第9話 魔王と勇者の晩餐

 京王電鉄京王多摩川駅。

 東京都調布市の南部に位置し、京王相模原線管内では調布から数えて二番目になる高架駅である。

 一日乗降者数は一万6千人程度で京王線管内では比較的利用者数は少ない方だ。しかしすぐ近くに競輪場があり、その開催日などには電車乗降者数世界一の新宿駅の様に大混雑し、また夏に調布多摩川花火大会が行われた際には、三が日の明治神宮にも勝るとも劣らない程、人口密度が膨れ上がる。

 だがそんな特殊な日を除けば、普段は割かし閑散としている駅であった。

 そして駅前に目を向けると、これと言った飲食店は少ない。多摩地区有数の繁華街である調布駅に近いためか、駅東側に飲み屋街が僅かに広がる程度だ。

 そしてそこに、一件の中華料理屋があった。その古びた赤い看板には“台南飯店”と金字で店名が記されている。この店は、一応台湾有数の都市名を冠してはいたが、実際は台湾料理のみならず四川北京広東なんでもござれで、日本人が一般的に知っている中華料理なら何でもあるような大衆食堂体の店である。

 料金はかなり良心的に設定され、しかしながら料理のボリュームは並以上。そのおかげか、地元の育ち盛りの多摩校生たちには人気の料理店であった。

 その店を仕切っているのは、通称“張さん”と呼ばれる女将だ。

 福建省出身の台北育ちで、日本へは料理人の夫と出稼ぎで渡って既に在住二十年ほど過ぎている。息子たちは台湾本土に住んでいたが、本人たちはもうこの土地に骨をうずめようと考えていた。

 そんな彼女には、かなりお気に入りの常連がいた。

 その常連は、日が暮れ部活帰りの多摩高校生たちが姿を見せなくなり、かわりに仕事帰りのサラリーマンなどの大人たちが訪れるころに、独りポツンと姿を見せた。

 歳の功はまだ中学生くらいで背は同世代では低め。しかし年甲斐似合わず、礼儀正しくて言葉づかいは丁寧。混雑時には席を譲ってくれるなど、日本人らしいと言えばらしいが、きちんと周囲に配慮出来る子だ。

 しかし彼は時たま、子供らしからぬ様相を呈することがあった。

 それは流しっぱなしのTVのニュースなど悲惨な事件や世の中を動かしそうな出来事が流れた時、何かを思ったりしたのであろう、

 恐ろしく泰然自若たいぜんじじゃくな雰囲気を醸し出したのだ。

 それはまるで洛陽の城壁から天下を睥睨ひげいする、若りし頃の曹操孟徳かの如く。夫は、買い被り過ぎだよ、と一笑に付したが。

 そして彼女は彼の来歴を知る機会がたまたまありその思事しじを驚きを持ってしんにさせていた。

 彼は、を持ちながらも転生を体現した者だったのだ。

 その事に熱心な仏教徒であった張さんはたいそう驚いたが、彼の前世が仏敵であることを知り少し残念がった。それでもお気に入りであることは変わりなく、以来その常連の事を渾名でこう呼ぶようになった。

