〜第二章〜冬
テストまでの一週間、俺は純恋さんに数学を教えてもらうようにした。毎日夕飯の後に一、二時間程度教えてもらうことにした。初日目は昨日やってなかったチャレンジ問題をした。正直全部ちんぷんかんぷんだったが、純恋さんの解説の甲斐あってか、ある程度なら自分で解けるようになった。二日目は、間違えた問題を一部抜粋してそれを一から解いてそれを純恋さんが添削してくれた。三日目、四日目、は、間違えた問題と同系統の問題を解き続け、それを純恋さんが添削。
そして五日目の土曜日。純恋さんは講義があるため、夕方までいない。俺はいつも通り11:30に起きて机に座り単語帳を開く。しかし十分もしないうちにやめてしまい、ゲームを触る。しかしこれまた三十分もしないうちにやめてしまった。今度は、リビングに降りて何か食べるものを探すが、結局なにも取らずに部屋に戻る。流石に集中できなさすぎると思い俺は携帯を手にした。携帯は冷たかった。そうして俺は電話をかける。和樹にだ。大体集中できない時は和樹と電話しながら勉強する。高二になって和樹との電話はなかったから、電話越しに和樹がびっくりしてるのが伝わった。
「もしもし?どうした珍しいな。」
「いや、少し集中できなくてさ。」
「まぁそう言う時もあるよ。」
「テニスがしたくてうずうずしてるんかな?ていうか、電話して迷惑じゃなかったか?」
「いや全然むしろ気分転換にいいな。」
「そっか、ありがどう。それでさ....」
しばらく俺たちは雑談をしていた、しばらくすると、和樹の方が
「んで、どうだ?純恋さんは?」
少し真剣に聞いてくれた感じがして嬉しかった。
「まぁ最初よりは良くなったよ。お前のアドバイスのおかげだ。」
少し笑いながら言う。
「よかったな、やっぱ自分から行くのは大事みたいだな。てか顔写真あんの?」
この前翼に言われたことだとわかったからからかわれていることはすぐに勘付いた。
「翼と同じこと言うなよ。」
「いや、純粋に俺も気になってさ、今度月曜に持ってこいよ。」
和樹が笑っていた。
「いや無理だよ。」
「じゃあもう電話切るわ。」
理不尽とわかっていたけど、切られては困る気がしたから
「わかったよ。出来たらな。」
となんとか濁した。
「ははっ、冗談だよ。でもそれくらい行かないと人は気づいてくれないぞ。」
和樹の笑い方が気に食わないのと同時にそんなことを和樹が言ったことによる驚きが俺の頭に流れ込んできて複雑な感情になった。和樹は俺と同じで女に興味がない。割とモテるで告白も何度かされている。けどそのたびにあいつは断り続けている。一方翼は女に飢えている。告白した回数は俺の知ってる限りでは三回。しかも俺の知ってる限りだからもっとしてることは間違い無いだろう。ほんと翼には和樹を見習って欲しいものだ。
「お前からそんな言葉が出てくるとはな。お前割とやり手か?」
「いやいや違うよ。でもお前もそう思わないか?」
「え?」
和樹の声が少し低くなる。
「人ってさ他人の心を完全に読むなんて出来ないじゃん。でもある程度読める人もいれば全く読めない人だっているわけじゃん。」
「うん。」
「だから、他人が自分の心をどれだけ止めてるかなんて、自分にはわかんないじゃん。」
「…」
「だからさ、伝わらないよりは大胆に伝えたほうがいいこともあるんじゃないかな?」
「なんか、深いな。」
「そうか?まぁいいや勉強頑張れよ。次こそは勝つからな。」
「あぁ、じゃあな。」
電話は切れた。俺の体感では一時間以上話したつもりだが、携帯の画面を見ると、00:25:41と表示されていた。思ったよりもずっと短かった。そして勉強する目的でかけたのになぜか和樹の話に入り込んでしまっていたことに今更気づく。切り替えて勉強に取り掛かろうとした。しかしやはり集中できない。でも今の集中できない理由は明らか。和樹の言葉が頭から離れないのだ。
『大胆に伝えた方がいい』
今の俺には到底できそうにない。純恋さんに特別な感情を抱いてるわけでもないのに。今考えても無駄だ純恋さんが帰ってくるまでなんかしないとな、和樹にも負けられないしな。あいつの自信は割と本物であることが多い。前回初めて負けた時も、俺に同じことを言っていた。なんかそう考えると気合が入ってきた。結局あいつとの電話のおかげで、集中するきっかけができた。結果オーライだ。とはいっても、苦手教科ができるほどではなさそうだったので、俺は国語の現代文の問題集を解くことにした。俺は現代文のできは、自分で言うのもあれなんだが、この学校内では俺の上に出るやつはいないと思う。なぜなら、模試や定期テストでは、入学以来ずっとダントツで学年最高得点を維持し続けている。なんなら全国模試で満点すらとったこともある。しかし古典は現代文ほどできるというわけではないので国語総合という観点で見ると学年で二、三位に落ちてしまうことが時々ある。集中できていたのだろうか、しばらくして携帯を見ると、15:23と表示されていた。区切りがよかったので、次はテスト一日目の教科である世界史を始めた。記憶力にもなかなかの自信はある。小さいころから覚えるということは好きだったので、暗記物に触れる機会は多かった。その積み重ねだろう。もうほとんど覚えきったところで教科書を閉じる。携帯を覗くと、16:10と表示されていた。もうそろそろ純恋さんが帰ってきてもおかしくない時間帯だ。彼女が帰ってくるまで俺は翼に電話をかけることにした。。どうせあいつは勉強してないだろう。発信ボタンを押すとすぐにつながった。
「おいふざけんなよ、ゲームオーバーなったやねぇか。」
「ごめんごめん、ていうか勉強しろよ。また先生にぼろくそ言われるぞ。」
うちの学校は少し学力主義みたいな風潮がある。なので成績が悪い奴はいろいろ言われたり、最底辺ともなると何も言われなくなる。
「余計なお世話じゃ、もう言われなれとるけ大丈夫。」
「おまえなぁ。」
「人生楽しんだもの勝ちだ。勉強がすべてじゃない。」
「お前なんでこの高校来たんだよ。」
「お前がいたから?」
俺と翼は小中同じだ。中学の時翼は目立って成績が良かったほうではない。それゆえなぜ翼がこの高校に進学できたかは謎である。
「軽々しく言うなよ。」
「別にいいじゃねぇか。てか一緒にゲームやろうぜ。対戦しようや。」
「おっけ。」
翼が心配だったがこれ以上言ったところで意味はない。俺は翼のオンライン型のシューティングゲーム対戦に付き合うことにした。翼のゲームのセンスは超人的だ。このゲームにはポイントがある対戦に勝つとポイントがもらえて、負けると奪われてしまう。そしてそれはひと月ごとにリセットされてしまい、その月でだれが一番多くポイントを稼いだのかランキングが上がる。といってもランキングに載るのは上位百人のみしかもこのゲームユーザーが二千万人以上いる。だからランキングに載るやつはゲームに命をささげた人たちしかいない。その中に翼は何度かはいったことがあるのだ。怖いことにあいつがこのゲームを始めたのは高二の時からなのだ。このまま学校やめてゲーム業界に入っても飯が食える気がする。そんな翼に俺が勝てるはずはなく、大体あいつにはハンデを背負ってもらう。まぁそれでも勝てないが。七回したところで今日も全敗だった。
「お前弱すぎな。」
翼が笑う。
「お前が強すぎなんだよ。お前プロゲーマーになる気はなかったのかよ?」
「んー、あんまガチガチにゲームしたくはないな。」
説得力が全くない。
「月間ランキングに載られたお方が何をおっしゃる。」
すると一階の方から陽気な声が聞こえた。
「ただいまー。ごめんね、おそくなって。」
純恋さんが帰ってきた。
「悪い。純恋さんが帰ってきたから切るわ。」
「わかった。大事にしろよ。」
「へいへい。」
電話は切れた。携帯の時間を見ると18:40と表示されていた。空はまだどこか明るかった。ずいぶん長いことゲームしてたことに気付く。すると純恋さんが部屋に入ってくる。
「ごめんね。寂しかったでしょ?」
「いえ、そうでもないです。というかノックぐらいしましょう。」
「もー、そこは寂しかったっていうとこでしょ?」
「そんなの知りませんよ。」
「じゃあ、私夕飯の用意するね。」
純恋さんが部屋を出ていこうと、背を向けた。すると俺は考えるよりも先に自然と口を開いていた。
「あ、あの。」
純恋さんがこっちを振り向く。
「なぁに?」
「き、今日も、お願いします。」
しっかりと目を見ながら言った。もう一週間一緒に住んでいる。直視することはできるようになった。
「もちろん!わかってるよ!」
微笑んでくれた。そして彼女は台所へ向かう。伝わったのか、俺にはわからない。でも俺なりに伝えた。大胆じゃないかもしれないが。
夕飯を終え、いつも通り純恋さんに数学を教えてもらう。今日は純恋さんが同系統の問題を持ってきてくれた。夕飯の時はやはり彼女の質問の嵐で俺がそれに素っ気なく答えるだけだった。また、教えてもらう時も俺はただただ彼女の話を聞いてたまに相槌をうつ。そして終わったのでお礼を言って風呂に入る。湯船につかってる間も和樹の言葉は離れなかった。どこまですればいいかわからない。どこまでいけば伝わるのか。でも俺は彼女を姉として受け入れてない。大胆に伝えすぎるのも危険だ。ずっと考えていると。
「おい、いつまで入ってんだ?早く上がれよ。」
親父の声だ。
「今から出るところ。」
そう返事をして風呂から出ようと立ち上がる。すると目の前がぼやけて意識がもうろうとする。しばらくするとおさまった。湯船につかりすぎたのだろう。パジャマを着て部屋に戻る。純恋さんはいなかった。レポートでも書いているのだろう。俺は机に向かった。すると電話がかかってきた。翼からだ。
「もしもし?」
「あぁ、涼太?わりぃ、英語の文法問題でわかんねぁとこあるんだけどさ、教えてくれないか?」
「いいよ。ただし明後日カツ丼おごれよ。」
「くそ、わかったよ。」
「ふっ、お前にしては珍しいな要求を飲むなんて。」
「次欠点とったら追試なんだよ。背は腹に変えられないってやつだ。」
翼は壊滅的に英語ができない。うちの学校は四十点未満が欠点扱いとなる。そして中間考査、期末考査の平均点が欠点だと追試になってしまう。翼は今学期の中間考査で二十点だ。つまり追試を回避するには六十点以上が必要。俺からしてみれば教科書ノールックでも取らないような点数だが翼にはそれが無理なのだ。なんせあいつの英語の最高点は六十五点だ。ちなみにそん時は一年の時で俺と翼と和樹は同じクラスだった。俺は和樹と答案を見せ合っていた。俺が九十三点で和樹が九十九点だった。するとそこに翼が割り込んできて目を輝かせながら六十五点の答案を俺と和樹に見せてきた。俺と和樹はその場で笑ってしまった。馬鹿にしてるわけではなく純粋に面白かったのだ。その時の子供がカブトムシ捕まえてきたみたいな顔は今でも忘れられない。
「なるほどな、でもお前何気にまだ一回も追試なってないよな。」
「確かにな、でも今回はほんとにやばい気がする。」
「それで俺に電話をしてきたと?」
「そういうことだ。だから頼む。」
「わかったよ。」
そうして俺は二時間近く翼に英語を教えてやった。翼は意外と真剣な時は真面目に聞いてくれる。だから割と教え甲斐がある。しかも理解するのもなかなか早い。授業ちゃんと聞いてさえいれば欠点なんて取らない気はするけどな。
「ありがとう神様、これで欠点回避成功だ。」
「まだわかんねぇよ。まぁ頑張れ。じゃあな。」
「またな。」
電話は切れた。携帯が熱を帯びていることが俺の携帯を持っている手の感触からわかった。携帯の時刻を覗くと、23:15と表示されていた。人に教えると自分の勉強にもなる。だから俺は英語の勉強は今日の分は終わりとした。ベッドに入ろうとすると、
「入るよー。」
と言って扉があいた。純恋さんだった。無言で勝手に入られるよりはよかったので今回は何も言わなかった。
「どうしたんですか?」
すかしたように言う。
「暇だから来ちゃった。」
笑顔で言う。
「別に何もしませんよ。というか寝ますし。」
「じゃあ一緒に寝よう!どうせ一人だと寂しいでしょ?」
そういうと部屋を出て行った。なにがしたかったんだと思うとすぐに戻ってきた。枕を抱きかかえて。
「それじゃあ寝よう!」
と言って有無を言わずに俺のベッドに入る。そして少しスペースを空ける。
「勝手に話し進めないでください、いいとは一言も言ってないですし、寂しくもありません。」
「えー、こんなに可愛い子が一緒に寝ようって言ってるのに断るの?」
「僕からすれば、大人ですけどね。」
可愛いことは紛れもなく事実だったので否定はしなかった。あと自分のこと可愛いというあたり少し自意識過剰なのかと思った。
「もう、とにかく自分の部屋で寝てください。僕が寝れないじゃないですか。」
「じゃあ、私の布団で寝たらいいじゃん。ただ寝どころが変わるだけだよ。」
多分この人俺がそれをしないと分かって言ってる。悔しいが完全に読まれている。返す言葉を失い戸惑う。こういう口論では基本的には俺が論破する形で終わる、論破されたことがあるのは実母と和樹くらいだ。久々に論破された気がして悔しい。おどおどしていると、
「ほらほらー、素直になりなよー。今なら添い寝で甘やかしてあげるよー。」
そう言いながら、純恋さんはベッドのスペースを手でやさしくトントンしている。今度は普通に誘惑してきた。うざいことに変わりはないのだが、前よりはなかった。悔しいのは、わずかながらもどこかで行きたいという気持ちがあることだ。俺は彼女に遊ばれている気がした。
「俺床で寝ます。」
これはさすがに予想してないだろう。
「えー、そんなに一緒に寝るのが嫌なの?」
「もう子供じゃないんで。」
自分の気持ちに正直になり、嫌とはストレートには言わなかった。
「むー、流石に風邪をひかれると困る。今日は戻るとしよう。」
「そうしてください。」
「一緒に寝たくなったらいつでも言ってね!おやすみ!」
「はい。」
純恋さんは枕を持って部屋を出た。どうせまた自分からお願いしに来るのは言うまでもなく予想がついた。俺はベッドに戻った。そして電気を消して眠りについた。
六日目、テスト二日前の日曜日、俺はいつも通り十二時に起きた。携帯を見ると翼からメールが来ていた。
『一時に学校付近の図書館に集合。和樹も呼んでる』
俺の普段の起床時間を知ってるからこその時間帯だ。
『わかった』
そう返事をして服を着替える。体感的にはそんなに寒くなかったので長袖長ズボンだけ着て上着はもっていかなかった。三人で図書館に行くのは試験期間中の恒例行事だ。だいたい翼が誘う場合がほとんど、和樹からは二回程度、俺から誘ったことはない。着替えを済ませ洗面所に向かう。歯磨きと洗顔を終えて、荷物を持って玄関に行くと階段から純恋さんが下りてきた。今日の講義は休みになったらしい。
「あっ、どっかでかけるの?」
「はい。ちょっと友達と図書館で。」
「そうなんだ、いってらっしゃい。」
俺が玄関の扉を開けると、純恋さんは俺に笑顔で手を振っていた。軽く会釈して扉を閉める。図書館につくと入り口うらにある駐輪場に自転車を止める。入り口付近に行くと翼と和樹がいた。
「よし、揃ったな。」
三人は中に入る。図書館特有のいい匂いがする。俺はこの匂いが好きだ。ここには自習スペースがあり、俺たちはそこで勉強する。エアコンも完備されていて程よく温かい。そして机が一つ一つ離れているので集中しやすい。もちろんしゃべることは禁止だ。だから俺たちはここではメールでコミュニケーションをとる。まぁ大体の学生はそんなもんだろう。基本俺と和樹からメールをすることはない。大体一時間おきに翼から休憩したいメールがくる。そして俺たち三人は館内の休憩室に行く。ここでは、大声でなければ会話をしてもいい。ある程度けじめをつけるため休憩室には二十分以上いないようにしてる。そして大体夕方になると翼は寝始める。ここの図書館は、夜の九時まで開いている。途中で帰ったことはなく、俺たち三人はいつも最後まで残っている。翼の意識以外はな。九時になり帰る準備をして翼を起こしに行く。睡眠が深いせいかなかなか起きてくれない。何のためにここへ来たんだ。昨日追試が迫っていて焦って電話をかけてきたやつだとは思えない。ようやく起きたところで俺たちは図書館を出る。外はすっかり暗くなっていた昼夜の気温差のせいか出ると冷たい風が吹いていた。上着を持ってこなかったことを後悔する。
「ふわぁー、がんばったー。」
帰り際に言う翼のきめ台詞だ。
「爆睡してて何を言う。」
「ほんとお前大丈夫かよ。」
俺と和樹が言う。
「まあまあ、追試にならなきゃ勝ちだ。」
誇らしげに言う。
「お前にプロゲーマーの道を強く勧める。」
俺が言う。
「確かに、お前なら年収八桁いけんじゃね?」
和樹が付け加えるように言う。
「いや、ゲームは娯楽だ。仕事じゃない。」
名言みたいなことを言う。正直なにも響かない。でも翼らしいことだった。そしてしばらく歩く。
「よし、着いたな。」
翼が言う。着いたというのは、俺たち図書館の帰りに必ず寄るラーメン屋のことだ。店に入るとすぐに注文する。注文するものは決まっている。三人とも醤油ラーメン、俺たちはがここに初めて寄ったのは、高一の二学期の中間考査の前だった。その時は普通に腹が減ってとりあえず何か食べれればいいやという感覚でメニュー表の表紙にあったおすすめの醤油ラーメンを三人とも注文した。まあ普通のラーメンとあまり変わらないだろうと思っていたがあまりのうまさに感動した。それ以来図書館の帰りには必ずここに寄ることにしている。話しながらラーメンを食べ終え会計を済ませ店を出る。そして駅まで歩き着いたところで二人と別れ、自転車を飛ばして家に帰る。家に入ると少しにぎやかだった。親父と優子さんと純恋さんがリビングで話していた。夕飯は食べて帰ることは親父は把握済みなので、リビングにはいかず洗面所に行き手洗いうがいを済ませて部屋に行った。部屋に戻るや否や携帯を見る時刻は10:20と表示されていた。家から図書館までは大体二十分くらいで着く。結構長くラーメン屋にいたことをいまさら気付く。それと同時に純恋さんに数学を教えてもらってないことにも気づいた。でも彼女はリビングにいるし、三人ともいることはわかってるのでどこか行きづらかった。少し待てば彼女からこちらへ来るだろう。約五分後、その予想は見事的中純恋さんがやってきた。相変わらずノックもせずに。
「ノックしてください。」
もう定番のセリフになっていた。
「ごめんごめん忘れてた。」
もう忘れたでは済まない。絶対彼女もわかってるはず。
「小学生みたいですよ、その言い訳。」
「別にいいじゃん。」
「はい。」
きりがないと思い区切りをつける
「今日はどうする?」
少し真面目な顔になって純恋さんが聞く。
「お願いします。」
即答した。
「わかった。先に風呂入ってきなよ。すぐ寝れるでしょ?」
「わかりました。」
意外とそこら辺の気遣いできる人なんだと感心した。風呂に入り頭、顔、体の順に洗い流し湯船につかる。そしてパジャマを着て部屋に戻る、純恋さんが携帯をいじっていた。今思えば純恋さんが携帯をいじってるのを見るのは初めてだ。すると、純恋さんは携帯をポケットにしまった。
「早かったね、じゃあ、始めよっか。」
「はい。」
純恋さんの授業が始まる。笑いが出るほどわかりやすい解説で、約一時間半退屈することなく終わった。
「ありがとうございました。」
「どういたしまして!後、私明日講義の後に合コンがあるからおそくなる。ごめんね。」
「いえ、大丈夫です。楽しんでください。」
「ふふ、ありがと!おやすみ!」
「おやすみなさい。」
純恋さんが部屋を出る。今日はかなり充実した一日だった。俺はベッドに入り携帯を開く時刻は0:10と表示されていた。帰ってきた時間から考えると風呂の時間がいつもよりかなり短かったことがわかる。そう思うとなぜか急に眠くなってきた。俺はその眠気に逆らわずに寝ることにした。
七日目、テスト前日の昼休み、俺はいつものメンバーと学食に来ていた。
「おい翼、おとといの約束守れよ。」
「わかってるよ。ほら、おつりかえせよ。金欠なんだから。」
「はいよ。」
俺は翼から千円札をもらう。昨日ラーメン屋に行くことを躊躇わなかったあたり嘘だということはすぐにわかる。券売機で券を買って、雑談しながら飯を済ませ教室に戻る。テスト前日がゆえに、教室では自習してるやつが大半だ。席について俺たちは自習をしたその流れで五、六限と過ぎていった。そしてもちろん、翼は爆睡。
家に帰り、少しゲームをして夕飯を食べる。親父は仕事、純恋さんは合コンでいない。そして優子さんだけがいるので必然的に優子さんと二人での夕飯になる。優子さんは、俺がコミュニケーションが苦手であることを知っているのか、あまり話しかけてはこなかった。しかし半分くらい食べたころだろうか、優子さんが俺に質問してきた。
