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予定のない土曜日は、封切りになった映画のどれかを観ることになっている。
朝、新宿に向かい、どこの映画館にするかは気分で決める。その日は、わたしも旋も新宿ピカデリーの気分だったから、JR東口を出て新宿ピカデリーを目指した。
土曜日は、公開初日の舞台挨拶があることが多いというのもあり、登壇する役者のファンと単に映画を観たいひと、家族連れでごった返していた。
いつもその映画館の空席状況を見て、一番過疎なシアターを選ぶ。初日なのにひとの入りが半分もいっていないシアターを見ると涙が出そうになる。わたしたちが選んだのはシアター四でやっていた『愛はいつも君のそばに』という漫画原作の青春映画だった。
内容は、引きこもり気味だった女子高生の主人公が、インターネットで知り合った同じ高校に通う不良男子高生とこころの交流を繰り返すというものだった。
主人公と男子高生が夜の湖で待ち合わせをして、お互いについてたどたどしく話すシーンで、急に頭に靄がかかった。こういうことはよくある。映画とは何も関係ない会ったこともない、二十歳を超えたくらいの男のひとの姿が脳裏に浮かんだ。映画の湖の水音で、心臓から血が抜かれていくような気分になる。ふと隣を見ると旋は右手で口を覆って具合悪そうにしていた。わたしは旋の左手を掴んだ。旋の体温で恐怖が少しずつ融けていった。
その後、物語は順調に進んでいき、引きこもりも不良も治って二人は結ばれた。
「こわかったね」
シアターを出ると旋がぽつりと言った。
「うん」
「なにが?」
先にこわいと言ったのは旋なのにわたしが同意すると意地悪くそう訊いた。映画的にこわいところなんてひとつもなかった。だけど、わたしたちは同じ恐怖を感じていたはずだ。目を合わせて「せーの」と言った。
「「湖」」
数秒経って同じタイミングで笑った。
こういうことがあったのは、今回が初めてではなかった。
「よく夢に見る湖に似てた」
「どんな夢?」
シアターを出て、あてもなく歩き始めてしまった。
「湖で溺れる夢」
旋はなんでもない顔をしていたけれど、肝が冷えた。
「わたしも」
そう言うと旋は驚いた顔をしてわたしを見て、数秒笑った。
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