1章7節4項(45枚目) 屋敷に侵入した者たちのその後の行動①

 どこかの変質者のせいでクーシャと感動の対面にはならなかったけど、ひとまず彼女と再会できたのはよかった。服をがされ、暗闇の中に閉じ込められていた事情から察するに無事・・・とは言い難いけど、この件が片付いたら、私がいやしてあげよう。

 別に私がさびしい時間を過ごしていたからではない。

 それはともかく、私の愛しき御方と合流できたのだから、私たちは本来の目的である、仮面暴徒ブレイカーが持つ100枚の仮面の回収に取り掛かった。

 正確に言えば、100枚の仮面全ては回収できないけど。

 仮面暴徒ブレイカーに使われている仮面や仮面暴突クラッシャーが持っていた仮面ややむを得ず破壊してしまった仮面などを除けば、回収できるのは精々半分よりも少し多い、と言ったところ。

 その枚数はともかく、クーシャの細胞回線リレーションで招集できた者たちに伝えた、表向きの目的は果たそうか。

 正直に言えば、私はこのままクーシャを連れて、キャッキャッウフフな展開に持ち込みたい。仮面装属の統治領域ノーブル・フィールド、南方随一ずいいちの観光名所である温泉街に出向き、彼女と一緒に浸りたい。クーシャの苦労をぬぐってあげたい。

 しかしそうはいかない。

 レオレたちに反対されたからではない。

 クーシャが譲らないから、どうしようもない。彼女自身、仮面を目的に仮面暴徒ブレイカーの懐にわざと飛び込んだから、今さら引き返す選択肢には至らなかった。改めて聞き直しても、意思に変わりがなかったから、付き従う他ない。

 今さら反対しない。不満がないわけではないけど、今さら決定を覆すつもりはない。どうにかなるのなら、クーシャ1人を送り出す前にどうにかしている。頑なに聞き入れてもらえないようであれば、もう諦めるしかない。

 私は彼女の傍付アテンダントだから、追従するのみ。彼女が望む結果になるよう、思考を働かせ、行動するのみ。

 だから目的とする仮面がある場所、屋敷の書斎しょさいに向かっていた。

 正確に言えば、その部屋に備えつけられている隠し扉の先に仮面が置かれている。力技を除けば、その隠し部屋に入る方法は他にないため、ひとまず書斎しょさいを目指している。

 地下通路にあった邪魔な岩を取り除いたように精緻挙動オペレーションで壁を破壊して、部屋に足を踏み入れる選択もあった。

 しかし仮面を壊してしまう危険性があったため、無難な手段で部屋への侵入を試みることにした。

 そういう裏事情はいといて、とりあえず上を目指している。

 灯りで道を照らさずに進んでいる。自分たちの居場所を教えるようなものだから、えて点けずにいる。誰かに発見される危険性を減らすため、地下に置いてあった照明器具を拝借しなかった。

 地下通路のときと同じことをやった。戦闘準備が整っているレオレを先頭にして、その後ろに私たちが続く形で進んでいる。

 そのときと違うのはクーシャがいることであり、さらに彼女の指示で動いていること。

 クーシャが約1か月、潜伏していたときに手にした情報を基に屋敷内を進んでいる。

 とは言っても、彼女が直接指示しているわけではないけど。

 今、彼女はしゃべれない状態だから、私が代弁している。視線だったり、身振りだったり、何らかの手段で伝えてくる彼女の心情を私は仲間に広めている。

 地下通路のときのようにピルクに背負われていれば、それは叶わないから、クーシャの隣に並んでいる。私がつまづかないよう、彼女に手をつないでもらっている。

 その先から伝わってくる温もりと柔らかさが何とも気持ちがいい。ああ、すごく心地いい。傍付アテンダントとしての役目を果たしつつも幸せな気分でいられるとは。

 勘違いしないでもらいたいが、クーシャの側から離れたくないからやっているわけではない。クーシャが動きやすいよう、補佐する目的でやっている。

 このときばかりはレオレも私をないがしろにできない。

 索敵者サーチャー傍付アテンダント

 通常であれば、その上下関係が覆ることはないが、このときばかりは違う。

 何故なら、本作戦にける正式な指揮官が現着したから。彼はくまでもクーシャの代理であり、空席の穴埋めにすぎない。場をつなぎ止めるだけであり、それ以上の権限を有していない。

 この場にける、最高位の意思は絶対であるから耳を傾ける。伝達する私の言葉を無視することは彼女に逆らうことにつながるから、そのような振る舞いはしない。遺伝子レベルで刷り込まれている彼らからすれば、そのような展開にはならない。

 私に対する見下した態度が鳴りを潜め、従順になる。

 実際、腹ただしく思ってはいないだろうが、怒り狂っていたとしても私の言い分を聞き入れる。

 今なら、クーシャを盾にして、彼をいじめることもできる。指示の中に織り交ぜ、今までの仕返しもやろうと思えば、できる。

 けれどだ、今はしないし、そもそも清くとおとうるわしい彼女をけがす行為は働かない。

 愛おしいクーシャの品格をおとしめるだけだから、個人的な腹いせはしない。

 そのようなことよりも私は今、感激の極みに至っているから気にもしないし、思い返そうともしない。久しぶりに彼女の役に立てていることに歓喜しているから、レオレに対する怒りは些末にすぎず、問題としてどうでもよく、私を揺るがす価値にもならない。

 ああ、本当に泣きそうになる。目的を放り出して、浸っていたいけど、そうもいかないから、我慢しよう。クーシャが果たしたいことを潰さないためにも、気持ちを引き締めよう。

 しかしここまで順調だと気が緩んでしまうのも仕方がない。

 おとり役を務めてくれているガクウのおかげで誰もこっちに寄ってくる気配がない。暴れてくれるおかげで全然だ。そのような人員がいない。

 つい油断してしまうほどに屋敷の中が静かだ。熱意が全て外に向いているから、空のように感じてしまう。聞こえてくる声や衝撃音しょうげきおんがそのことを物語っている。

 そのことからして、仮面暴徒ブレイカーの多くの構成員が屋敷にいないことが分かる。

 だからそこまで警戒せずに進めている。

 そしてそのおかげで愛するクーシャの裸が下衆げすな者たちに見られずに済んだ。

 今は私の上着で露出を減らせているが、そこに行きつくまでは生まれたての姿でうろついていた。

 彼女は全く気にすることなく、先頭で道案内をしていたが、私は気が気でなかった。酷く狼狽ろうばいした。地下室で見た姿を思えば、今さらかもしれないが、私が耐えられない。急いで止めなければならないと躍起やっきになっていた。

 あの姿は凡俗ぼんぞくの視界に入れていいものではない。神聖さを理解もできない者に見せつけていいものではなく、ましてや触れさせていいものではない。

 それだけの価値があったとしても許されることではない。ときどき、がっつく気を起こしてしまう・・・いや、久しぶりに見られた整えられた肉体美に、なまめかしい雰囲気に負け、衝動しょうどうが抑えられそうにないほどの魅了みりょうがあったとしてもだ。

 手篭てごめにされていたのではないかと想像・・・するのはよそう。余計に腹が立つし、それに本当かどうか分かったものでもないから・・・いや、間違いなく、あったんだろうけど。

 はばかりを知ることなく、際限なく、尽き果てるまで、乱れ撃ちを平気で冒すことを優に想像できる、欲望き出しの巣窟そうくつになっている屋敷で起きないわけがない。

 クーシャに服を着せていなかったことからして、なかったわけがない。性欲をくすぐらせておきながら、何も手出ししなかったとは言わせない。

 断言はできるが、その矛先を向けるべき相手・・・散々痛めつけてやった、あのれ者を除けば、まだ出会っていないからいいものの、いつ鉢合わせするのかを思うと気が気じゃない。屋敷に残っている可能性が拭い切れていないから、心配してしまう。

 本当なら、ズボンも穿かせたかった。上は隠せているけど、下はオマケ程度。辛うじてであり、隠せていない。暗がりで見えにくくとも、近くで見れば、分かってしまう。

 その不安を消し去りたかったけど、断念した。クーシャの歩みを止められなかったから。呼びかけては無視、後ろから羽交はがい締めしても引きられるだけ。私の心配はよそにズカズカと進んでいた。

 仲間も彼女の姿を気にしなかったから、手伝ってくれなかった。一緒になって、後に続いていた。

 どうしようもなかったから諦めるしかなかった。

 だから一部でも隠すことにした。

 見られる角度を限定させるため、移動中のクーシャに私の上着を着せた。袖を通し、ボタンを留めた。私が手伝って。

 さらにクーシャを下がらせた。

 指揮官がやられては不味いため、戦闘態勢が取れている、レオレに先陣を譲るように進言した。素早く敵を排除できる観点からしてもその方が安全だと主張した。言葉で説明するよりも行動を起こす方が手っ取り早いとしても、万が一を考えれば、用心に越したことはないとささやいた。

 本当は人陰ひとかげに隠れさせ、見えにくくする狙いで発言した。壁を作り、視界をさえぎるつもりで。

 説得が成功して、今に至り、そして目的地の書斎しょさいの前に辿り着いた。

 当然、レオレを先に行かせる。今までの流れを変えることなく、扉を開けさせ、中を確認させる。クーシャに危険が及ばないよう、細心の注意を払って。

 先に入ったレオレから合図を貰ったから、残る3人、一緒に書斎しょさいに足を踏み入れた。

 大窓から照らされる月明かりのおかげで誰もいないことが分かった。1人くらい守りについているかと思えば、そうでもなかった。

 初見で仮面の保管場所を探し当てられるとは思っていないからであろうか。

 それとも余裕がないからであろうか。

 いずれにしても私たちにとって、都合がいいことには変わりない。

「壁にへこみがあるはずだから」

 そこから入ろう、と言おうしたところで急に体が重くなった。壁を指差し、隠し扉を探させようとした、そのとき、異変が起きた。

 私だけではなかった。仲間全員、例外なく、床へと叩きつけられた。無理矢理、平伏す形となった。

 体を動かすことがままならないほどに強い力が働いている。このまま圧し潰されないよう、起き上がろうとすることくらいしかできない。実際に起き上がれないだろうが、せめてものの抵抗は死ぬまでの時間を稼ぐくらい。

 しかしそれだけでは足りない。

 このままでは本当に死にかねない。脱しなければ、その未来は確実に訪れる。何が原因でこのような目にっているのかは断定できないが、どうにかしなければ、ここで潰えてしまうことに違いはなかった。

 何とかして、この状況を抜け出そうとした、そのとき、また異変が起きた。

 私たちが探していた隠し扉が現れた。壁の一部が崩れ、音を立てて、扉が開いた。

 そこに目を向ければ、仮面暴徒ブレイカーが2人立っていた。

 体は満足に動かせなくても、顔くらいは動かせる。ゆっくりではあったものの、物音がした方向に視線を向けることはできた。

 何故、私が早々に目の先にいる奴らの正体を断定できたのか。勘ではない。理由がある。

 少なくとも当てずっぽうではない。

 仮面暴徒ブレイカーが拠点にする場所だから、そこにいる者たちが仮面暴徒ブレイカーではないか、と決めつけているわけではない。

 前もってクーシャから教えられていた仮面の1つを目にしたから、悩まなかった。1人は不明だが、確実に分かる、もう1人は仮面暴徒ブレイカーが持つ仮面の1つ、念力の仮面を被り、姿を変えた、仮面の適合者バイパーがそこにいたからだ。

 だから仮面暴徒ブレイカーだと断ずることができた。

 同時に私たちが苦しむ原因も理解できた。この者の仕業で私たちは身動きを封じられているのだと。

 そしてひも付けて、その隣にいる者も奴の仲間だと判断していい。

 そうでもなければ、仲良く側にいるはずがない。明確な敵、もしくは怪しむ関係であれば、荒立てていないことが可笑おかしい。

「こんばんは、スニーカーズ。俺様は仮面暴徒ブレイカーまとめる、首領、アストロン・イルルイドだ」

 ご丁寧にも挨拶をしてきた。予想通り、もう1人は仮面暴徒ブレイカーだった。

 頭目自ら仮面の守りに入っていたとは。てっきり、仮面装属ノーブルの対処に動いているものかと思っていたが。戦力差を埋めるため、暴れ回っているかと思えば、まさか、こんなところにいるとは。随分ずいぶんと余裕だな。

「殺す前に勧告だけはしておこう。君たち、俺たちの仲間にならないか。火事場泥棒の真似事を止め、素直に俺たちに汲みしないか。仮面を欲しがっているのであれば、その利益、争うことなく、手にしないか」

 どういうことか。捕らえておきながら、交渉を持ちかけるとは。明らかに有利にも関わらず、何故、その特権を利用しない。命を盾に脅せばいいものの。

 そして何故、自軍に引き込もうとするのか。

 仲間との連係を乱す、最悪、身内から反目される危険性を買ってまで、行う価値はあるのだろうか。目に見える不満を作ってまでやる必要はあるのであろうか。

 ところで、スニーカーズ、とは何を指しているんだろうか。め言葉ではないことくらいは分かるが。

 こうして落ち着いているわけにもいかない状況だが、疑問が増えるばかりだ。

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