地味すぎる仕事始め
『志藤さん聞こえますか?』
呆然と荒野を眺めてるオレの脳内に、オレを送り出した女の声が届く。
「あ、ああ、聞こえてる」
『良かった。それじゃ、現時点で分かったことをお伝えします。まずはお望みのギフトですが、どうやら既に発動しているようです。足元を見てください』
言われて下を見ると、自分を中心に半径一メートルほどのスペースが緑に覆われている。地衣類や草花、よく見ると虫みたいなものも這っている。
『わかりますか? それが”再生”のギフトです。どうやらこの世界の創造主は、志藤さんに世界の再生をお望みの様ですね』
世界の再生……歩き回って再生して行けってことか?
だとすると、これ、ギフトっていうか……タクシードライバーにとってタクシーみたいなもんじゃね? 無いとお話ならないレベルの……
……こういうんじゃ無くてさぁ……もっと、オレだけが持てって、使い方次第ではオレ強ぇー出来るような、ね?
『それと……あ、暫くの間”無敵”のギフトも貸与されるようです』
「”無敵”!?」
なにそれ、凄くね?
と、一瞬思ったが、この世界、敵とか居なさそうだよな……つか、自分以外に人とか居るんだろうか?
『”無敵”は文字通り志藤さんに害のある事象は全て無効に出来るギフトですね。凄いですね、こんなの与えられた人って今まで居ないですよ? 良かったですね!!』
全て無効……なんかいきなりチート過ぎるのが来たけど使い道が……それに……
「貸与?」
『はい。こちらは再生と違ってある程度状況が進むと返上しなければならないようです』
「ある程度って?」
つか状況が進むって、この世界の再生状況ってことか?
『御覧の通り、この世界一度破滅しておりまして、地表は生物がまともに生活できる環境に無いんですよ。当然、食料になるようなものも存在しません。志藤さんの食い扶持なんかも賄えないので、そのための措置のようです』
飯食わなくても平気な様に”無敵”のギフトか!
……もっと丁度良いのとか無かったんかねぇ?
や、まぁ、強力そうなので、ありがたく受け取っておきますけども!
『あと、不注意で崖から落ちて死んだりとかしないための保護措置も兼ねてるそうです。いきなり死なれたら送った甲斐も無いので、こちらとしても助かります』
言われてあたりを見回す。
道路や標識、ガードレールなんかも存在しない。岩陰にクレバスのような裂け目があっても気づかない可能性は十分にあるか……
「なるほど。他には?」
まさかこれだけでこの世界を再生しろとか言わんよな? いくら腹が減らず無敵であっても、半径一メートルの範囲しか再生できないんだぞ?
どんだけ歩き回らなければならないんだっつの!
『ええ~っと……あ、これも凄い! 志藤さん志藤さん!!』
やたら興奮してる女の声……こう言っちゃなんだが、この女のテンションと反比例して、オレのテンションが下がっていく気がする……
『なんと”万能”のギフトがついてます!! 万能ですよ、万能!! 創造主に匹敵しうる能力です! いやぁ、派遣の極卒に与えて良いギフトじゃ無いですね! 志藤さん、あなたその世界で神になれますよ!?』
”万能”……創造主に匹敵しうる力……うん、よくわからん。
「具体的に何ができるんだ? 大雑把すぎてぴんと来ないんだが……」
『何でもですよ! だって万能ですよ!? 思いついたことなら何でもできます!』
「空を飛びたいと思ったら空を飛び、海の水を飲みほしたいと思ったら飲み干せるってことか? チート過ぎて逆に萎えるんだが……」
『あ、でも、こちらも制限があるみたいです。無制限に力をつかえるわけでは無く、使用量に限りがあるようです』
「つまり、使えば使うほど目減りしていく感じか?」
『そのようです。MPに限りがあり回復の見込みがないと言えば、志藤さん的に分かりやすかったりします?』
「MP……魔力量的な? なら、魔力の総量を超える大技も使えない可能性があるな」
『そんな感じです。実際に魔力というものがあるわけではないようですが』
なるほど……一回だけ使える奇跡、くらいに考えてた方が良さげだな。
『以上が志藤さんに渡されたギフトのすべてになります』
思ったよりも凄いギフトを貰えたようだが……猫に小判と言うか……競う相手も助けるべき誰かもいない現状じゃ、使い道無さそうだ。
「了解。これからもあんたと連絡取り合えたり出来るのか?」
『え~と、そうですね。そちらからは連絡できませんし、こちらも常時そちらを監視していられるほど暇じゃありません。何かしらの業務連絡があれば、こちらから一方的通達するという感じでしょうか?』
ひでぇ……
「とりあえず分かった。オレはひたすら歩き続けて、この世界を再生すれば良いんだな?」
『さぁ?』
おい! なんだそのちゃぶ台返しは!!
『いえ、私は志藤さんに与えられたギフトの説明をしただけで、こちらの世界の創造主の望みに関しては、ギフトから類推したに過ぎません。直接何か指令を受け取ったわけでもないですし』
「え? じゃぁ、オレは何をすれば……?」
『私共としましては、極卒の使命を全うし、その世界の魂に良い影響を与えることを望みます』
「や、魂と言っても……」
『魂は人のみに宿るにあらず。志藤さんの足元の地衣類や雑草、トンボだって蛙だってミツバチだって魂はあるのです! 頑張って良い影響を与えてください』
そう言って女は言葉を切り、その後は話しかけても返事を寄越さなかった。
少し整理しよう。
与えられたギフトは”再生””無敵””万能”の三つ。
”再生”この荒廃した世界を再生するための力……今のところ他に使い道は無さげ。
”無敵”は文字通り無敵になるようだが、どちらかと言うとオレの飢餓対策用の力。いずれ返上しなければならないらしい。再生された土地を耕して、自給自足出来るようになっとかないと、後で積むかもしれない。
そして”万能”。何でもできる力の様だが、使用量に限界あり。本当の意味で万能なら、他のギフトを与えられた意味がない。このギフトだけで賄えるはずだから。ぶっちゃけ、”万能”でこの世界を再生すれば、わざわざ歩き回る必要だってないはずだ。
だが、別途渡されたということは、それほど凄いことは出来ないんじゃ無かろうか? やはり、いざと言う時まで取っておいたほうが良さそうだが、再生した土地に作物とか出なかったら、畑や家畜などを、この力で用意する必要があるかもしれない。
これらギフトを使って、オレがやるべき使命は……魂に良い影響を与える? 虫や草に良い影響って、いったい何をすれば良いんだ? とりあえず、再生していって、虫やら草やらが生命活動できるようにしていけば良いのか?
つか、そもそも再生される前の彼らの魂はここにあるってことなのか? 例の灰色の空間に飛ばされたり、天国やら地獄やら異世界やらに飛ばされたりはしていないのだろうか……?
や、待て。もしかしたら、オレが再生することによって、この世界に
で、極卒としての使命は良いとして、この世界の創造主が何を望んでいるか、だよな……なんせ、ギフトは創造主から与えられたものらしいし、意に添わぬ真似をして機嫌を損ねるのも拙い気がする。
と言っても、創造主の意図を直接伺うことは出来ないみたいだし、わざわざ伝えに来ることも無いそうなので、勝手に想像し忖度するしか無いのだが。
「まぁ、何であれ、とりあえず歩き始めますかね」
特に意味はなかったがわざわざ声に出して歩き始める。
一歩踏み出すごとに再生された領域が広がる。黒や灰色の見るからに荒廃した土地が緑に覆われていく姿は、なかなかに面白い。
まずは居住空間やら畑を作れるだけのスペースを再生させますかね。
そんなことを考えながら歩き続けるのであった。
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