1章7節8項(49枚目) 屋敷に侵入した者たちのその後の行動④

 私の愛しき伴侶、クーシャが仮面の装着者ドライバーに変わってから、沈黙が続いていた。

 レオレとピルク、そして私も含め、誰も口を結んでいた。この場にける、最高指揮官の言葉を待っていた。

 先ほど、ピルクが言ったように情報収集を終える、そのときまで。

 そしてそこから導き出す行動の道筋を組み立てる、そのときまで。

 ただ、黙って待っていた。

「それでは」

 静かな部屋に抑揚なく、淡々と告げる言葉が響いた。

 私が代弁することなく、クーシャが口を開いた。事情があって、今まで喋ることが許されていなかった彼女が話し始める。

「ピルク、部屋の外、最初に目にする、廊下にいる男を連れてきなさい」

 ピルクを見つめ、そう命令した。クーシャの傍付アテンダントと足る私ではなく、レオレに仕える傍付アテンダントに投げた。

「そしてティアス、気絶している男の近くに落ちている仮面を拾ってきなさい」

 そのまま流れるように私に命令した。

 命令を受けた時点でティアスは動いていたから、聞きそびれた。

 今さら真意を聞いても、先に動いた彼女と代われるわけでもないから、私も仕方なく、仮面を拾いに行った。

 仮面暴徒ブレイカーの首領が部下に渡した仮面を手に取り、クーシャに渡した。

 仮面暴徒ブレイカーの誰かを連れてくるのであれば、私じゃあ無理。彼女の人選は間違っていない。

 ほんの少しの時間しか違わないけど、時間を短縮させたかっただけかもしれない。単純に、外にいる者との距離が近い、という理由でティアスに任せたのかもしれない。

「って、何を見せつけている」

 私ではなく、ティアスに任せられた理由を考えていれば、見たくもない、触れさせたくもないものを再び見せつけてくる変質者が現れたから、邂逅かいこうと同時に蹴りをあびせた。地下にいたときから相も変わらず、衣服をまとわない姿でいるから、本能的に攻撃してしまった。怒鳴り声とともに。

 うずくまってくれたおかげでこれ以上、見ずに済んだ。痛みに耐えられず、倒れてくれたおかげで一先ず助かった。

「ちゃんと隠して来させなさい」

「何を」

「何・・・って、それは・・・男特有の・・・股間に付いている」

「生殖器官くらいでぐだぐだ言わない。見れば、はらむわけでもあるまいし」

「それでもクーシャに見せようとするな。

 本人が隠す気がないなら、あなたが隠しなさい」

「上体が縛られているから、それは無理。

 そして隠すような命令を受けていない。

 こうなることが分かった上であの方が命令されたのだから、このままでも問題はない」

「問題おおアリだあ」

 屁理屈ばかりねて。少しは、いや、か・な・りクーシャを推し量れ。

 私に対して、想像豊かに対応する癖に、何故、私以外にはしないのやら。

うるわしい美貌びぼうの女性を大いに興奮させようと試みる矜持きょうじを持ちでもしたら、どう責任取るつもりだ。気にしていない素振りをその気にさせようと、その男が過激な行為に拍車をかける事態に陥ったら、どうするつもりだ」

 そのせいで肌を交わせることになったら、どうする。ほんの少しでも触れてみろ、私はその男を殺したく狂うぞ。憎悪に満ちるくらいに心がき乱される自信がある。

 と言うよりは、地下室に2人で生まれたままの姿で仲良く閉じこもっていた事実を思うと、許せておけないことだ。作戦行動中でもなければ、もっともっと、痛めつけている。

 股間を無事では済ませない。

 刃物でもあれば、その罪悪を思い知らせてやれるのに。切り落として、性的興奮に至れない苦しみを以ってして、己の罪深さを呪わせてやったのに。

 その場になかったのが残念だし、普段から持ち歩かないせいで悔しい思いを味合わせる目にうとは、クッソ。

「クーシャ様を盾に色々と言うけど、本当はキミが見たくないだけじゃない。顔真っ赤にして、所々、たどたどし」

「な、な、な、何を言っている。私は」

「1人称が崩れるほどだから、やっぱり」

「違う違う違う。ともかく、クーシャをその男の性癖開発の担い手に私、いや俺はさせたくない」

 露骨に話をらそうとするな。そんな風に見えたとしても今は関係なくないか。

 と言うよりも、私に対して、想像力を働かせるのなら、そこまで気を利かせてもらいたい。

 私の愛しき、尊き・・・ああ、もう、言葉では表現するには足りない絶世の美女をけがれさせようと働きかけるな。

「アレでスリスリしてきたり、ペチンペチンしてきたり、ビッシャーしてきたり、あと」

「さっきから聞いていれば、妄想もうそうで俺をおとしめてんじゃねえ。被害者面でいれば、何をしてもいいんじゃねえぞ」

「そう思うのなら、私の目が届く範囲で見せつけるな。

 汚物が起き上がりそうになってくるから、その背中を踏みつけた。私がどれだけ心配しているのかを説いている最中に邪魔してくるから。

 同時に再び披露することを阻止した。人が話した内容を無視した行動を取るから、体に教え込んでやった。

「キミがののしる露出魔にクーシャ様は話があるから、わざわざここに呼び寄せたのだから、もう止めようか」

 次なる文句が汚物から飛んでくる前にピルクが割って入った。

 そして私を冷静にしてくれた。

 つい感情的になって、クーシャの意図を無視していました。傍付アテンダントとして失格ものだ。

「あなたの言う通りだ。

 クーシャ、時間を取らせてしまい、申し訳ありません。俺のことは気にせず、話を進めてください」

 自分の世界に浸っていると彼女の用件が片付かないから、彼女に預けることにした。

 もちろん、汚物は踏みつけたままで。

「話は1つ、クスディ・ドーハ。私たちの味方として、戦ってくれるか」

 大分待たされていたであろう、クーシャはそのことをとがめず、自身が伝えたかった用件を口にした。

「頼んでいるつもりか。

 それとも脅しているのか」

「お前の仮面を取り返した。味方で戦ってくれるつもりなら、道化の仮面を渡す」

 その質問に答えず、床に顔を突き合わせている男に条件を付き出した。私が拾ってきた仮面をその者の目の前に落として、デタラメを言っていないことを示した。

「さあ、答えを」

「分かった、分かった。味方になるから」

 クーシャが全てを言い切る前に男は観念した。条件をむことを表明した。

 抵抗していた割にあっさりとしたものだ。仮面を見せたからか。

「今さら仮面暴徒あいつらに肩入れしなくてもいいからな。仲間に迎え入れたはずの俺を地下室に閉じ込めた時点で仲間意識は捨てた。この騒動に関わるチャンスを奪った時点でもう義理立てなどしない」

 聞いてもいないが、男は私たちに味方する理由を語った。

 私は嫌だけど、こっちから誘ったわけだから、同情に打たすような真似をしなくてもいい。クーシャがいいのなら、そこは目をつぶる。変態行為は止めるけど。

「口を動かさなくていいから、仮面を被れ」

 そこはクーシャも同じだった。男の前に仮面を近づけ、急かした。行動で示せと口にする。

 それを聞いた男は彼女の言葉に従い、うずくまった姿勢をより丸めて、仮面を被った。

 光に包まれ、赤白の派手な格好をした、仮面の適合者バイパーへと姿を変えた。

「ティアス、踏みつけている足を退けて、下がれ」

 姿が変わるとすぐにクーシャは、私に変態の拘束を解くように命令を下した。

 アレが隠れる姿になり、抑えつける必要がなくなったから、私は大人しく言うことを聞いた。

 今までのことを思えば、気が進まないけど、鬱憤うっぷんを晴らしている場合でもないから、クーシャに従った。

「クスディ、これで立ち上がれるでしょう。私と同じ姿勢を取ってくれない」

 起立することを促すクーシャ。

 邪魔者を排除したのだから、できないわけがない、と脅しつつ。

 それを聞いた男は素直に立ち上がった。戦う力を手にしたのだから、約束を破るかと思えば、案外、あっさりとした態度でいる。私が散々と甚振いたぶったこともあるから、攻撃してくるかと思えば、そういう素振りも見せなかった。まだ油断できないけど。

