医療従事者の嫁として。

彦さんは病院に勤務している。






だから解る。






患者さんには診察の優先順位があって、状態などで看護師が緊急を要すると判断した患者さんは予約と予約の患者さんの間に入れてもらえる事を…






そして、最終診断は医師がする。







ファイルと問診票に目を通し看護師と同じ見解なら割りと直ぐに呼んでもらえる。








新しく出来たばかりの病院を選んで来てしまった私の判断が甘かった…








ここはまだそんな事がきちんと出来ていなかったのかも知れない…。








看護師「もえさん?今日はどうされましたか?」







私が書いた問診票を手に看護師さんが私の元へ来てくれたのは11時30過ぎだった…








私「そこに書いた通り、妊娠8週目なんですが

今朝から出血してしまって…」







看護師「出血量は多いですか?」







私「はい…」







看護師「今朝の基礎体温は?

付けておられますか?」






私「はい。基礎体温表も母子手帳も持ってきてます…」







看護師「受付で母子手帳の事を言われなかった?」








看護師さんは私の基礎体温表と母子手帳を手に

そう聞いてきた…。







私「いえ、慌てて家を出たので保険証を忘れて来てしまって…保険証の事ばかりで…」







看護師「…そうですか、すみません…」








私「いえ。」







看護師「多分、次に呼ばれると思いますので。

もう少しお待ち頂けますか?」







私「解りました。」







看護師さんが立ち去った後だった。








車椅子に乗せられたお腹の大きな女性が突然来院し病院内が少し慌ただしくなり私の診察は忘れられたかのように次もその次も呼ばれる事はなかった…







気分的なものかも知れないけれど

私は少しづつ体が痺れる感覚に襲われ初め

トイレで何度か嘔吐しながらもひたすら待った…。







私の聞き取り問診をした看護師さんが

次の患者さんを呼びに待合室に出てきた時だった。







『あ、』






私を見て看護師さんはそんな表情を見せた…







看護師「もえさん…すみません。

体調の変化は無いですか?大丈夫ですか?

次、必ずお呼びしますので…」







私「はい。大丈夫です。

救急で来られた患者さんもいらっしゃったみたいだし、その辺は解ってますので…」







本当は大丈夫なんかじゃなかった…







体調とかよりも、お腹の赤ちゃんが心配で

早く助けてあげたくて泣きそうだった…








けれど、私は医師ではない。

私の症状は緊急を要するものではないのかも知れない。

普通の妊娠に見えても、検診のように見えても

身体の中の事は解らない…

誰よりもどの患者さんよりも私が優先なんて思えなかった。






『もうすぐだから、もう少し我慢してね…

先生がきっと助けてくれるから…』







この時の私にはお腹の子にそう言い聞かせることしか出来なかった…。







医療従事者の嫁として

彦さんが恥ずかしくないように…

私は自分に言い聞かせ我慢していた。

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