第4話
森の中に入った俺は魔法の《
村でゴブリン共と戦って思ったが、奴らの武器はひどく真新しくまるで誰かから与えられたような印象を受けた。
普通ならゴブリンは落ちている石やどこからか拾ったり盗んできた武器を使う。または人間を襲ってその装備を奪い取ることもある。
だが、ルーブラウの村に現れたゴブリンは槍や剣、革鎧などを装備していた。あれだけの装備をゴブリン共が自分達で用意できるわけがないし、それを扱おうとする知能は無いはずだ。
考えたくはないが、より上位のゴブリンか知能の高い魔物がいるかもしれない。
少女が狙われた理由は分からないが早く見つけなければ取り返しがつかないかもしれない。
夜の闇が深くなった頃、俺はようやくゴブリンの群れを見つけた。数は多くない。恐らく俺が村で暴れた時に逃げ出した奴らだろう。
少女の姿は見当たらないから先に村から連れ出されたのだろうか。となれば奴らの後をついて行って住処へ案内してもらうしかないか。
しばらく後をつけていくとふとゴブリンの先頭から姿が消えていく。
あれは、魔法結界だ。ゴブリン達が次々に姿を消していく。このまま入ったらすぐに侵入がバレてしまうな。
俺もゴブリンの姿になるしかない。
俺は《
《偽装》を使いゴブリンになりすました俺は奴らの消えていった場所に入って行った。
結界の中に入ると、どこかの洞窟のような場所に出た。
この結界には転移系の魔法が組まれていたようだ。そうなってくるとゴブリンメイジは確実にいるだろう。ゴブリン種の中で魔法を使えるのは奴らしかいない。だがそれでもこの高度な結界を張る事は出来ただろうか。俺の知らないうちに奴らも強くなっていると言う事だろうか。
いや、今はそんな事は考えなくていい。早く少女を、見つけて脱出することが最優先だ。
洞窟の中は薄暗いが夜目を発動しているおかげで問題なく探索できる。途中ゴブリン共とすれ違ったが俺の正体には気付かない。ゴブリン程度なら十分騙せているな。
しかし、随分長い洞窟だ。一体奴らはどこまで掘り進んでるんだよ。っとここは食糧庫か。気持ち悪い虫やら腐った肉が置いてある。さっきの分かれ道まで戻らないと。
くそ、この洞窟には少なくとも五十体はゴブリンがいるな。一体何でわざわざルーブラウの近くに転移門を作ったんだ?全く迷惑な奴らだ。
ん、人の声がするぞ。どこだ……。壁の向こう側だな。
「…し。良く…た。少女は置いて…。……全員で邪魔を……やつを殺…村に…。分かった……行け。」
人間の女の声だ。最悪だ。人間が今回の騒動を引き起こしていたのか。どうやったか知らんがゴブリンを従えているみたいだ。
くそ、良く聞こえんが少女は壁の奥にいるようだな。だが全員てのはゴブリン全員か、あの数が村に行ってしまったらアンとルディだけじゃあ厳しいぞ。急いで少女を助けないと大変な事になる。
俺は壁の向こう側に通じる道を見つけ。部屋にいたゴブリンだろうか、向こうから来る影を隠れてやり過ごした。
歩き去るその姿を見て俺は驚いた。その後ろ姿はパッと見二mはある巨大な大きさだったからだ。もう一匹はローブを纏っていた。こいつらはゴブリンファイターとゴブリンメイジに違いない。ゴブリンの中で進化をした個体だ。奴らの相手は俺じゃなきゃダメだ。すぐ少女の元に急ごう。
奥に着くと扉が付いていた。部屋として作らせたのか人間らしいな。人間が相手だと何をしてくるか分からないから防御呪文を掛けておくか。
「《
ひとまずこれをかけておけば物理も魔法も一発は確実に防げる。
良し、中に入るぞ。
中にはテーブルや椅子、棚などの普通の家にもあるだろう調度品が置かれ本棚まである。本棚にはぎっしりと本が並んでいる。
いた!
少女は気絶しているのか静かに地面に横たわっている。その周りには魔法陣らしき円が地面に書き込まれている。
その奥にローブを着た人間が一人、向こうを向いて本を読んでいるようだ。こちらの存在に気づいたらしく声を掛けてきた。
「なんだ、さっき命令しただろう。さっさと村に行ってこい。ここを嗅ぎ付けられたら困るんだよ。」
女はまだ俺がゴブリンじゃない事に気付いていない。この隙に少女を、回収してしまおう。
俺はゆっくりと少女に近づいて行く。
だが、部屋を出ない俺を不審に思ったらしく女は振り向いてきた。
「なんだ、隷属の呪文が切れたのか。仕方ない、もう一度か掛ければいいだけだ。」
女が何かを呟いた。途端、俺の周りに張っていた防御呪文が反応しパリンと割れた。女はゴブリンが自分の呪文を弾く事など想定していなかったらしく虚をつかれたようで一瞬動きを止めた。
俺はその隙に少女を抱えて部屋を飛び出した。
おし、このまま出口まで行ければ直ぐにゴブリン共に追いつける。
シュン、と目の前に部屋にいたはずの女が現れた。
「お前、誰だ?ゴブリンじゃないな!」
くっ、転移系の魔法を操っていたのはこの女だったか!
早く戻らないと行けないのに。もうゴブリンはいないだろうから姿を偽装する意味はないか。
俺は偽装の呪文を解いて姿を見せた。
「あんたの言う通り、ゴブリンじゃあない。もう行ってもいいか、急いでいるんだ。」
「ダメに決まっているだろ。その少女は私の実験に使うんだ。置いていけ。いや、死ね!《
瞬間、俺は壁に張り付き、女の掌から放たれた雷を避ける。
「お前、ゴブリン達を使って何をしようっていうんだ。もうちょっと穏やかに出来なかったのかよ。今からでもゴブリンに戻ってくるよう命令してくれよ。同じ人間のよしみでさ。」
「うるさい!同じ人間だと!わたし達とお前らが同じなわけないだろっ!死ねっ!死ねっ!!」
再度女は俺に雷を放ってくる。
くそっ、こんな狭いところじゃいずれ当たるぞ。となればしょうがない。
俺は少女を傍に抱えたまま剣を抜いて女に切り掛かった。
女は直ぐさま転移の呪文で数m後ろに瞬間移動した。
「剣じゃあダメか、ならこいつを喰らいな。」
俺は一度剣を鞘に納め、腰に下げた小銃を手に取る。
そして女に向かって銃を撃つ。
「ふん、そんなもの!《
俺の撃った弾は女の左肩を貫いた。再度引き金を引く。
「くぅ、《
女は直ぐさま俺の銃から撃ち出されたものが実弾ではなく魔法によるものだと分かったようだ。だが…
「その傷じゃあ、直ぐに治さないと致命傷になるぞ。さっさと引け。お前を殺している時間はない。」
「その銃に、その鎧姿。お前があの《放浪の聖騎士》か。なんと報われない。私はあのお方にお会いしたいだけなのに…まぁ、いい。時間はあるのだ。また次を探せばいい。《放浪の聖騎士》よ、次は私の邪魔をしてくれるなよ。」
「お前が俺の前に現れなければ邪魔などしないさ。勝手に好き勝手しろ。だが俺の周りに現れようもんなら次は殺すかもな。分かったらさっさと消えろ。」
女はそのまま静かに姿を消した。流石にあの傷でまた襲ってくる事はないだろう。放浪のなんちゃらと俺の事を誰かと勘違いしたか分からないがまぁ強い奴と思ってくれてラッキーだ。
さぁ、急いで村へ帰らなければ!
俺は洞窟の中を走り抜け結界の外に出た。
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