「涼太くん、純恋はどう?」
「いえ、特に不満はないですよ。」
空気を悪くしないように少し嘘を言う。いいところもあるが正直不満なところのほうが多いかもしれない。
「そう、それならよかった。」
少し安堵のこもった笑顔で言う。
「どうしてそれをきこうとおもったんですか?」
御幣を生まないような言い方で聞く。すると優子さんは少し不安を含んだ笑顔でこう答えた。
「あの子、昔から子供や年下の子が大好きでね。多分あの子、弟ができたことがすごくうれしいのだと思うの。だから涼太くんがあの子に迷惑してないかなと思ってね。」
迷惑はまあまあしてるし、勝手に弟にしないでほしいという思いはあったが口には出さなかった。
「いえいえ、全然大丈夫です。」
「ありがとう。」
この会話以降食べ終わるまで終始優子さんは話しかけてこなかった。夕飯を終え部屋に戻る。俺は、純恋さんが帰ってくるまで明日の教科の勉強をする。うちの学校の期末考査は十二教科で一日三教科で四日かけて行われる。明日は、数一A、現代文、世界史の三教科だ。現代文に関しては安泰だ、世界史も特に問題はないだろう。数学も純恋さんに教えてもらったから大丈夫だな気がする。最終確認のため試験範囲をもう一度見直す。英語は文法事項を見直し、現代文は特に何もしない。文章の中に答えがあるからだ。世界史は年号と出来事を一致させる。そして人物の生没年を覚える。なぜか世界史の先生が生没年を出したがろうとする。正直生没年さえなければ学年平均は爆上がりする気がする。そんなこんだで確認を終え、後は純恋さんが帰ってくるまで翼を誘ってゲームをする。俺は翼ほどではないがゲームはする。かなり前に翼から聞いた話だが、俺や和樹はクラスの奴らからガリ勉と言われているらしい。俺や和樹も嫌いとまではいわないが、勉強はそんなに好きではない。ただやるべきことをしてるだけだ。しいて言うなら現代文は他の難問集みたいなのをしてるくらいだ。それ以外は学校の教材だけでやっている。だからやることはみんなと変わらない。正直このクラスの奴らがおかしい気がする。ただ当たり前のことしてるだけなのにガリ勉とか、みんながしてなさすぎるだけな気がする。その証拠に、前回の中間考査の数学、欠点が半分近くいたし。クラス平均も欠点だった。難関クラスという名前はもはやお飾りだ。正直俺は数学苦手だが、学年平均は下回ることはない。それに比べ理系の難関クラスの平均は九割近かったし、理系の標準クラスでさえも六割切らなかった。しかしこういうことは想定の上だった。先生にも理系を勧められたが、将来のことを考えたうえでの文系選択だったので今更文句は言えない。まわりがどうであろうと結局は自分との勝負、希望の大学に受かるため、将来のためにするんだ。そう考えると少しやる気が出てきた。俺はきりがいいとこでゲームをやめる。携帯の時刻は20:53と表示されていた。空はすっかり暗くなっていた。すると玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー。」
いつもの陽気な声、純恋さんだ。純恋さんが合コンに行くイメージはそんなになかった。あんな容姿だから、きっと男みんな彼女を狙うだろう。そういえばあの人彼氏いるのか、そもそもできたことあるのか、少なくとも告白された回数は二桁な気がする。それもほとんどが一目惚れだろう。純恋さんが部屋に来るまで俺は世界史の教科書を読むことにした。年号や語句は完璧なので、生没年を覚えることに専念した。基本年代は語呂合わせで覚えることがベタだとよく聞くが、俺は語呂を考えることがそもそも無駄だと思い、真面目に数字として覚えている。その方が記憶違いは減りそうな気がするからだ。まぁこんなこと言っても誰も共感してくれた人はいない。あの翼と和樹もだ。試験範囲の半分くらい読んだとこだろうか。純恋さんが部屋に入ってくる。
「ごめんねー、なんか男性陣の誘いがしつこくて、断るのに時間かかっちゃった。」
笑みを浮かべていたがどこか疲れているようだった。
「無理しなくていいですよ。今日はもう大丈夫ですから。」
いつものような冷たい口調ではなく、少し暖かく言う。
「いや、せっかく頼んでくれたのに途中でやめるわけないでしょ。」
強く陽気な口調になった。
「あ、はい。じゃあお願いします。」
なんか少し気圧された気がしたが気にしなかった。俺は純恋さんの解説に耳を傾ける。今日は試験範囲の復習とそれの応用した問題を解いた。やはり分かりやすさは天下一品ものだ。今日は約一時間と少し短めだった。でも俺の体感時間では三十分ぐらいだった。以下に集中して聞いてたかがわかる。
「ありがとうございました。」
いつものようにお礼を言う。
「どういたしまして!明日からテストでしょ?頑張って!」
「はい。ありがとうございます。」
そして、純恋さんは部屋を出る。そして俺は明日の準備を済ませ就寝した。テスト前日は早く寝るようにしている。ケアレスミスを減らすためだ。よく一夜漬けしたら間に合うとかいうやつがいるが、それはただミスが増えるだけだし、内容もそこまで頭に入らない。まさに百害あって一利なしだ。大体二十分たった時俺はもうすでに眠っていた。
テスト当日、最初は世界史で幕開けとなった二学期期末考査。世界史は特に問題はなかった。暗記したものを答案に書くような作業だからだ。たまに思考力を問う問題もあるが周辺知識との因果関係をはあくしてれば簡単だ。そして答案を書き終えた十分後。終わりを告げるチャイムが鳴る。休み時間になったとたんみんなは急いで廊下へ行き、自己採点や次の教科の確認とかで騒いでいる。俺は和樹と翼と集まって少し迷った問題の答えを一、二問程度確認する。大体俺と和樹が一致して、翼が外すのがお決まり。次の教科は現代文。これは安泰だ。問題をもとに本文から抜き出したりパーツを集めてつなげるだけだ。今回も楽勝だった。俺は二十分分近く残して試験を終えた。そして廊下で三人で答えを確認しあう。そして今日のラスト、数学だ。数学に関しては試験時間が五十分が一時間に増える。しかしそれでも間に合わない人も多い。始まりのチャイムとともに俺はペンを走らせる。序盤はそこまで迷うことなく進めた。しかし問題は中盤からだった。難易度が一気に上がる。いわばここができるやつとできないやつの境目のようなとこだ。しかし今までの俺はここからとけなくなりはじめてたが今回は違う。少し戸惑ったが解法がちゃんと身についてたおかげでなんとか回答できた。そして最後の大問。大体ここら辺は部分点どまりで回答にたどり着ける人はほとんどいない。完答に関しては二、三人いるかいないかのレベルだ。普段の俺ならそもそも見ないで最初からミスの点検をしていた。でも今回は本気でいい点を取りに来た。俺は問題文から必要だと推測した知識や今まで純恋さんに教えてもらった回答を統合させながらペンを走らせる。すると突然チャイムが鳴り結局回答まではたどり着けなかった。
二日目、今日は物理、日本史、保健だ。最初は物理。多少曖昧なとこはあったが、そこまで問題はない感じだった。日本史は世界史に比べ問題がよく勉強しやいので特に迷うことはなかった。最後は保健。意外とこの教科は順位の分かれ目となる。というのも保健は入試には出ない教科ということで勉強しなかったり、疎かにするやつが多いのだ。俺や和樹が順位がいいのは少し保健のおかげでもある。今日は基本暗記が中心的な教科だったので、楽勝だった。
三日目、今日は古典、化学、数ⅡBだ。最初は古典。古典に関しては少し油断はできない。なぜか俺は古典だけちょこちょこケアレスミスをしてしまうことが多い。ひらがななのに漢字にしてしまったりと、なので終わっても見直しは徹底した。化学は語句や現象の仕組みさえわかれば応用が利くので特に問題はなかった。最後は数学だ。俺ら文系は特に数ⅡBができない人が多い。二年になって以降クラスの平均点は欠点回避できたことない。まぁ理系の人は数Ⅲがあるから数ⅡBができないとか言ってる場合じゃないのだろう。俺はペンを走らせる。やはり難易度はⅠAよりも高く終盤はあまり手がつかなかった。でも普段ならいけてないところまで行けたのは成長だった。
最終日、今日は生物、コミⅡ、英語表現だ。コミは長文読解で、英語表現が文法だ。ちなみに翼が追試が危ないのは英表のほうだ。最初の生物は選択科目が物理なので、必然的に難易度は落ちる。なので全然問題なかった。コミⅡは、文章が教科書から丸まる出るので簡単すぎる。時間は三十分くらい余した。英表は、コミに比べ少し難しい、長文は感覚で解けるようなところがあるが、文法は理解を問うので少し感覚だけではできないところもある。しかし俺は英語は得意としている、最後少し迷ったが特に問題ないだろう。こうして期末考査は終わった。自分で言うのもあれだが、今回はかなり好成績な気がする。終礼が終わり解散になると、帰る人もいれば部活があって昼食をとる人もいる。俺と翼は部活があるので学食へ向かう。和樹は家の用事で帰ってしまった。二人での学食はかなり珍しい。いつものように券を買って飯を受け取って二人で向かい合うように座った。
「お前今回どうだった?」
翼が聞いてくる。
「んー結構いい気がするな。」
「お前ができたっていうの初めて聞いた気がする。」
「割と数学が解けたからな。」
「へー、和樹に家庭教師してもらったのか?」
「いや、純恋さんに教えてもらったんだ。」
「おー、いいねー!T大生がいると授業聞かなくてもいいな。」
こいつ、大きな勘違いをしている。
「それは違うぞ。」
「えー、そうか?」
「そうだ。」
「ていうか顔写真見せろよ。気になって夜も眠れないんだ。」
この野郎、こっちの事情も知らないくせに。
「だからないっての。」
「しらばっくれんなって、ほんとは毎日イチャついてんじゃねぇのか?」
「んなわけねぇだろ。」
この前の反省を生かして、声を小さくする。
「もっとグイグイ行けよ。可愛いなら即アプローチするべきだろ。」
和樹にはともかく、こいつに純恋さんを会わせたら大変なことになりそうだ。
「仮にも姉だ。するわけねぇだろ。」
「おー?この前は姉として受け入れてなかったのに、進展してますねー先輩。」
翼に上げ足を取られた。なんか負けた気がしてむかついた。
「はあぁ、あのとき電話でなけりゃよかった。」
独り言のように皮肉を込めて言う。
「そう怒るなよ。さっさと食っていくぞ。」
「わかったよ。」
そうして昼食を済ませそれぞれの部室に行く。途中で翼と別れる。テニスコートのほうからぼーっるを打つ音が聞こえる。久々の部活で少しテンションが上がる。うちの男子ソフトテニス部は二年が俺を入れて四人、一年生が六人と程よい人数だ。俺は小学校からソフトテニスに触れていたため、実力は結構ある。今年の夏の大会は都大会準優勝、関東大会ベスト8までいった。ちなみに都大会の決勝は佐藤先輩で、女子部員のほぼ全員と男子の半分以上が佐藤先輩の応援についてて劣等感の中試合したら圧勝された。今年こそはインターハイに出場したくて頑張っている。ちなみにポジションは前衛。部室に入ると制服が整然と何着かたたまれていた。もう何人かはコートにいるみたいだ。俺は打つためさっさと着替えて、ラケットと水筒とタオルを持って部室を出る。まだ全員来てないので、部室のカギは閉めなかった。コートに行く途中空を見ると雲一つない晴天だった。すると少し離れたところで声が聞こえた。
「おい涼ちゃーん。」
こっちへ走ってくる。少ししてやっと誰かはわかった。
「なんだ、木下か。というかあの呼び方するのお前ぐらいだったな。」
こいつは二年生の中での最高のおバカ木下沙月だ。文系の標準クラスだ。なんと入学して以来ずっと三百五十番以上になったことがないのだ。しかもテストは欠席者もいる。だからこいつは毎回ほぼ最下位ということだ。しかし顔はそんなに悪くもなく部活は結構ガチ勢なのでそこそこ男子からの人気は高い。
「涼ちゃん、こんかいどうだった?」
「まあまあいい気はする。」
「いいなぁ、うちなんて多分欠点六個ぐらいありそうだよ。涼ちゃんの頭が欲しい。」
どうやったらそんなに欠点が取れるのか不思議で仕方ない。そもそもよく進級ができたものだ。さらに怖いのがこれよりも下がいるということだ。そして今思ったのだがこいつの言動や絡み方、純恋さんに似ている。まぁ天と地の差だが。
「お前が真面目にしてないだけな気がするが。」
「うち頑張ってるし、テスト前日一時間も勉強したよ。」
「ゲームは?」
「さ、三時間くらい?へへ。」
呆れた。これで頑張ったとは。お前のクラスはどうなっているのか。
「もういい、俺行くわ。」
俺はコートに向かう。
「あ、待ってよ。」
コートに着くともうすでに何人かいて乱打していた。俺は全員くるまでアップとストレッチを済ませた。そして練習が始まる。やはり試験終了後の初めの練習は感覚が戻るまでうまくいかないことが多くイライラすることが度々ある。でも今日は練習は夕方まであるので時間はたくさんある。なんとか今日のうちに感覚を戻すことができ、練習は終わった。
部室に戻ると俺はすぐに着替えて出るようにしている。狭いとこに人が多いのはあまり好きではないからだ。部室はやけに男臭が漂う。俺は、荷物を持って部室を出て靴を履き替えて駐輪場に行く。自転車をこいで家まで帰る。空は薄暗くて風がやけに冷たかった。家に帰るとリビングには誰もいない平日なので大人はいない。そして洗面所へ行き手洗いうがいを済ませ二階へ上がり自分の部屋に戻る。電気をつけて制服をハンガーにかけ洋服に着替える。そしてベッドに入り携帯を開く。画面には18:30と表示されていた。携帯の充電がないことに気付き、充電器を引き出しから取り出そうとベッドから出ると、扉をノックする音の直後に扉が開く音がした。純恋さんだった。あの純恋さんがノックするなんて今日はなにかが起こりそうな予感だ。
「テストどうだった?」
「まあまあいい出来だとは思います。」
「数学、できた?」
少し自信ありげに聞いてくる。まぁ自信以上のわかりやすさがあったので納得だ。
「はい。多分いいと思います。ありがとうございました。」
「いやいや、私は補助をしただけ結局は涼太くんの頑張り次第だったよ。だから私じゃなくて涼太くんのおかげなんだよ。」
「はい。」
なんか少し照れくさい感じがした。
「じゃあ、夕飯作ってくるね。」
「はい。」
そして純恋さんが部屋を出る。そして俺は夕飯ができるまで翼と和樹とオンラインゲームをした。和樹は試験期間中は一切ゲームしない。寝るか、読書するか、勉強するかの三択だ。一時間くらいして夕飯ができたらしく純恋さんに呼ばれる。やはり今日も質問攻めで俺が答えるだけだった。夕飯を終え風呂に入り風呂も済ませて部屋に戻る。そして携帯を開く。時刻は20:45と表示されていた。またさっきやっていたゲームを起動する。オンライン状態なのは翼だけだった。翼を誘う。するとゲームのチャットで翼がなにか俺に送ってきた。
『おい純恋さんこのゲームしてねぇの?』
お前はどれだけ純恋さんが気になっているのか、そう返そうとしたがあえて無視する。そしてそのまま対戦開始した。すると無視された腹いせか、翼が本気を出してきて瞬殺されてしまった。俺はチャットの返信をする。
『してないと思う。携帯いじってるとこもあんま見たことない』
『まじかよ』
『じゃあさ、俺が次の対戦勝ったら純恋さんの顔写真な』
『無理に決まってんだろ。俺がお前に現代文で勝てって言ってるようなものだ。むしろそれ以上かもな』
『じゃあ、俺体力10でお前1000、これならどうだ?』
『じゃあ俺が勝ったら、冬休みまでカツ丼毎日おごれよ。それならやってやる』
『いいぜ、俺の実力とことん見るがいい』
そうして運命の対戦開始のボタンを押す。体力10なら俺は勝てると確信していた。しかし翼の本気をなめていた。攻撃しても全く当たらず俺が責められっぱなしが続いたが、何とか粘り、隙をついて攻撃する。しかし残り体力1まで追い詰めたものの負けてしまった。
『よし俺の勝ちだ。ちゃんと撮ってこいよ』
『くそ、わかったよ』
送信した途端扉が開く音がした。純恋さんだ。俺はゲームを閉じて携帯を横に置く。
「ノックしてください。」
「もう、細かいことは気にしない。」
「気にします。」
「それよりさ、テスト頑張ったでしょ?ご褒美に耳かきしてあげる!」
純恋さんがベッドの上に座る。手には耳かきがある。
「大丈夫です。」
即答する。
「いいじゃん。気持ちいいよ、騙されたと思ってさ。ほら、早く早く。」
じぶんの膝をトントンしている。嫌って言って押し切ろうかと思ったけど。またいつか同じことを言われる未来が見えたのでやめた。
「じゃあ、ちょっとだけですよ。」
「ふふふ、この前断ったことを後悔させてやる。もっとしてほしいっていうまで気持よくしてあげるね。じゃあ私の膝の上に寝て。」
俺は純恋さんの膝の上に寝る。俺の後頭部が純恋さん側になるように。風呂上りだからなのか、いい匂いがする。香水とかそういうつけられた匂いではなく、彼女自身から発せられているような自然な匂いだった。
「じゃあ始めるね。」
俺の耳の中に耳かきの棒が入っていく感覚が伝わる。そしてその中でガリガリと音を立てながら耳の中を動く。正直今の時点で俺の体中に快感が広がっている、体の力が抜けていく。
「おやおやー?体の力抜けてますなー。気持ちいいんでしょ?」
「はい。」
素直に白状した。
「最初は、あんなに嫌がってたのにね。」
「そうですね。」
あの時あそこまで抵抗した自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。そのまましばらく快感に身をゆだねた。
「じゃあ、次反対の耳しよっか。」
いわれるがままに体を反転させる。そして俺のもう片方の耳に耳かきの棒が入っていく。途中、快感のあまり眠気に襲われた。それを必死に抑えていると体がビクッと跳ねあがってしまった。
「動いたら危ないよ。」
「すいません。」
優しく注意された。どこか実母に似ていた。そして眠気を抑えながら、快感に浸っていると。
「じゃあ今日はここまでにしよっか。」
純恋さんの手が止まり、耳かきの棒が俺の耳から出ていく。俺は体を起こし彼女にお礼を言う。
「ありがとうございました。」
「気持ちよかったでしょ?寝そうになってたの知ってるよ。」
少し笑いながら言ってきた。
「ばれてたんですね。」
「またいつでもしてあげるから、言ってね!」
「はい。」
多分自分から頼むことはない気がする。
「どうする?このまま一緒に寝る?」
ニヤニヤしながら言ってきた。
「いやいいです。」
「むー、一緒に寝れると思ったのになー。」
少し不満そうな顔しながら部屋を出る。写真を撮り忘れたことに今気づいてしまった。でも今日は純恋さんのおかげで快眠になりそうだ。そこに関してはちゃんと感謝はしてる。そして俺は電気を消して眠りにつく。
三日後の月曜日、今日から答案が返される。午前中帰ってきたものは学食で、午後に帰ってきたものは放課後に三人で結果を共有することにしている。午前中に帰ってきたのは物理、保健、コミ英、日本史だ。大体ほとんどの教科でクラスの最高点が言われるのだが。クラスの最高得点は大体俺か和樹なので最高点じゃなければ基本負けたといってもよい。昼休みになり、俺たち三人は学食で得点と教科を書いたメモを見せ合う、俺は、物理93、保健89、コミ英98、日本史94だ。そこそこの出来栄えだった。翼は物理54、保健60、コミ英44、日本史61だ。翼らしい点数だった。そして和樹は物理96、保健92、コミ英92、日本史95だ。これまでの和樹との勝負はまだ俺は一敗だ。今回も負けられない。昼休み、五限、六限、七限、終礼を終え俺たちは再び集まる。午後には古典と数ⅡBが帰ってきた。俺は、古典97、数ⅡB91。数ⅡBが今までの最高得点だった。ちなみに数ⅡBの学年最高は95だったらしい。いつもは100とか99なのに、かなり難易度は上がってたらしい。しかしそのなかでこの点数が取れたのは純恋さんのおかげだ。翼は、古典55、数ⅡB40。欠点すれすれだ。素晴らしいほどにちょうどだ。和樹は古典91、数ⅡB88。和樹にいつも負けていた数学で勝てたのでこれはかなりのアドバンテージだ。
火曜日、午前中は生物、化学、現代文だ。俺は、生物98、化学90、現代文100だ。満点は素直にうれしかった。翼は、生物80、化学50、現代文49だ。生物が思ったより良かった。少しテンション高めなのも納得だ。そして和樹は、生物99、化学92、現代文95。ちなみに生物は和樹が単独で学年最高得点だったらしい。しかしまだ今のところ勝っている。このまま逃げ切ろう。ちなみに午後は何も帰ってこなくて、放課後は集まらなかった。
水曜日、午前中ですべて帰ってきた。世界史、英表、数ⅠAだ。俺は、世界史90、英表97、数ⅠA92で合計点は1129で平均は約94だ。自分で言うのもあれだがかなりの好成績だ。翼は、世界史70、英表61、数ⅠA45で合計点は669で平均が約56。少し将来が心配になってくる。和樹は世界史93、英表95、数ⅠA95で合計点が1122で平均が約93だ。ぎりぎりで勝利した。正直いつもなら確実に負けていた点数だ。やはり和樹の自信は本物だったな。そして何よりこの勝利は純恋さんのおかげなきがした。今度また一個くらいわがまま聞いてやるか。
そして二学期も終わり冬休みになった。ちなみに期末考査の順位は、文系内ではもちろん俺と和樹がワンツーだったが、文理共通教科の順位は俺が2位で和樹が9位、そして翼は303位、そして順位を知った後に聞いた話なんだが、1位の奴は理系の難関クラスの奴だったらしく合計点は1183だったらしい。さすがに次元が違いすぎた。もう悔しいを通り越して清々しかった。冬休みの最初の日、俺と和樹と翼は朝から図書館にこもり課題を全て片付ける。基本長期休暇の初めは三人の予定が合い次第これをする。正直課題みたいな受動的な勉強なんて頭に入らない。だからこういうのは早めに片づけることが賢明だ。そうすれば残りは遊びまくれる。そして、十二月二十五日、今日はクリスマス。リア充と非リア充ので過ごし方がはっきりする日だろう。俺はもちろん彼女なんていない。部活も年末休みに入っていて当分ない。なので昼夜逆転の生活が始まる。この日も俺は、昼前まで寝るつもりだった。しかしそうはいかなかった。
「涼太くん、おきてー!ほら、朝だよー!」
純恋さんが起こしに来た。
「もう少し寝かせて下さい。」
「ダメダメ、早く起きて!」
と言って掛け布団を取られた。寒さのあまり起きる。目覚まし時計の短針は9を指していた。
「もうなんですか?今日は休みですよ。」
「ねぇ、今日せっかくクリスマスなんだし遊びに行こうよ!」
「えー、別にカップルでもないのに、家にいましょうよ。」
「いやだいやだ、一回くらい家以外のとこ二人で行こうよ!」
子供のように駄々をこねる。しかも結構おしゃれな服を着ているからこの人絶対行くっていうまでねだり続けるつもりだ。少し迷ったが別に買いがあるわけではないので行くことにした。すると純恋さんは玄関で待ってると下へ行った。さすがに変な私服にするわけにはいかないので、服はちゃんとそれなりにおしゃれをした。そして洗面所で歯磨き洗顔して髪の毛の寝癖を直す。そして財布と携帯を小さなバッグに入れ玄関に行くと純恋さんが待っていた。
「それじゃあ行こっか。」
黒のタイツにスカート、そして上は厚めの白いコートをはおって、首にはマフラーを巻いていた。本人にはいわなかったが、見とれるほど可愛い。
「はい。」
そして、俺と純恋さんは家を出た。どこに行くか聞いてなかったので、とりあえず純恋さんについていくことにした。横に並んで気付いたのだが純恋さんは意外と思ったより身長が高かった。俺がそんなに高くないというのもあるかもしれないが、この差だと五センチくらいしか変わらない気がする。それにしても、やけに距離が近い。体がもう当たってるし。やけに甘いにおいがする。
「あの、近すぎです。」
「なんかさ、デートしてるみたいだからさ。」
「え、あ、そうですか。」
「なに?照れてんの?可愛い!」
そしてさらに密着してきた。
「少し離れましょうよ。」
「いいじゃん。こんな可愛い子がくっついてるんだよ。少しは堪能しなよ。」
「いやそういう問題じゃ。」
「せっかくなんだし楽しもうよ!ほら、もっとテンションあげて!」
すると純恋さんが走り出した。そして十五メートルくらい離れたところで立ち止まって、こっちを向いて両手を挙げて大きく手を振ってきた。
「おーい!はやくー!こっちだよー!」
無邪気な笑顔でそう言う。これじゃどっちが年上かわからない。でも俺を楽しませてくれようと頑張ってくれているのはかなり嬉しかった。俺は、少し早歩きで純恋さんに追いついて再び並んで歩きだす。気温はかなり低かったが、空は雲一つない晴天だった。
「そういえば、今日どこに行くのか聞いてないですけど。」
「それは、着いてからのお楽しみ!」
「なんですかそれ。」
「そういえばさ、テストどうだったの?」
言われてみれば俺は、純恋さんに結果を何も伝えていなかった。
「学年2位で、数学も90台のりましたよ。」
「えーすごいじゃん!さすが涼太くん!」
純恋さんが両手で俺の手を握ってきた。
「ありがとうございます。というか手、握られるの恥ずかしいです。」
「いいじゃん!あったかいでしょ?私の手。」
「あ、はい。」
なんだか手よりも心があったまる感覚だ。そして俺と純恋さんは話しながらしばらく歩いた。
「ついたよ!」
純恋さんが目の前の大きなショッピングモールみたいな建物を指さす。
「あぁここか。」
「どうしたの?」
「いや、ここよくうちの高校の人が来るらしいんですよね。」
「見られたらまずいってこと?」
「まあそんなとこです。」
時期も時期だし見つかると弁明の仕様がない、人によっては即拡散されるからな。でも純恋さんはそんなのお構いなし。
「そんな細かいこと気にしない!さっ、入ろ!」
純恋さんが俺の手を引いて走り出して、建物の中に入る。中に入るとすぐに純恋さんはマフラーを取る。やはり歩いてる人のカップル率は高い。しかもやけにいろんな種類の香水が混じった匂いがして不快だ。
「よし、まずは服屋に行こう!時間も限られてるんだし早く行こ!」
言われるがままに服屋に行く。俺は服にはこだわりが無いので服屋に行くのはかなり久々だ。到着するや否や、純恋さんは、自分の好きな服をたくさん取って試着室へ向かう。もちろん俺は試着室の前で待たされる。ぼーっと携帯を眺めていると近くで声がした。
「ねぇ、これ似合う?」
「いいとおもいますけど。」
「むー、それなら可愛いとか綺麗とかいうべきでしょ。」
ほっぺを膨らます。口には出してないだけで普通に可愛いと思ってしまった。十着くらい試着してよかったと思う三着を選んでレジに持っていく。値段は合計で万単位までいった。そして純恋さんは躊躇いもなく財布から大金を出して会計を済ませる。意外とこの人金銭感覚おかしい気がした。
「よーし、次はどこにしよっかなー?」
純恋さんが服の入ったバッグを片手に建物内のマップを指でなぞりながらそう呟く。俺は横で黙って彼女が場所を決定するのを待っていた。すると突然こっちを振り向いた。
「お腹すいてない?」
「すいてないといえば嘘になりますが。まだお昼じゃないですし。」
携帯時刻はを覗くと、11:15と表示されていた。
「そう?だって今日私、急に起こしてしまったし結構歩いたじゃん。」
今考えてみるとそうだった。このショッピングモール、学校よりも普通に遠い。歩けば普通に一時間はかかる。でも俺は一時間も歩いた気はなかった。
「大丈夫ですよ。早く決めてください。」
「わかった!じゃあここに行こうよ!」
純恋さんが指していたのは。謎解きゲームイベント会場だった。ここではクリスマスや正月などに開催される。一チーム五人までで、部屋にある謎を解いて早く脱出できたチームの勝ちというイベント。一度に参加できるチームは二十チームまでだ。優勝チームには商品券五千円分、準優勝チームには三千円分、3位のチームには千円分がもらえる。そして歴代の記録を更新すると一万円分が上乗せでもらえる。しかしこのイベント景品が景品なので謎解きガチ勢を助っ人に呼ぶ人が多くレベルはかなり高く、謎解きの問題も結構難しい。俺は一度正月に翼と和樹と参加したことがあるが惜しくも5位だった。少しリベンジしたいということもあり俺も少し乗り気だった。
「わかりました。」
そして会場に向かう。すぐ近くなのであっという間についた、着いたら受付に行きメンバーの名前と代表者の氏名を書く。そして参加者待機部屋に行き開始の時間まで、もしくは二十チーム集まるまで待つ。すると、俺の恐れていてことが現実となる。純恋さんと隣あって空いてるベンチに座って待っていると後ろから声がした。
「涼ちゃんー。」
声と呼び方ですべてがわかった木下だ。もう逃げ道もないので諦めて振り向く。
「どうした?てか参加するのか?」
「そうよ、ってかそのひとだれ!?めっちゃ可愛いし!」
純恋さんを指さす。
「あんた、どんだけ貢いだのよ?」
「貢がねえよ。」
すると純恋さんが口を開く。
「はじめまして、涼太くんの義理の姉で純恋といいます。」
「なんだ、彼女じゃないのか。まああんたに彼女なんて縁のない話だけど。」
「よけいなお世話だ。ていうかお前もここにきても何もできんだろ。」
「まあね、でも今回はうちらの優勝は決まりだから。」
すると木下はメンバー表を見せてきた。なんと四人全員理系の難関クラスのエリートだった。しかも今回の1位の人もいる。こいつ本気だ。
「ガチすぎるな。」
「そうよ、いまのうちに土下座しとけば少しだけ何か買ってやらんでもないぞ。」
完全に虎の威を借りる狐だ。そして木下は純恋さんのほうを向き
「お姉さん、引き返すなら今のうちですよ?」
こいつ。めちゃくちゃ失礼だ。すると純恋さんは
「まだわからないよ。やってみないと。」
意外と大人な対応だ。
「それでは、各チーム部屋に入ってください。」
受付の人の声で各チームそれぞれ指定された部屋に入る。とはいってもどこも解く問題は同じ。部屋に入るとロックがかかりそれを開けるために十三個の謎を解かなくてはならない。制限時間は一時間。それを過ぎると自動的にロックは解除される。しかし部屋のロックを解除することがゴールなので、別にすべての謎を解く必要はない。なので最速を狙うには、できるだけ少ないヒントだけでロックを解除する必要がある。ちなみに歴代最速は00:03:12らしい。
「それでは、スタートです!」
アナウンスとともに俺たちは謎を解き始める。すると純恋さんがあり得ないスピードで謎を解いていく。
「これはこうなるからあてはまるのはこれで、こっちはこれがあてはまるのか。」
