幕間 その四
それは、遥か昔のことであった。
とある森に一匹の虫が、地べたを這いずり回っていた。
その虫は人の小指ほどの大きさもなく、強い顎や毒も持っておらず、ただそこらに生えている草を齧って生き長らえるだけの、弱々しい虫であった。
そしてその森は同じような、弱々しい虫がたくさんおり、大抵は、
他の生き物の餌となった。
ガシッ
と、その虫が
とある小鳥が、その虫を食べようと
その小鳥はガシガシと、
弱らせ食べやすくするために。
その虫は、硬い殻を持っておらず、脚が捥げ、ボロボロになる。
文字通り、虫の息となった。
そして、その小鳥は、その虫を一気に飲み込んだ。
それは、この森のどこにでも起こる、当たり前の光景であった。
が、
バクッ
その小鳥を、さらに大きい獣が一口で食った。
その光景も、この森では当たり前の光景であった。
そして、その反動でその虫は放り出される。その獣は、そのちっぽけな虫には、見向きもしなかった。
その虫は、死にかけていた。
ひっくり返ったまま、身動き一つしない。
おそらく“死”ということすら、理解出来ず、ただ土に還るか、餌になるだけであった。
それは、この森のどこにでも起こる、当たり前の光景であった。
しかし、
その虫に、不思議な力が当てられた。
するとその虫はみるみる内に傷が治っていき、ジタバタと動き出した。
その不思議な力を当てたのは、とある悪戯好きな風の妖精であった。
彼女は、当たり前のように起きている光景に、少し変化を起こしたかったのだ。
それはただの暇つぶしであったが。
それでたまたま目の前に落ちてきた、その虫に、何か悪戯をしようと考えたのだ。
では何をするか?
魔法か、何か、力を与える?
いやメンドイ。
宝物をあげる?
いや虫にあげたって、意味なくない?
……そうだ。自分で、変化を起こしてもらおう。
この虫自身で。
風の妖精はそう思うと、
その虫にとある悪戯をした。
それは、
己が何故この世界に存在し、何を為すべきなのか?
という知恵を与えたのだ。
その虫は起き上がると、ひたひた這い回りだし、どこかへと消えていった。
風の妖精は、ほくそ笑む。
死んでは生まれ、また死んでいく。
そんな虫ケラに、へんな虫が一匹増えた。
なんか面白いことが、起きればいいな。
そんなことを考えながら、風の妖精は、また暇つぶしを探しに飛んで行った。
この
この知恵を持った変な一匹の虫は、
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