ヘアカット

夢美瑠瑠

ヘアカット

       掌編小説・『ヘアカット』



 私は理髪師で、いわゆる「カリスマ美容師」であります。

芸能人にもたくさんファンがいて、ブログで宣伝してくれる。前髪パッツンとか

書くだけだが、インパクトがあるらしくて、「○○○子」ちゃんとおんなしにして、とかいうリクエストをされるのだ。「ヘアカットの魔術師」とか雑誌で紹介されることもある。


若いというだけでモテるという、そういう年齢かもしれないが、若い女は髪を触ってもらうということに、ある種の性的な刺激を感じるらしくて、すぐ、「お食事をしませんか?」とか甘い誘惑はひきも切らない。腕を摑んだりして、ねっとりと熱い目で見つめられるのだ・・・

 熱い目というのはつまり「好きよ好きよ」という目なのである。

 髪を切るというのは、修練で、手軽にできて、あとはまあ、全体のデザインというかイメージというか、細部を整えつつ、そういう視覚的な全体像をイメージしてそれに近づけていくという作業で、慣れたら慣れるほどに楽しくなる。

 手先が器用だからこの仕事をしているわけで、チョッキンチョッキンしていると

貯金貯金と金がたまっていく。

 いろんなお客が来るが、この間は安室奈美恵ちゃんが来たのでちょっとビビった。髪をブリーチして、かなり短くしてほしいという要望だったが、ブリーチが限界だったので、栗色に染めてあげた。お店に色紙が欲しいというと、「30周年のスーパーモンキーズは永遠です。」と、ギャグ?を書いてくれた。奈美恵ちゃんはスレンダーで、スターのオーラがキラキラ横溢していた。

 あとは、菜々緒ちゃんという子も来てくれた。菜々緒ちゃんは顔が小さくて、スーパーモデルもかくや、というプロポーションで、ラインのIDを教えてくれた。自由な考え方なので、成り行き次第で別に何でもしてあげる、そうだ。髪をいじるというのは、一種のグルーミングになって、女性も親近感を覚えるのかもしれない。

 このゴッドハンドは、一緒に寝たときにどんな風にくきかきこきかき動いてくれるんだろうか、とかつい妄想に襲われて、だんだんに髪をいじるのもオッパイをいじるのもあんまり違わない感じになってきて、たやすく性的なシチュエーションに願望が移行するのかもしれない。

 頭皮を揉んでもらうのもオッパイを揉んでもらうのも何だか髪一重?という

感じになるのだろうか・・・

 失恋をすると髪を切るとか女性の行動の習性としてあるみたいだが、過去と訣別してさっぱりするというような心理で、その場合は髪というのが、蓄積した記憶の象徴になっているのだろうか・・・

 極端な場合は剃髪して得度して出家したりするのだろうが、その場合だともう俗世間とは縁を切ります宣言で、女性を捨てることになる。

 髪は女の命、で、抗がん剤とか飲むというと、覚悟はしていても、かなりのショックを受けるらしい・・・


 女性は綺麗なほうがいいし、女性を綺麗にするというのは楽しい仕事です。

 女性が好きで、綺麗な女性はもっと好きという、そういう私には、カリスマ美容師というのは天職だと思います。


 お父さんお母さんありがとうございました。



<終>

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ヘアカット 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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