1章7節8項(49枚目) 屋敷に侵入した者たちのその後の行動④
私の愛しき伴侶、クーシャが
レオレとピルク、そして私も含め、誰も口を結んでいた。この場に
先ほど、ピルクが言ったように情報収集を終える、そのときまで。
そしてそこから導き出す行動の道筋を組み立てる、そのときまで。
ただ、黙って待っていた。
「それでは」
静かな部屋に抑揚なく、淡々と告げる言葉が響いた。
私が代弁することなく、クーシャが口を開いた。事情があって、今まで喋ることが許されていなかった彼女が話し始める。
「ピルク、部屋の外、最初に目にする、廊下にいる男を連れてきなさい」
ピルクを見つめ、そう命令した。クーシャの
「そしてティアス、気絶している男の近くに落ちている仮面を拾ってきなさい」
そのまま流れるように私に命令した。
命令を受けた時点でティアスは動いていたから、聞きそびれた。
今さら真意を聞いても、先に動いた彼女と代われるわけでもないから、私も仕方なく、仮面を拾いに行った。
ほんの少しの時間しか違わないけど、時間を短縮させたかっただけかもしれない。単純に、外にいる者との距離が近い、という理由でティアスに任せたのかもしれない。
「って、何を見せつけている」
私ではなく、ティアスに任せられた理由を考えていれば、見たくもない、触れさせたくもないものを再び見せつけてくる変質者が現れたから、
「ちゃんと隠して来させなさい」
「何を」
「何・・・って、それは・・・男特有の・・・股間に付いている」
「生殖器官くらいでぐだぐだ言わない。見れば、
「それでもクーシャに見せようとするな。
本人が隠す気がないなら、あなたが隠しなさい」
「上体が縛られているから、それは無理。
そして隠すような命令を受けていない。
こうなることが分かった上であの方が命令されたのだから、このままでも問題はない」
「問題おおアリだあ」
屁理屈ばかり
私に対して、想像豊かに対応する癖に、何故、私以外にはしないのやら。
「
そのせいで肌を交わせることになったら、どうする。ほんの少しでも触れてみろ、私はその男を殺したく狂うぞ。憎悪に満ちるくらいに心が
と言うよりは、地下室に2人で生まれたままの姿で仲良く閉じ
股間を無事では済ませない。
刃物でもあれば、その罪悪を思い知らせてやれるのに。切り落として、性的興奮に至れない苦しみを以ってして、己の罪深さを呪わせてやったのに。
その場になかったのが残念だし、普段から持ち歩かないせいで悔しい思いを味合わせる目に
「クーシャ様を盾に色々と言うけど、本当はキミが見たくないだけじゃない。顔真っ赤にして、所々、たどたどし」
「な、な、な、何を言っている。私は」
「1人称が崩れるほどだから、やっぱり」
「違う違う違う。ともかく、クーシャをその男の性癖開発の担い手に私、いや俺はさせたくない」
露骨に話を
と言うよりも、私に対して、想像力を働かせるのなら、そこまで気を利かせてもらいたい。
私の愛しき、尊き・・・ああ、もう、言葉では表現するには足りない絶世の美女を
「アレでスリスリしてきたり、ペチンペチンしてきたり、ビッシャーしてきたり、あと」
「さっきから聞いていれば、
「そう思うのなら、私の目が届く範囲で見せつけるな。
汚物が起き上がりそうになってくるから、その背中を踏みつけた。私がどれだけ心配しているのかを説いている最中に邪魔してくるから。
同時に再び披露することを阻止した。人が話した内容を無視した行動を取るから、体に教え込んでやった。
「キミが
次なる文句が汚物から飛んでくる前にピルクが割って入った。
そして私を冷静にしてくれた。
つい感情的になって、クーシャの意図を無視していました。
「あなたの言う通りだ。
クーシャ、時間を取らせてしまい、申し訳ありません。俺のことは気にせず、話を進めてください」
自分の世界に浸っていると彼女の用件が片付かないから、彼女に預けることにした。
もちろん、汚物は踏みつけたままで。
「話は1つ、クスディ・ドーハ。私たちの味方として、戦ってくれるか」
大分待たされていたであろう、クーシャはそのことを
「頼んでいるつもりか。
それとも脅しているのか」
「お前の仮面を取り返した。味方で戦ってくれるつもりなら、道化の仮面を渡す」
その質問に答えず、床に顔を突き合わせている男に条件を付き出した。私が拾ってきた仮面をその者の目の前に落として、デタラメを言っていないことを示した。
「さあ、答えを」
「分かった、分かった。味方になるから」
クーシャが全てを言い切る前に男は観念した。条件を
抵抗していた割にあっさりとしたものだ。仮面を見せたからか。
「今さら
聞いてもいないが、男は私たちに味方する理由を語った。
私は嫌だけど、こっちから誘ったわけだから、同情に打たすような真似をしなくてもいい。クーシャがいいのなら、そこは目を
「口を動かさなくていいから、仮面を被れ」
そこはクーシャも同じだった。男の前に仮面を近づけ、急かした。行動で示せと口にする。
それを聞いた男は彼女の言葉に従い、
光に包まれ、赤白の派手な格好をした、
「ティアス、踏みつけている足を退けて、下がれ」
姿が変わるとすぐにクーシャは、私に変態の拘束を解くように命令を下した。
アレが隠れる姿になり、抑えつける必要がなくなったから、私は大人しく言うことを聞いた。
今までのことを思えば、気が進まないけど、
「クスディ、これで立ち上がれるでしょう。私と同じ姿勢を取ってくれない」
起立することを促すクーシャ。
邪魔者を排除したのだから、できないわけがない、と脅しつつ。
それを聞いた男は素直に立ち上がった。戦う力を手にしたのだから、約束を破るかと思えば、案外、あっさりとした態度でいる。私が散々と
しかし襲いかかってくることはなかった。
クーシャと同じ目線に立った男を彼女が外に投げ飛ばしたから。
クーシャが素早く動いたから、男は何事か分からないまま、抵抗することなく、やられたから、起きようがなかった。後で出くわせば、そういう未来もあるかもしれないけど、今、このときだけは訪れなくなった。落下の
「さて、邪魔者がいなくなったところでこれからのことを話す」
私が
あの男を排除したかったことくらいは分かる。作戦を聞かれ、さらに目論見が潰されたくないから、味方に引き入れたフリをしていたことくらい理解できる。油断したところで始末したのは納得できる。
でも切り替えが早すぎる。
予定通りであっても呆気なさすぎ。淀まず、行動を起こすことは相変わらずだから驚かないけど、引き
それも相変わらずではあるけども。
「まず目的にしていた100枚の仮面、その数は便宜上ではあるけど、細かいことはさて
戸惑っている私を無視して、話を始めたクーシャ。私が変態に対して物申していたときは待っていてくれたのに、今は気にしてもくれない。
これ以上、時間をかけていられないと判断しての行動か。
だから無視しているのか。
だとしたら、冷たすぎる。
少しくらい、私のことを
「ホコアドクにもない。西の港町に向かう途中にある森にあることが判明した」
置いてけぼりをくらっている私に構わずにクーシャは状況を説明する。
少しも察してくれない。いない者として扱われて、悲しい。
と思うのもアレなので
彼女は
優しさとは違うけど、その気遣いを無駄にしないためにも真面目に聞くとしよう。
「その場所に仮面を運んだ者たちがいて、今もそこにいる。
そして当然ながら、その場所には番人がいるわけか。
運んで放置はないな。誰かに持っていかれるリスクを考えれば、当然と言えば、当然か。目星がついていない限り、盗られる可能性は低いだろうけど、安全を期せば、普通にいるだろうね。
「目的の仮面を回収するためにもここから移動する」
ホコアドクの外に陣取っていた
「目的地に辿り着くには4つ道がある。
1つ目は
2つ目と3つ目は町の内にも外にも
4つ目は町の外に
わざわざ話してくれなくてもいいくらいに分かりやすい。
相手勢力との接触を控えることを考えれば、西に進んで
存在を悟られ、駆けつけられ、足止めされる危険性を低くできる道を選択するべきだろうね。
昼でも夜でも見つかるときは見つかるけど、灯りが
そして今の状況なら、人影らしきものがいると感じられても、確かめに動かない見込みが高い。
万が一、町の外を出ようとした
そんな人員を配置していないのなら、余計に心配しなくていい。町の外に出て行かれてしまうのは仕方なく、そうなる前に
「南下する」
「口を挟んで申し訳ございませんが、何故、その道を選ぶのでしょうか。見つからない可能性を考えれば、西か東のどちらかではありませんか」
クーシャに疑問を覚えたのか、彼女に指揮権限が移行してから初めて、レオレは意見した。今まで逆らう節を見せなかった男がすかさず突っ込んだ。
彼の言う通り、邪魔されないことを念頭に置けば、狙うは西か東のどちらかだろう。配置が甘い場所をわざわざ見逃す手はない。
そしてどちらかを選べと言われれば、私は西を選ぶ。
西の森にいるのであれば、西側から進む方が近いから。
「今からその理由を説明する」
クーシャは一方的に命令を下せる立場にありながらも、レオレの意見に答えようとする。時間を押している状況にも関わらず、
「今の戦局を維持するため、南にいる
配置的に
「ガクウが
そりゃあ、私たちの目的を成すために役目を担わせたのだから、そうなっていないと逆に困る。相手勢力の足止めと
本当、私が望んだ通りになってよかった。会えないまま、別れることになっていたら、死ぬまで悔やみ続けていただろうから、そうならずに済んで本当、感謝といったところ。
「そして
敷地内の戦いぶりを観察する限り、あれは抜きん出た実力を持つから、放置していれば、
昨晩の
そんな奴を放置していたら、確かにマズイよね。こっちの都合が潰されかねない。
「これ以上、何もなければ、屋敷敷地内はこのまま持つだろうが、もしも町の外にいる者たちが介入してきたら、どうなるか分からない」
どのような行動を起こすかで結果は変わるけど、相手に委ねることになるから、私たちにとって、よろしくない方向に転がることもある。
もちろん、いい方向に行く場合もあるんだろうけど、制御できるわけでもないから、どうしようもない。
だからクーシャが
都合のいいように考えていれば、後でしっぺ返しを食らうだけだから。都合の悪い展開になれば、
悔やんでも過去に戻って、やり直せないから、やれることはやっておかないと。思いついくこと全てに対する処置はできなくとも、頭に入れておくことくらいはしていないと。
いざというときに出し抜かれてしまう。
「その者たち、と言うより、
なるほど。
だから屋敷に襲撃する部隊とは別行動を取っているのか。
戦いの主力でもある
逃走を封じる戦力として、そこに配置されているということは、その2人であれば、
もしも屋敷敷地内にいれば、
どうかち合うかは分からないけど、戦況の
今は遠くにいるから、その心配はいらないけど。
でもその保障はいつまでも続かない。
クーシャの言う通り、いや、この場で嘘を吐く必要性はないから、本当、いや、疑うつもりは
音だったり、光だったりで交戦を繰り広げていることは感じ取れていれば、余計に考えるはず。
派手にやり合っているのに何故、逃げてこないのか。
待てども誰も来なければ、そりゃあ怪しむね。
そういう事情があれば、行動を起こす可能性は十分に考えられる。
「だからその目を潰しておく。
私たちの目論見が阻まれないためにも、
加わらせないままでいるためにクーシャはその場所に向かうと口にしたわけであり、彼女はそのように行動を起こすつもりでいる。
「具体的には」
その後、クーシャは各個人に命令を下し、部屋を出て行った。私だけを残して。
私を戦場に連れ込んでも役に立たないから、待機することになった。
私は
だから置いていかれるのも仕方がない。
もちろん、1か月近く離れていたクーシャから離れたくなくて、
けれど、この作戦が終われば、迎えに来ることを約束してくれたから、私は引き下がった。
見捨てるつもりはないと言ってくれたから、私は口答えを止めた。
傍から見れば、体のいい嘘を吐いているようにも見えるかもだけど、クーシャに限れば、それはない。今はペラペラ喋っているけど、いつでも対話できるわけではないから、その口下手すぎる彼女の代役と意図を汲み取れる者が必ずいるわけだから、偽る意味がない。
新たに探すことに労力に費やすのは建設的ではない。今担っている私を放り出せば、彼女が背負っている最重要任務、仮面の回収が滞ってしまう。力づくで解決できることばかりではないから、助けは必要になってくる。
ただ私が
救出よりも新たな協力者を探す方が労力的に負担がないと判断されれば、その限りではないだろう。
死んでいたり、同行するには困難な怪我を負っていたりしていれば、同じことが言えるだろう。
以前、見捨てる状況になれば、
生き
誰もそんなことは聞いてもいないが、ぽつんと1人でいる私はそう誓った。
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