 しかし襲いかかってくることはなかった。

 クーシャと同じ目線に立った男を彼女が外に投げ飛ばしたから。仮面暴徒ブレイカーの首領が出て行った窓から放り出したから。

 クーシャが素早く動いたから、男は何事か分からないまま、抵抗することなく、やられたから、起きようがなかった。後で出くわせば、そういう未来もあるかもしれないけど、今、このときだけは訪れなくなった。落下の衝撃しょうげきで死ぬ可能性も十分にあるから、永遠に訪れないかもしれないが。

「さて、邪魔者がいなくなったところでこれからのことを話す」

 私が呆気あっけに取られているとクーシャは、何事もなかったかのように先へと進めようとした。

 あの男を排除したかったことくらいは分かる。作戦を聞かれ、さらに目論見が潰されたくないから、味方に引き入れたフリをしていたことくらい理解できる。油断したところで始末したのは納得できる。

 でも切り替えが早すぎる。

 予定通りであっても呆気なさすぎ。淀まず、行動を起こすことは相変わらずだから驚かないけど、引きらなさすぎ。

 それも相変わらずではあるけども。

「まず目的にしていた100枚の仮面、その数は便宜上ではあるけど、細かいことはさてき、見ての通り、ここにはない」

 戸惑っている私を無視して、話を始めたクーシャ。私が変態に対して物申していたときは待っていてくれたのに、今は気にしてもくれない。

 これ以上、時間をかけていられないと判断しての行動か。

 だから無視しているのか。

 だとしたら、冷たすぎる。

 少しくらい、私のことをおもんばかってもいいじゃない。さっきくらいの態度を見せてくれてもいいじゃない。

「ホコアドクにもない。西の港町に向かう途中にある森にあることが判明した」

 置いてけぼりをくらっている私に構わずにクーシャは状況を説明する。

 少しも察してくれない。いない者として扱われて、悲しい。

 と思うのもアレなのでままを言うのは止めよう。

 彼女は細胞回線リレーションが使えない私のために話してくれているのだから、いい加減、耳を傾けよう。レオレとピルクたちのように。

 優しさとは違うけど、その気遣いを無駄にしないためにも真面目に聞くとしよう。

「その場所に仮面を運んだ者たちがいて、今もそこにいる。仮面暴徒ブレイカーに与する者たちが3人いて、全員仮面の適合者バイパーだ」

 仮面装属ノーブルとの抗争に巻き込まれないため、予め、運び出していたわけか。

 そして当然ながら、その場所には番人がいるわけか。

 運んで放置はないな。誰かに持っていかれるリスクを考えれば、当然と言えば、当然か。目星がついていない限り、盗られる可能性は低いだろうけど、安全を期せば、普通にいるだろうね。

「目的の仮面を回収するためにもここから移動する」

 ホコアドクの外に陣取っていた仮面装属ノーブルの目をい潜った方法が気になるけど、もしもその方法が私たちでもやれることなら、是非ぜひ、採用したい。

 仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカー両陣営と戦わずに済めば、消耗は減らせるし、気づかれなければ、邪魔されることなく、目的地に辿り着けるから、利用できるのなら、利用したい。

「目的地に辿り着くには4つ道がある。

 1つ目は仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカー両陣営が争っている屋敷正面を突き進み、目的地を目指す道。

 2つ目と3つ目は町の内にも外にも仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカー両陣営が配置されていない東西どちらかを進み、目的地を目指す道。

 4つ目は町の外に仮面装属ノーブル仮面の適合者バイパーと思しき者が2人配置されている南から進み、目的地を目指す道」

 わざわざ話してくれなくてもいいくらいに分かりやすい。

 相手勢力との接触を控えることを考えれば、西に進んでへいを乗り越え、囲みに沿ってそのまま北上して、町の出入口正面にいる仮面装属ノーブルに見つかることなく、横切って、森を目指す道が無難だろう。

 存在を悟られ、駆けつけられ、足止めされる危険性を低くできる道を選択するべきだろうね。

 昼でも夜でも見つかるときは見つかるけど、灯りがとぼしい夜の方がその可能性を低くできる。そこにいるかもしれない程度で済むはず。

 そして今の状況なら、人影らしきものがいると感じられても、確かめに動かない見込みが高い。

 万が一、町の外を出ようとした仮面暴徒ブレイカーを止める人員を仮面装属ノーブルが配置しているだろうから、離れたくても離れられないだろう。

 そんな人員を配置していないのなら、余計に心配しなくていい。町の外に出て行かれてしまうのは仕方なく、そうなる前に仮面暴徒ブレイカーを片付けるためにここに戦力を集中させているのなら、駆けつけられることはないから、楽に行ける。

「南下する」

「口を挟んで申し訳ございませんが、何故、その道を選ぶのでしょうか。見つからない可能性を考えれば、西か東のどちらかではありませんか」

 クーシャに疑問を覚えたのか、彼女に指揮権限が移行してから初めて、レオレは意見した。今まで逆らう節を見せなかった男がすかさず突っ込んだ。

 彼の言う通り、邪魔されないことを念頭に置けば、狙うは西か東のどちらかだろう。配置が甘い場所をわざわざ見逃す手はない。

 そしてどちらかを選べと言われれば、私は西を選ぶ。

 西の森にいるのであれば、西側から進む方が近いから。

「今からその理由を説明する」

 クーシャは一方的に命令を下せる立場にありながらも、レオレの意見に答えようとする。時間を押している状況にも関わらず、えてそうすることに至った経緯を語ろうとした。

「今の戦局を維持するため、南にいる仮面装属ノーブルを片付ける」

 配置的にすきの大きい場所を潜り抜けて行かない理由は、端的にそれを狙ってのことだとクーシャは伝えた。

「ガクウが仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパーあり仮面の適合者バイパー10体を根こそぎ倒したことで片方が一方的に攻める展開を避けられた」

 そりゃあ、私たちの目的を成すために役目を担わせたのだから、そうなっていないと逆に困る。相手勢力の足止めとき付け役を務められていなければ、こうしてクーシャと再会することはできなかったかもしれない。

 仮面装属ノーブルでも仮面暴徒ブレイカーでも、そこは誰でもいいけど、屋敷内で出くわしていたら、面倒だった。相手をしなければ、通ることは叶いそうになかっただろうし、距離を取れば、クーシャから遠ざかることになっていたから、そういう意味でもガクウはよく働いてくれた。

 本当、私が望んだ通りになってよかった。会えないまま、別れることになっていたら、死ぬまで悔やみ続けていただろうから、そうならずに済んで本当、感謝といったところ。

「そして膠着こうちゃく状態とも言える状況を保てているのは、ガクウが仮面暴徒ブレイカーの首領を相手取っているおかげである。

 敷地内の戦いぶりを観察する限り、あれは抜きん出た実力を持つから、放置していれば、蹂躙じゅうりんされる展開を迎えていた。万全には程遠いが風の仮面の装着者ドライバーとなったガクウと渡り合っていることから、ガクウが傍観していれば、敷地内の争いは早々に終わらされていた」

 昨晩の過剰展開オーバーフローが響いているとしても、それでもクーシャが評価するだけの実力があるのは確かなようだ。伊達に仮面装属ノーブル屈辱くつじょくを与えた逃走劇を繰り広げ、1年近くも敵対者を退け、町を占拠してきた暴力組織を率いていた者だ。

 そんな奴を放置していたら、確かにマズイよね。こっちの都合が潰されかねない。

「これ以上、何もなければ、屋敷敷地内はこのまま持つだろうが、もしも町の外にいる者たちが介入してきたら、どうなるか分からない」

 どのような行動を起こすかで結果は変わるけど、相手に委ねることになるから、私たちにとって、よろしくない方向に転がることもある。

 もちろん、いい方向に行く場合もあるんだろうけど、制御できるわけでもないから、どうしようもない。

 だからクーシャが懸念けねんするのもうなずける。

 都合のいいように考えていれば、後でしっぺ返しを食らうだけだから。都合の悪い展開になれば、尚更なおさらのこと。

 悔やんでも過去に戻って、やり直せないから、やれることはやっておかないと。思いついくこと全てに対する処置はできなくとも、頭に入れておくことくらいはしていないと。

 いざというときに出し抜かれてしまう。

「その者たち、と言うより、仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカーの首領が交戦をおとりに逃走する作戦をつかんでおり、それを許さないため、今はそこから動かずにいるが、それも今後も続くとは限らない」

 なるほど。

 だから屋敷に襲撃する部隊とは別行動を取っているのか。

 戦いの主力でもある仮面の適合者バイパーの数が劣っているのに、屋敷から離れた場所に陣取っているのかと思えば、そういう理由があってのことか。

 逃走を封じる戦力として、そこに配置されているということは、その2人であれば、仮面暴徒ブレイカーの首領を相手取れる、ということか。

 もしも屋敷敷地内にいれば、たまったもんじゃない。

 どうかち合うかは分からないけど、戦況の均衡きんこうを取ることを思うと、ガクウだけでは心許ない。留め続けるのも厳しいところ。

 今は遠くにいるから、その心配はいらないけど。

 でもその保障はいつまでも続かない。

 クーシャの言う通り、いや、この場で嘘を吐く必要性はないから、本当、いや、疑うつもりは微塵みじんもないんだけど、ともかく、彼女の言う通りであれば、仮面暴徒ブレイカーの首領が作戦通りに行動を起こさなければ、仮面装属ノーブルの2人が不思議に思っても可笑おかしいことではない。

 音だったり、光だったりで交戦を繰り広げていることは感じ取れていれば、余計に考えるはず。

 派手にやり合っているのに何故、逃げてこないのか。

 待てども誰も来なければ、そりゃあ怪しむね。

 そういう事情があれば、行動を起こす可能性は十分に考えられる。しびれを切らして、屋敷に近づくことは普通にあるだろうね。

「だからその目を潰しておく。

 私たちの目論見が阻まれないためにも、仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカーを自由にさせない」

 加わらせないままでいるためにクーシャはその場所に向かうと口にしたわけであり、彼女はそのように行動を起こすつもりでいる。

「具体的には」

 その後、クーシャは各個人に命令を下し、部屋を出て行った。私だけを残して。

 私を戦場に連れ込んでも役に立たないから、待機することになった。

 私は鍵認証キーセンスを使えないし、仮面も持っていないし、本格的な戦闘技術を持ち合わせてもいないから、彼女たちの足手まといにしかならない。

 だから置いていかれるのも仕方がない。

 もちろん、1か月近く離れていたクーシャから離れたくなくて、しぶりはしたけど、駄目だった。クーシャが口にした以上、撤回してくれることはないんだけど、一応、抵抗したものの、やはり受け入れてくれなかった。

 けれど、この作戦が終われば、迎えに来ることを約束してくれたから、私は引き下がった。

 見捨てるつもりはないと言ってくれたから、私は口答えを止めた。さびしい気持ちを抑えて。

 傍から見れば、体のいい嘘を吐いているようにも見えるかもだけど、クーシャに限れば、それはない。今はペラペラ喋っているけど、いつでも対話できるわけではないから、その口下手すぎる彼女の代役と意図を汲み取れる者が必ずいるわけだから、偽る意味がない。

 新たに探すことに労力に費やすのは建設的ではない。今担っている私を放り出せば、彼女が背負っている最重要任務、仮面の回収が滞ってしまう。力づくで解決できることばかりではないから、助けは必要になってくる。

 ただ私が仮面暴徒ブレイカー仮面装属ノーブルに身柄を捕らえられていれば、話は変わってくるんだろうけど。

 救出よりも新たな協力者を探す方が労力的に負担がないと判断されれば、その限りではないだろう。

 死んでいたり、同行するには困難な怪我を負っていたりしていれば、同じことが言えるだろう。

 以前、見捨てる状況になれば、遠慮えんりょなく見捨てる、と言われたことがあるから、見つかるわけにはいかない。

 生き甲斐がいである、私の愛しき伴侶足るクーシャと別れれば、私は生きていけないから、絶対に逃れてやる。これからも彼女とともに生きていくためにも。

 誰もそんなことは聞いてもいないが、ぽつんと1人でいる私はそう誓った。

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