1章10節8項(68枚目) 一時の休息

 自称:来訪神が近似人種アプレイスに課したルートの回収はいつ終えることになるのか。近似人種アプレイスに本当の意味での休息はいつ訪れるのであるか。

 それは全て、近似人種アプレイスと現地で協力する人種の働き次第である。終息する時期はその者たちの活躍次第である。

 故に今宵こよい、このときの休息をとがめるべきではない。絶交の仮面と所有の仮面、2枚のルートを回収した近似人種アプレイス:クーシャ・プラーネと人種:ティアス・ティフィカルテが温泉でゆっくりと過ごすことに文句を述べるべきではない。自称:来訪神が望む、ルートを取り戻すことに貢献したのだから、しばらくは大目に見るべきである。このまま怠惰たいだに過ごすのであれば、話は違うだろうが、今はまだ静観する段階であろう。

 彼女たち含めた、回収の担い手がいなくなれば、ルートの回収は危ぶまれる。急かせば、貴重な働き手が失われるだけである。いなくなる分だけ、目指す未来から遠のくだけである。

 特に代替が容易ではない享受の仮面の装着者ドライバーに姿を変えられる近似人種アプレイスを失うのは大きな痛手である。ルート迅速じんそくな回収を狙ったこまをなくすのは大きな損害である。

 損失を被るのはなんじ自身である。なんじの身に不幸が降りかかるだけだ。

 故に栄気を養う時間も無駄ではない。悲劇が訪れないことを願えば、目をつぶるべきである。

 もしも不満があるのであれば、代理を立てず、自ら繰り出すべきである。

 時間がかかろうとも、無限に近しい寿命を持つ汝が動けば、いずれ事は成すだろう。表舞台に立てない理由があるのなら、少し寛容であるべきである。近似人種アプレイスが自らを核にして産み出した操り人形同然であったとしても休息は許すべきである。破滅はめつを望まない限りは。

 そのことを理解しているが故に自称:来訪神は無視している。体で語らい、激しく交わるティアスとクーシャを。熱湯湧く個室の露天風呂ではげんだためか、逆上せてだらしない格好になったティアスをクーシャがお姫様抱っこで部屋に連れていかれたことに。彼女が目覚めるまで介抱するクーシャを。日常生活にける世話役の立場が逆転し、あきれた姿をティアスがさらしていたことに。

 そして意識を取り戻した後、物足りなかったのか、お互いの股間を擦り合わせ、陰核が刺激されたティアスが光悦こうえつに浸っていた様子をとがめなかった。

 床の上で行為に及ぶ状況に苦言を呈さなかった。

 それが彼女が自称:来訪神勢力に協力する条件でもあったために。

 もっともティアスは契約に縛られることなく、クーシャと共にすることを選んでいたわけだが。

 敵対しないよう、自称:来訪神が体裁をなしただけだが。

 クーシャをひっきりなしにつけ回し、わずらわしく、今後の任務の邪魔に成りかねないから、排除することを当初は検討したが、ある一点を高く評価して、友好的に接した。命をみ取ることは彼我の戦力差からして容易だったが、殺すには惜しかったから、懐柔かいじゅうした。クーシャが自称:来訪神の代理を務める使者として、仮面がばら撒かれた世界に派遣した数日間で自称:来訪神は決断し、現地人である彼女と手を結んだ。

 全てはあの日にさかのぼる。

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【仮面世界】 仮面がばら撒かれた世界に派遣された者の活動記録(1章) M-HeroLuck @APOCRYPHA-MH

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