当の俺はというと、彼女のスピードに追い付くのに必死だ。すると彼女は部屋の扉に向かう。まだ謎は三つしか解いてない。これだけのヒントでわかるわけがない。しかしその考えは、打ち壊された。
「あっ、開いたよ!」
なんともう部屋のロックを解除したのだ。ありえないいくら何でも早すぎる。部屋を出て受付の人にゴールしたことを告げる。流石T大医学部って感じだ。その五分後くらいからほかのチームが出てき始めた。木下のチームは、五番目に出てきた。そして約四十五分後、すべてのチームが出てきた。俺と純恋さんチームは1位で、かつ00:02:55で歴代新記録で合計一万五千円分の商品券をもらった。そして木下のチームは3位にすら入れなかった。すると純恋さんはなぜかすぐ近くにいた木下のところへ行った。まさか嫌味でも言いに行くのではないかと心配してついていくと、なんと商品券を木下に差し出したのだ。
「これあげるよ。ほしかったんでしょ?」
「え?いいんですか?」
「うん、だって私普通に謎解きしたかっただけだから。」
すると、木下は純恋さんの手を握りその手を上下に激しく振る。
「ありがとうございます!一生ついていきます!」
態度の変わりようが尋常じゃない。
「ふふっ、面白い子だね!」
そうして俺と純恋さんは会場を後にした。
「ふー、謎解き楽しかったー!」
「二分しかしてませんけどね。」
「お腹すいたからフードコート行こうよ!」
「そうですね。」
俺たちはフードコートに行く。そして各々食べたいものを買って、向かい合うように席に座る。俺は、カツ丼で、純恋さんはオムライスにした。
「次どこか行きたいところある?」
「特にないですね。」
「もー、どこでもいいから。」
「強いて言うなら、スポーツ店ですかね。」
「うん!いいよ!」
ほんとにどこでもよかったらしいな。結局スポーツ店に行くことになった。飯を食べ終えてスポーツ店に行く。俺と純恋さんは部活がソフトテニスで同じなのでもちろんテニスのコーナーに行く。近くにいた店員さんに「いらっしゃいませ。」と言われ、軽く会釈する。新しいシューズやラケットのいい匂いがする。いつもここに来ると、習い始めを思い出す。まず最初はシューズのコーナーへ向かう。買い物はあまり好きではないがこういう用具を見たりするのは好きだ。俺は普段使っているメーカーのシューズを手に取る。
「涼太くんもそれはいてるの?」
「いえこれじゃないんですが、メーカーはこれです。」
「ここのメーカーいいよね!履き心地最高だし!」
「そうですね。」
俺は足幅がでかく、履けるシューズはそんなに多くなく、少し前にプロ選手と同じシューズにしようとして自分の幅にあったシューズがなく断念したことがある。
「結構シューズ、すぐ破れちゃうよね?」
「そうですね。」
「どれくらいの頻度で買い替えてる?」
「大体一、二か月くらいですね。」
シューズは割と買い替える頻度は高い。上に行けば行くほど考えるテニスになるので動く距離もかなりのものだ。また、きわどいコースのボールになるとどうしても滑り込んで取るので、シューズはそこが削れたり内側が傷んだりする。なので必然的にシューズの買い替え頻度は高くなる。
「大体そんなもんだよね!」
「はい。」
少し話して今度はラケットのコーナーに行く。久々に来たのでネットでしか見たことない最新モデルも置かれていて、少し新鮮な感覚だ。俺は、次回買い替えるならどれにしようかと考えながら見てまわっていた。
「ラケット何本持ってるの?」
「確か五本くらいですね。」
「おー、私は四本だったかな。あっ、これ持ってる?」
純恋さんが一本のラケットを手に取る。
「僕前衛なんで持ってないですね。」
前衛用と後衛用でラケットは違う。違うといっても決定的な違いは重さぐらいで大した違いはない。なのでポジションとラケットが合ってなくてもそこまでプレーに支障は出ない。
「そうなんだ、私これにはすごく愛着があるんだよね。」
「そうなんですね。」
「このラケットで私インターハイに出れたんだ。でもインターハイは三回戦負けだったけどね。」
笑いながらも少し悲しそうに言う。この人どこまで完璧なんだ。頭よくて可愛くてスポーツできる。どこにも弱点ないじゃないか。
「でも、インターハイに出れただけでもすごいと思いますよ。僕なんて、関東大会止まりですから。」
「そうなんだ、でも今年はきっと行けるよ!」
「ありがとうございます。」
そして最後に俺たちはガットのコーナーにやってきた。ガットは中学生のときからずっと同じものを使ってる。ガットにはいろいろなカラーがあるが中学まではカラーガットの使用は禁止されている。
「テンションは普段どれくらいなの?」
「33です。」
「えー!高いね!私は29だったよ。」
テンションは簡単に言うとガットの硬さで、低いほどよく飛び、高いほど飛ばなくなる。基本ソフトテニスのガットはテンション25から35が普通。俺は普段使ってるガットを手に取る。
「飛ばないガット派なの?」
「そうですね、ずっと同じもの使ってるんで。」
「私も中学からずっと同じだった!私は飛ぶガット派だよ!」
「僕も、小学生の時は飛ぶやつだったんですけど、中学になって変わりましたね。」
「へー、そうなんだ!てか前衛怖くないの?」
「最初は怖いですけど、なれればそんなにって感じです。」
「私最初は前衛だったんだけど、前衛アタックが怖くてやめちゃった。」
「そうなんですね。」
「なんか久々にテニスしたくなってきちゃった!今度いこうよ!」
インターハイ出場者の実力がどんなものか少し気になったのもあり、断る理由はなかった。
「いいですよ。」
「やったー!約束だからね?」
「はい。」
そして、すこし雑談した後、俺たちはスポーツ店を出る。
「なんか高校生に戻った気分!ああいうのもたまにはいいね!」
「そうですね。」
「じゃあ次は映画に行こうよ!」
「いいですよ。」
「よしきまり!」
そう言って純恋さんが携帯で何やら調べ物を始めた。映画の上映時間を調べてるのだろう。
「あ、後五分で始まっちゃう!急いで行くよ!」
と言って俺の手を引いて走り出す。映画館は同じ階だからそんなに急がなくてもいい気はするが。映画館について純恋さんはすぐに二人分のチケットを買い、俺にその一枚を渡してくれた。劇場に入るとなかはもうすでに人がいっぱいだった。指定された席に座る。もちろん隣には純恋さんがいる。映画はあまり見たことがなく、高校の時は少なくとも一度も見ていない。座って一分もしないうちに映画が始まった。内容は恋愛系のドラマのようだった。見ると意外に面白くて。少し夢中になってみてた。そしてクライマックス、かなり切ない場面だった。悲しいが泣くほどではなかった。すると俺の右手が誰かに握られた。俺は握られた方向を見ると、純恋さんが俺の手を強く握っていた。少し純恋さんを見てると彼女が俺に気付きこちらを見る。すると彼女は俺に小さな声で
「なんか、手、握りたくなった。」
といってきた。俺は言葉の意味をあまり理解できなかった。映画が終わり映画館を出る。
「あー面白かったー!」
「ですね。」
「最後、何言わせんのよ。」
顔を近づけてきた。
「え、いや、あれは、その。」
なんかいけないことをしてしまった気分になり焦る。
「ふふっ、なんでもないよ。」
「あ、後映画代返します。」
慌てて気付いて財布を取り出す。
「いや大丈夫。私が行きたいって言って付き合わせたんだし。」
「すいません、ありがとうございます。」
「涼太くん遠慮しすぎ。もっと大胆に生きていこうよ!」
「大胆に…ですか…」
妙に心に刺さった。
「そう!じゃあ次はどこに行こうかな?なんかリクエストある?」
「本屋、ですかね。」
「おっけー!じゃあ行こっか!」
純恋さんに手を引かれ、俺たちは本屋に着いた。入ると鼻の中に本屋独特の匂いが広がる。お客さんはたくさんいた。主に年配の人が多く、若者はそんなにいなかった。俺は文庫本のコーナーへ行き、小説を一冊手に取る。俺は意外といわれるが青春や恋愛小説を時々読む。試験期間中は読まないが、何もすることがないときは読んでる。俺は手に取った小説の最初らへんに少し目を通す。だいたい俺はこれで面白そうだと思ったものを買う。何冊かその作業をしていると。
「なに見てんの?ちょっと見せて!」
純恋さんが俺の手から小説を取った。そして少し目を通す。
「へー、こういうの読むんだ。意外!」
やっぱり言われると思った。
「よく言われます。」
「ほんとは、恋愛ごとに夢中だったりして?」
「ちがいますよ。」
「ほんとかなー?今の時期は青春真っ只中ですからねー。」
「個人差ありです。」
動揺するとあっちの思うつぼだ。あまり動揺しないようにする。
「ていうか私も読んでみようかな?あんまりこういう類の本読んだことないからねー。」
と言いながら俺に小説を渡し、本棚から一冊手に取って、開き目を通す。
「高校の時は遊びまくってたなぁ。試験期間も平気で友達と買い物行ってたし。それに比べて涼太くんは充実した高校生活送れてるよね!」
さっきのようなからかうような言い方ではなく、真面目な言い方だった。
「そんなことないですよ。」
すると純恋さんは本から顔を上げてこっちを見た。真剣な顔だった。
「いいや、だって私がいつも教えてるときいつもすごく真剣に聞いてくれてたじゃん!」
それはあなたの教え方がうますぎるだけです。
「いや、それは…」
返事に戸惑っていると。
「自信を持つこと!涼太くんは自分が思ってる以上にすごい人なんだから!」
「はい、そうします。」
「よろしい!」
ニコッと微笑んだ。その後俺は小説を二冊買い、純恋さんは一冊買って本屋を出る。出てみるとお客さんの数は減ってる気がする。減ってるというよりは、若者が減って、大人が増えたというほうが正確かもしれない。
「結構回ったね!あっという間だったね!」
俺のほうを向いて満面の笑みで言う。
「そうですね。」
俺は携帯を取り出すと時刻は19:08と表示されていた。確かに思ってたより早かった。
「それじゃ、今から夜ご飯に行きましょー!」
「え?俺親父や優子さんに何も連絡してないですよ。」
「大丈夫!もう朝の時点で私は連絡済みです。」
準備がいいな。でも、純恋さんのことだから、連絡してなくてもそうするつもりだったと思う。
「あ、そうなんですね。準備いいですね。」
「でしょでしょ!なんせ起きたの六時ですからねぇ。」
いくら何でも早すぎる。普通に服選びにはさすがに一時間もかけないだろうし、化粧も見る限りだが濃くない。
