1章7節3項(44枚目) 三勢力の攻防①

 ホコアドク周辺地域で悪逆を尽くす仮面暴徒ブレイカーを討伐に来た仮面装属おれたちの拠点を襲撃した、素性不明の仮面の適合者バイパーが俺に攻撃を仕掛け続けている。屋敷敷地内で俺と邂逅かいこうした、そのときに仕留められなかったから、執拗しつように狙われている。

 風をまとわせた拳で殴りに来る。俺から距離を取り、風を一気に放出して、その勢いに乗っかって、接近する。直接、攻撃を届ける戦法を取っている。

 しかし俺は鋭敏になった嗅覚きゅうかくと肌で感じ取った大気の流れで相手の位置を把握して、その攻撃をギリギリのところで避けている。

 そして打ち終わりを狙って、鋭利な爪で切り裂いている。

 無防備な瞬間を狙って。

 けれど相手が上手だった。

 俺と同じく、攻撃をかわす。

 自分の攻撃が空振ると知るや、即座に風を放出して、体勢を変えている。方向転換して流れている。爪の届かない領域へと逃れている。空を切らせる形で俺から離れていく。次の攻撃に移るため、助走を取る意味合いも兼ねて。

 そして俺に向かってくる。

 お互い、同じことを繰り返している。出会い頭から変わらない。一進一退であり、決定打に欠けていた。まともに一撃を当てられずにいる。

 しかし相手には余裕がある。

 それに対し、俺は気を抜けない。仮面の性質上、近接戦しか行えない。遠距離から攻撃することはできない。いつでも空中戦に移行できる者とは違う。俺は地上戦でしか活路がない。

 相手は俺と同じ土俵に立ち、手加減している。全力を出さず、俺と向き合っている。非情に腹ただしい真似をしてくれている。め切った態度でいるからムカつく。

 とある事情で俺は直接目にすることはできなかったが、こいつの力量は話に聞いている。

 昨晩、空から一方的に蹂躙じゅうりんしてくれたことを。止める間もなく、風で滅茶苦茶に荒らしてくれたことを。部隊の中でまともに空中戦ができる、ハロルドをもてあそんでいたことを。俺みたいに戦闘を生業とする管轄パーティーに所属していなくとも、仮面の使い手として、それなりの経験を積んできた者が全く歯が立たなかったことを。

 投げ槍の如く、推進力を持った風を手から放出することができると聞いているが、それをやってこない。俺が被る仮面とその外見を目にすれば、自分との相性に気づきそうなものではあるが、その選択を一切しない。

 この俺、狼の仮面の適合者バイパー、ウィルソン・ウールに対し、一方的になぶることもできるにも関わらず、えてやってこない。昨晩の出来事を再現しない。

 だから余計に怒りが湧く。

 手を抜いて、俺と戦うから。そのおかげで倒されずに済み、反撃できてもいるが、一向に先に進めないことには変わりないから、腹が立つ。

 念願だった、散々待ったをかけられていた、悪逆を働く仮面暴徒ブレイカーの討伐にさらに待ったをかけられる形になっているから、余計にイラっとくる。

 仮面暴徒えものと対峙する前に片付けなければならないから面倒くさい。

 ああ、邪魔者が鬱陶うっとうしい。

 しかし逆に言えば、好機でもあった。

 俺に釘付けでいるから。注意を俺に向けているから、行動させやすかった。一緒に屋敷の門を潜ってきた者たちを先に向かわすことができた。

 俺も仮面暴徒ブレイカーを相手に暴れたいが、それは仕方がない。こいつを倒さない限り、その望みは叶いそうにないから、今はこいつを潰すことに専念する。

 安寧あんねいを揺るがし、無辜むこの人間の利益をむさぼる、咎を肯定する仮面暴徒ブレイカーに味方するくず野郎、もとい仮面装属おれたちに歯向かう敵を駆逐してやる。

 しかし試みはすぐに破られた。

 屋敷への攻め入りを邪魔する者たちは俺と戦う仮面の適合者バイパー以外、他にいなかった。あり仮面の適合者バイパーは屋敷敷地内に配置されていたようだが、それは俺たちが駆けつけたときには倒されていた。進撃を邪魔する輩は外にはいなかった。俺が引きつけているこいつ以外は。

