第8話 徐々に奇妙に無限停車
ケモケモケモケモ♪♪
ケモナー町レディオー♪♪
「さぁ今回も始まりましたケモナー町レディオ。今回の御相手は貴方の向かいのその隣の家の30近い娘こと、カイ星野がお送り致します。」
ここはとある放送局。星野絵里が主を務める人気ラジオ番組、ケモナー町レディオが今日も始まった。
「さぁ今回はまずお便りのコーナー。早速行きましょう1通目。ハンドルネーム役所勤めの社畜犬さん。ありがとうございます。」
慣れた手つきで箱の中の手紙を取り出し、読んでいく絵里。その手つきはもう慣れたものであり、あっという間に封を開けて中身を読み始める。
「えぇっと・・・なになに・・・?」
しかし手紙には長々と書かれた相談内容ではなく、筆ペンで大きく雑に「早く起きろ」と書かれてあった。
テンテンテテレテンテン・・・
スマホからお馴染みのアラーム音声が大音量で流れ、絵里は飛び起きる。
「夢オチは前もやったじゃん・・・・・」
「絵里さん絵里さん。今日は出張の予定が入ってるから、忘れないでね〜」
絵里が役場に着いてすぐ、奥の椅子でフラフラになりながら書類を見ているアストロの姿があった。よく見るとアストロの目にはくっきりと隈が浮かんでいる。
「ねぇあんた大丈夫・・・」
そう言ってアストロの近くに行こうと絵里が足を動かすと、足になにか柔らかいものが当たった。そして絵里が下を見ると
「い、怒りのムーンサルト・・・らびっとたんくいえーい・・・・」
白目を向きながら痙攣しているミミがいた。
ミミの目にもくっきりと隈が浮かんでいる。
「うわぁああ!なんだどうした2人とも!すごく眠そうだな!」
絵里は大声で驚くが、2人の反応は変わることが無い。そしてアストロがいまにも途切れそうなか細い声で
「最近動物たちの間に謎の現象が起きててね・・・まぁ絵里さんは大丈夫だろうから、頑張ってね・・・・」
そう言うとアストロは机に倒れ、ミミのうわ言も止んだ。
「・・・・じゃ、じゃあまぁ行ってきますわ・・・・」
現象とやらが気になった絵里であったが、倒れたアストロとミミを奥の部屋に運び、布団を掛けると役場に鍵をかけて外に出た。
「行ってきます。」
「出張に行く為にはこの電車に乗ればいいのか・・・」
アストロの机に置いてあった出張先の住所と行き方を見た後、絵里は目の前にある黒い蒸気機関車に乗り込んだ。
「しっかしさっきのは何だったんだ・・・?ポ〇モンのダウンロードコンテンツでもやり込んだのか?」
ブツブツと呟きながら、財布を取り出して駅弁を買おうとする。しかし絵里は気づいてしまった。「これ、アイツら寝惚けてるし役場の金で駅弁買ってもバレないのでは・・・」そう考えた絵里は迷った末、役場の金で弁当を買うのであった。
役場の金で買った弁当を食べながら、持ってきた書類を確認する。
そこには「映画館の収入前年比を調べる」
と書いてあった。絵里が書類を確認していると、なにやら辺りが騒がしくなっていた。
「お客様に申し上げます。只今原因不明のトラブルにより、列車の出発が遅れております。ご迷惑をおかけしますが、もう暫くお待ち下さい。」
車内アナウンスが流れ、ザワザワと他の客が騒ぎ出す。
絵里は弁当を食べ終え、辺りの騒ぎに耳を澄ませる。すると、どこからからか
「やっぱりあの流行病かしら・・・・」
「えぇ〜折角の旅行が台無しだよ〜」
と言う2人組の観光客の声が聞こえてくる。
どうやら最近謎の病気が流行っているらしい。もしかしたら朝のアストロやミミもその病気にかかってしまったのだろうか?そんな事を考えていると窓の外の景色がゆっくりと動きだした。
「えー...ご迷惑をおかけしました。この列車は・・・・・」
やっと動きだした事を伝えるアナウンスが流れるも、行き先の代わりにバタンッ!という大きな音が聞こえてきた。
またザワザワと乗客が騒ぎ出す。しかし絵里はその中で1人、コソコソと変な動きをするコートを纏った人物を見つけた。
「ん?なんだアイツ・・・ちょっと様子おかしくね?」
その人物は、乗客の騒ぎに乗じて他の車両に移動して行く。絵里もバレないようにコソコソとついて行く。
「ふぅ・・・・これでいいかな・・・。」
やがて最後尾の号車に来た時、コートを纏った人物は1番奥の座席に座った。
「何がいいんだ?」
絵里の突然の言葉に驚いたのか、肩をビクッと揺らしたが、次の瞬間には何事も無かったかのように
