第4章 対峙してみた

疲労

 はるか昔、この世界には大きな一つの国が存在していた。


 世界すべてがその国の領地であり、誰もがその国の住人だった。しかしやがて人々の思想や理想の違いから国が分裂をしていくことに。大小様々な国が世界のあちこちに生まれては消え、生まれては消え。そんな歴史を繰り返してきた。


 またひとつ、国が消えた。


 燃え盛る王都を、その炎を†ダンテ†は薄く微笑みながら見つめていた。

 なにもかも燃やし尽くす炎が、無事のままの城壁よりも高く登って天をも焦がしていく。こんな時こそ歌を歌いたくなる。しかし下手に歌詞をつけては誰かに影響が出てしまうので、鼻歌のように歌詞を付けずに歌を口にする。


 負傷兵たちはお互いに助けあって帰路へとつきだしている。ただ一人呑気に歌っている†ダンテ†にしかし誰も文句は言えない。


 炎はやがて自然に鎮火して、そのあとは事後処理が待っている。闘いのさなかに命を落としたもの以外、闘いのあとで処刑された者はいない。圧倒的な恐怖を与えてしまえば、それ以上は必要はない。王が命令をしていたとおり、死を恐れぬ兵によって蹂躙された国はその王は、二度と剣を向けぬ、従属になると誓った。


 城内で出会い頭に出会った人物に、その人物の浮かべた顔に雪那は今の自分の顔色を理解する。


「寝てはいますよ」


 相手がなにかを言う間に弁明をする。


「ここ1週間はずっとお城の中にいましたから、睡眠時間はちゃんとあります」


 しかし、雪那がどう弁明をしようとも、出会い頭にあった青年は口にしようとしていた言葉を変えない。


「ほんと、いつ会ってもひどい顔しているな」


 冴橋明の言葉に反論の言葉が浮かんでこなかった。


「その様子だと、『声』の力が弱まっているっていうウワサも本当のようだな」


 雪那が顔を伏せる。


「あいも変わらずこの国はいろんな国へ侵攻を続けてる。

 それにもかかわらずあんたは城にいる。つまりは」


「それ以上は」


 冴橋の言葉を遮る。


「わかっています。それは一番、自分がよくわかっています」


 無理矢理の笑顔で


「多分疲労が溜まっているんだと想います。王様もそれを理解していて、だから私に休暇をくれたんだと思います。

 でももう大丈夫ですよ。おかげさまで私も」


「それでいいのか」


 今度は冴橋が言葉を遮る。雪那の背後の壁に手をついて顔を近づける。声を細めて


「この国はもう、戻れない所まで来ている。

 できることは2つだ。一緒にどこまでも行くか、別の方角へと足を向けるか」


 壁から手を離す。


「タイムリミットはもうとっくに過ぎているけどな」


「じゃあ……」


 伏せていた顔を上げる。


「いまから答えを見つけても、もう遅いってことですか」


 問いかけに冴橋は首を傾げた。


「さてな」


「それって無責任じゃないですか。言うだけ言っておいて」


「そうか?」


 踵を返して冴橋は雪那に


「オレたちの配信だって、放送時間終了したはずなのに放送が終わらない、そんなロスタイムがあるだろ?

 いまがその時間だよ。いつ終わるかわからない、でもまだ終わらない。

 じゃあその間になにをする? オレはゲーム実況を続ける。

 じゃああんたはどうするんだ?」


 振り返ることなくそのまま歩き去っていく。


「じゃあ。オレはここの王様に呼ばれているんでね」


 やがて見えなくなる冴橋の姿を目で追いながら、しゃがみ込もうとしてなんとか耐える。


「私にできること、か」


 まだ表情に疲労の色は濃い。

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