第10話 幼馴染として①


【姫目線】

 私は許嫁の王子と会うため、マラガ王国に向かっていた。

「あいつになんも言わずに出てきちゃったなぁ」

 私は、馬車に揺られながらあのクソオタクのことを思い出す。

「ふふっ」

 今頃、「クソ姫がいねぇ」って焦ってるんだろうなぁ。

 なんだかんだで助けてくれた幼馴染とは、もうお別れだ。

 ずっと隣に居座ってては迷惑だもんね。

 あいつに何も言わずに出てきたのは、自分にキリをつけるため。

 きっとあいつに伝えたら、また助けられてしまう。

 私とはただの幼馴染。もう彼女じゃない。

 だから、助けてもらう義理はない。

 もう私たちは、別れたんだから。


 急に馬車が止まった。

「国王様!王女様!大変です!ドラゴンが現れました!」

 ドラゴン?こんなところにいるようなモンスターではないはずだけど。

「なんじゃと?ドラゴンなどこんなところに生息するモンスターではないぞ!?」

 やはり、国王も驚いてる様子。

 馬車の窓から顔を出してみると、前方には大きなドラゴンが本当にいた。

 まるで、私が許嫁に行くのを拒むように。


「近くで見ると大迫力ね」

「王女様!そんなこと言ってる暇ではありません!このままではマラガ王国にたどり着くかどうか…」

 たかがドラゴンで何を焦っているのかしら。

 私の国の騎士団はドラゴン1匹で滅びるというの?

「ドラゴンでしょう?我が国の騎士団では倒せないと言うのですか?」

「それがこの騎士団の人数では敵わないかもしれません!何せ相手が最上級のドラゴン、黄金竜との事なので!」

 黄金竜?あの最上位の?

 私は思わず窓から乗り出すと、確かにドラゴンの体は金色に輝いていた。

 そして、何人もの兵士が吹っ飛んでいく。

 確かにこれは難しいかもしれない。


「ちくしょう!側近様がいないとこんなにも苦労するのか!」

「どうするんだ!このままでは姫の命も危ないぞ!」

「姫だけではない!国王様にも身の危険が!」


 焦る騎士団。倒れていく兵士。

 そして、幼馴染に頼る騎士団長。


「あぁぁぁ!!!ブレスで馬車が!」

「姫は!国王様は!大丈夫か?」

「大丈夫です!しかしこのままでは」

「クソ!どうすれば…!」


 前方で燃える馬車。

 悲痛な声をあげる騎士。

 頭を抱える国王。


 このままでは本当に危ない。

「姫様!危ない!」

 私はその声で馬車から飛び降りる。

 降りた瞬間、ドラゴンの口から出た炎によって馬車が燃え上がる。

 危機一髪だった。

 が、もう騎士団は半壊。

 兵士もほぼいない。

 ドラゴンの標的は私になった。


「グギルガァーーーーーッッッ!!!」


 そんな咆哮とともにこちらに歩いてくるドラゴン。


 この世界でもあっけなかったわね。


 さようなら、異世界。

 さようなら、みんな。



 さようなら、唯斗。



 ◆◇◆◇


【側近目線】

「おい!マラガ王国まではどのくらいで着くんだ!?」

 俺は隣の騎士に怒鳴るように尋ねる。

「何をそんなに焦っているんですか!?マラガ王国まではだいたい半日です!」

 ちくしょう半日か!間に合うか!

「焦るに決まってるだろ!マラガ王国付近で黄金竜の目撃情報とか聞いたら焦るだろ!なぁ、おっさん!」

 俺は御者台に座っているおっさんに話しかける。

「は、はい!私も少々焦りました」

 おっさんはしどろもどろに答える。

「ちっ、間に合ってくれよ…」

「にしても焦りすぎですよ!落ち着いてください!」

「うるせぇ!こんな強力な魔力感じ取ったのは初めてだよ!」

 そう、さっきから強大な魔力を嫌なくらい感じている。もう近くに黄金竜がいる証拠だ。

「え?側近様今なんて?」

「だから!もう近いにいるんだよ!黄金竜が!」

 ちくしょう、間に合え!


 でも、

 なんで俺はこんなに必死になってるんだろう

 もう別れたはずなのに、

 俺はただの幼馴染なだけなのに、

 なんでこんなにも…。


 違う。


 逆だ。


 彼女だから守るんじゃない。


 俺が、あいつが

 幼馴染だから守るんだ。


 俺は心のどこかで恐れてるんだ。


 あの時、

 あいつが他の男と歩いてるのを見つけた時。


 俺は知った。

 俺以外のやつがあいつの隣にいることを。


 俺はそれが嫌で、悔しくて、苦しくて

 俺は別れた。


 でも違う。違った。

 俺が捨てた席は

 その席はどれだけでも用意出来る。


 だけど、

 俺はまだという席は捨ててない。

 その席はたった1つしかない。

 しかも変更は受け付けない。

 俺しか座れない。


 まるでのように。


 俺はその席を、

 本来、一生移動出来ない席を、

 強制的に退かされる。



 俺はそれがたまらなく怖いのだ。

 また、

 あの時と同じような気持ちになるのが


 怖すぎるんだ。


 だから、


「俺はその席を守らなきゃいけねえんだよ!」


「見えましたよ!黄金竜!」

 御者台のおっさんが言った瞬間、俺は槍を持って動いているのにも関わらず、馬車から飛び降りる。

 目の前に見えるのは黄金竜と姫。

 姫はへたりこんで怯えている。

 その姫に黄金竜がにじり寄る。

 俺は駆ける。姫を守る為に。


「グガァァァァァーーーーー!!!!」


 黄金竜が姫に向かって火を噴く。


「軌道変換」

 俺はスキルを発動させる。


 そして、


 そのまま槍の石突きをし、


 炎目掛けて、俺は飛んだ。


 そのまま槍の穂先で炎をなぞる。


 炎はなぞった方向へ軌道を変える。


 その先に、









 姫はいない。





 俺はドラゴンと姫の間に立つ。


 そして、ドラゴンと向き合いながら


 お節介な幼馴染に


 振り返らずに、俺は言う。




「お嬢様、お迎えにあがりました」




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