第8話 原因
なんかあいつが好き勝手言ってて、私が悪いみたいな感じになってるけど、私だって言いたいことは山々あるんだからね。
あれは、恋人同士の時の話。
別れる1週間前のことだった。私たちは珍しく夜の公園でデートをした。バスケコートくらいの決して広いとは言えない公園で、薄暗い街灯に照らされながら、隣同士でベンチに座って雑談をしていた。高校での思い出話、幼馴染だった頃の思い出話、そしてクリスマスの話。クリスマスの話に至ってはデートの度によく話していた。よくもまぁ飽きずに話せたもんだ。そんな話の中の1つ、私たちが中学の頃の思い出話をしていた時だった。中学時代と言えば、あいつが涼本愛梨のことが大好きで仕方なかった時も入る。あの時の話は、私が関与しているためあまり好いていなかった。しかし、あいつはそんな私の気持ちに気づかず、どんどん話を進めていった。中学1年、2年と思い出を語り、当然、中学3年の話になった。
「中学3年生の時は……そうだなぁ。俺が初恋をした時だったね」
普通なら、彼女である私とデートしている時だから、他の女の子の名前を出すことはタブーだよね。他の女の子の話はタブーだよね。
あいつは夜空を見上げ、惜しむように言った。
「……涼本…元気してるかなぁ……」
それだけならまだ良かった。
「……やっぱ好きだなぁ…涼本」
彼女がいる前で他の女の子好きとか言うか普通!?
私は唯斗の横顔を見た。そして思った。
何よ、その顔は。
なんでそんな悲しそうな顔をしているの?
なんでそんなに感慨深くなってるの?
なんでそんな心底、惜しんでるの?
ねぇ…おかしいじゃん…。
でも、幻聴かもしれない。
そんな馬鹿な期待を込めて、私は聞いた。
「涼本さんのこと。今でも好きなの?」
そしたらあいつは夜空を眺めながら言った。
それもきっぱりと。
「あぁ。好きだな。多分、今でも」
そこで分かった。
心の中にはまだ涼本さんがいること。
私は二の次。
結局、私が邪魔して消えたと思った存在は、
まだあいつの中で大切な存在だった。
どれだけ私が唯斗のことが好きでも、
あいつの中では涼本さんが1番だったんだ。
そりゃそうだよね。
あんな振られ方をしたら、
忘れられるわけ、ないよね。
でも、その気持ちは、
私と付き合う時に、
捨てて欲しかったなぁ。
「…そうなんだね」
私は涙を堪えながら言う。
そんな私の様子にすら気づかないあいつの態度に、
私はもっと泣きたくなった。
涼本さんのことになると、
私のことなんて見向きもしない。
それなら私は必要ないよね。
結局、1週間後に別れた時も、
あなたは涼本さんのことについて、
私を激しく叱責した。
最後の最後まで
あなたは涼本さんしか見ていなかった。
じゃあ、あなたにとって
私はなんだったんだろうね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「幼馴染だろ?いや、やっぱ今は姫だな」
ほら、やっぱり。結局私はただの幼馴染。
そして、ただ側近として姫。
「じゃああなたの好きな人は?」
観光から帰ってきた私は、自分の部屋のソファーに座りながら聞く。
目の前には私の幼馴染で元カレの側近がいる。
側近は少しだけ悩んでから口を開いた。
「……涼本かなぁ」
やっぱり。
今でも変わらないのね。
私は気を紛らわすようにふふっと笑う。
「あんたも変わってないわね」
「そうだな」
側近はピクリとも笑わずに言う。
でも、それを聞けて安心した。
あなたにはまだ涼本さんがいる。
もう私がいなくても生きていけるわね。
「聞きたかったのはそれだけよ。ありがとうクソオタクくん」
「最後のは余分だクソビッチ」
「誰がクソビッチよ!」
「お前以外誰でもないわ」
「うるさいわね。とりあえず臭いからさっさと出てって頂戴」
「ふんっ、言われなくても出てくっつーの」
そう言って荒々しくドアまで歩いていく側近。そして、側近がドアを開けたタイミングで私は言った。
「ありがとね、唯斗」
それを聞いた側近は、驚いた顔をしていたがやがて、イラッとする顔でふんっと鼻を鳴らして言った。
「そりゃよかったよ、綾華」
そう言ってかつての側近はドアを閉めた。
それと入れ替わるように執事が入ってくる。
そして執事は言う。
「お嬢様。遂に明日ですね」
「そうだわね。どんな人なんでしょうね」
「お噂では、人柄もよく、とても親しみやすいお方だとお聞きしております」
「ふふっ、それを聞けて安心したわ」
「お嬢様がお気に召さって頂けると嬉しいです」
「それは顔を見てからのお楽しみですわね」
「はい。顔もかなりのイケメンとの噂なのでお似合いだと思います」
それを聞いた私はもう一度、ふふっと笑って言った。
「きっとそのはずだわ。だって私の許嫁ですもの」
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