第98話 皆が皆、好き過ぎる。
面白い世界に来た。
ゲームにそっくりで、なのに現実の側面を持ち合わせてる。
もうこの世界に来て一ヶ月は経ってるけど、その途中で面白い奴を見付けてしまった。
「なーにしてるのかな? 【剣閃領域】」
「何故ぬしがここに居るっ!? 【薬師神】っ!」
「師匠、誰でござるがこの御仁」
「ユノスケ貴様っ、拙者を師匠と呼ぶなと言っているだろう! 拙者を師匠と呼んでいいのは、この世でののんだけだ!」
そう、ノノンちゃんのお師匠様を見つけたんだよねぇ。
ふへ、超面白くなってきた。
別に出会いは偶然だった。劇的でも何でもない。ちょっと旅の途中に寄ったクールリント皇国の一角で、現地の人間を共にして団子食ってたこの鬼ポニテを見付けただけ。
「ふふ、久しいね【剣閃領域】。君もやっぱりあの子を探しに?」
「ふんっ、ぬしもか」
「そだねぇ。皆ノノンちゃんの事好きすぎだよねぇ?」
「一番好きなのは拙者だ!」
「いやいや、それはどうかなぁ」
ふーん、見た感じコッチに来たばかりみたいだ。
同郷のよしみだ、ちょっと情報を教えてあげようかね。
「【剣閃領域】はノノンちゃんの情報どれくらい手に入れたのかな?」
「むっ、……恥ずかしながら、拙者はまだ何も」
「やっぱりか。僕は少し長くコッチに居るから、ノノンちゃんが居る場所と、ちょっとした現状くらいなら分かるよ。ここに寄ったのもノノンちゃんが居る国へ向かうためさ」
「なんとっ!?」
地球とは比べ物にならないとは言え、一応はこの世界で国際規模の組織である傭兵組合と、商業組合。
この二つに莫迦みたいな恩を被せて情報を集めまくってたから、あの子が今ケルガラって国に居て、ちょいと騒動が起きたあとだって事は分かってる。
ただ、運が悪い事にこの世界に来た最初の場所が遠過ぎて、ノノンちゃんに会うまで今少し時間を要するんだよね。
旅は道連れ世は情け。持ってる情報は教えてあげるよ、ものむぐりちゃん?
「ふむ。ケルガラ王国と言うのか」
「そうそう。それと、今は名前がノノン・ビーストバックって言うらしいよ。名前カタカナになっちゃったから、まぁ口頭だとあんまり関係無いけど、気を付けるといいよ」
「む、情報感謝する」
「それで、どうだい? 一緒に行くかい?」
この世界に到達者をどうにか出来る相手が居るとは思えないけど、戦力は多い方が良いしね。それにこの子と僕の相性は、割りと良い。
「まっ、待って頂きたい! ししょ、では無く師範を連れて行かれるのは困りまする!」
「……ん? ものむぐりちゃん、誰これ? 彼氏?」
「莫迦な事を言ってると潰すぞ、【薬師神】オブラート」
そういや居たね、なんか、如何にも侍って感じの現地人。
ユノスケとか呼ばれてたかな?
黒髪のチョンマゲに、唐草模様の着物を着た、まぁモブキャラだよね。
「で、なに、困るとか言われても、君の大好きなものむぐりちゃんは、ノノンちゃんを探すために必死なんだよ? それを邪魔するなら、邪魔しちゃうなら、君にものむぐりちゃんを師範とか呼ぶ資格があるのかい?」
「むぐっ、いや、しかし……!」
「僕たちにとってね、その探してるノノンちゃんって子は、物凄く大事なんだよ。自分の嫁とか、娘とか、家族とか恩師とか、その程度の話しじゃないんだ」
まさに、生きる理由ってやつだよね。僕の場合は生き甲斐だけど、文字通りに生きている甲斐なんだよ。
これが無い人生なんて、スパイスのないカレーさ。ただの肉入り野菜スープになったカレーとか、価値なんて無いだろ? 美味しいかも知れないけど、僕達はカレーを求めてるんであって野菜スープなんて要らないんだよ。
「相変わらず意味不明な例え話しをする」
「ええー、そうかい? ノノンちゃんは笑ってくれるんだけどなぁ」
「それはののんが、ノノンが優しいからだろう。拙者たちはノノンの甘さに甘え過ぎるきらいが有る」
「それもそうだねぇ。ああ、早く会いたいねぇ。新しく作った薬のレシピとかさ、早く見せてあげたいよね。自分の事のように喜んでくれて、あっという間に技術を持っていくんだもん」
「……ふふ、可愛くて仕方ない。それは分かるぞ【薬師神】」
そうやって二人でノノンちゃんの可愛さと優秀さを語り合っちゃう僕達。
いやしょうが無いよね。僕達師匠組って、もう人生飽き飽きしちゃってる仙人みたいな奴の集まりだし、もう残りの人生全部をノノンちゃんの為に捧げちゃいたいくらいなんだから。
自分の人生をかけて積み上げた技を、技術を、あっという間に継承してくれちゃう可愛い可愛いノノンちゃん。
技に生きた人間ってのは、そんな人材が愛おしくてたまらないのさ。
「や、やっぱり嫌でござる! どうしても師範を連れて行くのなら、このユノスケを倒してからにしてもらうでござる!」
「あ、死にたいのかな? なら殺してあげるよ」
「……へ?」
まぁ僕、薬師だしね? 見るからに戦えそうに見えないもんね?
だから舐めてるんだよね? 分かるよ分かる分かる。
でもねぇ、僕も到達者なんだよ。ノノンちゃんの師匠の一人なんだよ。
「癒して見せよう。殺して見せよう。望む総てをいざ変えよう」
だからねぇ、ジワルドの最強が誇る師匠の一人として、君程度の雑魚に舐められる訳には、行かないんだよ?
「森羅万象操りて、三千世界よ我が手に踊れ」
僕のコレはちょっと特殊だけど、ちゃんと戦いにも使えるんだよ。ノノンちゃんと一緒に使い方の研究もしたし、その身で僕たちの弟子の優秀さを味わうといい。
「おいユノスケ、今すぐ逃げろ。確実に死ぬぞ」
「いやでも、……師範、彼は薬師なのでは?」
「薬師が戦えないなど、誰が決めたっ! 奴は拙者と同格だぞっ……!」
はは、もう遅いよ。
「--招来せよ、【薬師神】」
◇
「生意気言って申し訳無かったでござるぅぅぅぅううッッッ!」
「はは、二度目は無いからね? 僕、こんな感じで気が長そうに見えるけど、実は物凄く気が短いんだよ」
「そうだぞ。こいつはこんなノホホーンとした顔と喋りの癖に、ちょっと気に食わないだけで相手を毒殺しようとする暗殺者だぞ。薬師は表の顔でしか無いのだぞ」
ネームドスキルを使って半殺しにした侍くんから、土下座で謝れてる。ふふ、本当に次は殺すから気を付けてねぇ?
「一応、ナイフやダガーも使えるしねぇ? 短剣術二流派を絶招まで、あと投擲スキルも修めてるから、ただ殴り合うだけでも君よりよっぽど強いよ?」
「ホントに申し訳無いでござるぅぅうっっ……!」
「と言うか、ネームドスキルはむしろ手加減の為に使われてたんだぞ? 拙者はそれでも、ぬしが死ぬと思ったが」
そうそう。僕はあくまで薬師。ナイフは使えるけど武人じゃない。だからレベル二桁とかの現地人相手に上手く手加減するとか無理だよ。
なのでネームドスキルを使って手加減をした。
僕のネームドスキルは戦闘に使えるけど、戦闘用じゃない。
この効果を簡単に説明するなら、僕の
生み出す薬も難易度や時間など関係無く、一瞬で作れるし絶対に調合が成功する。
ただ代わりに、スキル発動中に調合した薬はスキルが終了すると消滅するので、作成が難しい薬をスキルで作って大金を稼ぐなんて使い方は無理だ。
主な使い方としては、薬の素材を消費して行うヒーラーの役割や、毒物を使ってデバフをバラ撒くバッファーの役割を担えるのと、目の前で治療するなら難しい薬を作ってお金を稼ぐとか、その程度になる。
だけど、ノノンちゃんと共に研究したこのスキルは、下手したら目の前の【剣閃領域】を相手にしても勝ちうるポテンシャルを持っている。
「もう毒は嫌でござるっ、薬も嫌でござるっ、治って溶けて治って腐って、地獄でござるぅぅうっ……!」
「分かったかい? 喧嘩は相手を見て売るんだよ。……あと、僕達が探してるノノンちゃんって子はね、僕やそこの【剣閃領域】よりも強い子なんだ。もし気になるなら、君も来れば?」
「…………へ?」
間抜け面の侍くんに提案する。
「いや、しかしオイラは行けぬでござるっ」
「んー? 何か理由があるのかい?」
「いや、丁度いいかも知れんぞユノスケ。事情を【薬師神】に話してやれ」
ふむふむ?
このお侍くんは、可愛い可愛い妹がいて、だけど重い病気で、薬の代金を稼ぎ続けないと、この先危ないかも知れない。
そして侍くんは用心棒や、モンスターの討伐などでお金を稼いでて、そこに現れたものむぐりちゃんの腕に惚れて、もっとお金を稼ぐ為に--……。
いや詳細は良いや別に。つまり、薬が必要なんだろう?
「じゃぁ行こうか。その妹さんの所に案内しなよ」
「…………へ?」
「薬が要るんだろう? ならもう大丈夫さ」
この子は、あんまり頭が良くないのかな。
たった今自分が受けた攻撃とか、何が使われてるか分かってないのかな?
「あの?」
「おいユノスケ。拙者がさっきから、こいつを何て呼んでいるか分からんのか?」
なら、せっかくだから名乗り直そうか。ノノンちゃんがやり始めて、あっという間に到達者へ広まったテンプレート。僕もこれ、名乗るのは嫌いじゃぁ無いんだよ。
「到達者が一人、【
◇
「薬師神様、お味は、……どうですか?」
「ああ、うん。美味しいよ。…………ところでその、薬師神様ってのは、やっぱり止めてくれないかな?」
ユノスケの妹さん、サユちゃんと言う女の子を【薬師神】を使って速攻で治した僕は、【剣閃領域】ものむぐりちゃんを連れて旅に出ようとした。
ユノスケは要するに妹を置いて行けなくて、お金を稼ぐ為に強くなりたかったから師範も連れて行かれたくなかった。
だからつまり、妹さんさえ治療すれば、ユノスケ自体も着いてくる理由が無くなるんだけど、ユノスケはものむぐりちゃんの腕に惚れてるし、僕にも恩返しがしたいって旅に着いてきた。
それで、当然置いて行けなかった妹さんも、サユちゃんも着いて来たんだけど…………。
「あのっ、ではっ、その……、お名前をお呼びしてもっ?」
旅の途中、野営地で夕食を食べてる時の事。サユちゃんが顔を真っ赤にしてそう聞いてきた。
うん、颯爽と現れてあっという間に病気を治した僕は、凄く懐かれた。
ユノスケの妹なのに、ユノスケとは違って整った顔の、まだ十五歳位の女の子だ。正直可愛いとは思うよ。ノノンちゃんには負けるけど、ノノンちゃんのアバターは幼すぎるしねぇ。そもそもそう言う対象じゃ無かったし。孫的な?
「様付け以外なら好きに呼んでいいよ」
「拙者オススメの呼び方はポイズンクソ野郎だぞ、サユ殿」
「煩いよ弟子レズクソ女」
「はぁぁっ!? 拙者は別にノノンとアレコレしたいとか思ってませぇぇん!」
「へぇ? じゃぁ今のノノンちゃんに可愛くて素敵な彼女が居ても、気にしないよね?」
「はーはっはっはっは! あのファミコンクレイジーなノノンに恋人が、それも彼女が出来るわけ--」
居るんだよなぁ。僕もびっくりしたよ。
商業組合から抜いた情報によると、十歳くらいの女の子どうしで、もう人目も憚らずにちゅっちゅしまくってるらしい。
ノノンちゃんも若いなぁ。
「…………え、嘘だろっ、まさかホントに?」
「そだよ。すごーく可愛い女の子が相手だってさ。仲睦まじいそうだよ」
「……そんなっ、ノノンっ」
「ほらやっぱり弟子レズクソ女だったじゃないか」
「い、いや違う! 拙者はノノンが幸せなら祝福できる! たぶん、きっと!」
ははは笑える。でも君がノノンちゃんの彼女に何かしようとしたら、僕は当然ノノンちゃんに着くからね。
本当に仲が良くて、ところ構わず睦み合ってるらしいんだよね。
「あ、そんな訳で僕のことは好きに呼んで良いよ。僕はサユちゃんって呼ぶね?」
「はいっ♡ あの、では、様はダメですから、えと、オブくん……?」
まぁ僕も男だからね。若くて可愛い女の子に想われたら嬉しくもなるよ。
受け入れるかはまだ分からないけど、そう邪険にするつもりもない。
あ、ちなみにユノスケくんはサユちゃんの邪魔をしようとして、サユちゃんから荒縄でぐるぐる巻きにされてテントにブチ込まれてるよ。
彼、この子を助ける為に必死だったのねぇ。不憫だなぁ。
あー酒がうまい
「あ、お継ぎしますねっ」
「ありがとサユちゃん。君は気が利くし、可愛いし、サユちゃんはきっと良いお嫁さんになるねぇ」
「はにゃっ、そ、そうでっ、すか……?♡」
うん、ちょっとラブコメのテンプレをやって見たかった。うん、確信犯なんだごめんねサユちゃん。
まぁ、旅の間は任せてよ。君のこと位は守ってあげるさ。せっかく治したのに、死なれても嫌だからね。
「あー酒がうまい」
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