第9話 姫の失踪


「ふぁ〜」

 クソ姫が色々聞いてきた翌日、俺はベッドの上で目覚めた。

「今日も仕事かぁ」

 俺はテキパキと身支度を終わらせ、部屋を出る。行き先は隣。クソ姫の部屋である。

「今日もノックしただけでグチグチ言われるんだろうな」

 もはや恒例行事とも言っていい朝の罵倒大会。先手は毎回俺だが。今日も今日とてやりますか。

「おい起きとるかクソ姫」

 俺はドアをノックする。しかし、返事がない。おかしいな。いつもなら「うるさいわよクソオタク!」とか言ってくるはずなんだが。

「おい!返事しろよ!」

 ダメだ。こいつまだ寝てやがる。

「ったく」

 俺は緊急用のクソ姫の部屋の鍵を取り出し、鍵穴に入れる。すると、カチッと音がしてドアが開いた。俺はドアを開けて入る。

「おい起きろや!ってえ?」


 そこには姫はいなかった。


 それどころか家具すらない。


「どうゆう事だ…」

 姫が失踪なんてする訳ないし、なんでだ。なのに、俺から連絡を拒否するかのように、連絡用の魔道具は置いてある。

「…とりあえず聞くしかねぇ!」

 俺は廊下を小走りする。心無しか、護衛の騎士の数も少ない。俺は近くにいた騎士に聞く。

「なぁ、姫知らないか?部屋にいなかっんだよ」

 すると、騎士は驚いたような顔で聞き捨てならないことを言った。

「え?お嬢様なら許嫁の方の国へ行かれましたよ。朝早くから」

「……はぁ!?」

 許嫁!?え、あいつに許嫁とか存在したの?

 いや、普通か。冷静に考えれば当然だ。


 姫に許嫁がいることは当たり前か。


 だからあいつ、昨日あんなに色々聞いてきたのか。

 だからあいつ、どこか悲しそうな目をしてのか。


 てか

 なんで俺に言わなかったんだよ!

 俺放置かよ!散々俺に迷惑かけといて放置かよ!てか待てよ。俺の仕事はどうなるんだ?

「ちっ、考えても始まらねぇ!」

 俺はもう一度騎士に聞く。ダメ元だが。

「なぁ、国王は?やっぱり一緒に行かれたか?」

 すると騎士は頷く。

 ちくしょうやばい。俺に何も言わずに行くとかあいつの神経を疑うわ!

「……とりあえず追います!」

「え、ちょ待ってください側近様!」

 俺は騎士の声を無視して駆け出した!


「はぁ…はぁ…」

 勢いで飛び出したのが間違いだった。だいたい俺は許嫁の国を知らない。情報収集を誤ったか。

「はぁ…ちくしょうどこだ…」

 考えろ唯斗。とりあえず言えるのは隣国のレバンテでは無いことは確かだ。あそこは王子じゃなくて、王女だからな。となるともう1つの隣国アルバンテか?いやでも、それならこんな朝早く出る必要はないはず。どこだ…。

 すると、後ろから声がかかった。

「ちょっと待ってくださいって言ったじゃないですか!」

 後ろを振り返ると、そこにはさっきの騎士がいた。

「騎士さん、わざわざ追いかけてきたんですか」

「そうですよ!場所も分からないのに行こうとしないでください!」

「だって姫が急に消えたんだぞ!そりゃ焦るだろうが」

 自分でもなんでこんなに焦っているのか分からない。でも、あいつを追いかけないと何がまずい気がする!

「だからですよ!私は場所を知ってるのでお供しよかと思ったんです!」

「!?それは本当か!?」

 俺は騎士の言葉に心底驚いた。

「はい。私も姫が心配なので」

「でもあんた、城の警備担当だろ?こんなことがバレたらまず職を失うぞ」

「それはお互い様ですよ、側近様」

「俺はいいんだよ。姫を守るやつならいくらでもいる。でもお前は…。いいんだな、騎士さん」

「大丈夫です。それなりの覚悟で行きますよ」

 そう言って手を差し出してきた騎士。俺は、そんな頼もしい騎士の手を握る。

「ありがとう。そしてよろしく」

「はい。お任せ下さい」

 仲間が1人増えました。


 ◆◇◆◇


「俺は側近として大焦りなんだが、でもなんであんたはそんなに姫のことに対して必死なんだ?」

 俺は乗合馬車を待ちながら、騎士に尋ねた。すると、騎士は少し頬を赤くして答えた。

「実は、僕は姫に対して忠誠心以上の気持ちを持ってしまって。そんな姫を悪評高いサラー家の王子には渡しておけなくて…」

 なるほどな。こうゆう世界で1人はいるよな、姫に恋する騎士。でもその気持ち、分からんでもないぞ。

 そうこうしていると、馬車が到着する。

「すいません!大急ぎでマラガ王国までお願いします!お金は払います!」

 そう言って馬車を操作するおっさんに大金を渡す騎士。

「あ、あぁ。わかったよ」

 そんな勢いに若干引き気味のおっさんが了承した。俺と騎士は急いで馬車に乗り込む。

「絶対、姫を助けて見せます!」

 気合い満々の騎士のお兄ちゃん。俺もそんな騎士に引きつつ、宣言した。

「あのクソ姫を連れ戻すぜ!!」

 騎士に引っぱたかれました。

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