第31話 直人の追憶 その四
当日の天候は、結局快晴の予報が出た。
それでなんとか、我と邪神王の二人は、予定通り海釣りに向かうことになった。やはり
未明に、自宅のある三多摩地区を車で出発し、高速道路を使って約2時間程。
ICを降りればそこは、三浦という土地であった。穴場スポットはさらに海岸線、相模湾沿いであるそうだ。
そして到着となったのだが…。
「お父さ~ん、海荒れてるよ~」
「………そうだな」
現地の天候はたしかに快晴。だがやはり台風の影響か、海は時化り、海風がごうごうと鳴り、堤防には白波が打ち寄せていた。
そのスポットには駐車場があるのだが、停まっている車は数えるほど。堤防には釣り人の姿もなし。
時期的には釣りシーズンらしいのだが、誰もよりついておらんとなれば…
「…これじゃあ釣りは無理そうかなぁ」
邪神王の残念そうな言。そしてそれが正解であろう。
車での話を聞けば奴は釣りの素人だそうだ。下手の横好きほどもない。そのため読みが甘かったようだ。
「しょうがないか…。また今度来よう」
かなり残念そうな顔をしながら邪神王は言う。
今日のためにわざわざ釣り具を買い揃え、楽しみにしていたのだ。未練があるのだろう。
そして我としては、まぁ、ぶっちゃけ興味がなかった。何事も経験とは思うが、今日のところは邪神王に付き合っただけの感はある。
ただし、この荒れた海と言うモノには興味があった。
我は今、直人という小学生の時分。好奇心だけは一丁前にあるのだ。
「ちょっとだけ海見てきていい?」
堤防の先でちょっと海を覗くだけなら、危なくなかろう。
「……うーん、ちょっとだけぞ」
邪神王は心配そうな顔であったが、許可を下した。くくくく、これで家に帰ってから例え
我はダッーと堤防に向かって走り出した。
堤防に近づけば近づくほど、しょっぱい水しぶきが口に入って来る。
……くくくく、臥龍であり魔の王たる我を拒むか海神よ。その荒れ狂い様、面白い! ならばこの手で鎮めてやろうぞ!
「ちょっとこら直人! 走るな」
「くははは! 海神よ! 我に
テンションの上がった我は、そのまま波打ち付ける堤防を走り、先へと向かう。
足元は波でずぶ濡れだったが、邪神王に買ってもらった長靴の前では無意味。ゴム底がしっかり地面に食い込み、危険など感じない。
水しぶきを若干浴びながら走り、そしてついに堤防の先へとたどりついた。
次から次へと堤防に波が打ち付け、飛沫が風に乗り我の顔に掛かる。うおっ、しょっぱい!
…まぁ傍から見れば危ないことをしているのだろう。だがこれが
そして我はさらなる好奇心に、堤防から水底を覗きこもうとした。
その時だった。
それまでとは比べモノにならない程、巨大な白壁が突然立ち上がった。
我の身の丈の何倍もあるそれは、
一瞬、あっけにとられた我であったが、気づいた時には遅かった。
海に飲まれた。
上下左右が真っ白な視界に覆われ、体中が何かに打ち付けられる。海に落ちたのは一瞬で理解できた。だがあっという間にパニックになった。あまりの息苦しさに藻掻き何かに掴まろうとするが、何もない。
そうしている内に海面に出たのか少し息が出来たが、また波に飲まれた。
死ぬ。
その単純なことが脳裏をよぎった。
嫌だ。
嫌だ。
死にたくない!
た、助けて!
『直人ぉーーーー!』
その叫びと、何かが飛び込む音を最後に、我は意識を失った。
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