第5話 隣国への旅行(道中)


 俺は腐っても側近。

 舐めてるあいつにひとつ教えなければいけない。


 トラックに轢かれて死んだ俺ではない。


 ガキ大将にボコボコにされた俺じゃない。


 俺は側近。姫を守る者。









 腐っても雑魚ではない。











だからといってチートみたいには強くないが


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あんた私を守るって言ってたけどそんなに強くないでしょ。むしろ雑魚でしょ」

 馬車に揺られながらクソ姫がなんか言ってきた。俺たちは今、隣国であるレバンテという国に向かっている最中である。目的は特になく、ただの観光といったところか。側近である俺は姫の護衛の為、渋々嫌々クソ姫と一緒の馬車に乗っている。

「俺が強くないって言う根拠を言ってみろやクソビッチ」

 俺は他の騎士に聞こえないよう、小さい声でクソ姫に言い返す。

「小学生の時、ボロカスに負けたの覚えてないの?頭大丈夫?」

 ちっ、いちいちイラつかせるうぜえ姫だなこいつ。

「あのなぁ、俺が誰のために喧嘩したのか覚えてないのか?あぁ?」

「負けてたら意味ないじゃん」

 クソ姫がふふんと鼻を鳴らして言ってくる。

「うるせえ。だいたいそれは小学生の話だろうが。今は雑魚かどうか分からないだろ?考えてもの喋れやこの貧乳王女が」

「あーっ!また貧乳って言った!昨日触らせた意味ないじゃん!ねぇ返して昨日のあの時間!ねえ!」

 バカヤロウ!声がでかい!俺はクソ姫の口を抑えて言う。

「うるせえ声がでけえよお嬢様!ちょっと大きくなっただけじゃねえか。それで貧乳脱出できたと思うなよ」

 幸い他の騎士には聞こえてないようだけど危ねぇ。こんな会話聞かれたら即死刑だわ俺。

「あの側近様。姫の口を抑えてどうされましたか?」

 御者台にいた騎士が振り向いて聞いてきた。ちくしょうそっちに目がいったか!何か言い訳をしなければ!

「お、お嬢様が馬車の揺れで酔われてしまいまして、お嬢様の恥をかかせないため口を抑えております。ご心配おかけしてすいません」

 ナイス言い訳!俺やるじゃん!

「そう言うことでしたか。妙な疑いをかけてすいませんでした」

「い、いえいえこちらこそすいませんねー」

 それを聞いて御者台の騎士は前に向き直った。

「危ねえ。あわゆくば死刑にされるところだったわ」

「死刑でいいんじゃないあんたなんて」

「辛辣だなおい。ん?いやでもありか。この忌々しいクソ姫から解放されるからむしろありだな」

「………やっぱ死刑じゃなくていいわ。あんたが嫌がることが私の1番幸せだからね」

 この性悪女が!ニコッて笑いながら言ってんじゃねえ!

 急に馬車が止まった。

「すいませんお嬢様。モンスターが現れました!今すぐ駆除致します!」

 と言って御者台の騎士が退治しようと降りようとしているが、俺はそれを止めた。

「騎士様。ここは私にやらしてください。まだ側近としての実力に信用のないお嬢様に信用してもらえるよう、私の実力を見せたいのです。どうか」

 と言って俺は頭を下げる。

「そ、側近様が!わ、分かりました。そこまで言うなら私はお嬢様の護衛に回ります」

「ありがとう」

 俺は馬車から降りるため立ち上がる。そしてクソ姫を横目に言い放つ。

「お前、俺が雑魚って言ったな。なら雑魚かどうかお前の目で見て確かめろ」

 俺はそう言って馬車を降りてモンスターと向き合う。熊のような身体に火がまとわりついているかなりごつい二足歩行のモンスター。

「……炎獣か」

 かなりの強敵である。俺はその強敵にまっすぐ歩いていく。

「ブオ゛オ゛オ゛オ゛ッッーーー!!!」

 そんな声とともに、炎のまとった拳を握り、俺の方へ走ってくる。

「いくぞ、相棒」

 俺の相棒、それは…


 槍だ


 槍の石突きを地面にぶつけると、槍を軸にして高く飛ぶ。足元を通り過ぎた炎の拳を眺めながら空中で体制を整える。そして通り過ぎた炎獣の首の後ろに焦点を定め、穂先で一突きする。炎獣は身体をビクッとさせたあと、ばたりと倒れる。まとっていた炎もそれと同時に消えて無くなった。


 その間、わずか10秒。一瞬だった。


「ふー、炎獣ぐらいならまだいけるな」

 俺がそう言って馬車に戻ると騎士たちから賞賛の声がかけられた。

「さすが側近様ですね!あの炎獣を一突きで倒されるとは驚きです!」

「世界一の槍使いと言われただけありますね!」

「素晴らしい一突きでした!」

 俺はその声一つ一つに頭を下げ、馬車に乗り込む。するとクソ姫と目が合った。クソ姫は驚いたような、見惚れたような表情をしていたが、やがてそれに気づいたのか、ふんっとそっぽを向いてしまった。俺はそんな様子のクソ姫の隣に座ると、窓の外を見ていたクソ姫が急に口を開いた。

「あ、あんたにしてはやるじゃない。見直したわ」

 …ったく、素直じゃねえなこいつは。俺はそんな様子のクソ姫に一言。

「ツンデレいただきました」

「ちょっ!べ、別にツンデレとかじゃないし!勘違いしないでよね!」

「それがツンデレだっつってんだよ」

 俺は思わず苦笑して言った。こんな見事なツンデレ見たことないわ。するとツンデレ姫が蚊の鳴くような声で言ってきた。

「………ちょっとかっこよかった」

 デレるのが早いなこいつ!俺はニヤニヤしながらツンデレ姫を見る。それに気づいたツンデレ姫が顔を赤くして言ってくる。

「ひ、人が素直に褒めてるんだからニヤニヤしてないでお礼のひとつでも言えないわけ!?ねえ!」

 ごちゃごちゃうるせえな!

「はいはいありがとうございます」

 俺は適当にあしらって顔を上げる。

 ツンデレも悪くないな。俺は真っ青な空を見上げながらそんなことを思ったのだった。

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