「ん?いやぁね、ただあっちは騒がしかったからってだけさ・・・・」
にこやかな笑顔でコートの人物は絵里に返答する。
「そうなんですね〜いや私も別に何も無いんですけど〜」
そう言って絵里が後ろを向いた瞬間、絵里は背後からの攻撃を受け意識を失った。
一方その頃、絵里が乗った列車は山中にかかっている橋の上をかなりのスピードで走行していた。
しかし、橋の丁度真ん中に差し掛かった辺りで突然急ブレーキがかかり、列車は大きな音を立てながら急停車した。
「な、なんでこんな高い所に・・・」
「しかも運転が止まっちゃってるわ!」
乗客達は突然橋の上で放置されてものすごいパニックになっていた。
「ん・・・・・ここどこだ・・・?」
絵里が目を覚ますと、そこは至る所に大量のダンボール箱が敷き詰められた狭い部屋だった。そして絵里の両腕と両脚は縄で縛られており、身動きが取れない。
「ッ・・・・なんだってんだ・・・」
絵里は身をよじらせ、なんとか壁の方に向かう。しかしその途中で積み上げられているダンボール箱に当たってしまい、下敷きになってしまう。
「クッ・・・・まさか私は何かしらの犯罪に・・・?」
絵里は自分の上に乗っているダンボール箱からはみ出た白い粉が入った小さな袋を見て、絶望するようにそう言った。
「しっかし・・・なんとかしてこの縄を解かないと・・・・」
しかし両腕も両脚もガッチリと縛られており、きっと刃物かなにかを使わない限り切れないだろうと言うことは、絵里も分かっていた。
「ハハ・・・私もここで終わりって訳か・・・」
乾いた笑いを漏らし目を閉じた瞬間、近くからなにか物音が聞こえた。
「だっ、誰かいるのか?」
絵里は小さく声を出した。すると声に呼応するように物音は近くなってくる。
「お、お前は何者だ?何がしたいんだ?」
ダンボール越しなので相手の姿は視認できないが、足音が近づいているという事はわかった。
「安心しろ、敵じゃあ無い・・・」
その声の主は絵里の上に乗っていたダンボール箱をどかすと、絵里を縛っている縄を一瞬で切断した。
「あ、あんた名前は?」
絵里は這いつくばっていたので良く見えなかったが、声の主が一瞬で自分を縛っていた縄を解いた。という事は分かった。
そして自由になった手足を使って絵里は立ち上がった。すると件の救世主は絵里よりも少し身長が小さく、全身にファスナーが散りばめられた少し痛めの服を着ている豚であった。
「・・・・あ、あんた名前は?」
絵里は苦笑いをしながらもう一度豚に尋ねる。すると豚は思いの外カッコイイ声で
「・・・俺の名はラティ・・・豚のラティだ。」
ラティと言ったその豚は謎のポーズを決めると、辺りにあったダンボール箱をまとめて吹き飛ばした。
「あ、あんた凄いわね・・・」
絵里にはその身体からは想像もつかないような俊敏な動きは見えず、代わりに残るのは狭い部屋ながらも2人が座れる程度の空間であった。
「まぁ座れ、大変だったな。」
ラティは胡座をかくと、絵里を労うようにそう言った。
「お、おう・・・・」
絵里は困惑しながらも、正座してラティの方を向いた。
「一体私は何に巻き込まれたんだ?お前がやったんだとしたらタダじゃ置かないぞ?」
絵里は先程まで縛られていた不満が溜まっているのか、少しイライラしたような口調で強めにそう言った。
「まぁまぁ・・・とりあえず順を追って説明するから待て・・・」
そう言うとラティは、ゆっくりとこの奇妙な事件について、語り出した。
「ふぅ・・・・途中で変な邪魔が入ったけど、無事に何とかなりそうだ・・・」
もう2時間が経ったと言うのに、一向に動かない電車に混乱が収まらない車内の中、1人不敵な笑みを浮かべるコートを纏った人物がいた。
「へぇ・・・それがアイツが言ってた薬か・・・」
しかし刹那の瞬間コートの人物の背後に、刺すような眼差しをした絵里が立っていた。
「お、お前は・・・さっき倉庫に閉じ込めたはず・・・・」
困惑し瞳孔を開いて焦るコートの人物、しかし絵里は淡々と、そして強い口調でこう言った。
「終わりがないから続き・・・これがッ!【ゴールド絵クスペ里エンス・レクイエム】!!」
そう言うと恐ろしい速度で放たれた絵里の拳が、コートを纏った人物を殴り飛ばした。
カモン!ケモナーの村 ゆるくちプリン @kawaii-miyabi
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