第3話 王子は昔を思い出す

 私は、走っているーーーー。


 走っていなければ、先程の出来事が蘇り顔がにやけてしまうから。頬が赤くなってしまうから。


 「・・・・さとる君」


 今の私が、こうなってしまった元凶の名前を口にする。

 それは、一時間も満たない前のこと。演劇部の部室で、さとる君と私の二人になった時のこと。


 「そういえば、聞いてみたいことがあったんだけどいいか?」

 「どうしたの急に?」

 いきなり、質問されるとは思っていなかったので驚いた。もしかして?


 「女子のお前的には女子にモテるのってどうなの?嫌じゃないか?」

 なんだ、そんなことか・・・。期待していた質問じゃなかったことに少しがっかりした。いや、もともとそんなことあるはずがないか、こんな容姿じゃ。

 

 私の望む回答など得られはしないと分かっては、いるが、少し嘘を言ってみることに。


 「そのことか、うーん・・・別に嫌じゃないよ。むしろ好感を持たれるのは素直に嬉しいし、昔からこんな感じだったから男子には女子として見られてなかったし、男子よりは女子の方が好きかもしれないね」


 もちろん、女子よりもさとる君(男子)のことの方が好きなのだが・・・どんな反応してくれるかな?

 さとる君は、何かを考えているような顔で私を見つめる。

 

 「そうか?俺、真波のこと女子としてずっと見てたけど?」

 「え?」

 あまりにも、唐突に私が欲しい言葉を述べるさとる君。

 一瞬何を言ってるのか理解出来ていなかったが、分かった途端に顔が熱くなっていくのが分かる。


 「あ、い、いやだってお前スカート履いてるじゃん?だから男として見るのは変だよなって!?」

 「そ、そういうことか驚いたよ・・・」

 なーんだ。そんな事だろうとは思ってたけど、でも少なくとも、さとる君は私のことを女子として見てくれてることが分かってとても嬉しい。

 心なしか、さとる君の顔も赤いよな?・・・夕日のせいかな?



 その後、少し話した後にさとる君と別れた訳なのだが、ずっと彼の言葉が頭から離れず仕舞いで、顔の熱が冷めてくれない。

 こうなったら、走ろう。走れば何も考えなくて済むはずだ。

 

 

 走っても、結局のところ彼の言葉が離れないのと息が上がってきて辛いのもあり立ち止まる。


 「ここはーーー」

 走っていて気付かなかったが、ここはさとる君と初めて会った場所。

 私が恋をしてしまった場所。


 ちょうど、去年の今頃。通学中に猫を見つけた。

 普段ならそのまま通り過ぎるのだが、今日は朝早く家を出たのでまだ、高校生が全然いない状況だった。


 少しだけと、しゃがんで猫に触れる。猫は気持ち良いのか頭を擦りつけてくる。

 可愛いなぁ、本当。私もこれくらい可愛ければよかったのに。


 昔から、この容姿のせいで女子からずっとモテてきた。いつからだろうか?皆んなが望む王子を演じるようになったのは。


 そんなこと思い出しても仕方ないか。今更、変われる訳でもないし、別に女子に好かれてるのも嫌いなわけではないから。


 「にゃー」

 ふふふ、気持ちいのかな?

 どうせ、近くに誰もいないよね?いつもの声ではなく、少し甘ったるい声を出す。

 「気持ちいいかにゃぁ?よかったにゃぁー」

 

 猫も「にゃー」と返してくれた。そろそろ学校へ向かはないと生徒がきはじめてしまう。

 「また、明日会おうね」


 猫に別れを告げて後ろを振り向いた。そこにはーーー


 「あ。」

 

 同じ高校の男子生徒がいた。

 見られてた?今の一部始終を?

 普段王子様ぶってる奴が、甘ったるい声を出して猫と喋ってるのを見られた!?

 「あの?君もしかして今の見てた?」

 「え、い、いいいいや見てないですよ?」


 見られてタァァァァァ。どうしよう、すごい恥ずかしい!!穴があったら入りたい!

 「あの、このことは出来たら内しょ「可愛かったですよ!!すごく!!」

 え、この人今なんて言ったの?私の事が可愛い?

 いや、そんなはずはない。どうせ、声がとか言うのだろう。


 「声のことかい?とりあえずはありがとうと言うべきなのかな?」

 「?いえ、笑顔がって意味ですが?」


 !?。私の笑顔が可愛いだと?今まで、そんなこと言われたことないぞ!?

 というか、なんだろう?この胸の高鳴りは。私が私に向けて言って欲しかった言葉。でも、絶対に言われることのないはずだった言葉。

 顔がどんどん赤くなっていくーーー


 「な、何を言ってるのだ?君は。私のこと知ってるだろ?私は女子から王子と言われてるんだぞ?」

 「え?あ、はい。知ってますよ?今の言葉はただ俺から見た貴方への本心なんで別に気にしないでください」

 「!?!?!?」

 「学校行かないといけないのでそれでは」


 彼は会釈をして、去っていく。

 どうしよう。顔の熱が冷めるどころか、どんどん熱くなっていく。

 あぁ、我ながら単純だ。私はどうやら恋に落ちてしまったらしい。

 王子様だと言われてきた私が恋に落ちるとは皆んなが知ったらとんだ笑い話だろうな。


 でも、初めてだ。可愛いと私に向けて言ってくれたのは。

 彼に会いたい。もっと、彼と喋りたい。でも、誰かも分からないのにどうやって探せばいいのか?



 その後無事、演劇部の見学で会えたのだがそれはまた、別の機会に。



 「あれから、一年たったけど未だに好きって言えてない状況だし。明日から積極的に女の子アピールして私のことを意識させよう!!」

 頑張れ明日の私!!




 『まさか、明日さとるが女装してくるとはまだ彼女は知らない』

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イケメン女子が好きな俺は女装することにしました!? 大貴 @3533

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