよ。
今ではタユも、ノノちゃんとシルちゃんが手伝ってくれるからレベルも四百三十あって、とっても強いんだよ?
ノノちゃんペペナさんから魔法を習って、武器の使い方も習ったの。
今のタユは魔法を使って戦いながら、近付かれたらカタナを使って抜刀術で反撃出来る、女の子の戦士だもん。
ノノちゃんから習う無念夢想流と瞬刀雷鳴流はとっても難しくて、まだどっちも全然使えないけど…………。
「……いつかタユも、ノノちゃんとシルちゃんの横に立ちたいんだっ」
頑張ってるんだよ。タユは、これでも黒猫亭の中だと上から数えた方が早い強さなんだからね。
一番上はノノちゃんとペペナさんで、次がシルちゃんで、その次がレーニャさん。ビッカさんとザムラさんは今もう、レベル五百を超えて六百に迫ってる。お二人はもう自力でプレイヤーになった、凄い探索者の人なんだよね。
それと、タユ達と一緒にダンジョンに落ちた皆の内、黒猫亭に泊まってダンジョン学の成績を稼いでる子達も、凄く強くなったよ。
ミハさんももう少しで五百に行きそうだし、ゼクトさんもそろそろ四百が見えたかなっ?
他の皆も三百は超えて中頃、少しずつ装備も強くして頑張ってる。
あの頃の、不安も恐怖も全部モンスターに叩き付けて誤魔化すようなレベリングじゃなくて、今はとても活き活きして訓練してる。
生産職に手を出した子の内数人は、お家の事情で黒猫亭に来れなかったけど、女の子組の中でも特に生産にハマったハムニールフィアちゃんは黒猫亭に来た。
…………ぁうっ、その子は、ハムニールフィア・ペンナハーツちゃんは、あの、タユの事を好きな女の子で、タユの為に武器を作りたいって言ってくれた女の子なの。愛称はハムちゃん。
今も新しくなったらしい黒猫亭の生産棟で、ノノちゃんからの教えを受けて必死に槌を振ってる。
ノノちゃんの事を最初は師匠って呼んでたけど、「……私、師匠って呼ばれる程の腕じゃないよ。それは私の師匠達に失礼だから、ゴメンだけど止めてね?」って言われて、今ではノノ姉様って呼んでるの。
ノノちゃんとシルちゃんが認めるような業物が作れるようになったら、タユの武器を担えるようになったら、「ハーレムに加えてくださいませっ!」って言ってのけた、凄い子だよ。
あ、ハーレムの意味はもう、ダンジョン学の子達には広まってるよっ。
でも、あの、タユ困っちゃう。
タユが好きなのはノノちゃんとシルちゃんで、ハムちゃんじゃ無いんだもん。
だから、逆に、タユもこんなに迷惑な事をノノちゃんに言って、シルちゃんとの間に挟まって邪魔をしたんだなって理解した時、すごく苦しくなったの。
でも、そうなったら二人が「えへへ後悔する幼女めっちゃ可愛い」「タユ先生は良いんだよ? もうちゃんと、あたしたちのお嫁さんだからね?」って言って、一晩中構ってくれたの。嬉しかったなぁ……。
だからハムちゃんの気持ちも、タユは無碍にしちゃダメなんだなって思ったよ。二人が嫌じゃなくて、ハムちゃんが宣言通りに目標を達成したら、タユも受け入れようかなって思う。
旦那様達みたいに、構ってくれる内にとっても好きになるかも知れないし、タユだって最初は二人に無理を言ったもんね。
ノノちゃんも心配して、「これは私たちのオモチャになるって事だよ? 後悔しない?」って何回も確認してくれたのに、タユはそれでも良いって無理を言った。
それなのに、今では毎晩構ってくれるし、すごく優しく大事にしてくれるもん。最初はそんなにタユのこと好きじゃなかったはずなのに、今ではちゃんとお嫁さんにしてくれたもん。
タユがハムちゃんの気持ちを受け取らないのは、あの時タユを受け入れてくれた二人の優しさに唾を吐くことだと思う。
自分は同じことして受け入れて貰ったのに、同じ気持ちの女の子に、その優しさを見せないで唾を吐く。……うん、二人に顔向け出来なくなっちゃうね。
「タユ、ハムちゃんの事も好きになれるかなぁ?」
正直分からない。でも、想ってくれたのは嬉しいんだ。タユが旦那様を想うみたいな、とても強い気持ちを向けてくれてるんだなって思うと、心がぽかぽかするの。
「……えへへ、でもまだ先の事だもんね」
黒猫亭に居る探索者は、黒猫亭の外に居る人達とは格が違う。
外はまだ良くてレベル百くらいなのに、タユ達戦士組は、最低でも三百はある。生産職の子も、五十はある。
だから、そんな噂を聞き付けた探索者の人が、お金を貯めて黒猫亭にやってくる。頑張って金貨一枚貯めれば、黒猫亭には一ヶ月泊まれる。それで、黒猫亭に一ヶ月泊まれれば、信じられないくらい強くなれる。
どんな武器でも神様みたいに扱えるノノちゃんと、魔法と武器を絡めた戦いだけならノノちゃんよりも凄いペペナさん。
その二人から武器も魔法も学べるし、超越絶招が唯一使えるシルちゃんも居る。
それとノノちゃんから教えを受けてメキメキ腕を伸ばしてる生産組の女の子達。
他にも、いくらでも訓練を付けてくれるノノちゃんの召喚獣さん達に、色々と細々した事を教えてくれるダンジョン学の皆。領域水晶も黒猫亭特設ダンジョンも闘技場も使い放題で、まさに探索者さんの楽園だよねっ?
そんな所に一ヶ月も居たら、強くなって当たり前だよねっ?
お陰で、今の黒猫亭は知る人ぞ知る名亭。腕を伸ばしてる探索者さん達の憧れ。
「…………あ、シルちゃん目当てのお客様も居るんだっけ」
舞姫として有名になっちゃったシルちゃんを、シルちゃんの舞いを一目ナマで見ようと泊まりに来るお客様も増えてる。
強さで言うとノノちゃんやペペナさんの方が強いんだけど、シルちゃんの舞いは綺麗だもんねっ。
でもシルちゃん、「あたしの舞いはノンちゃんだけの物なの!」って言って絶対に披露しないの。それを聞く度にノノちゃんも「えへへぇルルちゃんしゅきぃ♡」って言って、二人でお部屋に行っちゃうの。
…………羨ましいなぁ。
でも、タユが羨ましくて寂しいなって、お部屋で一人モゾモゾしてると、優しい二人はタユを構いに来てくれるんだっ。嬉しくて、幸せだなぁ。
二人は次の日に「……えと、夜這いしてごめんね?」って言うけど、タユはとっても嬉しいよ? 毎晩構って、毎晩襲って欲しいなぁ。
あの時も、ダンジョンで猫ちゃんになったノノちゃんと、ノノちゃんを助けるために辛くて痛いのずっと我慢して戦ってたシルちゃんが、幸せそうにちゅっちゅしてるの見て、羨ましいなって口に出しちゃった。
そのお陰でお嫁さんになれたんだけど、今思うと凄い失礼だったなって思うんだ。
だって、ノノちゃんは消えて居なくなっちゃう瀬戸際で、シルちゃんは本当に何回も殺されて、何回も怖い思いをして頑張ってたのに、タユは自分の気持ちをぶつけてるだけだった。
「……だから、二人に相応しいお嫁さんに、ならないとねっ」
ずっとタユの独り言を聞いてくれる優しいベガちゃんに、ありがとうって言うと、やっぱり「ええんやで」って眼差しが返ってくる。
「でも、本当にあの時の旦那様達はね、幸せそうだったんだぁ」
ダンジョンでちゅっちゅする二人は、本当に愛し合ってて、幸せそうで、それをずっと見てたタユは、気持ちが溢れちゃったんだ。
可愛い猫ちゃんになった、にゃあにゃあ鳴くノノちゃんに、ちゅってして、小さな舌を唇に滑り込ませたシルちゃんが、凄く、凄く羨ましくて…………。
響く水音も、混ざる吐息も、絡む舌も、朱に染った頬も、全部全部、羨ましくて仕方なかった。
口付けで気持ち良くなって、体が震える二人を見ると羨ましくて、タユもノノちゃんに舌を入れて、舌を絡めて、ノノちゃんの唾液を飲みたくて、気持ちが壊れそうだった。
その気持ちを誤魔化すために、モンスターにぶつけてた。
もちろん強くなって、ノノちゃんの力になりたかったのも本当だよ。でも、タユもノノちゃんの唇を塞いで、タユのキスで鳴いて欲しかった。
…………でも凄いよね、旦那様達。あんなにちゅっちゅしてたのに、契りはして無かったなんてっ。
シルちゃんに聞くと「……騙し討ちみたいに依存させたまま、えっちな事とか出来ないよ、あたし。絶対後悔するもん」って言ってて、タユは頭がクラクラするくらい、とっても強いシルちゃんの愛情に憧れちゃったんだ。
…………タユだったら、絶対にあの時のノノちゃんに色々してたよっ? 絶対我慢出来なかったもん。
それを、二人きりのお部屋で、あんなに素敵なキスをしながら、ずっと我慢してたんだよねっ?
