突然の

 もしかしてやっぱりこれは盛大なドッキリで、と思って城下町を歩き出した雪那はそこに暮らす人々の姿を見ていくうちに、その選択肢を消していた。


 リアルにそこでは人々が生活をしていた。生活臭が漂い、息遣いがする。これがドッキリだとするのなら、国家レベルで行っていたとしても不思議はないレベル。どれだけの年数で仕込みをすれば、これだけの舞台が作れるのだろうか。


「どうだいお嬢ちゃん。とれたてのフルーツだよ」


「家財道具の補修ならまかせてくれよ。お安くしとくよー!」


「お嬢さんこの生地どうかな? めったに入荷するものじゃないから早い者勝ちだよ」


 メインストリートを歩く端から声をかけられる。見たことのあるような形のフルーツが並んでいた。前回と違ってここで通用するらしい通貨は貰っていたが、これが見たことのあるような味なのかどうかもわからないので、じゃあ頂きますとは中々言えなかった。


「またあとで」


 愛想よく返して歩を進める。街は活気にあふれていた。メインストリートはもちろん、少し裏の路地を歩けば危険が。そんなことはなく子供たちが元気よく走り回っている。昨日来たばかりの雪那にも愛想よく挨拶をしてくれる。職を求めて路地裏に屯う人がいないわけではなかったが、突然背後から襲われて金品を奪われる、そんな雰囲気は漂っていない。


「いい街だと思うけど、停滞……しているのかな」


 王様の言葉を思い出す。


「戦争なんて、無いほうがいいと思うんだけどなぁ」


 路地裏から出てメインストリートを歩き出す。目的地なく進み続けて、いつの間にか高台へと出ていた。そこには大きな教会が建てられていて、今日は休日なのだろうか。多くの人たちが巡礼に訪れていた。大人たちは教会の中で、子供たちは教会の周りで遊んでいる。平和そのものの光景に眺める雪那の表情も緩んでしまう。


 爆発は突然起こった。


 高台にいた雪那が爆発の音が聞こえてきた方角を見ると、城壁の一部から黒煙が上がっているのが見て取れた。続いてもう一度爆音と煙が上がる。

 雪那と同じように、教会にいた大人たちが慌てて建物から出てきて、同じように同じ方角を見る。


「なにあれ」


「爆発? なにが起きているんだ?」


 雪那と同じように誰も状況を把握できていない。3度目の爆発。この時点で雪那の頭にはアラートが鳴りっぱなしなのに、他の大人たちはまだ何事もなかったかのようにのほほんとしていた。


「なんだろうねあれ」


「わかんないけど、気にすることじゃないんじゃないか?」


 教会へと戻っていく人の姿も。

 城壁が何度も爆発している。なにもないわけがないじゃない。そう口にしようとしてなんとか押しとどまる。


「そうか……これが停滞しているってことなんだ」


 苦い顔をうかべて雪那は走りだした。

 4度目の爆発のあと、城壁の一部は壊された。


 城下町はようやく混乱を生み出していた。恐怖は感染する。それは兵士とて対象であった。


「あんたらこんな時のためにいるんだろ! 早くなんとかしろよ!」


「誰か攻めてきているんだぞ! 対処してくれよ!」


 町民に囲まれてしかし兵士たちはどうしていいか、お互い顔を見合わせているだけ。


「ま、まずは城に確認をとってから」


「それじゃ遅いだろ! もう壁が壊されたんだぞ! どうなっているんだ!」


 囲まれる兵士を尻目に、人の波をかき分けて雪那は進み続ける。爆発の起こった箇所に近づくほどにようやく町民たちは焦りの色を見せている。それでもまだ、ここから逃げようとはしていない。爆発が起こって煙を上げる壁を見上げ、なにが起こっているのかを兵士に問いただすだけ。


「本当ならね、あんな爆発が何回も聞こえてきたのなら、逃げなくちゃいけないんだよね」


 ようやく人の波を超えられた。気づけば見上げなければ壁のてっぺんを見ることもできないほどに、壁に近づいていた。


「なのになんで私はこんな所まで来ているんだろうね」


 乾いた笑いを口にする。5度目の爆発が起こったのは直後の事だった。

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