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 高校の入学式の前、廊下ではじめて旋と目があったとき、体がとても熱くなった。わたしから発熱したというよりか、旋から熱を感じた。あとからきいたけれど、旋も同じように熱を感じていたらしい。


 あの頃の旋はわたしと同じくらいの身長だった。色白で、髪の毛や目の色素が薄いのはいまも変わらない。懐かしい、という感覚。はじめて会った旋に臆することなく話しかけた。


「どこかで、会ったことある?」


 旋はしばらく黙ったあとで「俺も、きみとどこかで会ったことがあるような気がする」と言った。だけど多分、わたしたちはそれ以前に会ったことがなかった。


 それからわたしたちはなんとなく一緒にいるようになり、なんとなく交際して、なんとなく十三年が経ってしまった。


「どうして旋くんなの」と何回も訊かれているし、旋も「どうして希和なの?」と訊かれているだろう。考えても理由はなかった。出会った頃から旋が自分にとってほかの誰かと違うということには変わりがない。どこが違うとは説明するのは難しいけれど、旋の大雑把と思いきやいろんなところに気づくところ、自分のやりたいことは曲げないけれど、わたしの意見もきちんときいてくれるところ。そんなところが好きだ。あとは、右頬にひとつ、同じところにホクロがある。そんなものに絆を感じてしまっていたのは確かだ。


 翌日の日曜日も、月曜日も、火曜日も。わたしの頭はあの湖のイメージでいっぱいだった。会社のひとにも「体調悪いんですか?」と心配されるくらいに。なぜか暗い夜の湖の水温の冷たさをわたしは知っている。湖なんて行ったこともないのに。


「希和」


 家に帰り、会社の資料をまとめていると背後から旋の声がきこえた。旋がわたしの部屋に入ってくるのは珍しい。


「この前の映画の湖調べたんだ」


 手を止め、わたしは振り返った。


「あの湖は富山の湖で、都市伝説みたいのがあるらしい」


「都市伝説?」


「むかし、ふたりの男が入水した湖らしい」


 それをきいた瞬間、一瞬頭痛がした。


「希和?」


「大丈夫。平気」


「次の土曜にでも、行ってみようよ」


 わたしは都市伝説やオカルトの類には興味がなかったが、あの湖にはなにかあるような気がしたからきちんと自分の目で、自分の体で確かめてみたくなった。

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