1章7節6項(47枚目) 屋敷に侵入した者たちのその後の行動③

「このまま、潰せ」

 念力の仮面の力で押さえつける俺に首領はそう命じた。

「いいんすか。この女も殺すことになりますよ」

 珍しく、手厚く保護していた女も巻き込んでもいいことを首領に確認した。

「構わん。用済みだ」

 きっぱりと答えてくれた。これで躊躇ためらわずに済む。

「お前が器用に狙いを定められるのなら、始めから交渉など、持ちかけなかった」

 こいつは手厳しい。

 未だに細かい調整ができないことを把握していらっしゃる。

 俺は指定した空間内で強弱をつけることがまだ上手くいかない。誰かに対しては弱く、誰かに対しては強く、そういった加減ができない。ある程度距離が離れていれば、別だけど、近いとどうも調子が狂う。

 だから首領が残念がるのも分かる。

 最善な結果を求められないから、俺に過度な期待をしないのもうなずける。

 評価が低めなのは残念だけど、無理強いされなくて、助かってはいる。それができれば、待遇がもう少しよかったんだろうけど、まあ、仕方がない。

「手に入るか分からない仮面のために、これ以上、費やすわけにはいかない。コレクターは欲しがっているが、状況が状況だ。非常時だから、そこは無視する」

 割り切っていらっしゃる。仕事がやりやすい。

 そういうことなら、面倒事は首領に任せよう。役職持ちが気張ってくれ。

「この件が片付けば、地下室にいる奴を連れて、外に来い」

 さらに首領は注文をつけてきた。

 懐から仮面を出して、俺に手渡した。

 これを誰に渡せばいいことやら、さっぱり分からないが、とりあえず受け取った。

 初めて見る仮面だから、恐らく、俺が知っている奴じゃないだろうな。指定された場所でそれっぽい奴を見かけたら、話しかけてみればいっか。

「裸の男に渡せよ」

 そんな奴が屋敷にいるのかよ。裸で彷徨さまようのは目の前の女だけじゃなかったのかよ。

 本当かよ。

 聞き違いなのか、冗談なのか、正直、ツッコみたいが、首領が言うんだから、マジなんだろうな。仲間に対して、理不尽な面白半分の命令を出したことがないから、そうなんだろうな、きっと。

「その、いかにも怪しい奴に、ともかく渡せばいいんですね」

「そうだ」

 怪しんで確認すれば、返事は変わりなかった。マジでそいつに渡すことは間違いなかった。

「ただし味方であることを確認してからにしろ。

 幽閉ゆうへいするような形にして、怒っているかもしれないが、あいつが持ちかけてきたことだ。何か言ってくれば、それを突きつけて、納得させろ」

 つまり敵対するなら、殺せと言うことか。

 そんな真似をしたのなら、絶対怒っているはずだから、問答無用で潰したほうが楽なんだろうけど、これから仮面装属ノーブルを相手取ると考えれば、戦力は多いに越したことはないか。

 一応、聞いてはみるか。こいつらのように動けないようにしてからだけど。

「後は任せる。俺は戦場に行く」

 全てを言い終わると、首領は窓へと向かった。

 その直後、辺りが光に包まれた。

 どうやら仮面の適合者バイパーになるために首領は仮面を被ったようだ。

 そして窓が叩き割れる音がした。

 風が入り込んできたから間違いない。破片もあるから、間違えようがない。ここから飛び出し、俺たちを討伐に来た仮面装属ノーブルを倒しに行ったに違いない。

 そういうことらしいから、命令通りに始末しよう。手加減することなく、圧しつけよう。この念力の仮面の適合者バイパーの力で。昨日、潰した男と女、同じ目にわせてやる。

 こう、床をメキメキとさせて。

鍵認証キーセンス精緻挙動オペレーション

 力を入れた矢先、部屋中に響いた。

 そのとき少しビクついてしまった。いきなりの大声で耳がキーンとなり、圧さえつけていた場所から注意を反らしてしまった。

 それがいけなかった。力が緩み、相手に攻め込ませるすきを与えることになった。

 気づいたときにはいつくばっていた1人、仮面の適合者バイパーが目の前にいた。

 緩んだとはいえ、俺が抑えつけていた場所から無理矢理抜け出し、一気に距離を詰められ、そして一気に距離を詰められ、左蹴りで壁まで吹き飛ばされてしまった。

 突然すぎた。いつもなら、余裕で守れたが、不意を付かれたせいで、動けなかった。久々に痛みを感じる。

 しかし驚いてばかりではいられない。

 次があるはずだ。これで終わるわけがない。

 今度は逆に飛ばしてやるし、許しをう暇も与えず、殺してやる。

 そう意気込んでいれば、またしても急に現れた。時間を空けず、目の前に女がいた。見慣れない方が俺の顔面めがけて、両足蹴りを入れ。


 ズッゴオオオオオオオオオオオオオオオン。


 全く派手にやったもんだ。仮面暴徒ブレイカーが持つ仮面が保管されているであろう部屋の壁に大きな穴を空けて。仮面を壊すか。

 しかし首領の話を聞けば、そこにないことくらい、分かりそうではあるけど。

 仮面を守るためなら、外に出ていかないし、出るにしても、さっきの人に部屋を守るように命令していたはずだから、あの部屋にないことくらい、想像がつく。

 だったら、何のためにこの部屋で待ち構えていたのか、謎は残るが、それはいいや。

 答え合わせできないことだし、仮に正解を当てられたところで賞金が出るわけでもないから、いいや。

 念のため、仮面がないことを確かめるため、あの男のせいで床に伏せられていた愛しきクーシャの手を引いて、立ち上がらせ、一緒に隠し部屋に続く扉を潜った。

 案の定、仮面はなかった。物陰ものかげに隠すことすらできない、何も置かれていない部屋だから、暗くて、見えにくくても、朧気おぼろげにはつかめるはず。見渡してもないのは可笑おかしい話。

 差し込む光は空けられた壁の穴からしかなく、その量が少なくとも、それらしきものは見つからなかった。

 あるのは首領から男に渡った仮面だけ。今はピルクの一撃で手元から離れ、床に転がっているが、その1枚だけ。

 残骸も含めれば、ピルクが壊した仮面もあるが、それはもう使い物にもならないから、数えない。

 壁2枚もぶち抜く威力いりょくが直撃すれば、頑丈な仮面もさすがに壊れる。

 そしてその一撃をもらった男はもう立ち上がってこない。

 戦力を減らすためとはいえ、やりすぎだ。

 結果論だが、仮面がなかったから、いいものの、もしもあれば、目も当てられなかった。

 その巻き添えで真の目的まで、潰されたら、たまらない。ここになかったから、いいものの、それまで壊されていたら、最悪な目にっていた。

 実現しなかったから、それはいいとして、首領も一緒に始末するべきだった。仮面の適合者バイパーじゃなかったときに仕掛ければ、仕留めるのも楽だっただろうに。

 戦力を減らす意味で考えれば、絶好の機会だったんだろうけど、生かす意味があったから、狙わなかったところか。生かしておくと面倒な相手だが、周囲の邪魔者を減らすことを思えば、仕方がないところか。

 この展開は私が知らないところでクーシャが指示していたところかな。私が首領と話している間に細胞回線リレーションで打ち合わせを済ませていたんだろうね。

 全く以って、彼女とつながられて、何ともうらやましい。

「それでどうします」

 その分の埋め合わせは後に回すとして、ひとまず、落ちていた仮面を拾って、クーシャに質問した。

 これから何をするのかを。

 他の人たちは知っているかもしれないが、私は何も聞かされていないから、教えてもらわないと困る。

 すると彼女は上着を脱いだ。肌を隠すために私が被せてあげた服を取り払った。

 暗くて、はっきり見えないとはいえ、見せびらかせるのは止めてほしい。

 あなたは恥ずかしくなくても、私が恥ずかしい。うるわしい体を見惚みとれさせることになると思うと、ゾッとする。

 いくらこの場に男がいないにしても。生死を彷徨さまよっている仮面暴徒ブレイカーの1人と書斎しょさいにいる仲間の1人に見られる心配が低くても、やってほしくない。

 何ならピルクにも見せたくない。私が独占したい。

「何をするのかと言えば、それは情報収集でしょう。クーシャ様の真意実証デモンストレーションで」

 そんな私の気持ちを知らずにピルクが私の質問に答えた。さも当然のように言ってきた。

 しかし言われれば、そこに行き着くわけではあるか。

 狙いが外れたのなら、そうするしかないか。この世に現存するものを知ろうと思えば、知ることができる、首領が欲しがっていた享受の仮面を使うことになるか。

 発光することなく、本来の姿、享受の仮面の装着者ドライバーに戻るのは当たり前か。

 眼を縦向きに、真ん中にデカデカと描かれた仮面を被った状態に。

 長かった髪が短くなり、重力に抗うように逆立った状態に。

 白かった肌が陽に焼けたように黒くなった状態に。

 レオレたちと同じように、黄金色に輝く首輪をめた状態に。

 色は赤黒いけど、レオレたちと同じように、よろいをつけたように胸と背中が盛り上がった状態に。

 レオレとは違うけど、体の側面と中心、それぞれよろいと思える部分から伸び、腰のところで股に向けて合流する、肌より濃ゆい、暗い色で引かれた線が体に入った状態に。

 自分の役割を果たすため、今、本気になったところか。

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