第3章 たたかってみた

どうしてこうなってしまった

 自分に求められているのはこの声。それは雪那自身よく理解をしていた。だからこそ、この声でなにができるかをこの国、カーヴェの参謀の役職についてから何日も研究していた。


 こっそりと城を抜けだしては、街の子供相手にひっそりと声をかけている。我ながら怪しいことをしているなぁと、苦笑いを浮かべながら。


「よし、こんなところかな」


文字を書いた紙を持ち上げて頷く。文字の最初の方は、鉛筆もボールペンもなくてあったのは鳥の羽を利用した筆。そのためかなり読みにくくなっていたが、それでも日本語で書かれたこれが読めるのはこの国で自分だけなので、自分がわかればそれで問題はなかった。


「だいぶわかってきたかな、私の力について」


墨がまだ完全に乾ききっていないせいか、持ち上げた紙に書かれた文字が滲んでいくのがわかる。


「おっとっと」


 慌ててテーブルに下ろす。

 それから、紙に書かれた言葉を口にしていく。


「私のあの声の力は普通に喋ってもなにも起こらない。多分……強く思って口にしないと意味が無いんじゃないかな。だから結構疲れる。

 中途半端な思いじゃ意味が無いからね。だから相手に無理やり言い聞かせることはできない。というか、そういうお願いはどうしても私が真剣にお願いできなくなっちゃう」


再確認をして、ほっと胸を撫で下ろす。自分が納得をいかなければ声で人の心を動かすことはできない。強制的に人の心を動かすような事はできない。


 それがわかって嬉しかった。


 はずなのに。


『みなさん! 頑張っていきましょう! みんなで国へと帰りましょう!』


自分に強く言い聞かせる。これはみんなのため。みんなが死なないためなんだと強く言い聞かせる。


 雪那はいくつも展開されていた戦地の一つにいた。相手の軍はこのだだっ広い平原の奥にいる。相手は必死だ。なにしろ自分たちが敗れてしまえば自分たちの国への道がひらけてしまうのだから。


『全軍出撃です!』


 なぜこうなってしまったのだろう。


 進軍を始めた兵士たちに声を送りながら、浮かべる表情は泣きそうにも見えた。


 事の発端は一週間ほど前に遡る。

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