 失敗は別の要因だった。原因となる出来事が起きた瞬間は戦いのせいで見逃したが、その原因は視界に映り込んだ。

 眩い光に阻まれた。俺とともにした一般武装者12名が開けられた屋敷の扉から出てきた。吹き飛ばされ、地面に横たわっていた。

 何が起きたのか、すぐには思い至らなかったが、その後の出来事ですぐに悟れた。仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパー、放射の仮面の適合者バイパーから受けた攻撃によるものだと。

 屋敷から仮面暴徒ブレイカー仮面の適合者バイパーが続々と現れたから分かった。

 岩の仮面の適合者バイパー、猛牛の仮面の適合者バイパー、反射の仮面の適合者バイパー、そして放射の仮面の適合者バイパー

 その者たちが姿を見せたから、理解した。総司令から告げられた、仮面の使い手が外に出てきたから、やられた理由に思い至った。そのときの現象と戦線復帰が難しく思える火傷を負った仲間の姿から連想するに放射の仮面の適合者バイパーの仕業だと判断できた。

 そして主戦力の仮面の適合者バイパーかげから続々と他の構成員が飛び出してきた。

 外に向かうため、屋敷の門を目指していた。戦う俺と素性不明の仮面の適合者バイパーを無視して。進路上に立ちはだかっているわけでもないから、わざわざ関わりに来なかった。

 仮面を持たない者たちはともかく、仮面の適合者バイパーも同じだった。先を急いだ。倒れているあり仮面の適合者バイパー10人を無視して。使い物にならなくなった仲間を放置して。

 俺も手が離せない状況だったから、向かうことができなかった。相も変わらず、俺に攻撃を仕掛けてくる仮面の適合者バイパーのせいで止められなかった。

 仮面暴徒ブレイカーからすれば、都合のいいことであるが、俺からすれば、非常に迷惑な話だ。援護射撃の如く、俺を束縛するから、イラつく。

 しかし目を離せば、そのすきを突かれ、やられてしまう。

 油断ならない相手であることは昨晩の惨状さんじょうで察している。耳にした情報と合わせれば、無視することはできない。片手間で相手にできる存在ではないから、ここから離れられない。付き合うしかない。

 全く、もどかしい。志願しておきながら、何もできないとは。関係のない相手と組み合わなければならないとは。何もしなければ、倒されるだけだから、やるしかないとはいえ。

 ああ、ムシャクシャする。思い通りに行動できないから、腹の虫が治まらない。

 しかし思い通りに事が運ばなかったのは俺だけではなかった。

 当たり前と言えば、当たり前ではあるが、仮面暴徒ブレイカーも同じだった。

 俺がやりたかったことを他の者たちがやっていたから。屋敷敷地内に雪崩れ込んできた、仮面装属みかたにより仮面暴徒ブレイカーの歩みは止まった。様子見していたであろう部隊が出入口を固めたから、敵は動きを止めた。包囲される前に抜け出したかっただろうが、その試みは潰えた。

 雷の仮面の適合者バイパーのライクと蜘蛛くも仮面の適合者バイパーのカステロイド、そして狒々ひひ仮面の適合者バイパー、副司令官のレックが部隊を率いて、進路上に立ちはだかったことにより。

 敵の立ち回りをうかがい、1つの部隊を犠牲にした奴らがようやく現れたことで仮面暴徒ブレイカーは易々と抜けられなくなった。

 けれど怯まなかった。

 どちらにしても片付けなければ、先に進めないことは分かり切っていたから、仮面暴徒ブレイカーは再び動き出した。自由をつかむ方法はそれ以外に考えられなかったから、突撃してきた。覚悟を決め、戦いに挑んできた。

 しかしそれはこちらも同じこと。

 敵が大人しくしていようが、抗ってこようが、討伐することには変わりない。

 戦いに発展するのは必然だった。ぶつかり合うのは当然だった。

 全く以って、うらやましい限りだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る