第12話 幼馴染のそのあと


「これで終わりだ」




 俺は槍を突いた。


 槍は互い違わずドラゴンの首に命中する。

 その瞬間、ドラゴンは声にならない声をあげる。おそらく喉をやられただろう。

 俺は地面に着地する。

 その後、ドラゴンはゆっくりと横に倒れ始める。


「おい!馬車!気をつけろ!」


 俺は、残りわずかの兵士や騎士に警告する。

 が、運良くドラゴンは馬車とは逆の方向へ倒れ始める。

 そして、ドスンと大きな音をたてて倒れ、そのまま動かなくなった。


「お、お、おお…」


「あ、ああ…」


 国王や騎士団長は驚きで声が出ていない様子。

 俺は、そこで初めて振り返る。

 目の前には顔を涙でぐしゃぐしゃにした姫。その後ろに、姫を挟むように国王と騎士団長がいた。


「うおおおおぉ!!!!」


「ああああああああぁぁぁ!!!!」


 その瞬間、騎士団長と国王が涙を流しながら俺に近付いてくる。俺は、抱きついてくる騎士団長と握手を求める国王を受け止めた。


「素晴らしいです側近様ァ!ありがとうございます!」


「本当にありがとう!お礼を言わせていただく」


 俺は、騎士団長を抱きながら、国王と握手をする。相当ギリギリなタイミングだったらしい。


「大丈夫ですよ。国王様と騎士団長様が無事で何よりです」


「いや、今回の件は私のせいだ。側近様を城に置いてきた私が悪かった」


「伝えてからくるべきでした。騎士団長として感謝致します!」


 俺は、騎士団長を離し、国王と握手を外す。

 そして、

 未だに涙をポロポロと流している姫の元へいく。

 近くに来ると、メイクは涙で流れ、目は真っ赤になっている。そして、俺を見るや、思いっきり抱きついてきた。


「ふぁぁぁぁーー!!ありがとぉ唯斗ー!ごわかっだよぉー!ほんとありがとぉー!」


「バカお前、その名前で呼ぶんじゃねえよ」


「うぅ……わぁぁぁぁ!!!」


「あぁもう!泣きやめ王女様!」


 俺の胸でギャーギャーと泣きまくる姫。俺はその姫の頭を撫でて、国王と騎士団長に聞こえないよう、小さな声で慰める。



「はぁ…。よしよし。もう大丈夫だぞ綾華」


「わたし、助けてもらってばかりで、何も出来なくて、ごめんなさいぃー!」


「大丈夫だ。俺がいるから。俺が守ってやるから。もう帰ろう」


「うんっ!ほんとありがとぉぉ!!」


 俺は、ギャンギャン泣く姫を1度、引き剥がしてから、右手は肩へ、左手はひざの裏に回し、持ち上げる。


 お姫様抱っこである。


「ちょっ!自分で歩ける!」


「うるさい。いいから黙って捕まってろ」



 そう言うと、素直に腕を掴む姫。

 俺はキョトンとしている国王と騎士団長に尋ねた。


「国王様、これからどうされますか?」


 そう言うと、国王は我に返ったか、俺たちに指示を出し始める。


「もはやこの状態ではジャスト王子に会うどころの騒ぎではない!一旦、国に引き返すぞ!マラガ王国へは私が事情を説明しておく」


 もうマラガには行かないらしいので、俺は行きに乗っていた馬車に乗る。


「おっさん、悪かったな。動いてる最中に降りちまって」


「いや全然いいですよ。事情が事情ですしね」


「ありがとう。国王様がああ言ってるからすまないけど折り返してくれないか?」


「分かりました。姫様の護衛は頼みますよ」


「お任せ下さい。命に代えてもお守りします」


 そんな会話をした後、俺は客席に姫を座らせる。姫はさすがに泣き止んでおり、今度は顔を赤くしている。俺はその隣に座り、姫に言う。


「おら、帰るぞ」


「う、うん。分かったわ」


 俺はちょっとぎこちなさそうな姫から視線を外し、窓の外を見る。そこには、俺がトドメを指したドラゴンを回収している騎士団がいた。


「すいません!あとは任せました!」


 俺は窓の外に向けて言う。すると、騎士団から、あーやらおーやら返ってくる。俺は、それを聞きながら、自国へと帰るのであった。


 ◆◇◆◇

 無事、国へ返ってきた俺は、姫の部屋で、若干傷心気味の姫の隣に座っていた。


「おい、いい加減ちょっと元気出せよ」


 すると、姫はぷいっとそっぽを向いてしまった。何故なのか。


「あんたが悪いんだからね」


 とか思ったら急に、俺が悪い宣言をし始めた姫。俺今回悪いところないと思うんだが?

 俺が言い返そうと口を開く前に、また姫が話し始める。


「あんたがいつもいつもなんだかんだで私に優しくしてくるから、なんだかんだで私がピンチな時に颯爽と助けてくれるから!だから私はいつまでたってもあなたから離れることが出来ないのよ!」


 泣きそうな顔で感情をぶつける姫。


「あの時だってそう!絵本を潰されて怒るのは私でしょ?なんであなたが怒ってくれるの!?あそこは私が怒るとこだったじゃん!今回だってそうだよ!なんで彼女でもないのに私が何も言ってないのに助けてくれるのよ!なんで何も言わずに出てったのに怒らないの!?」


 俺は、

 感情をぶちまける姫の話を黙って聞く。


「そんな私のヒーローみたいなあなたが!この先いなくなっちゃったら!」


 そして、涙ぐんだ姫は俺の目を見て、


 言った。




「どうやって、あなたなしで生きていけばいいの」



 そう言って崩れ落ちる姫。

 俺は、

 その姫の肩に手を置く。



「何を言ってんだ」



 そして、俺は言う。



「俺がお前の近くからいなくなることはないよ。これから先、ずっと一緒だ。だって俺たちは幼馴染だ。切っても切っても切れないんだよ」





 姫は顔をあげる。

 少し不安気な表情をしているが、

 俺は続ける。



「そして今の俺はお前の側近でもあるんだ。だからな、お前がどこに行こうとしても」



 そこで

 俺は微笑んで言う。







「ずっとお前の近くにいるんだよ」




 それを聞いた姫は

 涙を流しながら

 顔をだんだんとほころばせる。



 そして1粒の涙を流して、

 姫は笑って言った。








「ありがとう。大好きよ」







 不覚にもドキッとした

 俺に非はないだろう。









 その美しい笑顔は



 きっと誰が見ても一目惚れだから。






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