 魔王マォワン、と。

 そして4月の頭のとある平日。

 その日は割かし客が少なく暇であったため、張さんは来店した親戚と他愛もない話を駄弁っていた。

 そんな時、チリンチリンとドアベルをならして、くだん魔王マォワンはやって来た。

 いつもより少し早い時間の来訪であった。

「いらっしゃい。魔王マォワン

「こんばんは。張さん」

 魔王マォワンに笑顔で歓迎の意を伝える張さん。そしていつもと様子が違うことにすぐに気が付いた。

 まず着ていた制服がそうだった。

「あら? その服」

「あぁ、実は多摩高に入ったんですよ。やっぱ近いし」

「まあ、そうなの? そう言えばこの前入学式やってたね。入学おめでとう。魔王マォワン

もとうとう高校生か。それじゃ入学祝いにサービスしなきゃね」

「ホントに? ありがとう張さん」

 素直に礼を述べ、口端を少し上げる魔王マォワン

 年相応の素直な反応に、張さんは笑顔で彼を席へ着くように身振りで促した。

 しかし魔王マォワンは何故か入口から動かず、普段とは、らしからぬことにモジモジしていた。少し首を傾げる。

「じゃあ…、入れよ」

 魔王マォワンは、背後に振り向き気持ち棘のある呼びかけをした。

 すると、その背後から彼と同じ多摩校の制服を着た女の子がおずおずと現れた。

 いつも一人ポツンと現れる彼が、連れを、しかも女の子を同席させていたことに驚く張さん。

「あらま。魔王マォワンの彼女?」

 当然そう思うが、

「「違う!」」

 と、その男女多摩校生二人は、あわくって否定を同時に叫んでしまう。

 そしてハモったことをお互い同時に気付き、ハッと見合わせて苦虫を噛む。

 張さんは、二人の反応に一瞬目を白黒させたが、ずぐにふふっと苦笑して、

「こんな店デートには向かないよ」

 とそう自虐し、二人がゆっくりできるよう空いていたテーブル席へ案内する。

「「デートじゃない!」」と恥ずかしがって同時否定する彼らの言葉を聞きながら。

 ******

 和歌月千夏が生徒相談室から立ち去った後、魔王ギガソルドの転生者蘇我直人は、あまりのストレスから胃痛を起してテーブルに突っ伏してしまっていた。

 げっそりと冷や汗を流し、寒気にまで襲われ身動きできなかったのだ。

 そんな直人を見て、勇者の転生者である久住朋子は、目に見えてあわあわおろおろし、

「ほ、保健室に行きましょ!?」

 と慌てふためいた。

「………お、俺のこと心配するのか」

 と、直人は腹をおさえながら疑問を呈するが、朋子は、

「べ、別にあなたのことなんか心配してません!」

 とちぐはぐなことを言ってしまう。

 …ったくお前は、と呆れる直人であったが、取りあえず大人しくしてるように諭す。

 それから生徒相談室で腹痛が収まるまで休むと、直人は、自分を心配して帰らずにいた朋子に対し、

「…晩飯、食いにいこうぜ」

 と食事に誘った。

「………………………………えぇっ!?」

 と、あまりに唐突で予想外だったのか、朋子は鳩豆鉄砲の直撃を受けてしまう。

 直人は、彼女リアクションに若干焦りながら、

「べ、別に変な裏があるわけじゃないぞ」と弁明する。

 それでも朋子は驚いた顔を崩せず、理解できないと言った面持おももちだった。

 それに直人は軽く溜息を付き、

「……転生者として話がある」

 と、今度は割と真剣味を含ませ朋子に追言する。

 それに、しばしあっけに取られていた彼女は固唾を飲んだ。

 そして一瞬目を伏せ、

「……わかりました」と覚悟を決めるように了承した。

 その返事になんとなく安堵する直人。

 彼は今回の件で、これ以上魔王と勇者の茶番劇をこれ以上繰り返すワケにはいかない、と痛感していた。

 お互い腹を割って話をする必要があると。

 ……決して、朋子のことが気になるからご飯に誘った、とかじゃないからな! と自分に言い訳もしながら。

 そして直人は、勇者状態となったツケで足取りがフラフラになっている朋子を連れ、直人の行きつけの店である“台南飯店”を訪れていたのであった。

  *****

「注文決まったら呼んでね」

「は、はい、わかりました」

