第4話『ホーネス王国王都』
結局、犀牛の死骸はその場へ放置する事にした。収納無限のアイテムボックスが口が狭くて物を入れられないので仕方がない。
俺は草原を後にして小道を進み、森の中へと足を踏み入れた――。
日本ではあまり見た事の無い巨木の鬱蒼と生い茂る深い森。その中を新聞紙を丸めたエクスカリバーを構えて進んでいく。傍目からは結構間抜けな姿に見えるだろう……一応、自覚はある。しかし、聖剣エクスカリバーをこんな姿にしたのは俺ではないので俺の責任ではない。
どこからともなく聞いた事の無い鳥の声が聞こえて来た。〝うけけけけけけ……〟――鳥? だよな……。
見たことも無い様な毒々しい色をした大きな花も咲いている。周囲を飛び交う虫がうっとうしい。ここはまるで魔境だ。見たことは無いけど……。
俺は薄暗い森の中を王都を目指し進んだ。
暫く道なりに進んでいると、明るく日の差す場所が見えてきた。――何だろう森が開けているのかな?
しかし、そこは……。
かなり広範囲に木が斬り倒された跡だった。足元には大きな水たまりがいくつもある。
「うわ!」
斬り倒された樹々の合間に体長三メートルほどのサルの死体が転がっているのを見つけた。人では無いよな……。恐る恐る覗き込む。
全身を濃い茶色の毛で覆われた体の大きなニホンザルに見える。胸が斜めに切り裂かれて倒れている。
よく見ると近くにもう一体のサルの死体が転がっていた。これはきっと誰かがここで戦闘を繰り広げたに違いない。一体誰がこんなことを……。
――もう嫌だ、早くお家へ帰りたい……。俺は足早にその場を後にした。切り倒された大木を跨ぎ前に進んだ。
昼なお暗い森の道。奇妙な鳥の笑い声が響いている。正直言えば怖くて足がすくみそうだ。伝説の聖剣を持っていたとしても怖いものは怖いのだ。
震えながらもなんとか森を小一時間程歩き、そして、最後に藪を突っ切り、ついに草原へと出る事に成功した。
「やっと、日の当たるところに出れた!」
元来、日陰者の俺には眩しいほどの日差しが降り注ぐ。
眼下に広がる草原。その向こうに高い壁に囲まれた大きな街が見渡せる。
思わず「これは、進撃の……」おっと! 危ない。高い壁を見て不味い事を口走りそうになった……。
見渡せば街へ何本もの太い道路が街へと繋がっている。森の向こうから見えたのは街外れの小高い丘の上に立つ王城の塔のようだ。
俺は草原を突っ切り一番近くに見える太い道路を目指し歩いた。太い道へ出て今度は王都の壁を目指す。
王都の周辺に簡素な白いテントが沢山建てられているのが見えてきた。お祭りでもしているのだろうか? テントの周囲から幾筋もの煙が上がっている。
近づいてみると兜を被り革の鎧に槍を持った男たちがたむろっているのが見えた。各々が食事の準備や槍の手入れをしているようだ。何だか物騒な気配を感じる。俺は歩調を早め先を急いだ。
だが、その時……。
男たちからの熱い視線を感じる。ちなみに俺にその毛は無い。しかし、人々の注目を集めるのは嫌いじゃない。新聞紙を丸めた聖剣を掲げ闊歩した。
しばらく歩くと街を囲む壁に据えられた大きな門が見えてきた。ダンプカーが二台まとめて通れそうな大きく立派な門である。
その脇に建てられた小屋から五人の男たちが駆け出してきた。ブルーのロングコートに黒のスラックス。腰には剣が差されている。誰かのお出迎えだろうか?
先頭に立つ男がこちらに向けて叫んだ。
「おい! 何だ貴様は!」
お出迎えでは無かった……。
だが、こんな時の対応策は勿論知っている。
「旅の者ですが何か」
「貴様ー! その格好は何だ!」
何故だか判らないが怒鳴られた。
確かにこの格好に自覚はあるが他人にこんな風に言われると結構凹む。少し気落ちしながら素直に答える。
「いえ、只の部屋着です」
「なに……部屋着だと。は! 髑髏に杖。貴様ー! 邪神の徒だな!」
男は腰の剣に手を当てた。
それは完全に俺の所為ではない。しかし、通信機と聖剣だと言っても信じてはもらえそうにもない……なのでキッパリとこう答えた。
「いえ、只のファッションです」
「ふぁ? ふざけているのか!」
男は激高しながら腰の剣を抜き放った。
――ひぃー!「通行書あります!」
俺はそう叫びながらウエストバックに手を突っ込み慌てて通行書を引っ張り出した。
男は剣を構えたままそれをふんだくる。
「むう、アウケラス神殿の巡礼者だと……貴様が……」
頭の先から足先までじろじろと眺められた。
「……だがその髑髏は何だ。巡礼者ならそんなものは首から下げていないだろう」
「いえ、旅の間の話し相手です」
通信機なので嘘は言っていないと思われる。
無言で男に肩を叩かれた。そして、最後に悲しそうな目でこう言った。
「巡礼、ご苦労様です」
「???」
こうして俺は無事、王都ルクリヤーへの潜入に成功した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます