第4話 兄、来日。

 目覚めてから3日目、明日は退院の日だが外の世界に出るのが怖かった。

 部屋が個室の為か、このままずっと記憶が戻るまで入院していたいと後ろ向きなことを考えてしまう。

 上半身だけ起こし、暇つぶしに外にいる鳥の数を数えていると部屋の外から声が聞こえる。


『パパ、この部屋だよね?』

『おお、名前もそうだし合ってるぞ』

『じゃあ開けるね〜』


 部屋の扉が開くと絶世の美少女が入ってきた。サラサラの長い銀髪と整った顔立ちの白いワンピースを着た10歳ほどの美少女だった。


「あっ!ユーゴだ!」

「お、案外元気そうだな〜」


 その美少女に続いて黒髪で短髪、180センチほどの細身でスーツを着た20代半ばほどのイケメンが入ってくる。この2人で1個物語が作れるんじゃないかと思える美少女と美男子だ。


「あの…すみません。どちら様でしょうか…?」


 いきなり入ってきた2人に少し緊張しながら質問する。

 美男子と美少女が凄いショックな顔をしている。


「本当に記憶喪失なんだな、知ってはいたが目の当たりにすると結構ショックだな…。俺はお前の兄の蒼太だ。で、娘のマリアだ」


 マジかよ…。海外に兄がいるとは聞いていたがカッコ良過ぎだろ。自分との兄弟である共通点が1つも見つからない。この兄は前世で大きめの教会か何かを3軒は建てたくらいの徳を積んだんだろう。あと兄の娘ってことは自分の姪ってことか、このイケメンの兄の遺伝子を受け継いでいるのなら納得の可愛さだ。


「すみません、自分もお母さんから聞いてはいたのですが、どんな人か詳しく聞いてなかったので」


 と話し兄と姪を見ると、驚いた顔で自分を見ていた。


「敬語で話すのナシな」

「え?」

「今から俺やマリアに対して敬語禁止だ。あとお前は自分のことを自分だなんて言わん、俺って言え俺って」


 たしかに兄弟で敬語も変か…。あと今思えば自分の一人称を誰かに聞くのを忘れていた。そうか『俺』なのか…。


「分かったよ、お兄ちゃん」

「いや俺のことは呼び捨てか兄とかで言い、お前にお兄ちゃんとか呼ばれるのなんか気持ち悪い」


 キツイ言い方だな地味にショックだ。


「でも良かった!ユーゴ、元気そうで!私もパパも凄く心配してたんだよ!」


 天使かよ、可愛い!そうか、兄も心配してくれてたんだ…


「俺はそんなに心配してなっかたけどな、たまたま時間が空いたから実家に帰ろうかと思ってたら、お前が車に轢かれたって聞いてな、実家に行くついでに見舞いに来てやっただけだよ。もしも忙しかったら見舞いに何か来ねぇよ」


 このクソ兄。そうか俺とはそんなに仲は良くなかったみたいだな。まあ来てくれただけ有難いと思うか。


「パパのうそつき〜」


 そう言いながらジト〜とした目で兄を見つめる


「な、何がだよ!」

「パパ、ばあばから電話でユーゴが車に轢かれて意識が戻らないって聞いて急いで今やってる仕事終わらせて、ママに家の事も全部頼んでユーゴのところに行こうとしてたら、ばあばから電話で『ユーゴが目を覚ましたから、もう大丈夫』って聞いたら泣きながら喜んでたのに〜、そのあと記憶喪失になったって聞いて『俺ならアイツの記憶を戻せる!』て言って自信満々で病院に来たのに」


 お兄様…。こんなにイケメンで弟想いって、心までイケメンかよ。ヤバイちょっと泣きそう。


「マリア!それは言うなって飛行機の中で約束したろ!」

「だって、パパがユーゴに酷いこと言うからでしょ!」

「冗談に決まってんだろ。あと言ってもいいけど、せめてパパがいないところで言ってくれ」


 顔を赤くしながら恥ずかしそうにマリアに言う。


「そ、それよりだ!ユーゴ、お前の記憶を戻す1番可能性のある方法を持ってきたぞ」


 マリアがゴソゴソとポケットからスマホを取り出し俺に見せてくる。


「ユーゴ、【EAW】のことまで忘れちゃったの?」


 マリアが俺に向けてきたスマホの画面には冒険者の様な服を着た少年と魔法使いの格好をした少女が魔物と戦っている画像だった。

 その画像を見た瞬間心の奥底からワクワクした気持ちと楽しい気持ちが湧き上がってきた。


「マリア!これ何!?」


 俺は画面を見つめながら興奮してマリアに聞く


「これはね、ユーゴが好きだったゲームだよ」


 俺が好きだったゲーム?


「その画像のゲームこそ俺とマリアが持ってきた記憶を戻す方法だ」

「ゲームすることで?どういう意味だ?」

「お前はゲームが大好きだったからな、特に今マリアが見せている【Equip Adventure World】通称【EAW】に関しては相当やり込んでた。つまりゲームをして刺激を得ることが記憶を戻すのに効くと思ったんだ」


 なるほど、このワクワク感が込み上がるゲームなら刺激になるかもしれない。なんだか少し記憶を戻す光が見えた気がしてきた。


「俺このゲームやるよ!どうやったらいいんだ?」

「焦んなって、まずこのゲームの説明をしてやるよ。このゲームは従来のテレビ画面でするゲームじゃなくてゲームの中に入ってプレイヤーが実際に冒険者となって冒険するゲームだ」


 実際にゲームの中に入る?凄い!


「ユーゴの部屋にあるヘルメット型のゲーム機を被って電源ボタンを押せばすぐできるよ」

「ああ、ユーゴの家にこれの【EAW】続編のソフトもあると思うからすぐできるな」


 明日、退院して家に戻ったらやる事が決まった。早く退院してぇ!


「それでユーゴに相談があってな…」


 深刻そうな顔をして兄が言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る