第5話 絵里さんと銀行とオニオンリング専門店

 今日も今日とて変わらない日常

 役場の中で誰も居ないのを見計らってタバコに火をつける。

 その後、スプリンクラーが作動し、大切な書類は水浸しになってしまうのはまた別のお話。

「絵里さん絵里さん。今日はここら一帯の銀行に行って融資継続のお願いをしてきて欲しいんだ。」

 水浸しになった床を拭きながら、アストロは申し訳なさそうに絵里に告げる。

「え?作者が半沢直樹にハマったからってそんな・・・」

 いや、そういう事じゃ無くてね。実は絵里さんがここに入ってきてから予算が以前の1.5倍になっていてね.....

 そう。実は絵里は賭場関係への事業金を多めにしており、最近新台入荷のペースが早くなっているのも彼女のせいだった。

「へ、へぇ・・・それは大変ねぇ」引きつった笑顔の絵里に対して、アストロは申し訳なさそうに続ける。

「だから、お願い!くれぐれも粗相の無いように!」そう言ってアストロに書類の入ったバックを渡され、絵里は役場を追い出された。

 

 

 追い出されてしまった絵里は街の中をぶらぶらしながら、一つ目の銀行であり役場のメインバンク。『フォックス銀行』に向かっていた。

 目的地は電車で十五分ほどの所にある『オールドドンク』と言う街だと聞いていたので、アストロから貰った交通費を浮かす為に歩いて向かっているのだ。それに、今駅に行って多目的トイレにでも入ろうものなら・・・・まぁ・・・うん。

 なんやかんやで役場を追い出されてから1時間。やっと銀行がある都市部に着いた。

 さすが都市部。高層ビルやら紫の巨大ロボットやら着物を着たタンスを背負った少年など沢山の珍しいものがある。

 そして通りにカエルの男が営んでいるタピオカ屋があったので覗いてみると、少し目が潤んでいて闇を感じた。

 まぁ多分隣の店がオニオンリング専門店だったからだろうが。うわ、なんか目がしょぼしょぼするわ。

 

 

 

「やっと着いた。ここがフォックス銀行か」

 疲れたと言う彼女の腕には、沢山の紙袋がぶらさがっていた。

「さて、お仕事お仕事!」そう言ってやる気を出し、店内に入ったその時だった。

「動くな!手を挙げてこちらを向け!」と言う大きな怒声と共に、覆面をつけたハイエナの集団がドアから現れた。

「え?」何が起こったか分からない。目の前にいる集団の手には銃火器、身体には防弾チョッキとプラスチック爆弾らしきものが。

 紛れも無い。強盗だ。

 

 

 

「オラ!早く金を持ってこい!警察に通報したら即撃ち殺すからな!」大声で受付嬢を脅す一際体の大きいハイエナ。

 一方、私達や他の客、銀行行員は銃で脅され、店の隅に集められていた。

 見た所、この強盗団の人数は六人。特にレジの前にいるハイエナは大きい。きっとボスなのだろう。

「なんでこんな事に・・・久しぶりに真面目に仕事しようと思ったのに・・・」そう言いながらタバコに火をつける。

「オイそこの人間!舐めてんのか!つーかこの状況でタバコ吸う?」大声で怒鳴られた。

 そして、煙が天井に触れ、もうお分かり。

 天井のスプリンクラーが作動し、水が大量に降ってくる。流石大きな銀行。役場の小さなものとは威力も水量も違うと感心しながら水を浴びていると、さらに怒鳴られる。

「はぁ・・・はぁ・・・おかげで水浸しじゃねーか!次やったらただじゃおかねぇからな覚悟しとけよ!」凄むが全然覇気がない。 元々フカフカの体毛が水に濡れてしんなりとしているからだろう。

 そうこうしている間に、頭領らしきハイエナと数人の部下は金庫から出された金をアタッシュケースに詰めている。

 わぁ凄いやあんな大金あったら一生楽して過ごせるんだろうな。

「しかし・・・あのハイエナの耳・・どこかで見たような。」頭領らしきハイエナの耳は少し他のハイエナより垂れており、可愛い小型犬を彷彿とさせる特徴的な耳をしていた。

 

 

「よし!詰め終わったぞ!次は逃走用の車だ!誰かこの中に車を持っているものはいるか!」金を詰め終わった頭領は大声で怒鳴るように言うと、私の隣にいたカンガルーの女性が恐る恐る手を挙げた。

 彼女のお腹の袋からは小さな可愛いカンガルーが心配そうに母の顔を見つめている。

「よし!その車の鍵を寄越せ!あと置き場所とナンバーを教えろ!」注文多いなぁ・・・

 このままじゃ逃げられちゃう・・・流石にここで逃がすのは通りすがりの役場職員としてどうなのだろうか。

 仕方ない・・・こうなったら

「ねぇ奥さん。アイツに鍵渡しに行ってあげる!赤ちゃんいるから不安でしょ?」優しい笑顔でカンガルーの母親に告げる。

「あ・・・ありがとうございます」カンガルーの母親はとても有難いというように頭を深々と下げ、すぐさまバックから鍵を取り出す。

「場所は南駐車所の33番です。」小さな声でそう伝えられ、

「分かりました!行ってきます!」そして私はハイエナたちの元へ向かった。

 

 

 

 

 後編へ続く。

 

「絵里さん・・・遅いなぁ・・」アストロはすっかり綺麗になった床を眺めて呟いた。

 絵里を追い出してから既に3時間が経っていた。

 元の予定ならもう帰ってきてるはずなのだが・・・

「まぁいいや。どうせ寄り道かパチンコでしょ」アストロはそういうと新しい書類に目を通し始める。

「え?なになに・・・最近新しい強盗団が出没中?物騒な世の中だなぁ・・・」

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