1章7節5項(46枚目) 屋敷に侵入した者たちのその後の行動②
「狙いが
誰も一言も発しないから、
床に
「その女が欲しいからだ」
ああ、聞き捨てならないな。私の伴侶を
「体目的ではない。その者なら享受の仮面を使えるかもしれないから、手中に収めたいだけだ」
私の
「まだ仮面は手に入れていないが、手にしたとき、使い手がいなければ、意味がない。
そのもしものときに備え、その女を確保しておきたいだけだ」
仮面を使いたいがために手にしたいだけか。訪れるかも分からない機会のために仲間にしたいと言うのか。そんな理由で私が
「お前たちは知っているか知らないが、享受の仮面の使い手は希少なんだ。誰でも被れる反面、すぐに息絶えるから、事実上、使い手がいないとされる存在だ」
だからより欲しいと。
珍しいから、余計にか。
「その仮面があれば、大方の情報は
いや、それは二の次か。
物事を有利に運びたいから、彼女を引き込みたいわけか。万全を期すために手の内を明らかにしたいわけか。
「
拍子抜けして、口からこぼれた。聞こえるか聞こえないか、ボソッと呟いた。
統治組織、
まさか、何でも知ってからでないと行動できない、愚物だったとは。
「さあ、狙いを話したんだ。さっきの勧誘に対する、答えをくれないか」
私の呟きを耳にしなかったのか。
それとも私が抱く
その真相は知らないが、急かしてきたことに違いはない。屋敷に攻めてきた、
「欲しい仮面をくれてやるのはもちろんだが、この場にいる全員を迎え入れてもいいが、どうだろうか」
悪いことばかりではないと
「断る」
でも差し出した手は取らないけど。
私にとって、少し
仲間になった後で雑に扱われたのでは話にならない。殺されるのであれば、今、口答えしても結果は変わらない。早いか遅いかの違いだけだ。
「お前に
私が気にくわなかったのか、首領は私の口を封じにきた。
言葉で脅す程度しかできないけど。
きつく言うしか方法がないことくらい、予想ができたからこそ、私が返事したわけだけど。今すぐにこれ以上の痛い目に
馬鹿じゃないんだ。話の流れを耳にしていれば、誰が命運を握っているかは悟れる。
わざわざ指を差して、答えるべき者が誰なのか、教えなくても分かっている。
「1か月近く、同じ屋根の下で暮らしていたのなら、分かるだろう。彼女が口を開けないことを。
だから俺が代弁してあげているんだが」
それに挑発で返事したわけでもない。
単純にクーシャが喋れない状態だから、私が彼女の意思を伝えているだけだ。
そのくらいのこと、分からないほど、馬鹿でもあるまい。私の伴侶の口の固さと強情さは肌で感・・・・・・意味は違うけど、何か腹ただしい。私が楽しめなかった間、楽しめていたと想像してしまうと、
「では何が気にくわない。
屋敷に忍び込むことを考えれば、仮面を欲しがっているのではないのか」
話を前に進めることからして、私に発言権を認めるか。
それならば、
「ああ、欲しいさ。お前たちが持つ、全ての仮面を、今すぐに」
他の仲間はそもそも口にする資格はなく、総意を述べることができるのは本作戦に
「欲張りは感心しないな」
返事に対する感想を一言
「全ての仮面を手にしてもその全てを扱えるわけでもない。相性があるから、持て余すだけだ」
助言めいた、苦言を首領は
「仮面は使うためだけに存在しない。使う前提で物を考えるな。その前提で動いていない」
勝手に値踏みをしてきたから、訂正しておいた。誤った認識を正しておいた。私の尊き伴侶の想いを踏みにじられたくはなかったから。
「売り
「仮面は売るためだけに存在しない。売る前提で物を考えるな。その前提で動いていない」
「鑑賞したいなら、俺たちと一緒にいるのも悪くはないはずだ。身の安全を守る、ちょうどいい、護衛にもなるから、お得だと思うが」
「いいや、
「いいや、
次々と来る勘違いを訂正していれば、
「俺は武を以って覇を示す舞台を作り上げるつもりだ。命を脅かす者を排除するために戦い、自分の存在を際立たせるために戦う土俵を用意する。誰もが参加でき、勝者は思うがままに決定を下せる場所を整える。組織とこの町はその実験だ」
だからなのか。
今の説明で1つ理解した。
認めさせるために存在を訴えていた。統治機構でさえ、手が出せない、もしくは触れれば、
それだけの価値を持たせる、つまり独自特区として、統治機構の
だから戦い、ここから立ち去ろうとしないわけか。
昨晩の出来事でより不利な状況に追いやられても、逃げず、立ち向かうわけである。将来の布石のためにも、おめおめと姿を消すわけにはいかないから。統治する際、付け入る
堂々と
「ガキみたいな夢だ」
しかしあまりにも馬鹿げている。
思わず、
その一言でさらなる
今さらではあるものの、怖いもの知らずにもほどがある。後から押し寄せる
どれだけの犠牲を積み上げれば、満足ゆく結果に辿り着くのやら。
そしてその結果がどれだけ保つのやら。
話を聞く限り、叶った瞬間に
採算が大きすぎると言わざるを得ない。敵対する勢力の規模を抑制することを考えれば。
「壮大だろ。誰も実行に移そうとはしないことだろう」
しかし首領は全く気にしていなかった。
「しかし誰でもいいわけではない。
興じることができる資格を持つ者だけが参加すべきだ。最初から弱い奴はいらない。舞台に上げるだけ、時間の無駄で退屈なだけだ。
だからその判別のために仮面を用いる。
捻じ曲げられない審査基準によって、参加者を決め、競い合う。明確かつ単純に判別するためと
