ファンは数ではない
「エルクさん!」
何度も声をかけたのに当人にはとうとう声は届かなかった。
自分で自分の腹部にナイフを突き刺して、エルクの体が地面に倒れていく。
倒れて立ち上がる気配はない。
「なんでですか!
アナタの目的は……私じゃないんですか!」
声が震えていた。
「私を……始末しようとしていたんじゃないんですか!」
必死に抑えようとしても、震える声は止まらない。
「これ以上関係のない人を傷つけないでください!」
叫んだ。
言い切ったあとに深呼吸を続ける。胸を抑えて呼吸も抑えて、やがて呼吸が戻ったころにもう一度†ダンテ†を睨みつけるように見上げる。
「そのとおり」
睨みつけられていることなど意に返さずに、†ダンテ†はニヒルに笑ってみせる。
「その様子だと、この女から聞かされてはいるようだな。
自分の命が狙われていることを」
右手を天へと伸ばして、指先だけが意味不明に動き続ける。
「関係ない? お前はそう言ったな。
だがその女はジャマをしようとした。それでは関係ないとはいえない。そうだろう?」
右手を引き下げて、両腕を背中で組み合わせる。
「ジャマをしたからこうなっただけだ。
勘違いをしてもらっては困る。なぁ。お前もそう思うのだろう」
その言葉を雪那へ、そしてたったいまこの場に辿り着いたもう一人へと向ける。
彼がやってきて、雪那はなにか声をかけるかどうか真剣に悩んだ。声をかけていい雰囲気ではとてもなかった。静かに、手にした3つのブロックから剣を作り出す。無言のまま†ダンテ†へと近づいて、無言のまま剣を†ダンテ†へと突き出した。
「冴橋さん!」
ここでようやく彼の名前を口にする。しかし声は当人には届いていない。
†ダンテ†は突き出された剣を軽く避ける。
「どうした? そんなに激昂して。
そんな顔は、お前の生放送じゃ一度として見ていないぞ」
「黙れっ!」
引き戻した剣を今度は振り下ろす。
いやらしく笑う†ダンテ†と怒りに表情を固める冴橋明。
「どうした? ブロックを積み上げてせっかく作った建造物を、無常にも爆発で壊されて怒っているのか?」
「黙れと!」
手に持っていた剣を†ダンテ†へと投げつける。これを当然のように避ける†ダンテ†。しかしその間に2本目の剣を作り出して、再度†ダンテ†へと斬りかかった。
「言っているんだよ!」
威勢はまだあった。しかし先に影響を受けたのは体のほう。
†ダンテ†の放つ歌声は、たとえ相手が激昂していたとしても脳に直接作用する。怒りすぎて歌声が聞こえなくて効果が無い。そんなことはない。
体の動きが鈍りだして、剣先が地面へとついてしまう。
「くそっ!」
表情だけは視線だけは、それだけで†ダンテ†の命を刈り取る勢い。体だけがついていけずについには地面に膝をついてしまった。
「こんなものなのか?
失望をしたぞ」
ため息を吐きつつ首を振る。
「まぁ構わん」
見下すような表情のままで
「これでオレの名声も上がるのなら、構わん」
冴橋へと近寄って、彼の手から剣を奪い取る。剣の重さを確かめるように何度か振り回して、地面に膝をついたままの冴橋の頭へと剣を振りかぶった。
「ゲーム実況者はこんなものだったのか。
ゲームが出来なければ、ただの人か」
†ダンテ†の声、振り下ろされる剣の音。
それらに阻まれることなく冴橋の耳に声が届く。
「私は、ただの人でも、アキラ様のことが、大好きです」
金属同士がぶつかり合う音。
冴橋の頭上へと振り下ろされた剣は直前で、もう一つの剣によって止められていた。
「たった一人でも」
振り下ろされた剣を、冴橋は自分が持つ剣の背で流して反らす。そうすることで†ダンテ†の姿勢を崩してそこを斬りかかる。しかし†ダンテ†はこれを避けて距離を取る。
「アンタも生放送しているんだったらわかるよな」
剣を肩で担いで指差す。
「たった一人でも、オレのためにコメントをしてくれる。それだけで湧き上がる嬉しさをさ」
「たった一人のコメントで、私の歌声から逃れたとでも言うのか?」
「あぁそうさ。
そのコメントのほうが、オレの心により響いたんだからさ!」
肩で担いでいた剣を地面に突き刺して、複数のブロックを生み出して幾つもの造形物を作り上げていく。最初に出来上がったのは人の背丈の倍ほどもあるゴーレム。その背後ではさらに巨大な竜が急ピッチで作り上げられていく。
「さぁどうする†ダンテ†さんよ!」
剣を再び握る冴橋の隣では、すでに3体目のゴーレムが完成間際。
「ゲーム実況者と歌ってみた。どっちが上なのか禁断の闘いでもするか!」
一歩、†ダンテ†へと踏み出す。†ダンテ†は、一歩下がった。
「悔しいことではあるが、ここはおとなしく退こうじゃないか」
前を向いたまま下がっていく。
「また、いずれな」
距離をとったところで振り返って、悠々と歩いて去っていく。
姿が見えなくなって何分間たったことだろう。計4体のゴーレムと1匹のドラゴン。そしてそれらの中心に立つ冴橋。†ダンテ†がいなくなってもこれらにまったく動きがない様子に、雪那は恐る恐る冴橋へと近づいていく。前側に回って彼の顔を見て気づく。
「えっ、気を失ってる……の?」
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