また、いつか
雪那は後退を続ける軍の中ほどにいた。
時折、大将自ら操る馬に乗せられて殿やあるいは前方に連れて行かれては、言葉をかけていく。敵兵を勢いで圧倒させているとはいえ、誰もが限界は近い。いや、兵士によっては限界なんてとっくに超えているものもいる。
支えているのはかけられた声。今ここで倒れたらもう声をかけてもらえない。ここで倒れたら彼女が哀しんでしまうかもしれない。
足を止めずに進み続ける。
「そろそろかもしれないな」
殿の兵士たちに声をかけてきて、中程まで戻ってきたところで将軍がそうつぶやいた。いつもなら馬から先に降りて、不慣れな雪那を下ろすためにエスコートするのだが、今回は馬から降りて次のアクションをしようとはしない。
馬の手綱を掴んで、馬と並んで歩み出す。
「あ、あの……」
雪那が不思議がっていると
「そうですね。この辺りが良いかと」
いつからそこにいたのか。背後にエルクがいて雪那を驚かせた。
「そうか。じゃあここからは頼めるか」
「私がお仕えするのはただ一人ではありますが、謹んでお受けいたしましょう」
歩きながら礼をして
「ではユキナ様はこちらへ」
馬上の雪那の手をとる。
「あっ、はい」
なにがなんだかわからないままエルクに手を掴まれて、馬から降ろされる。
そのまま、隊から離れるように脇道へと移動する。
「しかしそんなところに道があるとはなぁ」
一見するとそこは木と草が生い茂った林。獣道すら見えないような林だったが
「ここは地元の人間でもごく一部しか知らない道です。多分、追いかけてきている人たちも知らないのではないでしょうか」
「まぁ知っていたとしても相手はこっちを追いかけるのに必死だからな。気づかせないよう、こっちも暴れるさ」
2人の会話からようやく雪那は理解をした。
「えっ、じゃあ私だけここから逃げるってことなの?
そんなの」
そんなのダメだよ。そう口にしようとしたのに将軍に止められた。
「もう充分に声はかけてもらったさ。
なぁお前ら! 無事に帰るって言われたもんな!」
回りにいる兵士たちが同調し頷き合う。
「ほらよ。だからこれ以上の『声』はいいんだよ」
口元を緩ませる将軍。
「それにオレたちはいい。国に戻っても問題はないだろうよ。けど、アンタは違うんだろ?」
言われてハッとする。
「どこに行くのかは詮索はしない。
本国には戦いの最中はぐれてしまったとでも報告をすればいいさ」
まだなにか言いたげそうな雪那。けれどもエルクに腕を引かれて林へと向かっていく。
「絶対にみんな、ちゃんと帰ってくださいね!」
すでに歩き出した大将が振り返らずに腕を振る。
『また会いましょう!』
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