尋ねてもいないが、首領は仮面の使い道を私たちに教えてくれた。
しかしそのおかげで
単純に戦力増強のために、仮面とその使い手を狙ったものだと考えていたが、実際はそれだけではなかったらしい。100枚の仮面を手持ち
選別の簡略化を狙っていたようだ。それは戦力増強にも
首領が
そういうことを踏まえれば、参加者が群がることは容易に想像でき、試合運営は大変だと思えてしまう。気が
見境なく、募れば、そうなるだろう。
しかし基準を設ければ、基準を設けなかった場合と比べれば、人数は減らせる。
質はどうしてもばらつきが出てしまうけど、試合数は減らせる。勝者を選出する過程を短縮でき、試合運営の負担が減らせる。
しかし基準を誤れば、舞台が台無しに成りかねない。
基準が緩ければ、数は増え、基準が厳しければ、数は減る。
数が多ければ、勢力に取り込みやすくなるが、試合運営が大変になる。勝者を選出する過程が長すぎるせいで離脱する者も現れる。目先の利益だけを
逆に数が少なければ、試合運営は楽になるが、賛同者は増やせない。数の暴力で外側にいる統治機構に
それらは基準を設けようが設けまいが、起こりうる。
それとは別に基準を設ければ、新たな問題が出てくる。不正参加者が現れる可能性が出てくる。
口利き次第で参加者として認められるケースが発生してしまう。参加者として認める、審査官を抱き込めば、試合ができしまう。条件を満たせていなくとも、
実際に成し得るかは分からないが、少なくとも不正の数だけ参加枠は潰され、本来手にできたであろう者たちの可能性が奪われる。
そうでなくとも試合数が増え、本来やる必要のない試合や起こり得なかった試合が強いられる。
真面目に参加する者たちを
しかし
仮面との相性があるから、融通などできない。審査官のご機嫌取りを行っても仕方がない。
そういう基準を設ければ、参加者は
そして後者であれば、
体制維持を思えば、やらざるを得ない。前者だけであれば、その数を賄うだけでも苦労する。
そうなってくると相応しい仮面を見つけるに手間がかかるけど、
相応しい仮面が何なのか、把握できるため、選別を手早く済ませられる。
貸し与えられる仮面であれば、貸し、そうでなければ、弾く。
それでも審査は大変だろうけど、1人ずつ、1枚1枚被せていく工程を思えば、ずっとマシだ。
ともかくそれで参加者は増やせ、勢力拡大に
そういうのも含めて、
普通は考えもしないだろうね。仮面を探す手間を省く方法を。
元
その点で言えば、首領ならでは、と言ったところだ。
そういった意味では壮大なんだろうね。その先があるのか分かったようなものではないけど。
「これ以上、引き延ばされたくはないから、いい加減、答えてもらおうか」
変な方向に頭を働かせていれば、首領は最終通達をしてきた。
「今なら、昨晩起こした出来事も不問にしてやってもいい。今は手荒に扱わせてもらっているが、この事態が片付けば、丁重に迎えよう。その条件も加えるから、仲間にならないか」
働き次第という条件付きではあるけど、仮面をくれる。
必要なのはクーシャ1人だけで他は処分してもいいにも関わらず、私たちを迎える。
さらに
気前がいいことだ。
そして昨晩の出来事が何となく、私たちの仕業だと勘づいている上で手を差し出してくるか。
そうまでして、私たち、実際に目当てにしているのはクーシャだけだけど、仲間に加えたいわけ。計画を狂わしたことに対する怒りを水に流すわけ。先々の利益を考えて、
「それでどうなんだ」
答えないものだから、首領は急かしにかかってきた。これ以上、待てないから、私を
確かに首領の言葉を受け取れば、クーシャの望みは叶う。私の望みも叶う。
悪党に協力しないといけないが、条件は悪くはない。
しかし
「あるべき者の元に戻す、というクーシャの意思を尊重して、お前との関係は築かない」
拒否する。
「誰に返すと言うのだ。この地で仮面を管理する
それとも仮面を持っていた者たちにか。
はたまた仮面をばら撒いたとされる、神様にか」
その返事に対し、気に食わなく思ったのか、いや、間違いなく気に食わなかったのだろうが、首領は皮肉を言ってくる。自身のためではなく、誰かのために頑張ろうとする姿に
「誰でもいいだろう。お前に望みがあるように、私たちにも望みがある。それが相容れないだけだ」
だから私も答えた。
誰も同じ思想で動いていないことを教えてあげた。
「絶望的な今の状況から抜け出すためにも、
「愛しきクーシャを酷い目に
首領の言葉に一理あるが、そもそも信用する方が
殺していないことが丁重に扱った証拠、と言うのであれば、ふざけるな、と言ってやる。身ぐるみを
そういう事情があるから、奴らが約束を守るとは思えない。
本心だと言われても信用できない。
現状すら変えない人間の言葉には付いていかない。
私たちを押さえつける力を解いてもいなければ、仮面を差し出してもいない。
最初から歩み寄る気がないから、手を取るつもりはない。言葉だけでなく、態度でも示さない奴に協力するつもりはない。
「そうか。それは非常に惜しいことだ。残念ではあるが、ここで始末させてもらう」
この一言で間違いなく、殺されることになった。クーシャだけは生け捕りかもしれないが、私たちの命がなくなることだけは間違いない。
弁えることなく、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます