第5話『王都潜入』
俺は見事、王都への潜入に成功した。ここからはなるべく目立たないように行動しなくてはいけない。新聞紙をアイテムボックスへと納め、髑髏のネックレスは服の中へと隠すことにした。いきなり胸が膨らんで人から変に思われないだろうかと心配しながら歩き出す。
壁の内側は……あまり外と変わりなかった。白いテントが立ち並びむさい漢達がたむろっている。
――はっ! もしかして……ここは男たちだけの楽園! いや、地獄か? そういった世界なのか?
「あっ!」
おばちゃんが居た! むさい漢に混じって一緒に料理を作ってる。うーむ、男性比率が非常に高い。絡まれたりすると大変だ、少し気を付けて歩くとしよう。
テントの群れを避け建物の見える方へと進む。皆一様に殺気立ちながらも、黙々と食事を取っている。所々にベンチや水飲み場が設置されているのが見える。どうやら平素ここは広場として使われているようだ。それで、結局皆ここで何をやっているのだろう?
広場を通り過ぎ、街の大通りへと入った。周囲の建物はどれも戸を固く閉ざしている。道端に鼠色のフード付きマントを着たお爺さんが座り込んでいた。丁度いい、この人なら暇そうだ、話を聞いてみよう。
「なあ、爺さん。皆はここで何をやってるんだ」
お爺さんは左手でフードを少し上に押し上げ、器用に片目だけ開いてゆっくりと答えた。
「何、戦争じゃよ」
「戦争っ!」
「うむ、これから隣国と戦を始めるのじゃ」
「どうして、そんなことに……」
「ひひひ、今この国には聖女様がおるのじゃ。どんな傷をも癒してくれる。じゃからこれを機に一気に周辺国へ攻め入るのじゃ」
「へー、そーなんだー……」
何やらどこかで聞いた話である。まあいいか。
「……ところで爺さん、宿知らない?」
お爺さんに詳しく宿屋の場所を教えて貰った。どうやら街の反対側〝日の出門〟の方に市場があってその周辺に多く建っているとの事だった。俺は簡単にお礼を言い、その場を後にした。
スマホの時刻は午後四時に差し掛かろうとしている。
そうだ、どうせならお金も渡される事だし、異世界を満喫してやろう! 俺は宿に行く前に少し街をぶらついてみることにした。
この街の建物は木造が多いようである。太い木を柱に使い黄色ぽい壁土が使われている。建物はほとんどが三階立てだが四階の物もちらほら見かける。中には黄土色のレンガで建てられたものもあるようだ。
どの家も今は雨戸が閉じられて、外には槍を手に持った男達以外は見かけない。お店らしき建物もあるがどれも閉まっている。洋服屋だろうか緑っぽい波打ったガラスの向こうに女性物のドレスが飾ってあるのが見えた。
――うーん、つまらん……。街並みは西洋風で異国情緒溢れているが、こうも店が閉まっていると何もする事が無い。まるで閉園間近のテーマパークを歩いているみたいだ。せめて出店の一つくらい出して置いてほしいものである。俺は街の中心へと向けて歩いた。
街中を流れる細い川。そこに架かる門のついた橋を渡ると道路が砂利道から石畳に変わった。道幅も広くなり、家のサイズも倍以上になった。道路の脇には所々にベンチが置かれ街路樹も見受けられる。僅かに街の人らしきを見かけるようになった。そのまま道なりに進んでいると、突如、広い広場に出た。
「おお!」
テンション上がってきた! ここはスペイン広場っぽい。写真でしか見たことないけど。
西洋風の街並み。あちこちに置いてある立派な銅像。中央に設置された大きな噴水。これでアイスクリームでも売っていれば満点なのだが、残念ながら屋台は出ていない。俺は噴水の横に腰かけ休むことにした。
正直言って疲れた。前の仕事を辞めてこの一年間、碌に外に出ず運動もしていなかった。いきなりこんなに歩かされてもうへとへとである。暫く景色でも眺めながら休むとしよう。
どうやらここが街の中心みたいである。多くは無いがそれなりに人はいる。この街の男性は黒のロングコートが基本だろうか。多く見かける。対して女性は白くてゆったりとふわふわした服を着ている人が多い様子だ。どちらも肌の色はやや色付いて黄色人種ぽい。髪は茶色か黒である。あまり外国に来たと言う感じがしない。いや、ここは異世界か……。
それにしても、先程まで犀牛に追われ、命がけで逃げていたのが嘘のようである。
こんなに平和なら戦争なんかしなければよいのにと思ってしまう。
――まあ、異世界人の俺には関係ない話だが……。巻き込まれないように注意しよう。
「ん?」
目の前にはいつの間にか鳩がたむろって地面をせわしなく突いていた。これは、鳩? なのか……サイズが日本で見かける物の二倍くらいある。色も黒っぽい。どうやらこの世界、動物のサイズが大きいのがデフォルトの様だ。全く人を恐れる様子が無い。どこを見ているのか良く判らない目でこちらの様子を窺っている。
――よし、餌をやろう! 俺は背に負ったボストンバッグを開き、先程食べきったポテトチップの殻を取り出した。ちなみに俺はゴミは持ち帰る派である。ちゃんとエコも考えている。
その袋を振って残った欠片をバラまいた。
途端! 公園中の鳩が飛び立った。一斉にこちらへ目掛けて飛んでくる。
――あっ! まずい。
遥か彼方から飛翔した鳩がドカドカとぶつかって来る。
「ぐへっ!」
興奮したカラスより大きな図体の鳩が肩や頭に圧し掛かる。重い!
「あイタタタタ……」
さらに頭や手をその
「うぎゃ!」
助けて!
「こらー!」
その時、誰かが目の前で掛け声と共にブンブンと何かを振っている音が聞こえた。
すぐに頭や肩に停まった鳩は逃げ出した。――助かった……。
「やい! にーちゃんこんな所で何やってるんだい!」
顔を上げるとそこにはだぶだぶのズボンにそでのすり切れたシャツを着た、十二歳くらいのはしっこそうな少女が長い棒を片手に立っていた。
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