「ていうことは、今日のこれは朝決めたんですね。」
「それは違うよ。昨日の夜!」
少し誇らしげな顔で言う。
「そうなんですね。」
「そう!クリスマス、どうせ涼太くんは寂しい一日を送るだろうから、私が遊んであげようと思ったの!」
あそんであげたという表現は間違いなく嘘だ、映画の後の発言と矛盾している。ただ寂しい一日と言われたことに何だか腹が立つ。
「はぁ、寂しい人間で悪かったですね。」
ため息交じりに言い、そっぽを向く。
「あぁごめんごめん、冗談だってば。ほら、早く行こ!」
と言って純恋さんは半ば強制的に俺の手を引いて歩き出す。正直今お腹は減ってないし、金欠だから高級店とかに行かれると困る。
「あの、俺今日そんなにお金ないですよ。」
呼び止めるように言うと。
「大丈夫!私のおごりだから。」
「さすがに映画代もおごってもらって飯までってのはちょっと。」
すると彼女は足を止めて俺のほうを見る。そして顔を近づけて少しほっぺを膨らます。
「こら、また遠慮したー。いいの!今日は私が付き合わせてるんだから。」
またさっきの言葉と矛盾する。でも敢えて何も言わなかった。
「わ、分かりました。」
「うん!よろしい!」
ニコッと微笑んでふたたび歩き出す。なんだか手を引く姿が子供みたいで、かわいらしかった。ほんとにどっちが年上なのかわからない。そしてしばらく歩くと。
「ここだよ!じゃあ入ろっか!」
彼女は目の前の店の入り口に向かう。見た感じステーキ専門店のようだった。しかも普通に学生が頻繁に行くようなファミレスっぽい感じではなかった。やけに高級店の香りだ。俺のさっきの質問は彼女は予想していたに違いない。店に入ると、店員が出てきた。
「いらっしゃいませ。何名様でお越しですか?」
「二人です!」
いつもの陽気な声で言う。
「それでは、お席のほうご案内します。」
俺は軽く店員に会釈する。案内されるがままに店員についていく。もうこの時点でかなりいい匂いがしている。周りを見ると席はところどころ開いていて、座っている客はほとんどスーツを着た若者やいかにも社長ですよってオーラを放つおじさんやおばさんだ。俺と純恋さんは向かい合うように座る。そしてメニュー表を手に取って開く。すると俺の予想は当たっていた。ほとんどが今の俺の財布の中の金額を上回っている。映画代を引くともうほとんどになってしまう。しかも俺の一か月の小遣いで買えるものは半分もない。俺の小遣いが少ないっていうのもあるが。何も選べずに戸惑ってると、
「まだ?早く決めなよ。優柔不断な男は嫌われるぞ。」
「いや、でもこれ。」
「大丈夫だって!私が出してあげるから。好きなもの頼みな。」
「は、はい。」
と言われても俺は高額のメニューを頼む気はない。流石に申し訳なさすぎる。そして俺は財布の中の金額を超えないものにした。するとテーブルの上に二つ水の入ったグラスが置かれていた。
「決まりました。」
「よし、じゃあ呼ぶよ。」
そして純恋さんは近くの店員に声をかけ注文する。そして俺も決めたものを注文する。
「それでよかったの?もっとこういう時にしか食べれないもの頼もうよ!」
ちなみに純恋さんは最も高い高級ブランド牛のステーキを注文した。正直大学生が手を出せるような額ではない。もしかして優子さん相当な金持ちなのかと思ってしまう。
「金遣い、荒いんですね。」
「そう?でもあんまり普段はお金使わないからさ、自然とたまってくんだよね。」
「そうなんですね。」
「ところでさ、涼太くん。」
「はい。」
「三百円を持ってコンビニに行って、百七十円のパンを買うとお釣りはいくらでしょう?」
俺は少し考えた。
「三十円だと思います。」
「なるほど。それはなぜ?」
「だって、結局二百円出せばいいからですね。」
「やっぱり君は文系だ。」
「へ?」
「これは、文理で答えが違うらしいの。理系は百七十円で文系は三十円って答えるらしいの。」
「そうなんですね。」
すると、店員が料理を持ってくる。
「おまたせしました。」
テーブルの上に料理が置かれる。俺はいたって普通のステーキを頼んだ。それに対して純恋さんが頼んだのは高級ステーキ、こんなに分厚いステーキは肉眼で見たことはなかった。
「いただきます!」
「いただきます。」
そしてさっそく純恋さんはステーキを一口サイズに切って口に運ぶ。そして俺もステーキを切りはじめる。
「んー美味しい!ほっぺが落ちそう!」
幸せそうに食べている。
「よかったですね。」
俺もステーキを口にする。普段こういうのはあまり食べないので普通においしい。
「美味しい?」
「はい。」
「よかった!ここにして良かった!」
嬉しそうに笑う。なんだかほっとする。
「ねぇ、一口食べてみる?」
純恋さんが一口サイズに切ったステーキを刺したフォークを持ったままそういう。
「いやいいですよ。そんなに食にこだわりないので。」
「いいからいいから、めっちゃ美味しいよ!」
たぶんこの人は俺に食べさせたいのだろう。もうそこまでは予想がつく。まぁおごってもらうからにはこっちも何かしないとという思いから俺は乗ることにした。
「じゃあお言葉に甘えて。」
「じゃあ、あーんして!」
そして純恋さんがすごく幸せそうな顔をしながら前に体を乗り出す。そしてフォークを俺の口に近づける。それと同時に俺は口を開け、目の前のステーキを食べる。それ自体はかなり美味しかった。値段相応の味なのかは俺はわからなかった。
「どう?めっちゃ美味しくない?」
「はい。かなり。」
「だよね!」
そして、俺たちは食べ終えて会計をする。値段はわかっていたが改めてみると二人分にしてはすごい額だ、でもやはり純恋さんは財布から躊躇なく大金を出す。会計を終え俺たちは店から出る。
「ふー、お腹いっぱい!」
「あの、ありがとうございました。」
「いいのいいの!それじゃあ帰ろっか。」
「そうですね。」
そうして俺たちは外へ向かう。外へ出るや否や純恋さんは首にマフラーを巻く。通路にはそんなにひとがいなかった。携帯を覗くと時刻は20:19と表示されていた。なんだか今日は携帯を見る回数が少なかったのか時間の進みが早く感じた。外へ出るとめちゃくちゃ寒かった。朝とは全然違う。駐車場の車もかなり減っていて人通りも多くなかった。そして上を見上げると、無数の星が夜空に広がっていた。
「星が綺麗だね!」
「そうですね。」
「なんかサンタさんが降りてきそう!」
子供のような無邪気な笑顔で言う。
「サンタ、懐かしい響きですね。」
「ふふっ、そうだね!じゃあ行こっか!」
そうして純恋さんは俺の手を握って俺にくっついて歩く。俺もそれに合わせて歩く。寒すぎて手を握られてないほうの手をポケットに入れようとしたが本が入った袋を持ってるので入れれない。しかも防寒が不十分で体が震える。すると純恋さんは足を止めた。
「どうしたの?寒い?」
俺の震えに気付く。
「はい。防寒対策してなくて。」
「よし、ちょっと待ってね。」
そういうと自分の首に巻いているマフラーを取って俺の首に巻きニコッと笑う。
「はい!貸してあげる!」
「いえいえ、僕は大丈夫です。」
「いいよ!私コート着てるし。涼太くんのその上着薄いじゃん。」
「あ、ありがとうございます。」
「どういたしまして!それじゃあ出発!」
再び俺の手を握り、密着して歩く。マフラーを使うのはこれが初めてだ。ふわふわしてて温かい。
「こんな時間に男の子と二人で歩くなんて初めて。」
「僕もです。」
「もっとこういうことしとけばよかったなぁ。」
「そんなチャンス、星の数ほどあったはずですよ。あっ。」
思わず本音が出てしまった。ここにきてやらかしてしまった。
「ん?どういう意味?」
不思議そうに首を傾げた。よかった意味をくみ取られなくて。
「何でもないです。」
「もー、教えてよ!」
ほっぺを膨らます。なんだかおねだりしてる子供みたいだった。
「いつか、教えます。」
「なにそれ?」
笑いながら言う。言及されると言わざるを得ない状況にされそうだったので。少しほっとした。そしてしばらく歩くと純恋さんはまた足を止める。
「ねぇ、一つ最後にお願いがあるんだけどさ。」
「はい。」
すると純恋さんは少し照れた顔になって。
「マフラー、二人で共有しよ?」
いつもなら半強制的にやらせるから、こんな頼みかたをしてくる純恋さんは初めてだ。どうしようか迷った。正直前の俺なら間違いなく即答で断っていただろう。でも考えてみると俺は純恋さんに結構助けてもらってる。なので断ることはできなかった。
「いい、ですよ。」
「やった!」
満面の笑みを浮かべて俺の手を握ってた手を放し俺の首に巻かれているマフラーをほどいて片端を自分のほうに寄せて首にかけた。そして再び俺の顔を見て幸せそうに笑う。
「ありがとう!二人で使うといつもよりあったかい!」
「そうですね。」
「じゃあ行こっか。」
そして俺たちはふたたび歩き出す。空には雲一つなく、星が広がっていた。その中で二つの一等星が、特に輝いていた。純恋さんは俺の手をさっきよりも強く握っていて、幸せそうに笑っていた。
「あ、あの。」
「なぁに?」
「き、今日はありがとうございました。楽しかったです。」
俺は素直に感謝の気持ちを伝える。
「それは、こっちのセリフだよ。ありがとう!すっごく楽しかったよ!」
「それは、良かったです。」
そして、しばらく歩いて家に着く。なんだか今日はいろんな意味でいい一日だった気がする。こうして俺の普段と違う異例のクリスマスは終わった。
年が明けて2020年、俺と親父と純恋さんと優子さんの四人で初詣ということで神社にきている。正月早々ということもあって神社は人混みがすごい。正直人が多いところは好きではないので、結構憂鬱だ。とりあえず行列の一番後ろに行き順番を待つ。するとポケットの中の携帯が震える。取り出してみてみると翼からの着信だ。
「もしもし。」
「おい涼太、おみくじのとこの前にいるからはよ来い。」
「十分以内に来なかったらおみくじ代おごりな。」
和樹の声も聞こえた。スピーカーで話しているっぽい。
「わかった。すぐ行く。」
「あとお前、純恋さん連れてこい。」
「なんでだよ。」
「お前あの時負けたくせに全然見せてくれなかったろ。その延滞分だ。」
「できたらな。」
「木下も言ってたぞ、めっちゃ可愛いって。早く来いよ、じゃあな。」
そして電話を切る。木下のやつ、やはり喋りやがった。毎年初詣の時は順番待ちの間、翼と和樹とおみくじ屋の前で待ち合わせをして色々するのがいつものお決まりだ。しかも俺たち三人は小中高同じなので、家族ぐるみの中なのでそれぞれの親の信頼は厚い。俺は親父に声をかける。
「今から和樹たちのとこ行ってくる。」
「わかった。ちゃんと戻って来いよ。」
そして俺は行列から抜けようとする。流石に翼に純恋さんを会わせてもいいことはなさそうだ。今度写真で済ますしかない。いつになるかはわからないが。すると、純恋さんが声をかけてきた。
「ねぇ、どこに行くの?」
「ちょっと周りをうろつくだけです。すぐ戻ります。」
「私も行っていい?」
「いや、来ても暇なだけですよ。」
「いいの、涼太くん解いたら退屈しないから!お母さん、そういうことだから行ってくるね!」
まだ何もいいとか言ってないのに勝手に優子さんに許可をもらいだした。
「いいよ、あまり迷惑かけないようにね。」
「わかってるよ!」
優子さんはもちろん止めなかった。
「じゃあ、行こ!」
「まだなにもい…」
俺の言葉を無視して純恋さんは俺の手を引いて歩きだす。うろつくだけといったが普通に行先は決まってる。もうこうなってはどうしようもない。俺はおみくじ屋へ向かうことにした。
「どこ行くの?」
さっきまで手を引いていた純恋さんが足を止める。
「おみくじ屋です。」
「おー、いいね!」
そういうと俺の手を握って歩き始めた。
「後、おみくじ屋付近では、手は放してください。」
手を握られているところなんて翼に見られたら大変だし、和樹にも怪しまれかねない。
「えー、この前はなにも言わなかったのに。」
「それとこれは別です。いいからお願いしますよ。」
「はーい。」
少し不満そうな返事をする。すると携帯が震える。おそらく翼からだろう。ポケットから携帯を出して歩きながら電話に出る。
「もしもし、今向かってる。」
「よし、純恋さん連れてきてるよな?」
「ちゃんといます。」
少し嫌味っぽく言う。
「後五分でおごりだぞ。」
追い打ちをかけるように和樹がそう言う。
「何とか間に合いそうだ。またな。」
電話を切る。すると純恋さんが尋ねてきた。
「今の友達?」
「はい。」
「待ち合わせしてたの?」
「はい。」
「なぁんだ、早く言ってよ!」
言ったところでこの人はついてくるに違いない。
「いう必要がなかったので。」
「隠し事が多いと嫌われるぞ。」
ニヤニヤしながら言う。正直そんなに隠し事はしてないし、隠すようなこともない。するとおみくじ屋が視界に入る。そして俺はとっさに純恋さんに声をかける。
「もうそろそろ手話してください。」
「えー、あとすこしでいいから。」
「だめです、早くしてください。」
「はーい。」
意外と素直に放してくれた。そしておみくじ屋に向かう。その途中、やけに視線を感じたが気にしなかった。おみくじ屋の前に着くと二人の背中が見えた。俺はその二人のとこへ行き声をかける。
「悪い悪い、遅くなったな。」
すると二人はこっちへ振り向く。
「おい涼太おそ…ってえぇぇ!」
「残り一分、危なかったな。」
驚きのあまり一歩後ろに後退りする翼に対していつも通り冷静な和樹。そして純恋さんは笑顔で自己紹介する。
「はじめまして、涼太くんの義理の姉で、純恋といいます。よろしくね!」
すると翼が俺の近くに来て、小声で話しかけてきた。
「おい、お前どんだけ貢いだ?」
「貢いでねぇよ。」
「なんであんな可愛い人が身内になったのに喜ばねぇんだよ?」
「は?そんなの知らねぇよ。」
「俺ちょっと純恋さんと話してくる。」
「お好きにどうぞ。」
そして翼は純恋さんに話しかける。
「あ、あ、あのぼ、僕、涼太くんの親友の井上翼といいます。涼太くんには毎日お世話になってます。」
いくらなんでも緊張しすぎだ。なにかやらかさなければいいが。
「翼くんだね、よろしく!」
「あ、あの、純恋さんはどこの大学なんですか?」
「えーっとね…」
知ってることを質問する。話の広げ方がへたくそすぎる。会話してる二人、主に翼を呆れ顔で見ていると、横から和樹に声をかけられた。
「まぁ、翼らしくていいんじゃないか?」
和樹が少し楽しそうに言う。俺からしてみれば変なこと聞かないか心配で仕方がない。
「んー、何とも言えない質問だな。というよりお前よく冷静でいられたな。」
「まぁな、お前が女子を可愛いとか今まで聞いたことないからさ、さぞかし可愛いんだろうなと思って心の準備はしといたんだ。」
「流石だな。」
「でも結構予想の上を行かれてしまった。あれでも割と焦ってたんだがな。」
少し笑いながら言う。
「やっぱお前は翼と違うな。」
「ていうか、純恋さん見た感じそんな悪い人に見えないけどな。」
「いや悪い人というか、スキンシップ激しいから相性が合わないというか。」
「なるほどな、もしかしたらお前のこと好きなのかもな。」
「おいやめろよ。」
「冗談だよ。でも可能性としてはゼロじゃない気はするぞ。お前もそう思わないか?」
確かに言われてみればそうかもしれない。でもただ遊んでるだけの可能性が高い。
「あえてノーコメントで。」
「お前らしい答えだな。じゃあそろそろ行くか。」
そして和樹が二人に声をかける。
「翼、行くぞ。純恋さんも行きましょう。」
と言うと二人は和樹のほうを向いた。
「わかった。」
「うん!」
そして俺たち四人は神社の周りをうろつく。とはいっても特になにもないのが現実だが、とりあえず歩く。
「純恋さんは、高校時代はどんな風に過ごしてたんですか?」
意外にも第一声を発したのは和樹だった。
「そうだなぁ、遊びまくってたね。」
「彼氏とかいなかったんですか?」
翼が食いつくように聞いてくる。変なこと聞いたら後でしばき倒す。
「いやー、いなかったね。」
それでも嫌な顔一つせずに笑いながら言う。初対面でこんな質問されたら戸惑うはずなきがするが。
「えー!?告白とかされなかったんですか?」
さらに攻めた質問をしてきやがる。頼むから常識を考えてくれ。
「されたけど、あんまり興味ない人ばっかだったからさ。」
変わらず笑顔でそう言う。なんだか時間の問題な気がした。すると次の瞬間、和樹が口を開く。
「涼太のことどう思いますか?」
和樹からこんな質問がくるとは予想だにしなかった。と同時に殺意がわく。
「んー、秘密!」
さっきよりも笑顔になってそういう、なんか複雑な気分だ。そして俺は後ろから隣にいる和樹の手首をつかみ思いっきり握る。
「おい和樹、見損なったよ。」
俺は数だけに聞こえるくらいの小声で言う。
「いててて、ごめんごめんつい調子乗った。」
和樹は笑ってる
「お前次変なこと聞いたらこんなんじゃ済まさねぇぞ。」
「わかったわかった、血が止まるから放してくれ。」
痛がる和樹を見て俺は手を放す。和樹まであんな事聞きやがった。もうこのままだといつ度が過ぎた質問が来てもおかしくない。そう思っていると携帯が鳴る音がした。四人は足を止める。ポケットを確認するが俺のではなかった。
「あ、ごめん。母さんからだ。」
電話は翼だった。多分時間的に戻って来い電話だろう。翼は電話に出る。
「もしもし。」
「わかった、すぐ行く。」
電話はすぐに終わった。この短さは戻って来い電話で間違いなさそうだ。案の定翼は俺たちに声をかけてきた。
「わりぃ、俺そろそろもどらないといけないから。」
「わかった。」
「じゃあな。」
そして純恋さんにも声をかける。
「純恋さん、今日は楽しかったです!またお話ししましょう!」
そして翼は行列の中に歩いていく。
「うん、またね!」
彼女は笑顔で翼に手を振る。今後翼からの連絡がめんどくさくなりそうだ。そして残ったのは俺と純恋さんと和樹の三人となった。しばらく立ち止まる。妙に冷たい風が吹いている。すると和樹が喋り始めた。
「そういえば僕まだ自己紹介してませんでしたね。改めて、涼太の友達の中村和樹です。よろしくお願いします。」
軽く頭を下げる。
「和樹くんって言うんだね。よろしく!」
「さっきは変なこと聞いてごめんなさい。」
和樹は苦笑いしながら言う。こいつ絶対申し訳ないと思ってない。
「全然いいよ!何も話さないよりはいいじゃん!」
それに対して相変わらずの笑顔で返事をする。
「ていうか、涼太も黙ってないで話そうぜ。」
「あ、あぁ。」
正直どう会話に入ればいいかで困っていたので少し助かった部分はある。そしてしばらく三人、主に和樹と純恋さんで話していた。やはり和樹は話が上手かった。どこかの誰かさんとは大違いだ。黙ってる俺が言えることではないが。すると和樹が携帯を取り出した。
「ごめん、俺もうもどらないといけん。また今度な。純恋さんもありがとうございました、また機会があれば。」
と言って和樹も行列の中に歩いて行った。
「おう、じゃあな。」
「またね!」
とうとう二人だけになった。特にすることもないので戻ることにした。
「戻ります。」
「うん!そうだね!」
そして親父のとこへ向かう。割とすぐ近くにいたのですぐに見つけれた。俺たちは親父のとこに戻った。
「あの二人、面白いね!」
戻るとすぐに純恋さんが声をかけてきた。それと同時に手を握ってきた。
「そうですね。というよりすぐ手を握らないでください。」
「えー、だってあの時我慢したんだからいいじゃん!」
たった一時間足らずを我慢と言われるともうお手上げだ。
「あれは我慢のうちに入りません。」
きっぱりと言う。
「ふふっ、それよりさっきの翼くん面白かった。」
「それは良かったです。」
これは翼に報告してやろう。めちゃくちゃ喜ぶだろうから。
「なんか、こう必死に話を広げようとするとことか、なんか可笑しくって。」
「まぁそれが翼ですからね。」
なんとなく想像できる。顔赤くしながら話し広げようとしてあたふたする翼の顔が。なんかこっちまで笑いそうになってしまった。
「いい友達持ってよかったね!」
「はい、そうですね。」
そして順番が来たので俺と親父と純恋さんと優子さんはお参りを済ませる。
「ねぇ、どんなことお願いしたの?」
「いえ、大したお願いしてないので。」
「えーつまんないの。」
少しほっぺを膨らます。大したお願いをしていないのは事実だ。しかしお願いをしてる最中に違和感があった。
心のどこかで、純恋さんのことを考えている自分がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます