1章7節7項(48枚目) 三勢力の攻防②

 敵味方、乱戦に発展しても俺は相も変わらず、素性不明の仮面の適合者バイパーと対峙している。

 周囲の状況が変わっても俺自身の戦況は動かない。

 良く言えば、拮抗きっこうしているが、それは相手が手を抜いてくれているおかげだ。こちらに合わせて、近接格闘で仕掛けてくる、そのめ切った態度のおかげで、俺は先へと進めずにいる。昨晩のような一方的な蹂躙じゅうりんを行わないでくれているおかげで助かってはいるが、非常に腹ただしい。

 一撃でも入れられれば、望む展開へと繋がる希望も見られるのだろうが、見事にかわしてくれるから、イラつく。

 こっちも風の拳をかわしているから、あいこだが、手加減されているから、嬉しくもない。いつでも仕留められる、その余裕がムカつきをさらに倍増させる。

 しかしそのおかげでより集中して目の前の戦闘に臨むことができているわけだが。

 それでも俺の悲願を邪魔するから、感謝は決してしない。

 訳の分からん奴を相手取ることに興味はない。

 俺は悪逆の徒を討つために志願した。

 目の前の奴は、仮面装属の統治領域ノーブル・フィールドを荒らす者たちの討伐を邪魔するから、悪者であることに変わりない。容赦ようしゃなく潰していい。何も問題はない。

 しかし影響度を考えると、対峙を急ぐ必要はない。

 悪行が深く根付こうとしている存在、仮面暴徒ブレイカーを一刻も排除しなければならない。多くの人々が恐怖に打ちのめされることを思えば、この場では何よりも優先にしなければならない。闇に陥れられる未来を想像すると尚更なおさら

 味方の攻勢を邪魔させない観点で言えば、これはこれで役に立っているが、もっと分かりやすく活躍したい。どこに介入するかはさてくとして、明確な悪と戦いたい。

 その状況に持ち込むため、目の前のこいつを片付けなければならないが、俺1人ではどうしようもできない。

 周囲からの横槍で戦況を崩せないものかと期待を寄せても、それは難しい。素性不明の仮面の適合者バイパーと戦う最中、そっちに目を移しても無理そうなことが分かる。

 俺と同じ、仮面の適合者バイパーは敵対する陣営と組み合っている。

 カステロイドは仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパー、岩の仮面の適合者バイパーと猛牛の仮面の適合者バイパーを相手取っている。

 戦闘とは縁遠い、蒐集局コレクションパーティーでありながら、よく持ちこたえている。立体的に動ける環境でこそ、真価を発揮する、蜘蛛くも仮面の適合者バイパーでありながら、よく対峙できている。

 流石さすが第五等級熟練者フィフス・エキスパートと言ったところか。

 自分から攻撃できずにいるが、繰り返す猛牛の突進をかわし、その直後に投擲とうてきされる岩を避けられている。傷も痛みも負わずに済んでいる。

 相手が息を合わせた連係をしてこない。

 と言うより、やたら前に出たがる猛牛の仮面の適合者バイパーのおかげで助かっているようだ。岩の仮面の適合者バイパーが計ったタイミングで投げないでくれるおかげでそこまで苦戦していないようだ。逃げ場を失くすほどの大量の岩を生んで、カステロイドに投下しないから、何とかしのげているみたいだ。

 味方を潰し、戦力を減らすことを嫌った、岩の仮面の適合者バイパー配慮はいりょであいつはやられずに済んでいる。へばれば、それまでだが、まだいけそうである。

 しかしいざとなれば、糸で相手の動きを縛れるから、そんなに悪い方向に考えなくていいだろう。

 使わずにいるところを察するに、待っているのだろう。連係が雑になり、一気に潰せる算段が整うまで、えているところだろう。我慢比べと言ったところか。

 実に狡猾こうかつだ。

 その逆、俺と同じ戦闘局マーシャルパーティーに所属するライクはハラハラさせる攻防をしている。

 こいつは仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパー、放射の仮面の適合者バイパーと反射の仮面の適合者バイパーを相手取っている。

 兄弟だからか、敵が息の合った連係をしてくるから、攻撃がかわし切れずにいる。光の放出による直線を描いた攻撃が飛んでくるかと思えば、その攻撃を反射させて曲線を描いた攻撃を飛ばしてくるから、ライクは射線を読み切れずに被弾していた。

 電気を自分に流し、体を盾やよろいのように化して、その衝撃しょうげきを軽減させていたが、確実に消耗していた。戦線離脱する事態になっていないが、蓄積している。

 しかしやられっぱなしではない。

 電撃をとどろかせ、やり返している。カステロイドと違い、積極的に攻めている。

 けれど放射で相殺されている。

 打ち消され、攻撃が届かない。傷を負わせられていない。

 それでも相手を疲弊ひへいさせている。

 ライクの攻撃を打ち消すため、それなりの光量を放っているため、全く無駄になっていない。攻撃により、反射の仮面の適合者バイパーを庇う、放射の仮面の適合者バイパーに負担をかけている。

 ライクに攻撃するのは放射の仮面の適合者バイパーだけ。

 一度たりとも、反射の仮面の適合者バイパー、主体で攻撃していない。サポートに徹している。放たれた光を曲げているだけ。単独で攻撃を仕掛けていない。

 だからライクは放射の仮面の適合者バイパーを先に片付けるため、反射の仮面の適合者バイパーに狙いを定めている。

 かばうことを前提に。

 そしてその目論見通りになっている。

 攻撃できない者が残っても仕方がない。

 そのことが分かっているから、放射の仮面の適合者バイパーは雷撃を打ち消している。

 兄弟愛なのか、それとも首領の命令なのか、はたまた手数を減らすことを嫌ったのか。

 どっちにしても自分にとって都合が悪いから、行動を起こしているわけだ。

 現況だけ捉えれば、ライクが不利に見えるが、時間が経過すれば、分からない。形勢は逆転しているかもしれない。

 流石さすが、所属して1年くらいで第一等級初級者ファースト・ビギナーになった有望な若手だ。

 荒っぽいが、その階級ランクに駆け上がっただけの実力を見せてくれる。

 戦闘に参加していないレックが加われば、もっと楽に戦えただろうが、副司令官としての仕事があるから、それは望むだけ、無駄か。

 全体を見渡し、指揮しなければならないから、ライクを支えることはできない。別行動中のキハル総司令の代役を務めているから、一緒に戦えない。

 また仮面暴徒ブレイカーを敷地の外に出さないため、後方に陣取っているから、動けない。

 敵勢を通すわけにもいかないから、当然と言えば、当然。討伐部隊を派遣した意味がなくなるから、絶対に死守しなければならない。

 それぞれ、そういう状況だから、俺の戦況をいい意味で崩してくれる期待はできない。有力候補、この場にいる、仮面装属ノーブル仮面の適合者バイパーは誰も手が空いていないから、駆けつけてくれることはない。

 戦力から外れた、10人のあり仮面の適合者バイパーがいなくなって、数的圧倒的な不利がぬぐえたとしても、楽できているわけではないから。

 それは仮面の適合者バイパー以外にも言える。

 単純な数で言えば、仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカーの3倍近くだ。昨晩の件でどれだけの数を減らしているかは知らないが、それでもここに連れてきた、仮面装属おれたちよりかは少ない。間違っても逆転されていない。

 加えて、質も上回っている。弱い者いじめ、喧嘩けんかに強いだけ、仮面の適合者バイパーの影に隠れて息がっている奴らに負けやしない。

 そうした意味合いで考えれば、こっちが有利だ。数の暴力で押しやすい、仮面装属おれたちが優勢だ。

 示し合わせたわけではないが、お互い、仮面の適合者バイパーの近くに寄らないようにしているから尚更なおさらだ。差が縮まることはない。

 しかし一般武装兵ばかりが残っても仕方がない。

 仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパー以外を掃討して、他の戦局に加わっても、足手まといでしかない。仮面の適合者バイパーには程遠く、卓越した存在でもないから、押し寄せたところで無駄に終わる。

 現に俺たちのところにあぶれて来た者たちは、素性不明の仮面の適合者バイパーによって倒されている。仮面装属ノーブル仮面暴徒ブレイカーの区別関係なく、地面に突っ伏している。瞬時に潰されている。

 俺から目を離している、その機会を仕掛ける好機だと捉え、奴を切り裂きに行っても、かわされる始末。大した成果にならず、決定打にならない。介入があっても当てにもならない。役に立たない。

 だから周囲から切り崩す期待は早々に捨てた。

 結局、自分でどうにかしないといけない。

 都合のいい展開とは、緻密ちみつに示し合わせた上で行動しなければ、成り立たない。ライクと戦う、あの兄弟のように。

 このまま戦ってもジリ貧だ。仮面暴徒ブレイカーと戦う前に事切れてしまう。

 それは避けたいから、思うがままに暴れてみるか。

 決意した俺は、仮面の力を引き出した。鋭かった牙と爪をよりとがらせる。消耗を引き換えに身体能力を向上させた。

 より感度を上げて、動きを捉え、より速度を上げて、動きに追いつき、より攻撃力を上げて、動きを止める。

 一気にケリをつける。

 意気込み、地面を蹴ったところで事切れた。急に目の前がズレたように感じた。


 窓から飛び出た先に2人の仮面の適合者バイパーがいたから、取りえず、目の前にいた仮面の適合者バイパー、もとい仮面装属ノーブル陣営の狼の仮面の適合者バイパーを先に始末した。勢いに任せ、かまのような爪で首を切り落とし、着地してすぐに体を蹴り飛ばした。

 そしてもう1人の仮面の適合者バイパーに向かって、切り裂きを飛ばした。

 引っ掻くときに生じる鋭い風で攻撃した。砂煙が上がったせいで生死は分からないが、不意打ちで仕掛けたから、あれで終わりだろう。

 終わったから、別の戦況を傾けに行くか。

 そう思えば、砂煙を上げる鋭い風が俺へと迫ってきた。

 しかし当たらなかった。

 ギリギリ外れる軌道だったから、受けなかった。地面を削った後から見るに、当たっていれば、間違いなく、切り裂かれていた。

 真似事はできるし、いつでも殺せる。

 俺の攻撃をかわして、攻撃してきた、あの仮面の適合者バイパーはそんな風に挑発しているようだ。何事もなかったように立っている、あの仮面の適合者バイパーはそんな風に俺をからかっているようだ。

 仮面暴徒ブレイカーの首領たる、この俺、カマイタチの仮面の適合者バイパーに対して、えらく余裕なものだ。

 ではその挑発に乗ってやるか。




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