第68話 オレ様の名前は。
最悪。
そう、最悪だ。
「…………みんな、生きてるかい? 兄上は?」
「……おう、なんとか生きてるぜ」
「そうですか。……良かった」
「どれだけ、……死んだ?」
大神殿の見学が始まってすぐ、地面が不自然に崩落する事故。
何がなんだか分からないうちに、僕達は見知らぬ洞窟の中に居た。
明かりなど無いのに暗くない、薄暗いのに良く見えるふざけた空間。
岩を乱雑に削ってくり抜いたような大きな球形の洞窟に、僕達は落ちたのだ。
「…………ダメね。出入口はそこだけよ」
「そうか。偵察させてすまねぇ」
「しょうがないわよ。ノノンちゃんが居れば別でしょうけど、今この場で一番強いのは私だもの」
突然の崩落事故。しかしそれにしては怪我すら負わなかった不可思議。
僕達はそんな状況に呆然としているうちに、ソレは姿を見せた。
見た瞬間、生きる気力を奪われるような絶望を感じたソレは、見た事も、聞いた事もないような、おぞましく禍々しい姿をした怪物。
全身を刃物で飾った様な、太い二本の脚で歩行し、小さな両腕には一際大きな刃物が生えた、歪な竜。
伝承の中でしか知らない、ドラゴンと呼ばれる魔物がそこに居た。
「……一応聞くぞ。レーニャ、あんたにはアレが倒せるか?」
「無理。万回挑んでも無理。一回も勝てないわ」
しかも、そんな生き物としての格が違う魔物が、複数体も存在した。
僕らが落ちた場所を広間と呼ぶとして、広間に入ってきたソイツらを見た瞬間、僕はそれが生き物だとは思えなかった。
形を得た「死 」の概念。自ら歩く絶望。あえて口にするとしたら、そんな陳腐な言葉でしか表せない、絶対に逆らってはいけないバケモノだった。
思わず、なんの抵抗もせずに死を受け入れそうになるほどの恐怖と絶望。
それはなにも僕だけじゃなく、ここに居るただ一人を除いてほぼ全員が共有した感情だろう。
僕達が今も生きているのは、ひとえに万魔の麗人レーニャさんが、僕らに声を張り上げて正気に戻してくれたからだ。
「…………ここは、巣窟なのか?」
「多分ね。それも、信じられないくらい深い場所よ」
「どれくらいか予想できるか?」
「それも無理。差があり過ぎて、あの魔物の格すら予想できないわよ。仮にここが、百階層程度の場所だったら、幸運じゃないかしら?」
僕達は何をどうしたって、あの刃物の竜には勝てない。だから逃げるしか無いんだが、じゃぁ何処に逃げるのか。
二本あった通路は、そのどちらからも刃物の竜、剣竜とでも呼ぶべき魔物が出て来て、逃げ場所なんて無かった。
幸運だったのは、金等級のレーニャさんが僕達を正気に戻してくれたことと、見学していた大神殿ごと一緒に落ちていたことだけだ。
レーニャさんの指示で僕達は全員で神殿を目指し、巨大な扉を何とか人が逃げ込める程度にこじ開け、そして生きている人間が全員逃げ込んだ時点で、神殿の扉を固く閉ざした。
「さて、申し訳ないけど、私が仕切るわよ?」
「構わねぇ。こんな場所だ、王家の威光なんて無意味に過ぎるぜ」
その時点で、夥しい数の人間が死んだ。
共に笑いあった友人も、顔見知りの学友も、護衛に雇われた兵士や傭兵、探索者も。
そして先生も死んだ。
「一緒に居た人間の確認をする前に襲われたのは痛いわね。ノノンちゃん達も居ないし、大人は私と王子以外は軒並み死んでるし」
「落ちて直ぐにざっと確認しましたわ。だいたい四十人ほどいらっしゃいましたのよ?」
「…………半数がこっちに居たのね。ならもう半分はノノンちゃんと一緒かしら? …………ていうか、どれだけ死んだのよ。十人ちょっとしか居ないわよ?」
「なぁ、こっちにゃぁかなりの数の大人が居た気がするが、護衛役って元々何人いたんだ? おい誰か、知ってるやつ居るか?」
現在、より薄暗い神殿の中には十二人しか居ない。
ミナが言う通りにあの場の半数がここに居たのなら、三十人近く殺された計算になる。
…………たったあれだけの時間で、三十人も殺されたっ!
ノノンさんは、ノノンさんは無事だろうか? まさか、こんなことになるなんて……!
「おいおい、嘘だろ……」
「護衛役、見事に全員こっち側ね。半分がノノンちゃんの方に居るとして、向こうは全員学生よ」
「……ノノン様は、無事でしょうか?」
「あー、多分。ノノンちゃんなら大丈夫じゃないかしら? 良く考えると、向こうにノノンちゃんが居て、護衛役が全員こっちなのは戦力比的にも幸運だったかも知れないわ」
「全員死んだけどな」
「そうなんだけどね。全員が生きてても、多分あの魔物は一匹も倒せないと思うし」
生き残った人間は、学生十人と、兄上とレーニャさんだけ。
この神殿には裏口のようなものがないらしく、レーニャさんが確認して来てくれたが、出入りが可能なのは僕らが入って来た扉のみ。そして扉の外にはあの魔物が大量に居て、打倒する術は無い。
金等級すら匙を投げる魔物が当たり前に居る階層に閉じ込められ、救援は絶望的。
食糧事情を無視して篭城していれば救援自体は来るだろうけど、あんな魔物が居る階層まで誰が辿り着けるというのか。
「……もしかして、詰んだ、かな?」
「詰んだなぁ」
「詰みましたわ」
「詰んでるわね」
「……あの、殿下方、ちょっとよろしいですか?」
全員で絶望の再確認をするという、なかなか経験出来ない体験をしていると、二学年生の男子生徒が声を上げた。
「どうした?」
「あの、あれを見て下さい……」
「あん? ……………………は?」
「……え? なに、え?」
その生徒が指さす方向には、大神殿の大広間、つまりこの場所の最奥にある神台があり、そしてその上に--…………。
「………よ! お前ら、何してんの?」
--見知らぬ誰かが、座っていた。
「だっ、だれっ!?」
「小さっ、えっ? なにっ、だれっ!?」
「…………まさか、妖精か?」
それは、竜と同じく伝承でしか知られない、妖精にそっくりの誰か。
体は小さく、体の大き兄上の太腿よりもなお小さいだろう。
薄桃色のドレスを身にまとい、背中には虫のような
「あん? オレのこと知らねぇなんて、珍しいNPCだな。【双鎌妖精】つって通じねぇ?」
「……えと、ごめんなさい。知らないわ」
「おいマジかよ。なんだここ、新エリアか?」
小さく、愛らしい見た目で妖精そのもの。なのに口を開けばまるで兄上のように粗暴な態度で、見た目と中身がチグハグだ。
相手が何者か分からない以上、唯一戦える存在であるレーニャさんが矢面に立って彼女、……彼女? その妖精に対応する。
粗暴だけど、可愛らしいドレスを着ているし、女性だよね?
「まじかぁー、なんかイベントのフラグでも踏んだのかぁー?」
「あの、ごめんなさい。あなたは誰なの?」
「おうおう、人に名前を聞くときゃぁ、自分から名乗るのが礼儀じゃねぇか?」
距離があった僕らと彼女。だけど彼女がその翅を動かせば、あっという間に距離が潰れ、気が付けばその妖精はレーニャさんの目の前に居た。
……ッッ、速い!
「そ、そうね。ごめんなさい。私の名前はレーニャ。王都で探索者をやってるわ」
「……ちょっと待て。探索者ってなんだ? NPC特有の職業か?」
「えっ……、と、巣窟に潜る者をそう呼ぶんだけど……」
「……巣窟? 待て待て待て、知らん知らんなんだそれ。いきなり新用語バンバン出すんじゃねぇよ運営。なんだよクソアプデか?」
「あの、えぬぴーしー? って何かしら、私たちの事よね?」
「………………えっ? ジワルドのNPCにNPCって言葉が通じねぇの? 待て待て待てなんかおかしいぞ」
なにか、決定的に噛み合わない会話が続く。僕らはそれを見ているしかない。
彼女はどう見ても、伝承で語られるような妖精の姿をしている。
だから彼女を妖精だと仮定して、だけど僕らには彼女が味方であるかを判じる術が無い。
そもそも、妖精は人側なのか、魔物側なのか、それすら分からない。
「おい、ちょっと意味不明過ぎっからよ、ちょいとお前らの状況を教えろや。それで判断する」
「……わ、分かったわ」
未だに名前すら知らない妖精に、レーニャさんが一つ一つ自分たちの置かれた状況と、ここに至るまでの経緯を語る。
「--それで、私たちはここに落ちてきたの。……これで全員じゃなくて、どこかにもう一組以上はぐれた人達も居て……」
「ふむ。……やべぇな全然分からねぇ。レイフログ? 大神殿? ケルガラ王国? なぁんも分からねぇぞ。くそウケるッ」
「いや、あの、笑い事じゃないのよ。現に、私も知り合いとはぐれてて……、ノノンちゃんって言う--」
「--あ?」
それは突然だった。
本当に突然、ケラケラと笑っていた妖精から表情が抜け落ち、怖気が走るような殺気が……、そう殺気が迸る。
これが、これこそが殺気と呼ばれる気配なのだと、知りもしなかった物を無理やり理解させられた。
そして、豹変した妖精はいつの間にか、その手に巨大な武器を、二本の大鎌を持って宙に浮いている。
「……いま、なんつった?」
「--えと、なにか気に触ったのなら」
「良いから応えろ。今なんつった? 誰の名を呼んだ?」
なんだ、何が起きてる?
この妖精は何に反応したんだ?
「誰のって、えっと、ノノンちゃんのこと?」
「そう! ののん!」
その名が口にされた瞬間、凄惨と呼ぶに相応しい気配が神殿内部に逆巻く。
もう既に、大半の生徒は気絶して、僕も目の前がチカチカしている。ミナなどとっくに気を失って、兄上も脂汗を流してる。
「お前の言うののんって奴の外見を、特徴を、知ってる限り全部話せ。黙れば殺す。嘘でも殺す。妖精には虚言を見破るスキルがあるから気を付けろよ」
殺すと、そうはっきり口にする妖精に、まだ意識を保ってる全員に緊張が走る。
何が目的だ? もしかして、ノノンさんの知り合いなのか?
でも、あれだけの殺気を放つなんて、もしかして恨みでもあるのか?
どうする、レーニャさんを止めるべきだろうか? 僕はノノンさんをあの妖精に売るなんて嫌だ。だけど、黙っても嘘をついても殺される。こんな気配を放つ相手に、僕程度じゃ何も出来やしない。
くそぅ、なんで僕はこんなに弱いんだっ。
「ノノンちゃんの、特徴ね? えーと、小さくて、可愛くて、黒髪で、お料理が上手で、とても強くて、魔法も凄くて、鍛治も出来て、薬も作れて、あとは……」
「…………いや、もういい」
そして、壮絶な気配が、突然止まった。
「……ののんが、居るのか。居やがるのか、………ここに」
カランっと、音がした。
見れば妖精の手から、巨大な漆黒の鎌が滑り落ちて地面を叩いた音だった。
何が起きたのか。
妖精を見れば、…………泣いていた。
「……あの? 大丈夫?」
無表情で、全ての感情を殺したような顔で、小さな体に見合わない大粒の涙をポロポロと零して、ひたすらに泣いていた。
「…………ぐずっ、すまねぇ。……ちょっとまて、止まんねぇ」
もしかして、敵じゃぁ、ない?
彼女は、ノノンさんの大事な知り合いなのか? もしかして、ノノンさんの故郷の人か?
遠くて会えないと、夢の中で泣いていたノノンさんを思い出す。
「んずっ、なぁお前、レーニャつったか?」
「……ええ。何かしら?」
「最後に二つ、確認だ。嘘は言うなよ。ここで嘘ついたらマジぶっ殺すからな」
「…………分かったわ。答えられることなら、ちゃんと答えるわよ」
先程と似たような事を、だけど正反対の雰囲気で口にする妖精。
もしかしたら、故郷を離れて一人寂しかったノノンさんと同じように、この妖精も、寂しかったのだろうか。
もし本当に知り合いなのだとしたら、是非再会させてあげたい。
「まず、お前はついさっきまで、ののんって名前の、黒髪のちみっこいのと一緒に居た。そうだな?」
「ええ。はぐれるまでは、一緒にいたわ」
「じゃぁ、ポチ、ツァル、ウィニー、リフ、ロッサ、アルジェ、ベガ、ホルン、リジル、グラム、ロッティ。……この名前に、どれか聞き覚えはあるか?」
「…………それは、えっと、ノノンちゃんの召喚獣の子達よね?」
…………え、待って欲しい。召喚獣?
待って待って待って、いまなにか凄いこと--…………。
「--よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッッッッッッ…………!!!」
絶叫。
鼓膜が敗れるかと思うほどの、神殿全体がビリビリと震えるほどの大砲声が、妖精の小さな喉から迸った。
「なんだかよく分からんが! 居るんだな! ののんが、ののんが居るんだな! その辺どっか探せばあいつが居るんだなっ!? そうなんだなっ!?」
「えと、そっ、そうよ? その辺っていうのがもう、地獄みたいな魔境なんだけど……」
「莫迦野郎エルフこのやろう! あいつが地獄程度でくたばる訳ねぇだろうが!」
凄まじい気炎。
今ならなんだって出来ると言わんばかりに何かに対してやる気を出す小さな妖精。
やはり彼女は、ノノンさんの知り合いらしい。
「えっと、エルフって私のことかしら?」
「あん? なんだエルフじゃねぇのか? いや、死んじまったあいつが居る場所なんだから、ここはもしかして異世界ってやつか? いや天国かもな? 常識が違うからエルフはエルフと呼ばねぇ感じか? まぁ何でも良いか--」
待て。
「--まって、今あなた、なんて言ったの?」
死んじまった、あいつ? それは、誰のことだ?
「あん? あー、いや良いか。……お前の知ってるののんが、オレの知ってるののんならな、死んでんだよ。二度と会えねぇはずの相手なんだよ」
「……死、え?」
…………そう言えば、夢で、ノノンさんもそんなことを言っていた気がする。
まさか、本当に?
「オレの居た世界じゃ、ののんは死んだ。葬式もされてる。確実に、絶対に、一度死んだ人間なんだよ」
「…………ごめんなさい、ちょっと何言ってるか分からないわ」
「別に構わねぇよ。理解しなくて良い。とにかく、ポチ達を連れた黒髪でちみっこい、最強で可愛いオレの親友が、この世界には居るって事だけ分かりゃ、あとはなんだって構わねぇんだよ」
ノノンさんは、死んでいる?
遠い異国ではなく、二度と家族に会えない距離じゃなく、二度と関われない、生と死の境界を隔てた場所に、大切な人を残してきたのか?
それが、ノノンさんのあの表情の理由?
だって、そんなの…………!
「なんだろうな。オレも死んじまったのかね。……まぁいいや。ののんに会えるなら何だっていい。おいお前、レーニャつったな?」
「……ええ、レーニャよ。……それ毎回確認するの?」
「細けぇこたぁ良いんだよ。お前はののんのダチなんだな?」
「………………だち?」
「友達かって聞いてんだよ。知り合いでも顔見知りでも良い。もしお前が死んだら、ののんは悲しむか?」
「……えっと、多分。悲しんでくれると思うわ。……え、悲しんでくれるわよね? 改めて自分で考えるとちょっと不安になる質問ねコレ」
「あー良い。良いから。そこそこ以上に仲が良かったなら、ののんは、あいつはちゃんと悲しむから、大丈夫だ気にすんな」
「…………えっと、やっぱりあなたって、ノノンちゃんの知り合いなのよね? あの子の故郷の?」
「おう! まぁ恥ずかしながら、あいつの親友を名乗らせてもらってるぜ。あいつ知り合い多いけどな、親友って言ってくれんのは、俺と姫公くらいだぜ」
楽しそうな妖精を尻目に、僕はゆっくりと絶望に浸っていく。
勝てない。何をしても勝てない。それを理解してしまったから。
遠い場所の大事な人じゃなく、死に別れた大事な人。しかも、死んだ側がノノンさんなのだ。
そんな人達に向ける感情は、如何程のものなのか。僕には想像も出来はしない。
「まぁとにかくよ、お前らなんか困ってんだろ? あいつの知り合いってんなら助けてやんよ。なんかゴリゴリ聞こえっし、外にモンスター居るんだろ?」
「もんす、……魔物のこと?」
「おう多分それだ。ジャラジャラ刃物くっ付けた恐竜みてぇのだったか? だとすっと、多分ゴジェフテールだろ。レベル千二百の雑魚だから心配すんな」
「……レベル?」
「おぉふ、レベルまで言い方違うのかよ。ここじゃ強さの指標ってなんて呼んでんだ? 魔物倒すと力が増す感じの奴よ」
「深度のことかしら?」
「いや知らんけど。お前見た感じ魔法職だろ? 一番新しく手に入れた欠片とか分かるか? あとお前の深度も教えろや。ここじゃシステムメニューとか出せ………、うわ出せるじゃんなんだよこれ」
「よく分からないけど、私の深度は六十八で、新しく使えるようになった欠片は《灰燼の宴》とかだったかしら」
…………いや待てよ。たった今、目の前にノノンさんの知り合いが居るんだ。
なら、もしかしたらノノンさんの大事な人も、彼女達の故郷からコッチに来る可能性も………。
いや待て待て待て、落ち着け僕。それはノノンさんの大事な人の死を願うのと一緒じゃないか? それはダメじゃないか?
