第3話

俺たち三人はルーブラウのゴブリン退治を引き受けてからすぐにアリアを出発したわけだが、ルーブラウに着くのは早くて今日の夕方くらいだろうか。

ちょうど乗合馬車が出る頃合いで運良く時間を無駄にせずに済んだ。


「それで、ゴブリン大事ってことだけど、状況はどうなってんの?こんなのんびりで大丈夫なのか?」


俺は依頼内容を確認する為、二人に問いかけた。


「うん、一昨日の夜に村の周りをうろつくゴブリンを村人が見たらしいんだけど、昨日の夜またゴブリンが現れたらしくて、一匹は村人数人で倒したらしいんだけど、他にも何匹かいて逃げられたそうよ。それで今朝ギルドに依頼をしに来たってわけ。まだ本格的に襲われたわけでもないし、今日の夜までに着ければ問題ないわよ。この馬車も夕方には着くから。」


だが、ゴブリンが二回も見に来るってのは珍しいな。あいつらはそんなに慎重な奴らじゃないはずなんだが……。

もしかして上位者が存在するかもしれないな。

うーん、まぁここで考えても仕方ないか。


「それじゃ着いたら俺が夜の不寝番をやるから今のうちに寝ておきますか。ルディちゃん膝枕して〜オゴッ!」


自然な流れでルディに近づいたところにアンの蹴りが俺の頭を揺らす。


「あら〜、ごめんなさーい。もぞもぞ動いてるから馬車の中に虫が這い出たのかと思ったわー。」


くそー、アンの奴め。俺の安眠を妨害するなんて依頼に支障が出たらどうするつもりだ。全く。


「アン、そんなにレオさんをいじめないであげなよ。」


うんうん、ルディちゃんは何で優しいんだ。天使というのはこの子の事を言うんだろうな。お兄ちゃん、泣きそう。


「はぁ、ルディ。レオにはこれくらいでちょうどいいのよ。私が止めないとどこまでもつけ上がってくるわよ。こういうのはしっかり躾けとかないとだめなんだから」


何だと!お前はいつから俺の飼い主になっだんだ。全く悪魔がいるならばこういう人の幸せを邪魔しようとする奴の事を言うんだろうな。困ったものだ。

あぁ、ルディちゃんそんな苦笑いも可愛らしいな。


……もうほんとに横になっておこ。どうせ起きてても不寝番させられるんだろうから。うう、揺れる馬車は寝づらいなぁ。あーあ枕欲しいなぁ。




俺が仮眠をしてからどれくらい経っただろうか。誰かの悲鳴が聞こえた。

すぐに身体を起こして周りを見る。馬車の中からは異常は見当たらない。アンとルディがいない。俺はすぐに外に出る。

外は日も落ちかけていた。もう村の近くまで来ているはずだが何があった。

馬車の前に二人はいた。二人の前に少年らしき姿が見える。


「アン、何があった。」


近づくと少年は頭から血を流していた。ルディが回復魔法を掛けているようだ。


「レオ!ルーブラウがゴブリンに襲われたらしい。この子は私たちに知らせるために村からここまで逃げて来たのよ。」


「そうか、よく頑張ったな。俺たちが来たからもう安心だ。アン、ルディ。俺は先に行く。その子の怪我を治したら追いかけて来てくれ。」

俺は少年の肩に手を置き。安心させようとした。

少年はその間俺の手を両手で触ってきた。


「みんな、みんなを助けて……。」

「全力を尽くす。」


こんな時英雄たちなら全員助けてやる、なんて言えるんだろうが生憎俺の両手には限りがある。救える命も有れば救えない命ある。だからこそ俺はその両手を精一杯広げる努力をするだけだ。


俺は機械式の杖を腰から左手に抱え、スイッチを押す。収納されていた部分が瞬時に伸び一m弱の長さになる。

「《加速ブースト》」

俺は自分に《加速》の呪文唱え、全力で村に走り出した。



すぐさま村の様子が見えてきた。いくつかの家に火を放たれたらしく煙が複数立ち上っている。まだ襲われてから時間は経っていないのだろうか。まだ全部の家が燃えているわけではないようだ。しかし、時間を掛けるわけにはいかない。直ぐに村の門が目に入る。


いた、ゴブリンだ!


俺はスッと腰の剣を抜き、ゴブリンを走り抜く間際に剣を振り首を刈っていく。ドサっと首が落ちていく様をを尻目に村の中に入っていく。


ゴブリンが何体も村に侵入している。こいつらを倒している間に火が村全体に広がってしまう。


俺はゴブリン二匹、三匹と斬り伏せながら呪文を唱える。


「天よりもたらされし恵みよ、大地の渇きを癒せ、レインシャワー」

すぐさま村の上空に雨雲が集まり雨を降らせる。

これで火事は抑えられるはずだ。

後は村にいるゴブリンを狩り尽くせばひとまず終わりだ。


そこからはゴブリンを一匹ずつ討ち取っていく作業だ。剣や槍を持っている個体もいたが、所詮はゴブリン。扱い切れぬ武器を持っていたところで俺の敵ではない。


三十匹近くのゴブリンを殺した所で残りのゴブリンは東の森の方へ逃げていった。追いかけようか迷ったが傷ついた村人の治療を優先することにした。


「俺の名はレオナルド!ゴブリン退治の依頼を受けた冒険者だ。村長は無事だろうか。話がしたい。」

「ワシがこの村の村長です。」


俺の問いかけに男に肩を貸された老人が前に出て来た。

肩を槍で突かれたのだろう出血が見られる。

すぐさま回復の呪文をかける。


「《回復キュア》!」

老人は自らの傷が瞬時に治った事に驚いていた。


「貴方は神官の方でしたか。ありがとうございます。」

「いや、俺はただの冒険者だ。それより怪我した人を集めて欲しい。今のように俺には傷を治す力がある。」

「分かりました、直ぐに集めますゆえ。おい、グルダ。怪我した人をここに連れて来てくれ。」


そうして集まって来た怪人を治療してゆく。だが中にはすでに亡くなっている者もいた。


「つ、妻を見てください!さっきから返事もしないし動かなくなっちまったんです。俺の傷は後でいいんで、どうか妻を!お願いします!」

「……《回復》。すまない、奥さんは既に亡くなっている。死んだ者は生き返らせられない。」

「くっ、ううううううわぁぁぁぁぁ。」

「せめて貴方の傷を治させて下さい。動かないで。《回復》。」


そうして何人かの犠牲を出してしまったが、多くの村人を救うことができた。

治療している最中にアンとルディも到着し村人の治療の手伝いをしてくれた。


怪我人の処置が終わろうかと言う時、村人の一人が叫び始めた。


「俺の娘がいない!ジルがいなくなっちまった。ゴブリンだゴブリンが連れていっちまったんだ!」

男は鍬を持って村を出ようとしていた。何人かが男をなんとか抑える。

「は、離してくれ!行かないと!俺が行かないとジルが殺されたまう!」

男は無理やり静止を振り切っていこうともがいている。


村の安全が最優先だったが仕方がない。


「アン、ルディ。お前たちには村の警護を任せたい。頼めるか?俺は拐われたあの人の子供を救出に向かう。」


「うん、分かった。村の事は任せて!」

「気を付けて下さい。」

「あぁ、二人も気を付けろよ。まだ周辺にゴブリンが隠れているかもしれないからな。これから夜になる。絶対に火を絶やすな。」


そう二人に告げて、俺は暗い森を目指して走り出した。

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