雑談スキル
「声……ですか?」
横目で、活躍する明の様子を眺めつつ、メイドは雪那の言葉に耳を傾ける。
「うん、そうなんですよ。冴橋さんの話だと、私は配信者だからトークがメインだからそうなったんじゃないかって」
「ハイシンシャ……と言うのは喋るのがお仕事なんですか?」
「んー。ちょっと違うかな」
空を向いて考えこむ。
「みんなに向けて喋るのが好きな人、かな?」
自分が生放送をしている時のことを思い出す。
「しゃべっている相手の人の顔は見えないし、見えたってたくさんの人だから一人ひとりの顔をじっくり見ることもできない。それに相手の言葉は……コメントで見られるけど全部は見られない。
だけど、私はみんなに喋りたいの。感情を言葉にしてしゃべり続けたい、そんな……う~ん、変人かな?」
専門用語を言っても理解してくれないだろうとなるべく噛み砕いて喋ってはみたが、それでもやはり目の前のメイドさんは首を傾げてしまった。
「なんて言ったらいいのかな……ははっ。
とにかく、喋ることが趣味みたいなの、私は」
ようやくメイドの首の角度が戻る。
「なるほど。わかりました」
言葉通りに納得したのかわからない。もしかしたら冴橋の様子を正面から見るための言葉だったんじゃないかと思えるぐらいに、彼のことを凝視し始めた。その冴橋の方というと。ちょうどタイミングよく戦いを終えていた。
兵士たちは倒れている兵士を抱えて逃げ出している。
雪那たちへとVサインを送る余裕すらある。
「終わったんですよね」
崖から体を乗り出して左へ右へと確認を繰り返すメイド。遠くに消えていく兵士たちの姿がだんだんと見えなくなって、メイドも冴橋ももう少しだけ緊張を保っている。時間にして5分ほど。ようやくメイドが崖を降りだした。
「走ると危ないですよ!」
彼女自身でも、このロングスカートでこの崖を走って降りるのは危険という自覚はあったのだろうか。それまでは驚くほどにスラスラ降りていたのに、声をかけられてからは早歩き程度で崖を降りていく。
降りきって、平地になって冴橋へと走りだす。
「ん~」
一段落ついたのだろうと、雪那は判断をした。
大きく背筋を伸ばして目尻に浮かんだ涙を指で拭う。
「やっぱりまだよくわかんないな。自分が今どうなっているかってさ」
眼下では、冴橋の元へと駆け寄ったメイドが嬉しそうに感想を口にしている。冴橋はメイドの賛辞を聞いて胸を張って喜んでいる。
「戻れるならもちろん、元の世界には戻りたいんだけどさ、戻れないんだよね、これ。うん、多分」
空から大地、もう一度空を見上げる。
「これが私一人だけならこれは夢! って事も言えるんだけど、同じ境遇の人がいて、その人も私も変な力をいつの間にか持っている」
思い返してみる。数日前の出来事とつい先程起きた出来事。
「意味があるってことなんだよね、これ。私はあの人がこの世界に来ることになったのにはなにか意味がある。だからこんな力がある」
言い訳。そうこれはいいわけでしかない。
言い切って、深く深くため息をついた。
「はぁ。やるしかないのかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます