第29話『日の入り門の崩壊』
ブリトーを頬張りスープを啜る。この街に来て柔らかいパンは初めてだ。金色に輝くスープも魚介の出汁が出ていて大変美味い。
「あの子の親父はとんでもない奴でね。戦が始まると真っ先に剣だけ担いで戦場に行っちまうんだよ」
一緒に作業室で食事を取りながらマルエラおばさんはそう言った。ちなみにティコはちょっとトイレに行っている。俺はこの隙にティコの事をおばさんに聞いてみた。
「そ、そうなんですか……」
改めて人から聞かされるととんでもない人だな。
「それで、元々いつも一人取り残されたあの子の事は街の人間が面倒を見てたんだよ。結局、親父の方は戦でおっ死んじまうし」
「そうですか」
「それでもね、この街で孤児院にも行っていない孤児が一人で暮らしていくなんて大変な事なんだよ」
「はい」
「あの子はいつも笑顔で配達なんて答えてたけど、結構危ない仕事や悪い仕事もやらされてたみたいでね。あたしたちもいつもそれが心配でね……」
「はあ」
あ、やばい、これは話が長くなるパターンだ。
「ねえ、あんた西の方から来たんだって」
「え? ええ、まあ、はい」
「だったら、もしティコが望むようならこんな辺境の国じゃなく帝国にでも連れてっておくれよ」
「いや、それは流石に……」
それは流石に約束できない。帝国ってどこ?
「そうかい、でも……」
丁度そこへティコが戻ってきた。そして、すぐさま残りのブリトーへ齧り付いた。ふう、助かった……。
「さて、あたしは後片付けでもしようかね」
そう言い残しおばさんは裏庭の方へと出て行った。
時刻としてはまだお昼前だろう。外からは未だに頻繁に炸裂音が響いて来るが、大部屋の方からも話し声が聞こえて来るようになった。食事の効果はあったみたいだ。
「にーちゃん、今、マルエラおばさんと何話してたんだよ」
ジト目で睨みつけながらティコが話しかけてきた。
「お前とお前の親父さんの話だな」
決してお前の考えているような事ではない。
「そっか……。そう言えば親父は若いころマルエラおばさんとも付き合ってた事があるって言ってたな」
「マジか」
「マジ? うん、本当だぜ。二回ほど寝たと言ってた」
「すげーな、お前の親父さん」
それは、コミュ障気味の俺にはできない芸当だな。
「あったりめーだろ、あたいの親父なんだから。ところで、にーちゃん。これからどうするつもりなんだよ」
「暫くはここで情報を仕入れながら大人しく静観するつもりだ」
「でも、門は破られちまうんだろ」
「間違いなくそうなるだろうな。そうなったらどこかに身を隠してやり過ごすつもりだ」
「身を隠すねえ……。まあ、心当たりがないわけでもないけどな」
「それってどこだ」
「うーん、あんまり人に言えないとこだから、後でこっそり教えるよ」
「わかった」
それから俺たちは食事を終え、裏庭に出て後片付けを手伝った。
「なあ、ティコ。先程より喊声が大きくなってないか」
「うん、確かに。押されてるのかな」
〝ワー〟っと言った喊声がはっきりとここまで聞こえて来た。何やらやばい雰囲気だ。悲鳴のような声も混ざって聞こえる。
「あっ! 槍で打ち合う音も聞こえる……。きゃあ!」
ティコが叫んだ!
同時にこれまでの数倍の大きさの衝撃音が〝ドン! ドーン!〟と連続して鳴り響いた! 地面がぐらぐらと揺れる。ガラガラと崩れる音も響いて来た。建物の向こう側にもくもくと肌色をした土煙が沸き上がる。
「……」
俺は無言でティコと目を合わせた。
――門が崩された!
「何だい! 今のは!」
マルエラおばさんが怒鳴り声を上げた。土煙を見て顔色を変えながら絶句する。
「なん……」
「にーちゃんもおばさんも早く中へ!」
一瞬早く立ち直ったティコが集会所の中へと
俺たちは急いで建物の中へと避難した。まだ耳がジンジンする。大広間の方から子供の泣く声が聞こえて来る。母親がなだめている声が聞こえる。
「にーちゃん、荷物」
「ああ」
俺たちは大広間から階段を上り二階へ荷物を取りに行った。俺はこれからどうすればいい? どう行動するのが正解なんだ。あれ? 手足震えている……。
「にーちゃん、にーちゃん!」
「え?」
「もう、しっかりしてくれよ。緊張してんのか」
「ああ、何故か手足が震えている……」
「それは怖いからだろ。でも、こんな時こそ冷静に考えて行動しないと駄目なんだ」
「お前、すごいな」
「へへへ、でも、実を言うとさっきちょっとちびった」
「……」
――ああ、しっかりしないと駄目だ……。明日まで生き残るそれが今の目標だ。
俺は両手で自分の頬をパンパンと叩いた。よし!
荷物をまとめバッグを担いだ。荷物と言っても何も出していなかったので、そこらにあった毛布をバッグに入れた。そして、俺たちは階段を下り一階へ行った。
一階は案の定パニックになっていた。訳もわからず泣き叫ぶ子供たち。意味もなく歩き回る老人たち。
これは一旦、全員に声をかけて宥めないといけないのか……。
そう考えている時に突如、入り口の扉が開いた。
扉を開き少年が飛び込んで来た! 顔にはべったりと血糊が付いている。朝に入り口で俺に銛を突き付けた少年だ。そして、叫んだ。
「ちきしょう! あいつら雷玉を抱えて突入してきやがった! 門が破られたぞ! 神殿に逃げろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます