第6話 召喚師の立ち位置にゃん

 「楽しかったわね~」


 「それはよかったね……」


 採取後街へと戻る二人。メデルは、ご機嫌だがクロは不機嫌だ。

 その原因は、先ほどすれ違った冒険者達のせいだろう――。



 「よう、クロ。冒険者になれたんだって? おめでとう」


 腰に剣をさし、靴とグローブを装備した茶色の猫がクロに声を掛けて来た。


 「……ミューダ」


 ボソッと、クロは呟く。その顔は、ムッとしている。


 「召喚師になれたってか。なるほど。自分より優秀な奴を召喚出来てよかったな。おかげで採取は出来る様になったみたいだな。俺様はこれから討伐だ」


 どうだと言わんばかりの顔つきでミューダは言った。

 ミューダの隣には、尖がり帽子をかぶった赤い猫がいて、クロをじとーっと見つめている。


 「そうだ。アジド。お前、召喚出来るか?」


 「さあどうだろう? 試した事ないですから。必要ないです。俺にはこれがありますから」


 そうアジドは言うと、大きな青い宝石がついた銀のロッドを突き出した。


 「あ、クロも一応杖は持っていたか。こりゃ失礼」


 と、二人は大笑いして、クロ達とは逆に山へと向かって行った。



 ――思い出しただけでも腹が立つ。僕だって認められたのに!


 「ねえ、そう言えばさっきの猫ちゃん達も村の子なの?」


 「にゃ!? 子!?」


 ――メデルにかかると、猫は全部、子になるのか?


 「一応いっておくけど、僕も含め成人しているから」


 「あ、それはわかってるわよ。でも猫ちゃんってかわいいから」


 「かわいい言うなにゃ! 嬉しくないにゃ!」


 「ごめんごめん。むくれないの」


 クロは、ため息を一つついた。


 「はぁ……。ミューダは村長のひ孫。彼は魔法より剣の腕がいいみたいで、剣士になったんだ」


 「ふーん。剣士って珍しいの?」


 「猫族では珍しいよ。もちろん魔法も使える」


 「ふーん。魔法と召喚って違うものなの?」


 「召喚は魔法の一つ。でも魔法の種類のランクで言えば一番下なんだ」


 「なんで?」


 「にゃんでって……炎などの魔法はある程度の強度などがあって初めて認められるけど、召喚は一回でも出来ればいいからにゃ!」


 「あ、そういう事なんだ」


 召喚以外の魔法は、合格ラインがあるが召喚は出来れば認められる為、魔法の扱いとしては低い。しかも召喚している間は、他の召喚が出来ないので、強いモノを召喚しないと意味がない。

 普通は、自分が魔法使いなので剣士などを召喚するのが一般的だ。しかし召喚したのが剣士でなくても召喚できれば合格だった。

 その為クロは、剣士でも魔法使いでもないメデルを召喚しても合格できたのだ。


 「うーん。クロちゃんは剣士を呼び出したかったんだよね? 私剣でも振ろうか?」


 「何を言ってるにゃ! 戦闘しないからってそういうステータスにしたじゃにゃいか」


 「あ、そう言えばそうだったわ。じゃ戦闘はクロちゃんにお任せね」


 「言っている事が滅茶苦茶にゃ! 戦闘ができるなら普通の魔法使いとして合格しているにゃ!」


 「え? 魔法使いじゃないの?」


 「魔法使いにゃ! だからメデルを召喚したにゃん!」


 「どうどう。落ち着いて」


 「馬じゃなくて猫にゃん!」


 尻尾を逆立てクロは言う。


 「わかってるわよ。ごめんね。いまいちよくわからなくて……。からかってるわけじゃないからね」


 「わ、わかってるよ。魔法は一応使えるよ。でも合格ラインに届かないから認められていないだけ」


 「魔法使いの世界も厳しいのね。それって練習して上手にならないものなの?」


 「なるよ。でも冒険者に登録するのには、期限があって召喚師として区別されたんだ。さっきあいつらが言ったように、魔法使いだけど召喚以外ほぼ使えない魔法使いが召喚師になるからね」


 としょんぼりしてしまうクロ。


 「大丈夫よクロちゃん。上達するというのなら希望はあるじゃない。私と一緒に頑張りましょう。あなたは魔法使いを目指し、私はビルダーを目指す!」


 「メデルって前向きだなぁ。うん。そうだね」


 「よし。そうと決まれば次のクエストは、討伐ね!」


 「にゃんでそうなるにゃん! 無理に決まってるにゃ~!」


 「そう?」


 「あのね……クエストには期限もあるんだよ。それまでにこなさないといけないの」


 「じゃ練習みたいのは出来ないの?」


 「で、できるけど……怖いにゃん」


 クロは俯いた。


 メデルにするとこの世界はゲームの世界で、死んでも生き返る感覚だが、クロはこの世界の住人で、死ぬとそのままだ。つまり生き返らない。

 NPCだが、リアルに設定されている為クロにも感情があるのだ。嬉しい、悲しい、悔しい……そして怖い。


 「僕達は、死んだらこの世界から消えるにゃん。僕はもうこの世界で暮らす事はないにゃん。それがさだめだけど……」


 「そうだったわね。でもいずれは強くなって出て行けるのよね?」


 「どうだろうね。色んなパターンがあるけど、それは僕にもわからないんだ。僕達の選択で未来が変わる。無理すれば僕はそこで終わりなんだ。でもメデルはプレイヤーだから死んでも生き返る」


 「そんな悲しい顔しないで。前にも言ったけどあなたを死なせたりしないわ。私が死んでも大丈夫というなら盾になるから、ね」


 「にゃ!」


 まさかの言葉にクロは、目を潤ませる。


 「だから一緒に目指しましょう!」


 「ありがとうにゃん。メデルを召喚してよかったにゃん」


 「ありがとう、クロちゃん」


 ひしっと抱きしめあう……いや、メデルにクロは抱き上げられぎゅーとされるのであった。


 ――よし! 立派な魔法使いを目指すにゃん!


 「って、いつまで抱き上げてるにゃん! 誰かとすれ違ったらどうするにゃん!」


 「もうクロちゃんったら恥ずかしがり屋さんね」


 つんと、メデルは鼻をつつくのだった。

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クロちゃんの目的は、メデル《おばちゃん》を立派なビルダーにする事ではく、一人前になる事にゃん! すみ 小桜 @sumitan

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