第11話 新しい武器。



「最初に、剣士と槍使いの皆さん。あなた達に才能は有りませんから、剣と槍を捨てて下さい」


 最初のこの一言で、暴動が起き掛けた。

 無論ポチと私が黙らせた訳だけど。


「弓使いの皆さんは少し待っててくださいね。あ、でもあなた達も才能が無いと思うので、弓を捨てる覚悟はしていてくださいね?」


 あまりに心無い言葉に、何人もの貧民が涙を流して私を睨む。

 だから私は正論と言う鎧で武装する。


「あなた達はなんでこんな所に居るんですか? 魔物が倒せなかったからですよね? なんで魔物が倒せなかったんですか? 武器の扱いが下手だからじゃないですか? ちゃんと武器が扱える人だったら、深度五くらいの差は機転で何とでも出来るんですよ? なにも深度二十とか五十の大物倒せって訳じゃ無いんです。深度五の雑魚をちょこっと倒せれば良かったんですよ?」


 剣という物は、扱うのに習熟を要する難しい武器だ。

 ジワルドでも似たような問題が起きた事がある。

 平和な日本に暮らしていて、剣の扱いなんて知らないプレイヤー達が、スキルの補正が無い通常攻撃をマトモに行えなくて戦えないと言う、アホみたいな問題だ。私も被害者だ。


「何が言いたいかと言うと、剣が扱えないのに剣を使おうとしている皆さんが莫迦なんじゃ無いですか? って言うことです。その点、槍使いの皆さんは剣士の皆さんに比べたらちょっとマシです。頭はって意味ですけど。戦いの腕って意味だと剣士より酷いですからね」


 ついで、槍と言う武器は初心者にも比較的簡単に扱える易しい武器として有名だったりする。

 何せ、剣と違って突き出せば攻撃になるのだ。失敗なんて早々起こらない。

 剣と言うのは、振りかぶって相手に叩き付ける武器じゃなく、刃筋を立てて相手を斬り裂く武器である。叩き斬る、押し斬る、引き斬るの違いはあれど、刃筋を立てずに斬れる剣など存在しない。

 だが槍と言う武器はえいやっ! っと前に出せば取り敢えず攻撃は成功するのだ。当たるか当たらないかは別として。


「だから、剣士の皆さんは刃筋も立てられないなら剣なんか使わないで下さい。槍使いの皆さんは、槍使ってすら落ちぶれるなら槍なんて捨てちゃいましょう」

「だったら、だったらどうすりゃいいんだ!」

「ふざけんな! 俺たちだって必死で戦ったんだぞ!」

「さっきから何なんだ! 女神様は俺たちを再復帰させてくれんじゃなかったのかよ!」

「甘えないでくれますか? ……と、言いたい所ですけど、そうですね。そろそろ鞭でペシペシ叩くのは止めにしましょうか」


 マジ泣きしながら悪態を漏らす人達の前に、私は満を持して用意していた物をポーチから出す。

 コンビニの傘立てに突っ込まれたビニール傘の如く、箱へ乱雑に突っ込まれたそれらは、私がここ数日で作って置いた彼らの武器である。


「これ、なんだか分かりますか?」

「…………棍棒、か?」

「棍棒? 剣を捨てて、棍棒使えってのか?」

「その通りです。この棍棒を剣士と槍使いの皆さんに差し上げます」


 箱から一本取り出したのは、言われた通り棍棒である。

 ただ棍棒と言っても種類が有るのだが、これはクラブに分類される棍棒である。

 材料はただの鋼。柄から頭部まで全て同じ材料で出来ている一体型の棍棒をクラブと言う。

 私が作ったのは、腰鉈の刃の部分を太く丸くした様な平べったい棍棒だ。

 所々強度に影響が少ない場所を肉抜きしたり、中を空洞にする事で重量問題もクリアしてある。


「………なんだよ、今更棍棒だなんて」

「お? あなた棍棒を莫迦にしてますか? あなたは棍棒がどんな武器なのかちゃんと分かっててそう言ってますか?」

「えっ、いや………」

「良いですか? 皆さんは棍棒なんて、なんかしょぼい武器だなぁ、なんて思うかも知れませんけど、棍棒と言うのはものすっごく頼りになって優れた武器なんですよ? これは鉄製ですけど、木製の物だったら凄まじく安価で、一体型で簡単な構造をしているので壊れにくい。そして剣と違って刃毀れなんてしないし、血脂で鈍らない。体力の続く限り武器として使えて、使い手を決して裏切らない、完全にぶっ壊れるその時まで武器として在り続ける孤高の武人みたいな武器なんですよ」


 これこそジワルドで初心者剣士問題を解決した神武器、棍棒先輩である。

 深度五の魔物すら倒せない人間が棍棒を莫迦にするなんて許されないくらい、正直主人公級のステータスを持った究極の武器と言える。

 究極の武器は言い過ぎかも知れないが、間違いなく武器の形としては一つの完成系である。


「そう、言われてみりゃ、確かに?」

「刃毀れもしない、血脂でナマクラにもならない………」

「そして、この棍棒は柄の先を尖らせて居るので、どうしても棍棒で殴り殺せない場合は刺し殺せるように作ってありますし、専用の金具でコッチの棒に繋げば、連接棍棒にもなります」


 私はポーチから鉈型棍棒のアタッチメントとして作って置いた太い棒を取り出して、実際に接続して連接棍棒-フレイルにしてみせる。

 そしてその辺に転がっている石を拾って空中にポイッと投げると、思いっきりフレイルで薙ぎ払って石を砕いた。

 派手な音を立てて砕け散った石を見て、棍棒なんてと莫迦にしていた貧民達は歓声を上げる。


「こんな感じで、見た目よりずぅっと威力が出ます。技術も大して要りません。けど、習熟すれば当然上手くなりますし強くなれます」


 手のひら返してワクワクし始めた貧民達へ棍棒と接続用の棒をポイポイ配る。

 実用性を見せたら現金なもので、誰も彼も小躍りしそうな程喜んでいる。


「おお! この棒の石突も尖ってるぞ! 槍としても使えるのか!」

「振った感じが剣に似てる! 下手でも剣みたいに殴ればいいのか!」

「連接棍棒も槍みたいに振り回せるぞ! 矛みたいなモンだな!」


 皆棍棒を手に、そこら辺の半倒壊している建物に向かってバキバキと振るっている。

 おいおい、住処を追われて怒ってたのに、その住処を自分で壊して良いのですか。そうですか。むぅ……。


「じゃぁ次に、弓使いさん達ですね?」


 棍棒組はもう大丈夫だろうと、放置していた弓組へ振り返ると、一連のやり取りを見ていた弓組はギラギラした表情で私を見ていた。


「もう私が何をするか、何を言いたいか、分かりますよね?」

「ああ。俺たちに使えない弓なんざ捨てて、何か別の武器使えってんだな?」

「そうですそうです。具体的に言うとこれ、投石杖です」


 流れが分かっていた弓組の人に、手間が省けたと私はご所望の武器をポーチから取り出した。

 棒の先に紐と布がくっ付いたそれは投石杖-スタッフスリング。またはスリングスタッフと呼ばれる武器で、文字通り石を投げる為の杖である。

 石を投げるだけの杖と口にすれば、めちゃくちゃショボイ武器に感じるがトンデモナイ。

 これは言わば、人を超小型の投石機にする武器なのだ。小型攻城兵器である。

 杖の先が浅く二股になっていて、その下に石を包む布付きの紐が固く結ばれているだけの簡単な武器だが、布で石を包んで、その先端の輪っかに結ばれた紐を二股に引っ掛けるだけで準備が終わり、あとは真っ直ぐ杖を大上段から振り下ろすだけで凄まじい勢いで石が飛ばせる。

 長い棒によって遠心力が加わった石は、もし人の頭にでも当たれば即死も有り得る。


「何より、接近されたらその棒自体を振り回して牽制出来ます。石なんてそこら中に転がってますし、矢を買う必要が無くなります。本来城門や城壁をぶち壊す為の投石機と殆ど同じ仕組みで石を投げるので、威力は折り紙付きです。さすがに深度の深い魔物を相手には出来ないでしょけど、しっかりと練習すれば深度五くらいの魔物だったら、多分倒せますよ。棍棒組と協力すれば、ですけど」


