その4

『分かったんですか?』

 白石隆介は電話口で二度、確かめるような口調で言った。


『ああ、間違いない。何だったら俺が付き添ってやる。暇はあるかね?』


 幸い、連載小説が一本終わったところで、少しばかリ余裕があるという。


『どこまで行くんです?』


『何、そんなに遠くはないさ。東京都内だから心配しなくてもいい』


 二日後、という約束をして、俺は彼と事務所オフィスで待ち合わせることにした。


 そしてきっかり二日後、彼は新宿までやって来た。


”昨日まで鼻水が出ていたけれど”などと、こっちをひやりとさせるようなことを口走っていたが、大きなマスクをし、手にはご丁寧にもナイロンの手袋までめている。


 俺はといえば、そこまで重装備じゃない。


 流石にマスクだけは丁寧に洗った奴をしていたがね。


 電車にしようかとも思ったが、やはりここは大勢の乗車する乗り物は避けるべきだろうと思い、ジョージに連絡をした。


 向こうは向こうで、やっぱり、

”俺だって暇じゃないんだぜ”だの、

”変な病気を拾って嫌な思いをするのは御免だ”などと御託を並べ立てていたものの、俺が、

”心配しなさんな。まさかの時はお前さんにも危険手当を付けるから”

 いうと、やっと納得してくれた。


彼は午前11時、トヨタのコンバーチブル(車種は忘れた)で、迎えに来てくれた。


”密室は避けた方がいいからな”そっけない口調でそう言い、車を走らせたS 車はまっすぐ、殆どより道をせずに日野市にある

 S大師光明寺という寺に着いた。


 前もって連絡をしておいたせいか、寺の入り口で案内を乞うと、直ぐに作務衣を着た中年過ぎの住職が出てきてくれた。


 不思議そうな顔をしていたのは隆介一人だけだった。


 俺達は住職の案内で、寺の裏山に作られた墓地に向かう。


 そこまで来ると、彼も何となく察したらしい。


『こちらです』


 住職が案内をしてくれたのは、幾つかある墓石群の外れにある、本当に小さな墓だった。


 形は五輪塔になっている。


 掃除はなされているものの、もう随分長い間、誰も墓参に来た気配が感じられないのは俺にも直ぐに輪代わった。


『まさか・・・』

 

 隆介が後ろに立っていた俺の方を振り返って言った。


『その”まさか”だよ。大林五月先生は、この墓石の下だ』


 






 



 

 

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