話をしてもらおう
明らかに街が騒がしくなった。
「もっと違うやり方はあったんじゃないかって、私は思うんですよ」
再び王様へと向いて
「こうやって一方的に闘いを仕掛けて、それを広げていってこんなことになって。
そうじゃないやり方はありましたよね?」
「なにをした」
王様の問いかけは無視する。
「世界の停滞と止めるためって言っても、美味しい思いをしているのが王様一人って、それは世界を止めるためじゃなくて王様が得をしたいため、なんじゃないですか?」
「街の連中になにをした!」
城内も同じように騒がしくなってきた。
街に駐在していた兵士たちが甲冑を鳴らして城内へと駆け込んでくる。彼らが報告をしてその報告が王様の耳に届くまでもうちょっと。だから
「街の人たちには声をかけてきました」
笑顔で、自分からネタばらしをすることにした。
「『これから私と王様がする話をちゃんと聞いていてくださいね』ってことをね。
いやぁ、大変だったんですよ。なるべく街の人全員に話そうと思っていたんですけど、この街人多すぎるんだよね。
でもまぁ、ノドを酷使した甲斐はあったかなって」
城下町の騒ぎは止まるどころか騒がしくなる一方。
「バカな……!
お前の言葉ではただ耳を傾けさせるだけで、この距離でどう言葉を聞かせた!」
「ふふーん」
にんまり笑って胸を張る雪那。
「私の力だってね、パワーアップすればそのくらいは可能なのよね!」
声をかけるだけ。背中をちょっと押すだけ。雪那は自分の声に備わっている力をその程度だとずっと思っていた。
しかし先日の†ダンテ†との闘いで力は成長すると教わり、いつの間にか自分の力の成長をセーブしていたことに気づいた。
「誰かのお陰で戦場でずっと声をかけ続けていたからかもかな?
誰かさんには感謝しないといけないね!」
ようやく報告に来た兵士が来るやいなや、王様はその兵士が腰から下げていた剣を抜いて、雪那へと投げつけてきた。しかし剣は雪那へと辿り着くことなく、土台の一部が伸びて壁になって弾かれて落下していく。
雪那は動じない。少なくとも表面は。内心は今にも泣き出しそうなぐらいに驚いている。
「今さらそんなことしてももう遅いでしょ。本当にこの世界のために動きたいのだったら王様だけが犠牲になればよかったんだよね。このままじゃ、王様が悪者、じゃなくてこの国が悪者になって滅ぼされるだけですよ。
どうやら、街に人たちはそれは嫌みたいですね」
右足の踵で足場を3回叩く。それが合図。
足場の背後に階段が作られて、雪那は王様に背中を向けて階段を降り始めた。誰もいなくなった足場が崩れて、階段も雪那が降りる端から崩れ落ちていく。
背中の向こう側、お城のテラスで王様は雪那へとなにか言葉を投げつけていた。まったく聞こえないふりをして降り続ける。
喧騒は止むことを知らない。
やがて城下町から広がり、城へと広がっていく。
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