彦母
病院を渡り歩き、結局どこの病院もどんな医師も私の妊娠に協力的ではなかった…
結婚して2年で私は子供を諦めなければならない状況になってしまった。
けれど、往生際の悪い私は
どこかで『もう諦めなければ』と思う反面『まだ大丈夫。妊娠さえすれば今の医学で何とかなる』とも思っていた。
毎月、生理の度に1人…子宮を取るという恐怖と戦うようになり、また私は闇へと転がり落ちた。
彦さんは、この頃の私をどう思っていたのかは解らない。
けれど、不妊治療をやめ私を抱くことはなくなった。
借金を知っても何も言わず普通に返していき
浮気を知っているかのような感じだが
その事に対しても黙っていた私は彦さんにしてみればただ、不気味な存在だったのかも知れない…
子供を望んでいる私に対し
彦さんは全く協力的ではなかったという過去と
彦母との対立を目の当たりにしても何も言わず
みかたをしてくれるような素振りも見せない姿を見ていて私は彦さんとの離婚を考え始めるようになった。
そんなある日、彦母の機嫌が悪かった朝に
私は彦母と初めて言い合うことになった。
あの日の朝の彦母はとても機嫌が悪かった。
彦母「お給仕さん?今日は何を食べさせてもらえるのかしら?」
この日は休みだった彦母が朝から昼食の支度をしていた私に近づいてきてそう聞きながら私の手元を覗き込んできた。
私「今日はお野菜をたくさん頂いたから
お昼は野菜炒めにして、残りは夜にお味噌汁にしようかと思って、大量に野菜を切ってるんです。」
彦母「へぇ…で?その薄く剥いた皮はどうするの?
もう少し厚く剥いたらきんぴらにでも出来るのに…
勿体ないことしないで欲しいわ…
ねぇ?私達は働いてるのよ。
ご飯を食べるために必死にお仕事してるの。
貴方を楽させるために働いてるんじゃないのよ?
ねぇ?少しだけ考えたらどうしたらロスなく料理が出来るか解るのにどうして何も考えずに私達の働いたお金をドブに捨てるようなマネができるの?
奥さん?ねぇ?聞いてる?
頭はね、お飾りで付いてるんじゃないのよ?
使う為に付いてるの。
そんなことも親御さんに習わないで育ったの?(笑)」
人はどこまで残酷な事が言えるんだろう…
私は彦母の言葉をそんな思いで聞いていた。
彦母「聞こえないの?
それとも聞こえないフリ???
こんな嫁…彦は何処がいいのかしら…
私、何度も言ってるわよね?
彦にはもっといい嫁さんが居ると思うの。
誰かの手を借りなきゃ子供を授かれないような嫁
昔ならとっくに里に帰ってもらうところなのに…
有り難いと思わないの?
申し訳ないって思わない?
それなのにこんなムダな事ばかりして…はぁ…」
私は『子供』というキーワードに怒りを覚えた。
私「お母さん?今の言葉、本心ですか?」
私は野菜を切る手を止め、まな板を見つめたまま聞いた。
彦母「あら(笑) 怒ったの?
ねぇ?腹が立った?(笑)
怒ったらどうなるの?
ねぇ、それから?どうするの?
私に見せてみてよ(笑)」
彦母は私の顔を覗き込むようにしながら
何度か私の腕を押してきた。
私「いい加減にしてください!」
私は一瞬、我を忘れ手にしていた包丁をまな板に叩きつけ彦母を睨み付けた。
彦母「あら、本当に怒った(笑)
で?それから?怒ったらどうなるの?(笑)
泣く?泣いて彦に言いつけるの?(笑)
私は別に悪いことは言ってないし、してない。
だから彦に泣きついてきてもいいわよ(笑)
ほら、早く泣いて見せなさいよ(笑)」
この時の彦母の意地悪な顔を
きっと私は一生忘れない。
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