言葉の応酬

 左手を腰に当てて、右手の指先が頬のラインを撫でていく。


「このまま続けてもなんの解決にもならないんじゃないですかね」


「なにを言っている?」


「でーすから。このまま国王様が戦争をし続けても、なんの意味もないんじゃないですかってことを、私は言いたいわけですよ」


 薄ら笑いながら言いながら、あっ、これそうとう頭にきているな。というのが相手から見て取れた。


 テラス部分にくっつけてブロックの高台を設置するかと冴橋に言われて、念のため離しておこうと提案した十数分前の自分を褒めた。


 人間離れした跳躍力でもなければ彼女のいる高台まではたどり着けない。


「なんの意味もないとはどういうことだ? 私のしていることを否定するということは、つまりは人はこのまま停滞したままでよいと、そういうことなのか?」


「それは否定しません」


 きっぱりと言い放つ。

 今度は両手とも腰に当てる姿勢を取る。


「止まったままでいいとは言わないですよ。

 例えば寒い日とか家の中でおこたに入ってぬくぬくするのは気持ちいいですけど、一度味わってしまうと抜け出せなくなって、しかも他のことがなにもできなくなる」


 前に国王から言われたことを思い出して例を挙げるが、例えが悪かったのか国王は首を傾げていた。

 雪那もそれは肌で感じていて、慌てて例えを変える。


「えっと! なにもしないで家の中でゴロゴロしているのは気持ちいいかもしれないですけど、それじゃダメですよねってことを言いたいわけで。そのうち生活もできなくなっちゃうし」


 若干頬が赤い。


「だからといって、生活するために強盗とかするのはぜんぜん違うことですよね」


 またピリピリとした空気がやってくる。


「つまり私のしていることは単なる強盗と、そう言いたいのかね」


「私利私欲ってところは同じじゃないですかね」


 正面から睨まれて怖いけど、目を離さず奮闘する雪那。


「私はこの世界のために行動をしている!

 キミには前にも説明をしたはずだ。このままではこの世界はいずれ崩壊をしてしまう!

 このままなにもせず! なにも起こらず! それらが当たり前であるかぎりこの世界に未来は存在しない!

 だから私が行動をした! それを邪魔するということは! お前たちはこの世界のことをなにも考えず、どうなろうとこの先を知ろうともせず、ただこの瞬間だけこの刹那だけを生きればよいと考えている、この世界にとっての悪人だ!」


「あら? 悪人ってのはこの場合、王様のことですよね」


 あー、逃げ出したい。けれども無理やり笑顔を浮かべる。


「いままさに、この世界にとっての悪人って王様ご自身のことですよね?

 他国を攻めて吸収して、大きく大きくなってもそれでも他の国への侵攻を止めなかった。どうみても、今の王様は悪人そのものですよね。自覚、無かったんですか?」


 他人を煽る言葉がここまでスラスラ出てくるとは思わなかった。


「もしかしていま私に言われて初めて気がついちゃった感じですか?

 あー、いるんですよねぇ。周りが見えなくなっちゃうタイプの人」


 多分、今の自分を客観的に見ることができたのなら、雪那は自分自身に引いてしまうだろう。


「いまの王様は誰がどう見ても、この世界の全部を独占しようとしている独裁者そのものですよね。

 やっぱりこのまま全世界を掌握するんですよね?」


 でもなんだか楽しくなってきた。

 いま自分が浮かべている笑顔は、悪い顔をしているんだろうなぁと、そのことを思うとやっぱり笑顔が浮かぶ。


「ところで、王様に質問があります」


 表情には出ていないものの明らかに怒りの意志を見せている。

 今の王様に質問を投げかけて答えてくれるかどうかはわからない。それでもと、言葉を続ける。


「良くも悪くもいま世界はこの国を中心にして動いています。けれどもいつまでもこの国が中心というわけじゃあないですよね。敵対している連合国ができていて、いまは傘下にいる他の国もいつ裏切るかはわからない。

 そうなった時にこの国はどうなります?」


「その時は……この国は滅びるだろうな」


「相手の王様はどうなります?」


「無論、最後まで戦って死ぬだけだ」


「この街はどうなります?」


「戦場と化すのだろうな」


「たくさん、人が死ぬでしょうね。それも街の人たちが」


「それもこの世界の停滞を止めるための犠牲だ」




「――だ、そうですよ」


 王様に背中を向けて、眼下に広がる城下町へと向かって声をかける。

 もちろん、城下町を見下ろせると言っても距離はある。声を張ったとしても満足に届くようなものではない。


 本来であれば。

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