第11話 濃姫 4

 数年たち、父と兄が戦争を始めました。我が夫は、父の援軍に出かけました。ああ、いけない。父も兄も、わたしの秘密を知っていよう。

 しかし、夫の援軍もむなしく、我が父、斉藤道三は戦死しました。大間抜けの我が夫は、己を毒殺しようとしている我が父に援軍を出したのです。しかし、父は死にました。

 ああ、これで、もう、わたしを縛る父との密約はなくなりました。

 我が夫、信長よ。わたしがあなたさまを毒殺に来た女だと知っておいでか。

「濃よ、濃よ。おまえだけはこの信長を裏切ってくれるな」

 生きて帰ってきた我が夫が申すのでございます。


 尾張の国に、三国を所有する今川義元が攻めてきました。その軍勢、二万とも四万ともいわれ、迎え撃つ我が夫には四千の兵しかございません。

 これは、我が夫の負け戦であろうと、わたしは思いました。

 しかし、桶狭間の戦いにおいて、我が夫、織田信長は、攻め寄せる今川義元の十倍の兵に奇襲で攻め勝ったのでした。

 わたしの目に、涙が流れました。

「天下のおおうつけが、まぐれを当てましたな」

 などと、周りの者が申しております。

「我が夫のどこがうつけか」

 わたしは怒鳴って、叱りつけました。

「我が夫のどこがうつけか申してみよ」

 家臣は平伏いたしました。

 ですが、わたしは、その夫を毒殺に来た悪女でございます。これを知ったら、わたしは信長に殺されよう。ならば、せめて返り討ちにでもしようか。我が夫の心は読めず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る