それに、大事な人ってあの夢を見る限りご家族の事だと思うが、万が一恋人なんて可能性が--……。
「おけまる把握した。お前の言う深度って数値とオレの言うレベルはイコールで良いらしい。で、お前らが見たモンスター、魔物は多分ゴジェフテールってやつだからレベル、ああもう面倒いなクソが。オレは勝手にレベルって言うからそっちで深度の話しだと思っとけ。モンスターも魔物の事な」
「え、ええ。分かったわ」
「で、ゴジェフテールのレベルは千二百ちょい。たしか正確には千二百五十一だったか? お前ら、今いるダンジョン……、ああ多分お前らが巣窟って呼ぶ場所の事な? ダンジョンの階層分かんなかったんだろ?」
「…………ええ。……深度千二百? え?」
「つまり、お前らとオレが今居る階層は、だいたい千二百五十階層だ」
恋人、恋人はぁ…………、待ってなんて?
階層千二百? 五十? なんか凄いこと言ってないか?
「…………ほんとに?」
「おう。まぁ雑魚階層だから気にすんな。お前のレベル六十代とかクソ弱くてちょっとビビったが、まぁ問題ねぇよ」
「……えと、じゃぁ、あなたの深度っていくつなの?」
気が付けば、さっきの彼女の絶叫で気絶していた全員が目を覚まして、全員がポカンとしている。
当たり前だ。意味が分からないからね。深度千を越えた魔物が、雑魚?
なんだ、神話の話しかい?
「オレのレベルは千四百。ののんと同じだぜ」
…………え、ノノンさんの深度が、千四百?
「冗談の類じゃないのね?」
「妖精は嘘が言えねぇんだよ。代わりに嘘が分かる。そう言う種族なのさ」
「……前にノノンちゃんが口にしてた深度って、冗談じゃなかったのね」
「……もしかして、この世界で深度千四百って他に居ねぇのか?」
「居るわけないじゃない。というか、巣窟の階層が千を越えるなんて今知ったのよ」
「うわマジかよののん可哀想じゃん……。あいつ戦うのめっちゃ好きなのに、戦える奴が居ねぇとか……」
「あー、やっぱりそうなのか」
兄上が突然、思わずといった様子で口を開いた。
「ん、なんだお前、なかなかの筋肉だな。セクハラしそうな筋肉だぜ」
「ああ、割り込んですまん。ゼイルギアってもんだ。好きに呼んでくれや」
「おうおう、じゃぁお前は筋肉な」
「…………大先生と一緒かよ」
「大先生が誰かは知らんが、お前は筋肉だ。オレらの故郷にもお前みてぇな筋肉が居たんだよ。テンテンっつってな、莫迦な筋肉なんだよアイツがよぉ」
テンテン、あの夢の彼のことか。たしかノノンさんに、「おーるまっしぶ」とか言われてた。
…………ふむ、確かに、彼と比べて、兄上の筋肉は少し劣るけど、似たようなものを感じてしまうな。
なるほど、ノノンさんが兄上を筋肉さんと呼ぶのは、そんな郷愁の気持ちもあったのか。
「……いや待ってくれ。そもそも、俺たちはまだ、あんたの名前すら知らねぇんだ。そろそろ名乗っちゃくれねぇか?」
「あ? ……おお、確かに! 悪かったな筋肉このやろう!」
ふよふよと軽やかに空中を移動した妖精は、ケラケラ笑いながら兄上の背中をぺちぺち叩いた。
絵面は可愛いのだが、一回叩かれる毎に兄上が「うっ、うっ」と凄い痛そうにしているのが恐ろしい。
深度千四百らしい妖精のぺちぺち、そんなに痛いのか……。
「名乗らずに悪かったぜ。向こうじゃオレの名前を知らねぇ奴も珍しいんでな、久々に名乗らせて貰うぜ」
愛らしい顔で、鋭い眼光を放つ妖精が、少し高いところまで浮いてから腰に手を当てて僕らを見下ろした。
「到達者が一人、【
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