だからシルちゃんは、タユの理想の旦那様でお嫁さんなんだ。
自分の伴侶としての理想って意味じゃなくて、タユもノノちゃんにとって、シルちゃんみたいなお嫁さんに成りたいなって意味で。
シルちゃんがあんまりにも理想だから、タユは二番目で良いんだって思えた。タユは、ただノノちゃんに恋したんじゃなくて、シルちゃんっていう最高のお嫁さんと睦み合うノノちゃんに恋をしたんだなって思ったの。
「理想が遠いなぁ……。ねぇベガちゃん、タユもいつか、あんなに素敵なお嫁さんに成れるかなぁっ……?」
ベガちゃんに聞いても、「分からんよ」って眼差しが返ってくる。えへへ、そうだよね。
ダンジョンで絶望して、諦めそうなタユ達をずっと支え続けてくれた、小さな英雄のノノちゃんに恋をした。
だけど、それが確かにきっかけだったけど、多分タユの恋心がちゃんと完成したのは、シルちゃんが揃ってからなんだ。
シルちゃんがノノちゃんの為に身も心もすり減らして行くのを見て、タユもそんな女の子になって、ノノちゃんを支えたいって思ったんだ。あの二人の恋の形に、タユはきっと恋をしたんだ。
だから、タユはシルちゃんも大好き。愛してる。
気が付いたのは、この想いを自覚したのは二人に受け入れてもらってから、少し経ってからだったけど。
その間のタユは、今思うとノノちゃんだけを好き好きしてて、凄い失礼だったと思う。
「だけど…………」
今は、ノノちゃんもシルちゃんも同じくらい好き。大好き。愛してる。二人に触れてもらうと、幸せ過ぎて死にそうになっちゃう。
二人にキスして貰うと、それだけでぽわぽわして、何も考えられなくなっちゃう。
だって二人のことが大好きだから、旦那様が大好きだから、二人にキスされると頭がおかしくなっちゃうんだ。
ノノちゃんもシルちゃんも、キスするととっても美味しくて、もっと欲しくなっちゃう。
二人の舌がタユのお口に入ってくると、体がビリビリして、幸せになって、嬉しくなっちゃう。
それに二人のお口、旦那様の唾液がね、そのっ……、おいしいのっ。
ねっとりして、でもサラサラしてて、凄く甘くてね、タユの心を溶かす味なんだ。だからもっと欲しくて、二人に抱き着いて喉をコクコク鳴らすの。
「……ぁうっ、寂しくなっちゃったぁ」
思い出したら、胸とお腹がきゅんってして寂しくなる。
悲しいな。今日から二日くらい、離れ離れなのに。だからいっぱい構ってもらったのに……。
二人に抱き締めて貰って、二人の優しい匂いに囲まれて、二人に構ってもらって、二人の唾液が飲みたくなっちゃう。
ほっ、本当に美味しぃんだよっ? タユ、世界で一番二人の唾液が美味しいと思うんだっ……。
早く帰りたいな。今すぐにキスして欲しいな。いっぱい喉をコクコク鳴らして、たくさん二人の唾液が飲みたいな。
…………メモリーで見た、シルちゃんの「あたし、今なら神も殺せるよ。ノンちゃんの唾液があたしの主食」って言ってた映像を見て、その時に「そう! そうだよねっ!」って大声出しちゃったもん。
お部屋に一人の時に見て良かった。旦那様に聞かれてたら恥ずかしぃ……。
でも、本当にノノちゃんの唾液をたくさん飲ませてくれたら、タユもきっと神様だって倒せるよっ! それくらい元気が出るもん!
ノノちゃんとシルちゃんの唾液がタユの主食だよっ!
「でも、二人から直接飲むから幸せなんだよね……?」
多分、二人の唾液が並々入った水差しがあっても、ここまで幸せにはならないし、同じくらい美味しいとは思えない。
それでも本当にそんな物があったら、タユは結局、頭がぽわぽわして、喜んで飲んじゃうと思うけど。
……だって、水差しに並々入ってるんだよ? 飲んじゃうよね? タユは飲んじゃう。
いっぱい、ンクンクって飲んで、頭ぽわぽわして、それで結局もっと欲しくて二人を探し始めると思う。
「…………はぁぅ、本当に寂しくなっちゃった」
ローフさんがワチャワチャしてるダンジョン前を通り過ぎて、貴族街に通じる門を潜って内壁の中へ。
ヘリオルート学園も見えたけど、多分もう行くことは無いだよね。
ノノちゃんとシルちゃんに構ってもらいながら通う学園も、きっと楽しそうだったけど、ずっと二人と一緒に居られる黒猫亭の方が、タユは好き。
「お父様のお屋敷が見えてきたねっ……。ベガちゃん、ありがとねっ」
辺境の本邸じゃなくて、王都にあるフリーデンス家のお屋敷が見えてきた。
正直に言うと、黒猫亭の方が豪華で大きくて、意匠も洗練されてて、ずっとずっと素敵だと思う。
でも、タユのお家も、腐っても辺境伯だからねっ。ちょっと豪華なんだよ。
お屋敷に帰って来て、馬番にベガちゃんを預ける。言っちゃえばここはタユの実家だから、下にも付かない対応だよ。
タユはベガちゃんがノノちゃんに、旦那様から預かったとても大事なお馬さんだから、相応の持て成しを言い付けてからお屋敷の扉を開いた。
「お帰りなさいませ、タユナ様。ドルバリオ様がお待ちです」
玄関でタユを待ってた家令にそう言われたタユは、ちょっと気が重くなりながら、ちょっとした里帰りが始まった。
はぁ、旦那様のところに帰りたいなぁ。旦那様達の唾液をコクコク飲みたい……。
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