 そう言って張さんは水とメニューをテーブルに置き、すぐにカウンターに戻って行った。

 その後ろ姿を朋子は目線で追うと、そのままスライドして物珍しさから店内をキョロキョロと観察し始める。

 写真付きの壁掛けメニューや、おそらく外国製であろう調度品の数々。朋子には読むことの出来ない中国語新聞の切り出し。

 その他にも、そこらへんに無造作に置かれた食材やら割りばしなどの備品。ちゃんと掃除をしているのかと思う程に油ギトギトの天井。鼻を突くお酢の様な酸味の効いた臭い。

 目線と落とせば、染みだらけのオレンジのテーブルが端をところどころ欠けさせて素地の木目を白昼に晒している。

 そして嫌でも入ってくる日本語以外の会話。

 見ると張さんが、東洋人らしき数人と中国語? で話をしていた。

 …ここは本当に日本国内なの? となんとなく不安になる。

 それは勇者の転生者の日常に、突如として現れたある意味異国情緒たっぷりの空間。調布にこんなところがあったとは。

「………ここって、中国人のお店ですか?」

 今思っていたことを、対面に座っている直人に尋ねる朋子。

「違う。……張さんは台湾人だよ」

 メニューに目線を落としたまま胡乱気うろんげに答える直人。

「……やっぱり中国と台湾って違うんですか?」

 その質問に直人は顔を上げ、

「………両地域の違いが気になるなら、台湾問題の講義でもしようか? 対華二一ヶ条要求あたりから」

 直人はひねくれと親切から、朋子に共産党と国民党の成立要因から講義してやろうとした。

 しかし疑問をぶつけた当の本人は、いきなり大っ嫌いな社会の授業が始まりそうなことに、顔を思いっきり歪ませる。

「い、いいです…。とにかく違うのは違うんですね」

 そう勝手に総括して、朋子あわてて自分のメニューへ視線を落とし品定めを始めた。

「…ま、別にいいけど」

 そう言うと直人はメニューを閉じて肩肘を突く。

 それから朋子がまだメニューと睨めっこし、まだ注文を決めあぐねている様子だったので、直人は何となく手持無沙汰になる。

 少しでも間を持たそうと、ふと壁掛けメニューなどへそぞろに視線を移した。

 ……冷やし中華って、日本料理じゃなかったっけ? 

 そんなことを思いながらそのまま店内を見やっていると、注文待ちをしている張さんが、同じ台湾人らしき人たちと会話をしているのが視界に入った。

 もちろん中国語で会話していたので内容はさっぱりだ。

 …そう言えば俺も前世では外国語? を喋ってたな、と直人は思い出す。

 異世界地球テラでは直人は魔族という、人間とは大きく異なる種族ではあったが、彼らとは共通言語で会話をしていたのだ。

 前世、異世界地球テラで人魔共に使用された共通言語は、不思議と地球のラテン語と類似した語彙と語用を持つ言葉である。

 地中海世界を統一したローマの様に、なんでも人魔を統一した古代世界帝国が異世界地球テラにも存在したらしい。

 その公用語が異世界地球テラ共通語に影響を与えたおかげで、勇者たちとも会話することが出来たようだ。

 無論、種族固有語、地方語など地球世界と同じように数限りない言語は異世界地球テラにも存在した。

 ただ昆虫発祥の魔族である甲虫種は、固有の言語、と言うよりは会話という発想自体が無く、魔王ギガソルドクラスの高知能甲虫種でやっと異世界地球テラ共通語を喋れたくらいであった。

「ルーロウファン」

 と、不意に対面にいた勇者の転生者が、聞きなれない異世界地球テラ方言を喋った。…ってただのカタカナ中国語か。

魯肉飯ルーロウファン定食?」

「いえ、単品で」

「んじゃ、俺は回鍋肉ホイコーロー定食だから。…張さん!」

「はいよ、魔王マォワン!」

 直人が張さんを呼ぶと、彼女は親戚との駄弁りをそさくさと切り上げ、二人の座るテーブルへ注文を取りに来た。

 それから二人して注文を終えると、その店主は、それだけ? と笑顔で追加注文を促がしてくる。

 直人の方は、懐が…と苦笑いして、朋子の方はは、いえ…その、といった遠慮の体でごまごまする。

 張さんは、そんな育ち盛りの男女高校生二人に苦笑して、

 もっと食べないと背が伸びないよ! といらんことを直人だけに言い放って厨房へ消えて行く。……やっかましぃ!

 そんなこんなで、ふと間が空き、気もそぞろに直人が視線を泳がせていると、不意に朋子の方がある疑問を尋ねて来た。

「……まぉわん、ってなんですか?」

「ん?」

「お店の人にそう呼ばれてたじゃないですか?」

 そう言って疑問に小首を傾げる朋子。

 直人には、正直それはどうでもいい話題であった。

 が、無言になるよりはいいだろう。そもそも自分は誘った立場だし。

「ただの渾名だよ。以前、張さんに転生の事を話したことがあってさ。…それ以来渾名で呼ばれてんの。魔王まおうの中国語発音で魔王マォワンって」

魔王まおう魔王マォワンですか?」

「まぁ、ちょっと気に入ってるんだけどね。若干、音が似てるっしょ。ほら、音読み訓読みって小学校で習ったじゃん? あれだよ」

 直人はそう言って、さも当然と言った風に肩を竦めたが、

「…? なんでそこで音読み訓読みが出て来るんですか?」

 朋子の方は今一つ、理解を得なかった。

 人差し指を口にやり小首をと傾げている。

「音読みは中国から漢字が輸入された時にそのまま伝わった読み方で、訓読みは日本独自に付けられた読み方、だろ? 掻い摘むとだけど」

「……未だに、その違いが分からないんですけど」

「……あ、そう」

 何とも言えない顔になり、朋子の国語系教科の理解が心配になる直人。

 …こいつ運動もダメな上、さっきもそうだが勉強に関してもダメダメなのか?

「……今、私のこと心の中でバカにしたでしょ?」

 そう言って魔王の転生者を、むぅ、と睨んでくる勇者の転生者。

 整った眉を横一文字に結び不機嫌に頬を膨らませて。

 それは、千夏のメドゥーサのような強烈な視線に比べるべくも無く、ともして本来の朋子自身には威嚇の素養が全くの皆無のため、魔王の転生者たる蘇我直人には、その睨みは全くもって脅威を感じられなかった。普通にしていれば普通に可愛

  ……じゃねえし!

「…………あの勇者状態とえらい違いだな」

「? 何のことですか?」

 直人の皮肉が理解できず、不機嫌を隠しきれない朋子。

 彼の方も、ある意味で勇者の視線に耐えられず、わざとらしく視線を逸らしてしまう。

 そんな朋子にとっては挙動不審な行動をしている直人を見て、

「……あ、そうだ」と朋子は不意に何かを思い付いた。

「だからなんであの時、私のことをかばったんですか」

 と、放課後の生徒指導室の件を直人に尋ねて来た。

「……」

 なぜ彼女を庇う真似をしたのか?

 それは、入学早々、暴力沙汰を起して自分の母親に迷惑を掛けたくなかったからだ。

 蘇我家は、から父親がいないため、代わりに母が一家の家計を支えていた。

 未だに以前住んでいた家のローンの払いや、家賃に母子二人の生活費、そして直人の高校の学費、大学への進学費用など。それで直人の母は昼夜問わず働き詰めであった。

 そのため直人は夕食などを一人で取ることが多く、たまにこういう飲食店を利用している。台南飯店に中学の頃から常連になっていたのも、単に格安の値段で並以上のボリュームが食べられるからだ。

 直人の母は、息子にそんな不憫を掛けていると自覚しながらも、将来のためと根を詰めながら睡眠時間を削ってでも働いていたのである。

 無論、直人はそんな母の心情を理解し、常日頃心苦しく思っていたのだ。

 そして、もう一つ庇った理由があった。

 それは、

 今目の前にいる、

 女の子が………

「……なんですか?」

 直人の何かを含んだ視線に、訝しむ朋子。

「………はぁぁ」

「なんでため息なんですか?」

 なんとも色んな意味で、じゅんどんで天然な彼女に、溜息を付く魔王の転生者。

 そして彼女の方は、魔王の転生者の意味不明な反応に、さらに怪訝に眉を寄せた。

「…あのさ、庇ったのは別にお前の為じゃない」

「…じゃあなんの為ですか?」

「入学早々、問題事なんぞを起こしたくなかったんだよ。…下手したら警察沙汰だぞ!?」

「……け、警察」

 直人の言葉に、顔をすぐに青ざめさせる朋子。

 そのことには、彼女もさすがには気付いて後悔していたのだ。

「…もう、俺に突っかかるな、とは言わない。だけど家族や学校、…俺以外の無関係な人に迷惑を掛けるのだけはやめろ! いいな!」

「は……はい」

 渋々と言った感じで承諾する朋子。だが、

「………本当にそれだけですか?」

 と、疑念に紡ぐ。

 どうも思惑があると勘が働き、変な疑いを晴らせない朋子。

 直人の方は彼女の何か咎める視線に、はぐらかしも兼ねて、今日誘った理由を唐突気味に呟く。

「…魔王ギガソルドの転生者として、勇者のお前に聞きたいことがある」

 その言葉に朋子はハッとして、椅子を蹴って立ち上がった。

「やはり何か企んでいるな!? 魔王ギガソルド!」

 そう叫び直人の鼻っ面を指差した。

「やかましい。店内で叫ぶな」

 と、直人は朋子の相変わらずの行動にツッコみ、席に大人しく座るように身振りで促した。

 朋子はそれに一瞬で我に返り、焦って店内を見回す。

 と、店内にいた台湾人らしき客たちが、驚いた顔でこちらに注目していた。

 途端、顔を赤らめて大人しく席にドカッと座り直す。

「…ったく、勇者なのが恥ずかしいのか恥ずかしくないのか、どっちなんだよ?」

「そ、そんなこと言われても…。私は、勇者の転生者である前に普通の高校生ですし」

 そう言って尻すぼみになる朋子。

「…それだよ」

「え?」

「……どうしてこっちの世界に勇者が転生できたんだ?《転生の秘儀》は魔王個人にしかかかってなかっただろ?」

「それは…」

 朋子は、魔王ギガソルドが転生した後、エルフの賢者フローネも《輪廻循環の秘法》を使い勇者一行を転生させたあらましを、正直に直人に話す。

 それに彼は心底驚き、そして呆れていた。

「………なんだその、ご都合展開」

「ご、ご都合展開とか言わないで下さい! あの時私たちは必死だったんです!」

 朋子はその野暮に目に見えて憤慨した。

 しかし直人の方は朋子を気にせず、あの賢者に《転生の秘儀》が、不完全であること見抜かれていたことに落胆してしまう。

「なんだよ、あの耳長。…結局、転生が上手くいかない事見透かしてたのか…」

「耳長って…エルフ族の蔑称べっしょうですよね!? 孤高なる森の一族になんてこと言うんですか!」

 基本、根が真っ直ぐな朋子は、直人の差別発言に憤りを見せたが、直人の方は正直、とうでもいいことだったので、

「…言葉に語弊がありました。すいません」

 と、あっさりと不適切発言を謝罪する。もろ上っ面で。

 だが、別の疑問も同時に浮かばせた。

「…でもさ。となるとさ」

「なんですか?」と憮然ぶぜんと眉を結んだままの朋子。

「……そのエルフも含め、残りの勇者一行も、この世界に転生しているって事だよな?」

 その言葉がすぐには腑に落ちず、固まってしまう勇者の転生者。

「あ…」

 と、ボソッと紡ぐ。

  魔王の指摘があまりの予想外だったため、あっけにとられてしまう勇者。

  自分一人だけがこの世界へ転生していた訳ではなかったことに、今さらながら気付いてしまう。

 と、

「はい! 魯肉飯ルーロウファン回鍋肉ホイコーロー定食、お待ち!」

 台南飯店の店主たる張さんが、朋子の思考を中断させるよう、快活に注文品を持って来てしまう。

 そして、そのあまりのボリュームに勇者の転生者は目を白黒させてしまい、

 今の瞬間の気付きを、再度失念させてしまうのであった。

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