 弓使いはなぜ落ちぶれたのか。

 弓と言う武器は剣以上に習熟を要する。

 しかも矢が消耗品で、自作で凌いでも鏃は買わざるを得ない。

 つまり戦闘にも練習にも相当な金が必要になる。

 ちゃんと弓を使えて魔物を倒せたとしても、分け前が少なかったら赤字の時だってあるだろう。そう言った理由でここに居る弓使いだって居るはずだ。

 もちろん、剣や槍だって整備や研ぎに金がかかるのは間違い無いし、究極的に言えば剣も槍も消耗品である。

 だが、ある程度回収出来るとは言え使い捨て前提の矢弾と剣、槍ではやはり消耗が違う。

 しかも、弓は当たり前だが矢が無くなれば戦えない。

 持って行った矢の本数がそのまま弓使いが戦える継戦能力なのだ。


「でも石ならそこら中にあります。無くなったら最悪迷宮の壁でも砕いて補充出来ます。連接棍棒と同じで投石杖の石突は尖らせてるので、最悪接近戦で刺し殺せます」


 ビッカさんに一応聞いて置いたが、巣窟の壁は自動修復される謎仕様なのはジワルドと変わりなく、浅い階層だと壁を砕いてもただの石しか取れないそうだ。

 でも問題など無い。なにせ欲しいのはその石なのだから。


「さすがに弓の様にとは行きませんけど、熟達すれば結構早く次が撃てるようになりますよ。ほら」


 棍棒組が邪魔だが、居ない方を狙って実際に投石杖の速射を披露する。

 滑るように杖を扱い、布に石を落として紐を二股に掛ける。それをサッと大上段に構えて投石する。そこで残心を取らず流れるように、投石杖を短く持ち替え石を落として紐を二股に掛けて………。


「ほらっ、ほらっ、ほらぁ!」

「おぉっ!? いや弓より早くないか!?」

「違う、俺らの弓が下手すぎたのと、女神が上手すぎるんだ。でも練習すれば俺達もこのくらい出来るって事だよな?」


 実際私が上手いと言うより、ステータスのゴリ押し感はあるけど、皆も魔物倒して深度上げて、いや下げて? ステータスを上げれば出来るようになるのは正解だろう。何時になるかは知らないけど。


「棍棒組が手伝ってくれれば、迷宮の壁もバキバキ砕けるだろうし、最悪投石杖の石突で壁壊せば大丈夫です!」


 威力が不安になったら、自分で石の形を好きに削っても良いし、石じゃなくて鉄の玉や銅の玉なんて物を用意しても良い。


「油を詰めた壺を投げて魔物を火達磨にしても良いですし、毒壺を投げても良いですね。今は無理でもお金を稼げる様になったら、そう言う戦術も使えると思います」


 いっそストレートに爆薬投げ付けても良いし、戦いにおける自由度が高いのも投石杖の魅力だと思う。

 棍棒と投石杖。イニシャルコストもランニングコストも恐ろしく安い武器で、その費用対効果は人が想像しているよりずっと高い。

 古今東西の戦争に置いて、銃が台頭するまで人の死因は矢と投石が一番多く、その頃から石とは立派な武器として使われていたし、重装歩兵が戦いの主役になった時、そのプレートメイルをブチ抜く為の武器として選ばれたのは棍棒だった。まぁクラブじゃなくてメイスだったけども。

 要するに、投石と棍棒なんてカッコ悪いと思われても、兵器としての実績があるのだ。有用なのだ。


 ちなみに全部ジワルドの友達から教えてもらった受け売りである。


 いやだって、私八歳から病院で寝たきりだもん。そんな歴史習ってない。

 手が無いから本も読めないし、スマホとかパソコンとかマトモに使えなかったし、五体満足で居られるゲームの中で友達と遊びながら、実際にレイドバトルをしながら聞いた話しだもん。

 その友達は棍棒信者って言うくらい棍棒が大好きで、スタイルはロングメイスを媒介に魔法を使いながら敵を叩き潰す『魔導戦士』だった。

 魔導戦士なんだけど、グラップラーとかスクラッパーって呼ばれてた。「我が筋肉と棍棒に不可能は無い! くらえマッスルマジック!」とか言いながら魔法攻撃(物理)でクラブ、メイス、フレイル、モーニングスターと色んな棍棒を振り回していた。


「皆、目が生き返りましたね? じゃぁ最後に、もう一つ皆さんに贈り物です。集まって下さい」


 貧民窟に堕ちて燻っていた落伍者達は、新しい力を手にして気炎を上げていた。

 私は楽しくなり、皆を集めて最後のプレゼントを用意する。

 ポーチから出すのは魔法効果倍増のクリスタルスタッフ。口ずさむのは癒しの調べ。


「《遍く光よ》《汝は優しき癒しなり》」


 検証の結果、ジワルドとこの世界は魔法の仕組みが殆ど変わらない事が分かった。

 ゲームでは、魔法は武器系スキルと違ってそもそもスキルが手に入らなかった。手に入るのは『欠片』と言う呪文を組み上げる為のパーツだった。

 プレイヤーは、その欠片を組み合わせ、音声入力する事で魔法を発動する。いわゆる詠唱と言う物だ。


「《奇跡を祈り》《矢弾となりて》《天を穿ち》《舞い踊る幾千の蝶よ》《彼の者達へ祝福を届けろ》」


 全部で七節使った詠唱が完成すると、クリスタルスタッフから光の矢が空へ打ち上がり、光り輝く千の蝶が地上の貧民を目指して降り注いだ。


「…………指が、生えた? ……奇跡か?」

「傷が、目が治った…………!」

「ぉおおおお…………!」


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