第17話 シルルちゃんとデート。



 ビッカさんにも無事朝食を送って、シルルちゃんと朝食をもぐもぐした後は、露天風呂に入ってからせっかくなので和服ドレスに着替える。

 シルルちゃんはパステルブルーに白い流水紋の和服ドレスを着て、私は真紅に黒い蝶柄の和服ドレスだ。

 いつも着ている課金ドレスは装備品だが、こちらはユニコーンシルクから作って魔法を付与しただけの、ハンドメイドの服である。


「えへへ、にあうー?」

「めっちゃ可愛くて胸が苦しい」

「え、ノンちゃんだいじょーぶ? くるしー?」

「大丈夫だよ。ルルちゃんが可愛すぎて胸がきゅんきゅんするだけだから」

「きゅんきゅん?」


 大声で宣言しよう。私はロリコンだったと。

 和服ドレス着たシルルちゃんが可愛すぎて新しい扉を完全に開いた。

 課金ドレスの方は仕様で肩が剥き出しの着崩しだったけど、こっちは好きな様に着れるのでちゃんと着ている。

 ふわふわ可愛いシルルちゃんと、ふりふりお揃いのドレスを着て、私は幸せいっぱいです。


「ルルちゃんの刀出来たけど、見るー?」

「みるぅー!」


 ポーチから舞姫白兎と白姫仔兎を出してあげると、シルルちゃんのテンションは爆上がりして飛び跳ねている。


「これ、これ! あたしの?」

「そうだよー。こうやって、刃を上に帯へ差してね」

「わぁぁ………、にあう? かっこい?」

「ごめん可愛い………」


 はしゃぐシルルちゃんに、和服ドレスの帯へ刀を差してあげる。

 シルルちゃんの身長は私より少し低いくらいなので、百二十五センチくらいだろうか。刃長五十センチの舞姫白兎は角度を気にすればちゃんと差せた。

 白姫仔兎も一緒に帯刀すれば、もう和服ドレスのサムライガールだ。可愛い。ここは日光江戸村だろうか。


「えへへ、ノンちゃんありがとぉー♡︎」

「ふふ、ルルちゃんのためなら何振りだって打つよー♪︎」


 服はお揃いで用意して、武器もそう。あとは模擬武器なのだけど、一口に模擬武器と言っても色々有る。だが学園からの通知には詳しく書かれていない。

 例えば刀で言えば、模造刀と木刀では同じ非殺傷武器と言う点では同じだけど、素材から耐久まで色々違う。


「しまったな、シェノッテさんに聞いとけば良かった」

「なにがー?」

「んーとね、練習に使う安全な刀も作るんだけど、木で作った方が良いのか鉄で作った方が良いのか、学園の書類に何も書かれてないんだ。どっちがいいかな?」

「てつー!」


 という事で鉄になった。

 練習用なのだから、重量が揃えやすい鉄で作るのは理にかなっている。いざ真剣を握って重さが違う! となると扱いが変わってしまう。

 シルルちゃんがそこまで考えたかは知らないが、木刀は試合で打ち合う場合損傷が激しかったりするので、学園で使う事を考えると鉄で模擬刀を作った方が、長い目で見れば安上がりかもしれない。


「よし、あれ? シルルちゃんはこっちにいつまで居れるの? ノリで連れ出しちゃったけど」

「んー、わかんない!」


 可愛い。

 よし、ウィニー便をシェノッテさんの元へ送ろう。

 向こうは飲食店でも有るので、鼠が堂々と店内を闊歩するのは拙いだろうから、こっそりとね。


「ウィニーに聞いて来て貰うから、それまで刃引きの模擬刀も作っちゃうね。その間シルルちゃんは何してる?」

「………あのね、ノンちゃんが剣作ってるとこ、見てていーい?」


 はい可愛い、許可します。

 でも危ないから大人しくしててね。

 刃引きと言う事で、文字通り刃を造らないから刃金は要らない。模擬刀は甲伏せで打とうか。

 見学者のシルルちゃんに気遣いながら、また朝から昼まで四本の模擬刀を打って、拵えも真剣と同じ物にした。

 納刀した状態だと外から見ても見分けが付かない模擬刀達だ。


「………いや、模擬刀と真剣が見分けつかないって危ないね?」


 模擬刀と思って練習に持ち出したら真剣でした! なんて洒落にならない。深度二百まで使える業物なんだぞ。相手真っ二つだよ。

 どうにか見分けがつく違いを与えなくては。

 という訳で、模擬刀の鞘は白黒から灰色に変更した。四本とも全部である。


「銘は不殺猫ころさずのねこ不殺仔猫ころさずのこねこ不殺兎ころさずのうさぎ不殺仔兎ころさずのこうさぎかな」


 柄巻は相変わらず猫が黒で兎が白。


「あ、付与忘れてた。《我が手で鍛えしともがらよ》《その身は永遠とわに不滅なれ》」


 模擬刀だが不滅も付与して完成だ。

 早速シルルちゃんから真剣を回収して不殺装備を帯刀させる。


「わーいっ! これもあたしの?」

「そうだよー。斬れない練習用の刀だよ。名前は長い方が不殺兎で、短い方が不殺仔兎。真剣の方は長い方が舞姫白兎で、短い方は白姫仔兎だよ」

「おぼえたー!」


 さっそくこの刀まで帯刀したアルティメット可愛いシルルちゃんを外に連れ出して見せびらかしたいが、この国は兵士や騎士、シーカーじゃないと武装が許されない。

 だが模擬刀はどうなのだろうか? 棍棒は立派な武器だが、刃引きされた刀剣は武器に入るのだろうか?

 シルルちゃんに聞いても「わかんない!」と元気いっぱいに答えてくれる。


「ダメだったら捕まっちゃうし、やめとこっか」

「うん! でも、なにするー?」


 ウィニーに確認すると、『今日までだよ』とシェノッテさんからチャットが帰って来たので、取り敢えずシルルちゃんを夕暮れ兎に送り返そうか。

 でも用事終わってはいサヨナラは寂しいので、帰り道でデートしよう。


「シェノッテさんが今日までだってー」

「むぅ、かえりたくない」


 多分世の男性が女性から言われたいセリフランキングにノミネートし続けて居るだろうセリフを頂きました。でも帰さないとシェノッテさんに怒られるぅ。


「せめて外で遊んでから帰ろっか」

「うんっ!」


 幼女二人で街へくり出す。

 ただ、こうやって黒猫荘を留守にするたび、留守番をしてくれる人材が欲しくなる。いや当たり前の事なんだけども。

 ぶっちゃけ今は来客とか皆無なので良いけど、この先黒猫荘が人気出たりしたら、絶対に私だけじゃ回せなくなる。

 と言うか、学園に通う以上黒猫荘を任せられる人材の確保は絶対である。


「ルルちゃん、串焼きあるよ! たべる?」

「たべるぅー!」


 街の大通りを夕暮れ兎に向かって、寄り道したりしなかったりで進んで行く。

 途中にある屋台や露店を冷やかしながら、シルルちゃんとイチャイチャデートである。ふふふ、私ってば勝ち組。

 正直、串焼き含め屋台で出す料理なら私が黒猫荘で作った方が数倍美味しいが、食べ物と言うのは味が良ければ正解と言う訳でもない。

 食べる環境だって大事で、昔の偉い人は晩餐の為に専用の音楽家を雇う事もあったそうだ。そうして優雅な音楽を楽しみながら料理を口にする。

 環境とは味覚の一つである。


「美味しいねぇ」

「ねー♡︎」


 だから、こんなに可愛いうさ耳幼女とデートしながら頬張るやっすい串肉は、黒毛和牛にも勝る味わいなのだ。

 そんな事を考えながら歩いていると、通りが騒がしくなる。この先でなにか起きた見たいだ。

 シルルちゃんと目線でわかり合い、野次馬しに行くことに。ちょうど夕暮れ兎の方角だしね。


「……--っぞおらぁ!」

「あんだとゴラァ!」


 現場に辿り着くと、大通りの真ん中でチンピラが喧嘩している。

 それはもうやっすいチンピラ同士の茶番である。楽しみにしてたのに、落胆が隠せない。

 通りを走行する馬車すら止めて、本当に大通りのど真ん中で争っていてる。しかもどちらとも探索者で、武装しているからタチが悪い。


「危ないねー。つまんないし離れよっか?」

「こわいねー? おじさんたち怒ってるね」


 さすがに武器は抜かないだろうけど、私から見たら深度百未満のチンピラが争ったって見所なんて無い。見所さんは死んだのだ。

 そう思っていたのだけど、何と莫迦二人は武器を抜きやがりました。アホじゃないのか。

 二人とも剣士らしく、腰に佩いた無骨で粗末なショートソードを抜いてオラついている。

 ちなみに、ショートソードと言うのは「馬上で振るうロングソードと比べてショート」と言う意味で、短剣の事ではなく歩兵剣の事だ。

 直訳するとあっているのだが、短剣は英語でダガーである。

 ルビで分かりやすくすると、馬上長剣ロングソード歩兵剣ショートソード短剣ダガー小刀ナイフが正しい区分になる。


「………の、ノンちゃんあれ、あぶないよ?」

「ん、はぁ!? ちょっ、ルルちゃんここで待ってて!」


 要らんこと考えている間に、往来で斬り合いを始めた莫迦達の近く、一体一の争いかと思っていたが片方に仲間がいたらしく、人混みから弓を引いてる三人目の莫迦をシルルちゃんが見つけた。

 いくらなんでも、こんな人混みで弓なんて使ったら大惨事になるだろう。

 私が駆け出そうとした時には、莫迦はもう矢を放っていて、それを斬り合っている莫迦の狙われた方がショートソードで弾き、流れ弾が無関係な人の方に飛んでいく。

 言わんこっちゃない。いや口に出てないから言ってないんだけど。

 剣で弾いた事で速度が少し死んでいるが、それでも飛来する矢は立派な凶器である。


「縮地ぃっ!」


 悲鳴が聞こえる中、私は体術系スキルを起動して空間を跳んだ。


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