第30話 直人の追憶 その三
直人は、学校での出来事を毎日、母と話す契りを結んでおった。契りを破るというのは我の性に合わぬ。なので仕方なしに今日の事を話したら、怒られた。
その内容はと言うと、今日学校にてクラスメートを集め『実は、我は異世界の魔王の転生者ぞ!!』と巻くし立ててやったのだ。
我は、人間の子供らが恐怖に歪む顔を見て、ほくそ笑んでやろうかと思うておった。
が、最初
さすがに理解が追い付いつかんかと思い、
…のだが彼奴ら何故か、恐怖に歪むどころか逆に目を輝かせよった。特に男子。
『設定すご~い!』とか『ちゅうにだ!ちゅうに!』とか。
一体なんなのだ、この世界の子供は。魔王や異世界に理解があるとでも言うのか…
そんなことをぼやいたら、
真実を言ったまでであるのになぜ怒る? 理不尽…邪神王に言いつけてやる!
そして夕方、邪神王が仕事から帰ってきたので、我は抱き着き『
すると邪神王は大笑して頭を撫でた。そして学校のことも『凡人には決して真似できないことだ!』と我は褒め立ててくれた!
くくく、やはり邪神王は我に理解がある。
ただ一点、注意された。
それは、あまり自身の本性を大っぴらに触れ回ると、突っかかってくる輩が必ず現れるという。
今は、力無き身。その時まで力を秘匿しろと。
確かにその通りだ。前世での勇者がまさにそれであったからな。
そして邪神王は言う。
「
…いい。それいい。かっこいい!
太平なれば
龍は古来より神として崇められ、そして神の敵として怖れられて来た存在。
くくくく、魔王の身なれど龍となるか。いいではないか。いいではないか!
…まぁ、
やはり邪神王と話すと得るものが多い。
直人よ、悪いな。今日から一日あった出来事は、
*****
最近、我は
それに対して邪神王は我の話を良く聞き、理解してくれた。それに直人の後学のためとか言って、幻想大辞典とか漫画とか、ちゃんと我の趣味に合うモノを買ってきてくれたのだ。頭ごなしに否定してくる
結果、我は邪神王の方に心許したと言って良い。直人の実父でもあるしな。
そしたら、
あなたたち、私を差し置いて仲良すぎるっ…!って。
女とはよくわからん。構って欲しければ怒らなければいいのに…。
……えー、戦…お母さん小言ばっかりだし。…はーい、わかった。
*****
我が覚醒を果たしてからしばらく経った。
この世界の習いなどある程度分かってきておったが、気がかりなことが一つあった。
直人の意識だ。
その内消えるだろうと思っていた直人の意識が、依然我の内にあった。
それどころか、感情を出す時、それが我の物なのか直人の物なのか曖昧なことが多くなっているのだ。どちらか一方のではなく、互いのが混じるように。
…その原因は、実はわかっておる。
邪神王。直人の父親の存在だ。
直人は、以前よりも父親と関われて嬉しいのだ。
その感情が直人を強くしている。
そして、直人自身が
邪悪な物を拒むどころか、共に楽しもうとしているような……。
……歯痒いことに、その直人の鷹揚さ。我に取っても悪い気がしないのだ。
どうにかせねばという気が起きない。
直人を侮っていたかも知れん。もしかすれば王の器やも。
……して、最近だが。
前は、晩御飯前には間食禁止! とか言ってたくせに。
学校でも邪神王の言いつけを守り、あまり自身のことは触れ回っていない。そのせいか変な輩に絡まれることもなく、特に問題も起きていない。
つまり今我は、なんの変哲もない普通の日本人として生きているということだ。
魔王としてこれでいいのか? と無論思うこともある。
だが何かしら事を起こそうという気が起きない。
今の状態が心地よいのだ。
これが平穏というモノなのだろうか。初めてのことで我にはよくわからんが。
*****
そして、そんな日々が過ぎた、とある日のことだった。
「直人、今度の土日釣りに行こう」
お父さ……邪神王がそう言った。よく釣れる穴場スポットを知人から聞いたとか。
それになんでも、父子で海釣りに行くのが、邪神王の夢の一つだったそうだ。
釣りかぁ…。やったことないのだけど大丈夫かなぁ。…何? 何事も経験か。まぁよかろう。
そういうと邪神王はかなりウキウキしていた。奴が喜んでいるので少なくとも悪いことではないのだろう。釣り具は用意するとのこと。
「ちょっと、台風発生してるみたいだけど大丈夫?」
TVの気象ニュースを見れば、日本のはるか南方に大きな渦が出来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます